女王様と召使い
kio
第1話 お弁当とパン
父は仕事漬け、母は入院暮らしが長い。そんな環境で育った僕は、気がつけば家事が得意になっていた。
地味かもしれない特技だけれど、冴えない僕には有効な武器だ。
家事をこなせるという事は相手の生活を握ったも同然なのだから。
「わ、今日は鶏そぼろだ。美味しそう!」
「はい。五十鈴先輩、前好きだって言ってたでしょ?」
「桜太君覚えてくれてたんだ、嬉しいな」
図書委員で知り会ったの五十鈴先輩は、端正な顔立ちで気さくに笑って喜んでくれた。お弁当。見ただけなのに。
図書準備室で五十鈴先輩の買って来たパンと、僕の作ったお弁当を交換する。それが僕らの昼食時のルールだった。
本当は先輩のためなら僕は毎日だってお弁当を作って来たいところだけど、行事の予定など合わない時に申し訳ない。そして先輩も休むときや材料費など気を使ってしまう。
だから時間があう時だけお弁当とパンを交換する。時間があわなければお互い自分の持って来たものを食べればいい。
僕は先輩が選んだ惣菜パンを少しだけかじった。コンビニで買える出来合いのものなんてそんなに興味なかったのに、先輩が買ったというだけで食欲は増す。
「うん、おいしい。桜太君はいつもすごいね、こんなに美味しいお弁当を作ってるなんて」
「いやぁ、そんなことないですよ」
「でもこんな手のこんだお弁当を作るから遅刻したんじゃない?」
冗談めかして先輩らしく指導されてしまった。
確かに今日、僕は遅刻した。それでもお弁当は用意しているのだから、お弁当作りに熱中しての遅刻と先輩が考えるのは当然の流れだろう。
「ええと、家を出るまでは余裕があったんです。ただ電車で乗り過ごしちゃって」
「電車を乗り過ごした?」
「それで戻るのに時間がかかって、遅刻しちゃったっていうか」
「……君、こんな凄いお弁当作るわりに抜けている所があるんだね。揚げ物する時とか心配になってきちゃった」
「揚げ物なら大丈夫ですよ。こんな乗り過ごしみたいなミスしません」
「……別に説教するつもりはないんだけどね。あんまり私にお弁当を食べさせる事に集中しすぎないでよ。確かに君にお弁当を貰った時の私は栄養状態はひどくて、世話焼きたかったたろうけど」
冴えない僕と綺麗な先輩がお弁当を交換する理由。
それは以前、五十鈴先輩が絶食状態で図書委員の仕事をして、当然倒れて、僕が保健室まで運んだためだ。
五十鈴先輩は家族が年の離れたお姉さんしかいない。両親はどちらも亡くなったらしい。
それでお姉さんがお母さん代わりをしているらしいけど、お姉さんには仕事がある。
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