phase8.1

 アイは顔を背けた。なぜそんな傷ついた目をする。


「行かないんですの? 会ってお話したほうがよろしいんじゃありませんこと?」


 ネプチューンが尋ねた。アイの返答を見通しているような、自信に溢れた声だった。


 アイは黙っていた。それを「行かない」という意味と解釈したのか、ネプチューンは「そうですわよね」誇らしげに微笑み、パネルに手をかざした。


 ミヅキ達は今も尚、呆然と立ちすくんでいる。計算すれば集中力が大きく落ちているとわかった。


 そのせいか、宇宙船から上がってきた黒い影が背後に立ったことに、すぐ反応することが出来なかった。ミライが一番早く振り返ったが、その時には遅かった。


 ミヅキ達は三人ともそれぞれ、三体の護衛用ロボットに後ろから両腕を掴まれ、羽交い締めに合った。


 大人しく捕まっていられるミヅキ達では無く、藻掻いたり暴れたりなどしてなんとか抜け出そうとしているが、護衛用ロボットは三体とも一切動じない。


 この護衛用ロボットは戦闘用ロボットの派生であるため、まともに戦えば苦戦を強いられる。

 そんな性能を持つ相手に動きを封じられているのであっては、いくら変身をしていても敵う確率は低い。


『わああ、離して~!』『ち、ちょっと……!』『ふざけないで! 下ろしなさいよっ!!!』


 三体とも、暴れる三人を連れて、ルーフの中央から端へすたすた移動していく。


 空中へ放り投げるつもりだと判明したと同時に、「最初からこっちのシステムを作動していれば良かったですわね」とネプチューンが呟いた。


 今度こそ勝利を確信しているのか、余裕しか感じられない声だった。アイは無言で、抵抗空しく運ばれていくミヅキ達を目で追っていた。


 すると。ミヅキを連れているロボットの頭部に向かって、高速で物体が飛んできた。


 太陽光を反射するそれは、矢尻だった。コン、と高い音を残して、矢はロボットの硬い外装に弾かれ、足下に落下していった。


 ロボットが矢の飛んできた方向へ頭を動かした瞬間。


 『はあっ!!』とミヅキが思い切り両膝を曲げ、すぐ背後で自身を掴むロボットの腹部付近を蹴り飛ばした。


 緩んだ拘束を見逃さずにロボットから離れ、振り返って向き合う。


 体勢を崩したロボットへ、胸元のブローチとコスモパッドを重ね合わせることにより向上した打撃力で殴った。


 仰向けに倒れたロボットに目もくれないミヅキは地面を蹴ると、そのままソラとミライを捕らえているロボットに対しても、同じように上げた打撃によるパンチを食らわせた。


 倒れるとはいかないまでも不意を突かれたロボットの拘束は緩み、その隙を逃さずにソラもミライも拘束から脱出した。


 一体目のロボットが起き上がり再びミヅキを捕らえようと近づいたところ、その間を邪魔するように、また矢が掠め去って行った。


 あの矢は一体、と考える間でもなく、別のモニターを見れば明らかだった。


 川の上空で滞空する宇宙船。その川の川原にある土手の上に、弓を構えたクラーレがいたからだ。


 音声は拾えないが、何か口を動かし喋っていた。ミヅキ達に向かって何か言ったのか、ミヅキが『わかってるよ、気を付けるから!』と答えた。


『アイッ!!』


 目はロボットを見据えたままなのに、この現場にはいない者の名前をミヅキが呼んだ。無意識の内に上げた顔を、すぐに伏せる。


『ごめん、アイ!! 勝手なこと言って!!』


 ミヅキの片腕をロボットが掴んだ。その頭部目掛けて、ミライが飛び上がりつつ刀を振る。


『アイちゃん、美月の言うこと聞いてあげてっ!』


