第151話 特別編『if』-旭一家の宴会-

「いらっしゃいませ〜!何名様ですか?」


「あ、予約していた響谷です」


「響谷さんですね、本日はご来店ありがとうございます!では、お席へ案内しますね」


 俺達が店に入るとイケメンの店員さんがこちらにやってきた。

 予約していることを伝えるとすぐに席へと案内してくれる。

 こういったサービスは正直とてもありがたい。


 俺達全員が席に着いたことを確認した店員さんは奥にはけて、別のお姉さんがメニュー表みたいなものを持って説明を開始した。


 ちなみにこの店は基本的に先払いなのだが、レーナ達が外で驚いている間に支払っておいた。

 魔法は偉大……ということだな。


「では、当店のシステムについて説明させていただきます。当店はセルフサービスでお酒を注いでいただいております。グラスも種類がありますので、自分に合ったものを使用してください。その際の注意点ですが、グラスは3つまでの使用をお願いします」


 店員のお姉さんがグラスのところまで案内してくれた。

 ふむ、おちょこから普通のコップ、ウヰスキー用のグラスまであるのか。

 飲みたい気分によってグラスを変えられるのはいいね。


「ねぇねぇ、お姉さん。このお店のシステムについてはわかったけど、お酒のつまみとかはどうするの?」


「おつまみですか?当店は料理の持ち込みOKなので、外から持って来る方が多いですね。一応当店でも軽食は取り扱ってますし、デリバリーしている方もいらっしゃいます」


 俺がお酒を注ぎに行こうとしたらレーナが店員さんに質問をしていた。

 そう言えば説明していなかったな。


「レーナ。今日は家から持ってきたから料理の心配はないぞ?……ルミア、テーブルに料理を出してくれるか?」


「わかりました、旭さん。……えっと、あぁ、ありました」


 ルミアは持ってきておいた手提げバッグから、を取り出して、机にドンッと置いた。

 ……んん?

 あんなにたくさん作ったっけ?


「さすがお父さん!準備万端だね!」


「兄さんとルミアさんが作った料理ならお酒に合いそうだね!」


「昨日の夜に料理していたのはこのためだったのですね……。さすが兄様です!」


「言ってくだされば私も作りましたのに……。あなた、なんで言ってくれなかったのですか?」


[……私も作ったのですよ?]


 レーナとリーア、ユミは重箱をみてきゃっきゃっと喜んでいる。

 ソフィアは……自分も料理したのだとアピールしたいようだ。

 リカーナは自分を誘わなかったことに対して、少し怒っているらしい。

 俺はそんなソフィアとリカーナの頭を撫でながら、嫌な予感を感じて周りを見渡す。


「……お、おい。あの小さなバッグからありえない大きさの重箱が出てきたぞ……」


「それはマジックかなんかだろ。それよりも……あの男、美人さんを侍らせすぎじゃないか?絶対に血縁関係じゃないのは明らかだろ……」


「兄さんに兄様、あなたにお父さん……。あれがハーレムってやつか」


「……リア充は粉々に爆発すればいい」


 案の定、周りの男性客から妬みの視線が突き刺さっていた。

 まぁ、こちらに絡んでくる気配はないからスルーでいいだろう。


「じゃあ、各自お酒を取って来るとしようか」


「「「「「[はーい]」」」」」


 男達の視線はまるっと無視して俺達はそれぞれお酒を注ぎに行くことにした。

 さぁて、何を飲もうかなぁ。


 ▼


「ん?これは……チーズに合う日本酒?こんなお酒まであるのか……」


 俺はとあるお酒を発見する。

 ボトルについているカードを見てみると、ワインの風味がする日本酒らしい。

 となると、このお酒に合うのはチーズになるわけか。


「お、『bar 362+3』ですか!幻の日本酒バーでしか味わえないものを商品化したのがそのお酒なのです!そのお酒は本当にチーズとの相性がいいんですよ〜!チーズにあうお酒は他にもあるのですが、個人的にはこのお酒がオススメですね〜」


