第154話 旭は王都に辿り着く

ドラゴンとの遭遇から2日後……。


『ご主人、王都が見えてきました。後数十分で到着予定です』


 部屋でのんびりしているとハイエンジェルから念話が届いた。

 どうやら王都に近づいてきたようだ。

 王都までの旅はドラゴンが襲来してきた以外は比較的穏やかな旅になったな。

 ハイエンジェルからの念話を聞いた俺は操舵室へと転移する。


 ちなみにハーデスと白虎が狩ってきたドラゴンはレッドドラゴンとイエロードラゴンといったドラゴンだった。

 味は美味だったのだが、それぞれ10匹ずつは流石に食べきれなかったので未だに【無限収納】の中にまるごと保存してある。

 流石に自分で言った手前、食べないという選択肢はないからな。


 ……まさかあんなに食べる部位があるとは思っていなかったが。

 1匹だけで俺達が1年は食べて行けるほどの食用可能な部位があるとは……。

 ハーデスと白虎に出した指示を後悔したのはここだけの話である。


「ねぇ、パパ! あれが王都なのかなぁ!?」


「肉眼ではしっかりと視ることはできないけど……望遠鏡ってすごいわね。お兄ちゃん、この望遠鏡ってどんな技術でできてるの?」


「にぃに。このまま行くと着陸厳しくない? 建物が集まっているし、どうするか考えた方がいいような気もするけど」


 そんなことを言いながらレーナとリーア、ユミの幼女組がとててーと駆け寄ってきた。

 年相応にはしゃいでいるのはレーナだけで、ユミとリーアの興味は別の方向に向いているようだが。

 リーアは望遠鏡がどのような仕組みで遠くのものが見えるのかについて、ユミはこの『大和』が王都に無事に着陸できるのかどうかについて気になっているようだ。


「レーナ、あまりはしゃいでいると疲れちゃうぞ? それとリーア。望遠鏡の技術については詳しく知らないから、後でスマホで検索してみて」


 俺はレーナとリーアにそれぞれ言葉をかける。

 正直言って望遠鏡がどうやってできているのかなんて知らない。

 レンズに集めた光を平面鏡で反射させるというのは知っているが、スマホで検索したほうが早いだろう?

 そこ、頼りない大人とか言うな。


「で、ユミは着陸について気にしているのか。たしかに地球のような旅客機とかなら滑走路が十分に確保できないと着陸は厳しいと思う。だが、これは空中戦艦『大和』だ。というか、俺の転移魔法で王都の近くに転移するだけなんだけどな」


「そういえば『大和』には転移で移動した気がするー。それならユミが心配する必要もなかったね」


「いや、心配してくれるということだけでも嬉しいよ。ありがとう、ユミ」


「えへへ〜……!」


 俺はユミの頭を優しく撫でた。

 たしかにユミの杞憂で終わったが、そう思う気持ちが大事だと思うんだよ。

 甘いと言われようが俺は褒めて伸ばしていくスタイルを貫いていくとここに誓う。


[旭、こんなところにいたのですか。もうすぐ王都に着くのですから、いつまでもそんな上半身裸でいないでさっさと着替えてください]


「っとと……。ソフィア、ちゃんと自分で歩く……から!」


[そう言ってレーナ達と一戦おっ始めるつもりでしょう? そんなことをしている時間はないのですから早く着替えますよ]


 レーナ達とのんびり談笑していたらソフィアに連行されてしまった。

 まだ数分かかるみたいだし、服はギリギリでいいかと思っていたんだけどなぁ。

 どうやらソフィアには俺の次の行動が読めていたらしい。


 いや、仕方ないじゃん?