 斬ることはできなかったが、ロボットの注意をミヅキからミライに移すことは出来た。その隙目掛けてミヅキがロボットの懐に一発入れ、拘束から抜け出す。


『私、全然鋭くないし、むしろ鈍いし、だから無神経なこと言っちゃう時がある!!』


 ロボットが拳を固め、ミヅキに向かって振り下ろした。しかしそれは水色の半透明の壁に阻まれた。


『でもそれが姉ちゃんだからね』

『ええっ?!』


 ソラが展開したシールドを内側から殴ると、そのまま壁はロボットに向かって飛んでいき、直撃した。


『まあ確かにそうなの! これが私なの! でもねアイ!! これだけは言わせて!! 私が言いたかったのはね!!』


 言葉は『うわっ!』というミヅキの悲鳴によって途絶えた。また別のロボットが襲ってきたせいだ。


 ロボットの攻撃をかわし、防ぎ、時には攻撃を入れる。そうやって相手にしていては、ろくに話などできる状況でないことは明瞭だった。


 戦闘用と同義であるロボットを同時に三体相手にしているようでは、いくら助け合いながらでも、その間に他のことをする余裕は生まれない。

 話をするどころか、有利に戦うことも難しいだろう。


 だがすぐに負けると考えていたミヅキ達は、思いのほか長く抵抗を続けた。


 あくまでも捕まえようとしてくるロボット達の手をかいくぐり、時には殴ってはじき返し。


 一人が捕まったら残る誰かが攻撃を仕掛けて注意を逸らし。そうやって囮になった相手を今度は別の誰かが助ける。


 囲まれて全員が捕まりそうになったら、ちょうどそのタイミングで放たれる弓矢が、注意を逸らして隙を生ませる。


 そうやってミヅキ達は、抗い続けていた。

 こちら側は今回戦う為に訪れたわけではないのだから、ミヅキ達が撤退しても後を追わないというのに、無駄な戦闘を続けている。


「……しぶといですわね……」


 モニターに目線を注いでいたネプチューンが、ふいに低く呟いた。くるりと背を翻し、コックピットの出入り口に向かって歩いて行く。


「どちらへ行かれるのですか」

「上、ですわ。一緒に行きますこと?」


 いえ、と首を振り一歩引くと、冗談ですわ、と彼女は小さく笑った。そのまま進もうとしていたネプチューンは、何かを思いだしたように振り返った。


「プルート。わたくし、あなたに人間になってもらいたいとは、全く思っておりませんことよ。むしろ人間なんて、煩わしいだけですもの。あなたには、いつまでも静かで頭の良いお友達でいてもらいたいですわ」


 にっこりと浮かべた悪意の無い純粋な笑顔は、年相応かそれよりも幼い印象を受けた。


 アイは浅く頷いた。頷いた後で、返事をすることを忘れていた。だがネプチューンは咎めてこず、「終わったらお茶会を致しましょうね、プルート」と歌うように言い、出て行った。


 そうしてコックピット内には、宇宙船を操縦するための人形型ロボットや世話役の人形型ロボット以外に、誰もいなくなった。


 一人取り残されたような気分になって、なんとなく動けなくなる。とりあえず顔を動かしモニターに目をやると、程なくして、宇宙船とルーフを繋ぐ扉からネプチューンが出てきた。


 ロボットを相手にしていたミヅキ達は急に動かなくなったロボットにまず驚き、その直後に聞こえてきた『ご機嫌よう』の声に更に度肝を抜かれたようだった。


 だがそれも一瞬のことで、次の瞬間険しい表情に切り替わったミヅキは、一歩分ネプチューンに詰め寄っていた。


『アイと話させて!』

『どうしてそこまでプルートに執着するんですの? 知っての通りプルートはわたくし達の寄越した刺客。言うならばスパイだったのですわ。敵にそこまで入れ込む必要性など……。あ、もしかして、騙されていたことを信じたくない故の現実逃避、とかですの?』

