第152話 旭一行に因縁をつける者現る

「ハイエンジェル!相手の規模はどれほどだ!?」


「今すぐに叩き斬ってやりマス……」


 俺とルミアは転移魔法で操舵室に向かった。

 2人きりの時間を邪魔されたルミアはすでに【神剣】を構えている。

 ……まぁ、楽しい時間を邪魔されたらそうなるよな。

 正直言って俺も相当苛立ってるし。


『ひっ……!て、敵はドラゴンです!本来であればこのような場所に現れる種族ではないのですが!相手方の数……およそ200匹!』


 ルミアの殺気に怯えながらも、ハイエンジェルが敵の詳細を報告してくる。

 それにしてもドラゴンか……。

 また珍しい存在が出てきたものだ。


「200匹が一堂に会するのは珍しいですね。向こうからの攻撃はあったのですか?」


『いえ!まだこちらを取り囲んでいる状態です!ご主人、どうしますか?副砲であれば迎撃はできると思われますが……』


 ルミアの質問に緊張感を持った声で答えるハイエンジェル。

 取り囲んでいるだけであれば、こちらと会話する意思があるのか?

 でなければすぐに攻撃してくるはずだ。


「いや、まずはこちらから話しかけてみるとしy《そこの未確認飛行物体、聞こえるか!我らはかの有名な【エルダードラゴン】である!中に乗っている人間ども!今すぐに出てくるといい!》……分かってはいたが、随分と傲慢な態度だな」


 エルダードラゴンとやらは艦内が震えるほどの声でそう叫んだ。

 どう考えても話し合いでどうにかできるレベルではない。


「……ソフィア」


[はい。何でしょうか、My Master]


 俺はモニターに映し出されたエルダードラゴンを見て一言ソフィアの名前を呼ぶ。

 名を呼ばれたソフィアは音もなく俺の目の前に現れた。


 ソフィアはフリルのついたエプロンを着て、その手にスッポンを持っている。

 ……これからスッポンの首を落とすところだったのだろうか。

 どうやら今夜も寝かせてはくれないようだ……ってそんなことは置いておくとして。


「エルダードラゴンについて教えてもらえないか?【エルダー】なんて名前がつくんだから強いんだろう?」


[エルダードラゴン……?あぁ、あの知性が低いことで有名なトカゲどもですか]


 ソフィアはため息をつきながら、エルダードラゴンの群れを見ている。

 ……あれ?

 思っていたのと反応が違うんだが……。


「旭さん、エルダードラゴンはドラゴンの種類の中では上位に値する天災級のモンスターです。最上位はエンシェントドラゴンとなります。……しかし、それは普通の人間に当てはめた場合のこと。私達であれば普通のモンスターと大差ありません」


 ……ということはあれか?

 エルダードラゴンはこちらが全力を出さなくてもいいということか?

 そう考えたらなぜか沸々と怒りが湧いてきた。

 だが、まずは確認しないといけないことがある。


「ソフィア、レーナ達は今どんな状況だ?」


[レーナとリーア、ユミの3人は現在【遅延空間】内にてゲームをしております。夕飯ができたと呼ぶまではゲームをしているつもりのようですね……]


 俺の問いにソフィアが若干呆れた表情で答える。

 敵……と呼べるほどの存在ではないが、戦闘になるかもしれない時に遊んでいることに対して思うところがあるのだろう。


「今回に限ってはちょうど良かったかな。別にあのドラゴンを殺すのが目的ではないし」


「……えぇ!?旭さん、あの無礼者達を見逃すのですか!?」


 ルミアはとても残念そうな声を上げる。

 ……いやいや、ルミアさん?

 なんで今回に限ってそんなに好戦的なのですか。


「ルミア、よく考えてみてくれ。俺もルミアと同じで怒りが沸々と湧いている。だが、ここであのドラゴン達を殲滅したらどうなると思う?」


 俺はルミアの頭を撫でてそう問いかける。

 聡明なルミアのことだ。

 俺の言いたいことをきっと理解してくれるはず……。


「あのドラゴン達を殲滅したら……ですか?いつまでも戻ってこない仲間達を不審に思って、こちらに向かってくる……?もしくは仲間を殺されたと知った後、敵討ちとして多くの仲間を引き連れてこちらにやってくる……。……まさか!?」