 レーナやリーアもキャミソール1枚でこちらに寄ってくるんだから。

 隙間からさくらんぼ色のものが見えて仕方ないんだよ……という反論もさせてもらえないまま、俺は寝室に連れて行かれるのであった。


 ▼


「ほう……。ここが王都なのか……。予想はしていたがやっぱり大きいなぁ……」


『大和』から転移して歩いて王都の近くまでやってきた。

 俺は王都の門から見えているとある景色を見上げながらそう呟く。

 王都というとよくラノベのアニメ化では同じような街並みなのだが……ここも似たようなものだった。


 ……いや、完全な中世的な街並みではない。

 どちらかというと東京が混じったみたいな感じだろうか。

 ビルと中世の建物が混じっているから違和感があるはずなのだが、絶妙な配置のおかげで違和感が仕事を放棄しているようだ。


「ほえ〜……。ここが王都なんだね。ダスクやウダルと比べるとたしかに広いかも」


「私も王都を実際に見たのは初めてだなぁ。奴隷時代はダマスクのお世話以外で外に出たことがなかったし……」


 レーナとリーアのエルフ2人組は俺と同じで王都へ続く門の前で街並みを眺めている。

 リーアの表情はなにか嫌なことを思い出しているようなものになっているのが気になったので、俺は無言でリーアを抱き寄せる。

 俺に抱きつく形になったリーアは少し落ち着きを取り戻したようだ。


「女神の記憶に王都の情報があったけど、たしかに大きいね。でも、ユミは首が疲れるからもういいや。ルミアお姉ちゃん、ここからどこに向かうの?」


「そうですね……。本来であれば宿を取るんでしょうけど、今回は王城に泊まらせてくれるみたいです。なので先に街並みを見て回るとしましょうか。私も仕事以外で来たことはないので少し楽しみにしていたんですよね。旭さん、私とユミは先に中に入っていますので後ほど合流しましょう」


 ルミアはそう言ってユミと一緒にどんどん街の中へ進んでしまった。

 身長が低いユミにとってずっと見上げているのは辛かったのかもしれない。

 そこのところを組んでやれなかったのは反省点だな。

 ……後でルミアにお礼を言っておくとしよう。


[旭、私達もそろそろ中に入りましょう。夜までに王城に行けばいいですが、こんなところで立ち止まっていたら他の通行客の邪魔にもなります]


「それもそうだな。おーい、レーナ、リーア。そろそろ中に行くぞー」


「「はーい!!」」


 ソフィアに促された俺は未だにビルを見上げているレーナとリーアを呼んでから王都の中に入った。

 俺が呼んだレーナとリーアもすぐにこちらにやってくる。

 両手はレーナとリーアに掴まれてしまったが、ソフィアは気にすることもなく街中を歩いていく。


[王都も昔は中世的な建物しかなかったのですが、ここ最近は笹原丹奈の意見を取り入れて近代的な建物も建築しているようです。高層ビルなんかがいい例ですね。あの高層ビルはマンションだったり、様々な企業が出店していたりするようです]


「ふぅん……。この高い建物って高層ビルっていうんだね。たしかにパパもいた世界で見たことがあるかも」


「レーナ、確実に見ていると思うよ? お兄ちゃんと行った秋葉原もここまでじゃないけどビルが建ち並んでいたし。ねぇ、ソフィアさん。さっき企業が出店しているって言っていたけど、こんな狭い場所で企業が成り立つの?」


[いいところに気がつきましたね。例えば……]