『全っ然違ーーーう!!』


 両腕を振り上げ全身で訴えたミヅキに、ネプチューンは氷を思わせる冷徹な瞳で眺めている。くるくると弄ぶようにさしている日傘の柄を回した。


『というより話をさせて、などむしが良すぎるんじゃありませんの? むしろそんなことを言う権利などないでしょう。

動けなくなったプルートを攫って閉じ込めて、おまけに酷い事はされてないとプルートに言わせるような洗脳を施して。

我が社の社員に騙された腹いせに随分と色々やってくれたようですわね』

『私達がアイちゃんにそんなことするなんて絶対に有り得ないんだけどなあ~』


 ねえ、とミライが突然カメラ目線になった。反射的に目を逸らすと、ソラの声が後を追うように聞こえてきた。


『倒れているアイを助けたのは、放っておくことが出来なかったからだよ。それ以外に理由はないし、打算もないし、もちろん傷つけるつもりなんて毛頭無い。ただ僕としては、これでちゃんと、自分の心の声に耳を傾けて、それに従ってもらえるかなって、そういう考えはあったよ』

『心? ロボットに心は無いでしょう?』


 するとソラは、両手で心臓の辺りを覆った。わずかに伏せた目は、何かに思いを馳せているようだった。


『……関係無いんじゃないかな。自分の気持ちに従うって、人間でもロボットでも出来ると思う。アイがどんな答えを出しても、僕はそれが心の声に従った結果なら、嬉しいんだ。……でも、がアイの心の声を聞いた結果だとは、とても思えない』