「そういうこと。だから今回はこちらに反抗する気が起きないくらいにボコボコにしようというわけ」


 ルミアはやはり聡明だった。

 俺が危惧していたことを理解してポンッと両手を合わせる。

 まぁ、ボコボコにしたところでリベンジしてきそうな気もするし、数を増やしてきたところで問題はないのだが……その時はその時で殺せばいいだけだ。


「ルミアも理解したことだし、そろそろあのドラゴン達にお帰り願うとしよう。俺が出るが問題はないな?」


「待ってください、旭さん。旭さんといえども200体を相手に1人で挑むのは時間がかかってしまうかと思います。どうか私も連れて行ってください」


 俺が迎撃に出ようとしたらルミアが抱きついてきた。

 ちょうど腰の部分に抱きついてきたのでいろんな意味で危ない。

 静まれ、俺の分身よ。


「る、ルミア?あの程度の敵なら俺に任せても大丈夫だぞ?」


「それでもです!このまま旭さん1人を行かせたらいけない……そんな予感がするんです!」


 ルミアは涙を浮かべてこちらを見つめてくる。

 急にシリアスな展開になったので困惑しているが、冗談を言っている雰囲気ではない。

 猫尻尾も逆立っているし、何かを予知したのだろうか。


「……わかった。じゃあ、俺の背中はルミアに預ける。……無理だけはするなよ?」


「…………はいっ!」


 自分で言っておいてなんだが、こういうセリフは小っ恥ずかしいな。

 ルミアは満面の笑みを浮かべているから間違ってはいないんだろうけど。


[……旭、ルミア。とてもいい雰囲気のところ申し訳ないのですが、エルダードラゴン達が焦れてきているようなので早めに向かってください]


「「い、行ってきます!」」


 ソフィアの呆れた声で促された俺とルミアは顔を真っ赤にして艦橋に転移した。


 ▼


《ようやくきおったか!いつまで待たせるのだ!》


 俺とルミアが艦橋に向かうと一際大きなドラゴンがこちらに向かって叫んだ。

 相当待っていたのか、巨躯をぷるぷると震わせている。

 どうやらあいつがドラゴン達のリーダー的な存在のようだな。


「いやぁ、すまんすまん。ルミアが離してくれなくてな?こんなかわいらしい嫁に抱きつかれたらすぐにはいけないってもんだよ。まぁ、先に威嚇してきたのはそっちなんだから待つのは当然だろうし?」