「店員さんがそこまで言うなら飲んでみる価値はありそうですね。ルミア、チーズ系のつまみって持ってきていたっけ」


 店員さんの説明を聞いた俺はルミアを呼んで持ってきた料理の確認をする。

 俺に名前を呼ばれたルミアはビアグラスを片手にこっちにやってきた。

 ルミアは一杯目をビールにしたようだ。


「チーズ系のつまみですか?たしか……チェダーチーズとバーニングベアのチーズ焼きがあったと思います」


 ルミアはそう言って重箱の三段目を開ける。

 そこにはかなりの量の肉が敷き詰められていた。

 いやいや……これは流石に多すぎだろう。


「ありがとう。でも、この量だとおちょこでは足りないな……」


「でしたら、『Mat Cheese?』もおススメですよ〜。ぜひ飲み比べてみてください!」


 俺の言葉を聞いた店員さんは別のチーズに合う日本酒を勧めてきた。

 ルミアが開けた重箱については触れない方向で行くらしい。

 ……それが懸命な判断だと思うぞ。


「では、飲み比べてみますね。じゃあ、席に着くとしようか」


「ですね。他の皆さんも戻ってきたみたいですし」


 店員さんにお礼を告げてから俺とルミアは椅子に腰掛けた。

 腰掛けた瞬間にレーナ達が戻ってきたのは偶然だろう。


「お父さん!このお店すごいね!見たこともないお酒がたくさんあったよ!」


「これは一回で多く飲むよりもたくさんの種類を飲んだ方がお得な感じがしたわ。ルミアさんも次からはグラスを小さめにした方がいいかもよ?」


 レーナとリーアがそんなことを言いながら椅子に腰掛ける。

 2人は俺と同じでおちょこでお酒を注いできたようだった。


 リーアは日本酒、レーナは……あれは白ワインだな。

 ワインをおちょこで持ってくるのはレーナくらいではないかと思う。

 ……好きなグラスを選べるからこういうところで個性が出るのも面白いところではあるんだが。


「兄様、私……初めてのお酒は兄様と同じものを飲むと決めているので、一口貰ってもいいですか?」


 ユミが持っていたのは飲むヨーグルトだった。

 どうやらユミなりにプライドがあるようだ。

 今日の飲み会はユミの20歳記念でもあるから、後ほど俺のお酒を飲ませてあげるとしよう。


「……で、ソフィアとリカーナは何のお酒を持ってきたんだ?」


 レーナとリーナ、ユミが持ってきた飲み物はわかった。

 だが、ソフィアとリカーナが持っているのは普通のサイズのコップだ。

 氷が入っていないことからストレートで持ってきたことが伺える。


[これですか?『信長ROCK』という甘めの日本酒です。最初の一杯は軽めの方がいいかと思いまして]


「私のは『鯨』という泡盛ですよ。あなたの前ではあまり飲んだことはありませんが、結構お酒強いんですよ?」


 ふむふむ。

 ソフィアは甘めの日本酒、リカーナは泡盛を選んだのか。

 だけど、リカーナ?

 こんな場所で上半身を逸らしてドヤ顔するのはやめなさい。

 その立派に育った双丘がバルルンと揺れているでしょうが。


「もうお父さん!そんなことはいいから早く乾杯しようよ!時間は無制限らしいけど、いろんな種類のお酒を飲みたいんだから!」


「レーナの言う通りだよ、兄さん。私、もうお腹空いちゃって仕方ないんだ」


 リカーナの大胆に揺れる双丘に見とれていたら、レーナとリーアが俺の腕に抱きついてきた。

 ユミは抱きついてこなかったが、キュルルルルルというかわいらしいお腹の音が鳴っている。

 ……これ以上待たせるのは流石に酷だよな。


「すまんすまん。……みんなグラスは持ったな?」


 俺はそう言ってグラスを掲げる。

 嫁達も俺の行動に合わせてグラスを空中に掲げた。


「では、ユミの20歳の誕生日と俺達の今後の幸せを願って……乾杯!!」


「「「「「[かんぱーーーい!!!]」」」」」


 ーーーーチンッ。


 俺達が掲げたグラスが小気味良い音を立てる。

 乾杯の音頭は得意ではないのだが、なんとかなったようだ。

 さぁ、今日の飲み会を存分に楽しもうじゃないか!


 ▼


 飲み会が開始してから2時間後……。


「に・い・さ・まぁ……。今度はこのお酒を飲みましょう?『I Love choco』っていう日本酒らしいです。まさにユミ達のためにあるようなお酒ではありませんか!」