 ほとんどアイに向かって話しているようだった。だからアイは尚のことモニターを見られなかった。


 しかしアイの状態など知らないソラは、語りかけるような言葉遣いで更に続ける。


『僕に言ってくれたでしょう、アイ。心のままに、って』


 一歩後ずさる。モニターから離れるように、距離を置く。しかし声は、どこまでもついてくる。ソラの声が終わったと思ったら、今度はミヅキとミライが話してくる。


『そもそも、急に様子がおかしくなったの、凄く気になるしね……』

『アイちゃん、大丈夫~……?』


 手を上に持っていった。触れた髪の毛を、ぐしゃりと掴んだ。挿していたかんざしの硬い感触が伝わる。


「しつ、こい……」


 どうしてついてくる。どうして見放さない。どうして手放さない。


 振り絞るように言ってから、肝心のマイクがオフになっていたことに気づいた。


 けれどもう、スイッチを押すことも、そこに手を伸ばすこともできない。

 右腕はだらりと垂れ下がり駆動できない。左腕は頭を掴んだまま離れない。


『ですから、様子がおかしくなったのはあなた方が何かしたのではなくって?』

『だーかーら、何もしてないって言ってるでしょうがっ!! 有り得ないって!!』

『むしろ心配してるんだよ私達は~!』

『アイにちゃんと、自分の心の声が聞こえているかどうか、気になるのはそれだけなんだよ。だから僕達は話したいんだ』


 のろのろと後ずさっていた足も、途中で止まった。それ以上後退も前進もできず、膝から体が崩れ落ちる。


「やめ、て。やめてください……」


 モニターからは依然として声は聞こえてきているものの、そのうち誰が何を言っているのか判別が出来なくなっていった。

周りの音がどんどん遠ざかり、やがて聞こえなくなる。


 自分の呼吸音がやけに大きな音で反響する。聞こえないはずのプログラムが動く音や駆動音も、体の中から響き渡っていくようだ。プログラムが計算する音、ギアの回る音。


 それらは聞こえてくるのに、心の声は、聞こえてこない。自分が本当は何を言っているかなど、わからない。


 ロボットだから、心が無いのだから、わからないのが当たり前だろう。


 だがソラは関係無いと言った。気持ちに従うことに人間もロボットも関係無いと。


 だがアイはそう考えない。ロボットは心の声に気づかないのが普通だ。だからわからないままでいい。


 自分はただ、流れに乗っていくだけだ。最近は流れに逆らっていたが、もう逆らう理由はないと知った。自分が何かを思考したところで、残るものは何も無い。


 それに、心の声が聞こえたとして。それは本当に、の声なのだろうか。


 内なる自分の声も、今触れている髪も、姿も、声も。

 頭の先から足の先まで、全てのものだ。


「……私は、なぜ……」


 ならば、ここにいる自分は。


「……どうして、作られたのですか……」


 ロボットのアイに会いたいと思って作られたわけではないのであるならば。

 の作られた意味とは、なんだったのだろう。


「……どうでもいいことですね。考えても、無意味です」


 アイはかぶりを振った。答えを知りたいとは思わない。何も変わらない。考える必要性はない。結論づけたことを確かめた勢いで、髪を強く握りしめる。


『なぜやめるんだ、アイ』


 耳に流れてきたのは、この場では存在しないはずの声だった。

 アイは顔を上げた。右を見て左を見ている最中に、頭に手を添えた部分から、微かなノイズを纏った声が流れてきた。


『やめてはいけない。考え続けなさい』


 アイは桜のかんざしを抜き取り、手のひらの上に乗るそれを見つめた。


 まさかと考えたが、ハルの声はここから聞こえてきている。が、いわゆる超常現象の類いとはとても考えられない。

 ノイズや音の聞こえ方からして、通信装置が埋め込まれていることは明白だった。


「なんでです」


 やはり抜かりない、と考えていたせいか、応答の際の声が自身が機械であることを抜きにしても、抑揚無く聞こえた。


「なぜ考え続けなくてはならないのです。そんなこと、あなたに言われる筋合いは無いでしょう」

『確かにそうだな。だが、アイは考え続けなくてはいけないんだ』


 他人事のようにも聞こえるような、平板かつ淡々とした口調で、ハルは言った。

 当たり前の事だが一切感情の乗っていない声は、裏で何を考えているのか全然掴めない。


「意味がわかりません。考えても意味の無いことを考えて、何が起こるのです? 何も変わらないでしょう。無駄な徒労でしょう。そんな非効率的な事をしても、時間の無駄です」

『考えるという行為そのものが無駄に終わることなど無い。全てアイの糧となる』

「そんなこと、絶対に有り得ません」

『なる』

「……意味があっても無くても、もう何も考えたくないんです!」


 何と言っても相手は主張を曲げず、断言してくる姿勢に、気がついたら声を荒らげていた。


 特徴的なテレビ頭を思い起こす。なぜ言い切れる。自分の何を知っているというのか。


 かんざしをよく見たが、通話の切り方はわからなかった。力を込めて握りしめてみたが、それで通信の切られる感覚は無い。


『自分から、自分の手で、自分の選択肢を奪うつもりか。そんなことを言っているようでは、いつまで経っても新しい道は開かれないぞ』

「いりませんそんなもの! 私にとっては全部無意味なのですから!」


 疲れたのだ。考える事に疲れたのだ。考えることを得意とするハルには理解できないだろう。


 出口の無い真っ暗な道をぐるぐると延々回り続けているようで、その感覚に慣れていないアイにとっては、それは苦痛でしかなかった。


 そうしてさ迷い続けた末に得た答えは、今まで信じて疑わずにいたというものを、根底から完全に崩し去った。


 ぐらぐらと足下が揺れる感覚に襲われる。生じた目眩を何とかして吹き飛ばしたいと、矢継ぎ早に声を上げる。


「もう嫌です! 考えたくありません!! 私は考えることが役割では無いんです、これが私のあるべき姿です!!」

『違う!!』


 遅れて走ったノイズは、それまでの微かなものとは違った明らかな存在感を持っており、しばらく余韻を残していた。


 かんざしを乗せている手が、かたかたと揺れていた。


『考えなさい、アイ! 君には、自分で考える権利が存在し、同時に、自分で考えなければならない義務も存在する!』


 だからどうしてそこまで言い切れる、そんなことを言われる筋合いは無い。

 言いたいことはどんどん浮かんでくる。だが、口は震えるばかりで、言葉は出てこない。


『君は確かに機械だ。だが、道具ではない!!』


 直後、全身が震えた。びりびりとした痺れが走って行った。


 電流に当たったような、では生易しすぎる。経験したことは無いが、こういうのを、雷に撃たれたよう、と例えるのだろうか。


『自分の意思のままに動くことが、許されているのだから』


 先程の大声はどこへ行ったのか。感情の乗らない声が、ノイズに混じって流れてくる。


「だって。考えなさい、と言いましても。わからないのですよ。意思のままにと言いましても、それもわからないのです。どう、考えたらいいのですか。どこを、探せばいいのですか。あなたが、教えて下さるのですか?」