《えぇい!初っ端から惚気るでないわ!爆発四散しろ!》


 ……どうやらあのドラゴンはつがいがいない個体らしい。

 周りのドラゴンからも哀れみの視線で見られているのは気のせいではないだろう。

 ドラゴンの美的感覚がわからないからなんとも言えないが。


「……で?そのエルダードラゴンとやらが俺達に何の用だ?そんなに大勢出来たということはただ話しにきただけではないんだろ?」


 俺はドラゴンを見据えて静かにそう呟いた。

 殺すつもりはないが、いいところだったのを邪魔されたんだ。

 目的だけは聞いておかねば。


《…………なんだ、この殺気は!?普通の人間が出せるものではないぞ……!?》


 《リーダー……!こいつ……想像以上の強さだぞ……!?どうする!?》


《というか……あの人間の後ろに何か浮かんでないか……!?あれは鬼か!?鬼なのか!?》


《え、えぇい!狼狽えるでないわ!殺気がどれほど強くても我らが負けるわけがなかろう!!》


「旭さん、旭さん。殺気がダダ漏れですよ?あと背後に鬼神のような幻影が顕現してます」


 ……どうやら邪魔された怒りから殺気だっていたらしい。

 ドラゴン達の隊列は大きく乱れ、肩で呼吸をしている個体も見受けられる。

 それに……。


「うぉっ!?本当に鬼神みたいなやつがいるじゃないか!あれか?スタ◯ドみたいなものか?どんだけ殺気をだしてたんだよ俺……」


 そう俺の背後に真っ赤な鬼神のオーラが顕現していたのである。

 ただのオーラのはずなのだが、とてつもない魔力の波動を感じる。


「……ゴホン!で?そっちの目的はなんだ?わざわざ大勢で来た理由を教えてもらおうか」


《こやつ……今の殺気をなかったことにしおった!!》


 俺は漏れ出していた殺気を抑え込んで再びドラゴン達に尋ねた。

 リーダーらしきドラゴンが喚いているが知ったことではない。


《……腑に落ちないものがあるが……まぁよい。我らはお前達に物申したいことがあってきたのだ》


「ドラゴンほどの存在が私達に……?何かしたとは思えないのですが」


 ルミアは首を傾げた。

 うん、それは俺も同意見だ。

 ドラゴンの住処を襲ったことはないし、そもそも初対面だ。

 怨みを買うことは特に何もしていないはずだが……。


 だが、ドラゴン達は違ったようだ。

 リーダーの言葉に他のドラゴン達もブレスを真上に吐いたりしている。

 ……あれがラノベで有名なドラゴンブレスか。


《何かしたとは思えない……?戯けが!!こんな巨大な未確認飛行物体が飛んでるせいで、我らの威圧感が日に日に衰退しておるのだ!お前達は我らエルダードラゴンに詫びを入れる必要がある!!》


《そうだそうだ!》


《お前らのせいでダークドラゴンの彼女と別れることになってしまったんだぞ!》


《ざまぁみろ!!》


《リーダーてめぇ!唯一モテないからって嫌味を言ってくんじゃねぇよ!》


 ……どうやら『大和』の威圧感が大きすぎて、自らの存在感が危ぶまれているらしい。

 正直言って『だからどうした?』という感じなのだが。

 それに最後のドラゴンに対する悪態はやってはいけないと思う。


「ルミア……なんかこいつらの相手するの面倒になってきたんだが」


「旭さんもですか?……実を言うと私もそうなんですよ。良いところを邪魔したのは許せませんが、相手をするだけ無駄な気がしてきてるんですよね」


 ルミアも俺と同じ意見のようだ。

 こんな奴らのために貴重な時間を割いてまで対応する必要はないと思うんだよ。


《あ、こら!どこに行くというのだ!我らの話はまだ終わっておらんぞ!》


「いや、どうでもよくなってきたから帰ろうと思って。大体この空中戦艦『大和』を創造したのも、ダスクが無謀にも喧嘩をふっかけてきたからだし。お前達の言い分が通る理由が思いつかない」


 艦内に戻ろうとした俺とルミアを見たリーダードラゴンが慌てたように声をかけてきた。

 俺はめんどくさそうに肩を竦めて艦内に向かって歩いていく。


《我の話を聞かんか、この愚か者めが!我らの包囲網から逃げられると思っておるのか!》


「これくらいで足止めできると思ってるのであればそれは傲慢というものだ。この『大和』が本気を出さなくても良いくらいにお前達は弱いんだよ」


 というか、人のことを愚か者とか言う奴の言うことを聞く必要はないんだよね。

【時間遅延】と神格を付与した【聖断】で強引に突破できるのだから。


《ふふ……ふはははは……!まさか我らエルダードラゴンをここまでコケにするとはな!よかろう……。では、我らの話を聞きたくなるように仕向けてやる!》


「旭さん……あれ……!」


 ドラゴンがそう言うと同時に空中にとある人物が現れた。

 なんらかの魔法で磔にされているその人物は力なくうなだれている。


 ルミアにもそいつが見えたのだろう、こちらの服を引っ張って慌てていた。

 その人物とは……。


「なんでこんなところにお前がいるんだ?……


 捕らえられていたのは丹奈だった。

 周りにイケメンが浮かんでいないことからあいつだけを攫ってきたのだろう。

 そんな俺の呟きを聞いたリーダードラゴンはニヤァと笑みを浮かべた。


《こやつがお前の名前を呼んでいたから攫ってきたのだ。こやつの命が惜しければすぐに我らに謝罪をしろ!》


 高らかに宣言するドラゴンをじっと見ていた俺は……


「ルミア、お腹空いたからリビングに戻ろうぜ。ウヰスキー溢れてないか心配だわ……」


「うーん、多分大丈夫だと思いますよ。あの程度の咆哮で揺れるほどこの船はヤワではないですし」


 慌てていたはずのルミアだったが、スッと真面目な顔になると俺の後を追いかけ始めた。

 慌てているのはドラゴンのリーダーだけである。


《ちょ、ちょっと待たんか!こやつはお前にとって大切な存在ではないのか!?待て……待てと言ってるのが聞こえんのか!!》


 ドラゴンの本気で焦った声が響き渡るのだった。

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