時計の音

狼狐 オオカミキツネ

前編 時計の音

ある夏の日

知合いから呼ばれ山奥の屋敷に行くことに

なった。

どうやら、今回は僕以外にも知合いを呼んでいるらしい。

僕は人の集りが苦手だったが了承した。

何故かって?

夏にあの豪華な避暑地に行けるからだ。


車で慣れた道を6時間弱走らせ、その屋敷に着いた。

屋敷の前にはすでに4台の車が止まっていた。1台はここの屋敷の車、後の3台は恐らくここに来た人たちなのだろう。

玄関の鍵を開け中に入る。

するとそこには、招待してくれた知合い 田辺和真たなべかずま が出迎えてくた。

和真は少し太っていて

優しそうな顔をしている。

和真は

「お疲れ様、他の人たちと君は恐らく面識がないだろうから挨拶してきな。リビングにいるから。私はお茶とお菓子の用意をするよ」


「わかった。でも、僕以外を呼ぶなんて珍しいな。パーティーでもあるのか?」


僕は冗談混じりに聞いた。


「パーティーをする人数は呼んでいないよ。

ただ、こんな山奥で寂しかったから。

あぁ、そうだ。

君に頼んで欲しいのだが、2階の奥の部屋の修理をお願いしたい」


僕はスマホにメモをし


「わかった。それじゃ、会ってくるよ。」


扉を開けると、3人が席に座っていた

男性が1人、女性が2人いた。

男性は僕を見て


「お、これで全員そろったんだ。んじゃ適当に自己招介しあおうぜ。

俺は、白岩健吾しらいわけんご 。

趣味はギター、んで仕事はライブハウスで働いてる。ギターを持ってきたからどっかで披露してやるよ。」


チャライ男だと思った。アクセサリーも沢山付けている。

悪いとは言わないが、なんとなく僕とは馬が合わない気がする。

次にショートヘアーの女性が


「私の名前は 北嶋優香きたじまゆうか

趣味は、本を読むこと。

仕事は図書館で朗読などしているの。

好きなことの仕事に就けて嬉しい。」


物静かな女性だった。

読書が趣味なのは同じだ。どんなジャンルを読むかで今後の話題が決まる。

次にロングヘアーの女性が


「私は 香山利佳子かやまりかこ

趣味は運動全般で

仕事はペットショップで働いてる。

他の2人とは違って、天職ではないかな。

凄く楽しいしやりがいは、あるけど。」


よくみるとかなりスタイルが良い

僕は運動は苦手だが、スポーティーな人には憧れる。

そして最後に、僕だ


「僕の名前は佐々田真人ささだまなと

探偵をやってる。ま、探偵だけだと生活が厳しいから別の収入源がある。

趣味はゲーム、

推理物じゃなくてFPSとか。

あと、本を読むこと。

本は推理物かな。」


みんな手短に自己紹介を終えると

和真がお菓子と紅茶とコーヒーを

持ってきてくれた。

和真は


「紅茶とコーヒーを持ってきたから、好きなだけ飲んで。

後で、それぞれの部屋に案内するからちょっと待ってて。」


そう言って、2階の自分の部屋に入っていった。


雑談をしているとき、北嶋さんが分厚い本を鞄から出して紹介してくれた。


「『怪人は笑い者』っていう700ページある本なの。全4巻で私の一番のお気に入り。佐々田さんも読んでみては?