 ソフィアがどんどん先に行くかと思ったら説明がしたかったのね。

 とても誇らしい表情を浮かべて生き生きと王都の建物について説明している。

 まさかこんなところでも元カノの名前を聞くとは思ってもいなかったのだが。


 ちなみにソフィアのその説明をレーナとリーア……主にリーアが熱心に聞いている。

 それに伴ってソフィアの説明にも熱がこもっているようだ。

 あんなに楽しそうなソフィアを見るのは……夜の情事以外では初ではないだろうか。


「あ、パパ!あそこに美味しそうなお店がでているよ!」


「……ん?あぁ、たしかに美味しそうな匂いがしてくるな。この匂いは……たこ焼きか?」


 リーアがソフィアに質問している間も周りをキョロキョロしていたレーナはとあるお店を指差した。

 そのお店から漂ってくる匂いはまんまたこ焼きだったのだが、お店の名前は【クラーケン焼き】と書かれていた。

 ……クラーケンってタコとイカの魔物じゃなかったっけ?と思ったが、どうやら普通のイカをクラーケンに見立てて料理をしているようだ。

 ……たこ焼きじゃなくてイカ焼きじゃん。


 ーーーークルルルルルルゥ。


 俺が呆れて店の商品を見ていると、隣からかわいらしいお腹の音が聞こえてきた。

 レーナを見ると恥ずかしそうにお腹を抑えている。

 どうやら王都に来る前に食べたご飯は消化してしまったようだ。


「レーナ、このクラーケン焼きを食べるとしようか。何個入りのやつを買おうかな」


「わ、わたしリーア達と一緒に食べることも考えて8個入りを2つ買ったほうがいいと思うの! おじさん、このクラーケン焼きの8個入りを2つください! あ、1つはチーズ付きで!」


 俺の問いかけにレーナは顔を真っ赤にしてお店に走っていった。

 お腹の音を聞かれたのがよほど恥ずかしかったらしい。

 ちゃっかり1つはトッピングをつけているあたり強かだと思うが。


「はいよ、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんは可愛らしいから特別に銀貨銀貨1枚と銅貨3枚にしてあげよう」


 店主と思われるおっさんはレーナを見て値下げをしてくれたようだ。

 1つあたり銅貨8枚らしいから3枚分値引きになるな。

 いやらしい視線はしていなかったから、自分の子供と比べたのだろう。


「あれ、お兄ちゃん。レーナはいつの間に食べ物を買いに行ったの?」


「ん?つい数分前かな。ソフィアの説明は終わったのか?」


 レーナを眺めていると隣にリーアがやってきた。

 どうやらソフィアとの質疑応答は終わったらしい。

 リーアの後ろにはソフィアも……ってソフィアは別の店で飲み物を買っているな。


「うん! とても参考になったよ! やっぱりその街の歴史を知ることは大切だよね!」


 俺の質問にリーアは満足気な表情で答えた。

 ふむ……。

 リーアは物事に対する歴史に興味があるのか。

 今度そう言うビデオを2人で見るのもいいかもしれない。


「あ、リーアお帰りなさい。リーアも一緒にクラーケン焼き食べるでしょ?」


「食べるけど、またたくさん買ってきたわね……。でも、1人あたり4個ならまだ許容範囲内か」


 リーアはレーナが買ってきたクラーケン焼きを1つ頬張る。

 おかしいなぁ……。

 リーアもレーナと同じでさっき食べたご飯を消化してしまったのだろうか。

 俺としては今たこ焼き4個食べるのは結構きついものがあるんだけど。


「おぉ、思っていたよりも外側パリパリしてる!」


「外はカリッと中はトロッとしているのは素晴らしいわね。あの店主……なかなかやるじゃない」


 そんなことを考えつつも、レーナとリーアが幸せそうにクラーケン焼きを食べているのを見たらどうでもよくなった。

 昔食べたキングサイズの牛丼を食べた時に比べれば問題はない。


 その後、ソフィアも合流してクラーケン焼きを4人で食べた。

 ソフィアも[これ……ただのタコの中身をイカに変えたものじゃないですか……]と言っていたが、味には満足したようだ。

 最終的にルミアとユミのために8個入りを追加で購入していたくらいだからな。


 そして楽しい時間はあっという間に過ぎていき……。

 王城に向かう時間になった。

 あー……正直行きたくない。


「旭さん、ここまできたら観念しましょう? 大丈夫ですよ、私とソフィアさんの2人で旭さんのフォローをしますから!」


 俺が静かにため息をつくとルミアがこちらにやってきた。

 嫁にフォローしてもらうのは恥ずかしい気持ちもあるが、国王様との会話はルミアとソフィアのほうが理解していると思うから任せることにしよう。


 ーーーーギギギギギギ。


 そして……王城へと向かう門が重々しい音を立てて開くのであった。

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