『私が教えても意味がない。それでも言えることといったら、わからないときは、既に答えに気づいているケースの場合もある、ということだけだ』

「……そんな、馬鹿な、こと……」


 その時、モニターから悲鳴が上がった。見るとミヅキ達が、ロボットに連行されている真っ最中の映像が飛び込んで来た。三人とも、なぜか両腕を後ろに回されている。


『こんなのずるくない?!』

『関係無いですわよ』


 ミヅキが声を荒らげたとき、きらりと反射する光が見えた。よく見ると、三人は手枷を嵌められていた。

 ネプチューンが気を引いている間に、背後に回ったロボットがやったことと推測できた。


 今度こそ完全に体の自由を奪われた三人は、抵抗空しく、ロボットに連れて行かれていた。見かねたように弓矢が放たれるも、ロボットの歩みを止めることはかなわない。


『聞こえてないかもしれないけど!!』


 その時、ミヅキが叫んだ。


 抵抗がままならないと否応でもわかってしまってるのか、ミヅキは項垂れていた。だが声はどこまでも通っていくような、大きな声だった。


『私も! 穹も! 未來も! 今ここにいるアイしか、知らないから!! 今ここにいるアイ以外、見えていないから!! これが、さっき言いたかったことだから!!』


 アイは腕を後ろに伸ばした。床に手がついて、その分、座った体勢のまま、後ずさる。


 しかし途中で、腕からがくんと力が抜けた。


 後ずさりたくても出来ない。頭脳回路はこの場から離れたいと、そういう結果を算出しているのに。


 そうだ、離れたいのだ。今すぐこの場から離れなくては。これが自分の意思だ。自分の声だ。そう気づいたのに、体がぴくりとも動かない。


『アイちゃんならそうだなあ、わからないって言うかな。なんでそこまで、とか言うんだろうなあ』


 あはは~、とミライが危機感のない笑みを見せる。

 横顔に薄い笑みが滲んだソラが言う。


『なんでそこまで、か。まあ、理由は簡単なんだよね。たった一言で片付くからさ』


 これ以上聞いてはならない。そんな予測が出ている。だが部屋から立ち去ることはもちろん、耳を塞ぐこともできない。


 出来たのは、抗うように桜のかんざしを握りしめたことだけだ。あれだけ聞こえてきていたハルの声は、今や沈黙を貫いている。


『私は! 私の知るが!』


 ミヅキが両目を見開く。こちらを見ていないのに真っ直ぐな視線に射貫かれたようで、その瞬間、聞いてはいけない、という声が強くなる。


 その先に続く言葉を聞いたら、気づいてしまう。


 けれども、時に機械より無情になれる人間は、その先の言葉を紡いでアイに聞かせたのだ。


『“大切”、なんだよ!!』


 一瞬、音が何も聞こえなくなった。だから何も聞かずに済んだ、と思った。


 だが、体の具合が途端におかしくなり始めた。それでわかった。聞いてはならない言葉を聞いてしまったのだと。


 体を構成している歯車やギアが、今までと逆方向に回り出している感覚が生じている。


 意図せず、頭脳が計算を続けている。ろくに動いていなかった思考回路が、動き出す。今までに無い動きを見せている。


 自分は今、何を考えているのか。何を思って、何を感じているのか。


 ミヅキ達が宇宙船の先端まで移動される。向こう側に放り投げられるまで、秒読みの段階に入っている。


 アイは、マイクを掴んだ。


「──お待ち下さい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る