とっても面白いから貸してあげますね。」


700ページもあるのだという。

さらにこの本と同じページ数の本をもう三冊持ってきているらしい。

これはかなり読みごたえがある。

ミステリー小説で題名は「怪人は笑い者」。

かなり興味があり借りるだけでなく、今度買おうと思った。

この性格のせいで僕の家には本が溢れいる。


香山さんは重そうなダンベルを2個取り出した。


「各、4キロづつあるけど、女性におすすめされているのは3キロらしいんだ。

ま、そこまで筋肉質な女性になりたい訳じゃないからハードなトレーニングはしてないの。トレーニングの後のお風呂はとても気持ち良いから、お風呂が楽しみだな。」


香山さんはそう言いながら、簡単にダンベルを持ち上げていた。そして、実は僕もあの露天風呂が楽しみだ。旅館でもないのに男女別の風呂があるのには最初は驚いた。

運動出来る人には僕はいつも憧れている。

というか、何か物事を続けられる人は凄いと思う。朝の散歩も一週間と続かなかった。


さて、次は気に入らない白岩だ。

やはりギターを取り出した。

ギターはとても派手だった。白岩に合ってるそして


「ちょっとだけ披露するよ。」


と言い、ヘビメタを弾き始めた。

ギターは僕も持っていて、俗に言う『ゾウさん』だ。だが、アコースティックやロックが好きだ。ヘビメタはあまり好きじゃない。他の2人も少し引いていた。

人の好みを否定するわけではないが、やはり好きになれない。

かなり演奏をしたと思う。終わったとき、みんなで拍手をしてあげた。そして僕は


「アコースティックとかは引けないのかい?もしくはもっと落ち着いた曲とか。」


白岩はへらへら笑いながら


「無理だよ。あんな落ち着いたのはギターで弾くもんじゃないよ。やっぱ激しくなくちゃ。てか、アコースティックとか何がいいのかわかんねーし。」


人の好みをバカにするとは、あきれた奴だ。


最後に僕だったが、特に紹介したいものはなかった。僕は


「何か聞きたいことあります?」


と聞くと、北嶋さんが


「探偵さんって、普段どんなことされてるんですか?」


僕は少し考えて


「僕の場合は、事件の解決とかよりも追跡とか探し物とかの方が多いですね。

そこまで頭はキレれてないんで。

あの、頭が大人の小学生や、じっちゃんが誇りの名探偵たちとは違ってね。」


と答えると、白岩が


「大体どれくらい儲かってんの?」


「年240万ぐらい。」


僕は無愛想に答えると

ニヤニヤしながら白岩が


「以外に少ないんだね。

生活きつくないの?」


僕はバカにされてイラついた。


「だから、探偵以外に収入源があるって最初言ったじゃないか。

そっちで結構稼いでる。ま、親の跡継ぎだが成功してね。」


白岩は頭をかきながら


「ありゃ、そうだっけ。聞いてなかったわ」


話ぐらい聞いてろよ。


こうして、雑談をしていると、和真が鍵を持ってきてくれた。みんな、一度は来たことがあるらしく、部屋の説明は誰も受けなかった。僕は一番奥、そこから手前に向かって白岩、香山さん、北嶋さんという並びだ。

2階には奥から女性のお風呂、男性のお風呂、そして和真の部屋だ。和真の部屋の廊下を挟んで反対側はベランダになっている。

これが、屋敷のリビングの右側だ。

左側には、キッチンや物置がある。


午後、4時頃森の方にみんなで散歩をした。

全く整備されていない道を、歩いていた。

自然はとてもきれいで、深呼吸をするととても気持ちが良い。夏なのに暑くない。暑かったらここに来る意味は薄れてしまう。

散歩の終盤、和真が珍しい花の近くで立ち止まると、


「この時期はあまり咲かない、なかなか珍しい花だ、梅雨ぐらいには良く咲いていたから、遅れたのかもな。ちょっと見てくれないかい?たまに咲くということぐらいでなんの種類かわからなかったんだ。」


よそ見をし、和真の話を聞いていなかった白岩がぶつかって白岩がこけた。

少しぬかるんだ地面に尻もちと手をつき、ジーンズとジージャンが汚れた。

お気に入りの服だったらしく、えらく落ち込んでいた。和真は慌てて


「あぁ、すまない。本当にすまない。

帰ったらすぐ洗おう。これだけ晴れていれば、少しは早く乾くだろうから。」


白岩は


「あ、うん。ありがとう。」


一気に威勢がなくなった。少し気味が良い。


屋敷に帰って、それぞれが部屋に入った。それぞれが自由に部屋で過ごしていた。隣からはうるさいギターの音楽が聞こえてきた。しかし、小一時間すると静まった。ベッドに横になり借りた『怪人は笑い者』を読んでいると、


ノックして、北嶋さんが入ってきた。


「あの、佐々田さん、田辺さんが部屋から返事がないんですよね。一緒に来てもらえます?」


僕は不安に思ったが、和真のことだからどうせ寝てるんだろ、と思っていた。

和真の部屋をノックするも、返事がない。

ドアを蹴破ろうとしたが、僕の筋力では開かなかった。トレーニング中の香山さんに手伝ってもらい、何とかドアを開けることができた。正確には、壊しただが。


そこには、ガックリと壁に寄りかかり、座り込んでいた和真がいた。揺さぶるも返事がない。みんな黙りこんでしまった。


警察に連絡をし、白岩を呼んで。僕らはリビングで、待っていた。

僕が見た限りでは、どうやら目立った外傷はなく、薬か鈍器によるものだろう。

そして、密室殺人だ。

鈍器はみんな一つは持っていた。

白岩はギターか、エフェクトボード。

北嶋さんは、分厚く重い本4冊。内1冊は僕が借りている。

香山さんはダンベル2個。


犯人はここにいる。



続く

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