「いいですねぇ……。あさひしゃん、ここは全員でこのお酒を飲むべきだと思うのでしゅ!」


 俺は酔っ払ったユミとルミアに両腕を挟まれていた。

 2人のたわわな感触に気持ちが昂ぶるのを感じるが、店に迷惑はかけられないのでなんとか堪える。


「ルミアがお酒に弱いことは知っていたが……ユミもここまで弱かったとはなぁ」


 俺は2人にされるがまま身体を揺すられる。

 本来酔っ払った時は揺すってはいけないのだが、こうなることを想定して【持続回復】をかけてある。

 おかげで潰れるほど酔っ払うことはないのだが……。


「……お父さん。普通の人は2時間で13杯も飲めば酔いつぶれると思うよ?」


「いや、酔い潰れているのはユミとルミアだけなんだが……」


 レーナが呆れた表情を浮かべてやってきた。

 その手にはお店限定のカクテルが握られていた。

 ちなみにリーアはリカーナとソフィアの2人と一緒にウヰスキーのストレートを嗜んでいる。


「わたしはお母さんの血を濃く受け継いでいるからお酒には強いんだよ。ちなみにリーアはダークエルフだから元からお酒には強いんだ」


「……エルフがお酒に強いのは小説の中だけだと思ってたわ」


「事実は小説よりも奇なり……だよ、お父さん」


 俺の呟きにレーナは面白そうに笑った。

 楽しそうで何よりだが、この状況をどうにかしてくれないだろうか。


「レーナ、面白そうに笑っているところ悪いんだが……この2人をどうにかしてくれないか?」


「んー?まぁ、限界を知るのもいい機会じゃないかな?お父さんなら酔い程度すぐ治せるでしょ?」


「いや……まぁ、そうなんだけどさ……」


「じゃあ、大丈夫だよ。わたしは向こうでリーア達と飲んでくるからごゆっくり〜」


 レーナはそう言うとそそくさとリーア達に合流しに行った。

 ……いつの間にそんなことを考えるようになってしまったんだ。

 娘の成長にショックを覚えてしまう俺である。、


「兄様ぁ……。これからも……ずっと……一緒に……」


「旭さぁん……お慕い申し上げて……おります……」


 ルミアとユミは俺が話している間に眠ってしまったようだ。

 すやすやと可愛らしい寝息を立てている。

 俺は2人を起こさないように両手で抱えて、レーナ達のところに向かう。


「……おいおい。あの男、細い身体してなんて筋力してやがる……」


「リア充……爆発しろ……」


「ウホッ。いい身体……!」


「というか……あのテーブルだけ豪華じゃない?あそこだけこの世のものとは思えない光景が広がっているんだけど……」


 周りの客からそんな言葉が聞こえてきたが無視だ無視。

 というか、この店の中にホモがいるだろ。

 申し訳ないが俺はそっちの気はないので、丁重にお帰り願いたい。


「ソフィア、ルミアとユミが寝てしまったから退店するまで毛布をかけてやってくれないか」


[Yes,My Master。ルミアは予想していましたが、ユミも弱かったのですね。まぁ、元の女神が下戸でしたし、13杯も飲めれば十分でしょう]


 ソフィアはそう言って【無限収納】から高級な毛布を取り出して寝ている2人にかけた。

 これでひとまずは安心だろう。


「あなた、今から日本酒の出汁割りを頼むのですが一緒にいかがですか?」


 2人の様子を確認したリカーナが俺にそう提案してくる。

 日本酒の出汁割りは初めて聞くな。

 どうやらこのお店独自の出汁を使っているようだ。


「お、いいね。さっきまで果実酒しか飲んでいなかったからちょうどいいかもしれない」


「では、注文しますね。ねぇ、店員さん。この日本酒の出汁割りを5人分貰えるかしら?」


「は、はい!すぐにお持ちしますね!」


 リカーナはイケメン店員に流し目で出汁割りを注文した。

 ……イケメン君、リカーナに手を出したら殺されることを覚悟したほうがいいぞ?

 だが、今回はリカーナも悪い。

 後でしっかり躾けないとな。


「あぁ……!あなたのその表情……最高です……!」


「お母さん……こんな場所で発情しないでよ?」.


 俺の表情から心を読んだリカーナが内股をモジモジさせ、それを見たレーナが呆れた表情で母親の頭をスパーンと叩いていた。

 ……レーナと言う通り、この場所で発情するのはやめてもらいたいところだ。


「じゃあ、そこのドMは放っておいて飲みの続きでもしようか」


「……はぅん!ドMだなんて……!」


「……そうだね。お母さんは放っておこう」


「レーナ……貴女もいつも大変ね……」


[リーア。リカーナがドMなのは今に始まった事ではありません。……さて、次は何を飲みましょうか]


 俺の言葉にそれぞれ反応を示す4人。

 リカーナは……すでに興奮しているから放置しておく。

 出汁割りを持ってくるまでには発情も治まっているだろう。


 その後、俺達は閉店まで楽しく飲み続けるのだった。


 ▼


「「え……!?お昼の12時!?」」


 飲み会が終わった翌日、ユミとルミアが驚きの声を上げるのだが、それはまた別のお話。

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