サニディンの短編小説集

サニディン

爪痕


私の心には傷痕がある。

何度も繰り返し抉られ、消えない痕になってしまった。


それはむしろ、傷痕というよりも、爪痕というべきものだ。

私を傷つけてきた人間達が、私の心に残してきた爪痕だ。


「壊れちゃった」


誰も居ない空っぽの部屋で、私はそう一人ごちる。

いつものことだ。

過去に人とのふれあいで傷ついたことを思い返しては、

そう口にして、記憶を反芻するのを留めようとする。


もう既に壊れているのだから、

これ以上、傷つけないでほしいと

私は私にお願いするのだ。


積もりに積もった忌まわしい記憶が瓦礫の山となって。

それらの破片が、脳とも心臓ともつかぬところに

突き刺さって、血を噴き出し続ける。


過去も、今も。そしておそらくは未来も。

私は私を傷つけるのを止められない。


私を傷つけてきた人間達に、

その行為を止めさせられなかったように、

私に私を傷つけることを止めさせることが出来ない。


爪痕を残してきたのは、

果たして他人であったろうか。


その爪痕は、

ただただ、私自身の爪痕なのでは無かろうか。


私が、他人に

私を傷つけるよう仕向けてきたのでは無いだろうか。


自問しても答えなど出るはずもない。

私はただ、この爪痕を愛でるようにして抱えながら、

この先の人生を歩んでいくのだ。

ひっそりとその幕を閉じるまで、爪痕を撫でながらお願いするのだ。


壊れてるよ、と。


(了)


2019年1月10日 執筆


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