第123話 特別編–異世界で楽しむ夏祭り–


「じゃあ、そろそろ屋台巡りでもしようか」


 俺は乱れた浴衣を整えながら、んーッ!と身体を伸ばしてそう呟く。

 ソフィアが【時間停止空間】を使用した後、レーナ達5人に無理やり浴衣に着替えさせられた。

 時間が止まっているとはいえ、衆人環視の中で自らの裸体を晒したくなかったんだが……。

 着替えた後はレーナ達が発情していたこともあり、【色欲魔人】を使って場の収束を図ることにした。

 まぁ、安定するのにかなりの時間を要したのだが……それは置いておくとしよう。


「……なんでパパはそんなに元気なの……?……あっ。こちらは5人がかりだったのに……」


「レーナ、私達……お兄ちゃんの性欲を舐めてたね……。まさか以前よりも色々と成長しているなんて思わなかったよ……。んんっ……」


「……ふぁ。まだ先ほどまでの感覚が残っている気がします……」


 レーナとリーア、ルミアの3人はよほど疲れてたのか、まだ地べたに突っ伏している。

 時折ビクビクと身体を震わせているから、さっきまでしていた余韻がまだ残っているのだろう。

 ……本気でやらなければと思って挑んだのだが、少しやりすぎてしまったのかもしれない。

 気絶しなかっただけ良かったと思うべきか……?


[レーナもリーアもルミアも……情けないですね。あれくらいで根を上げてしまうとは……]


「……ソフィアお姉ちゃん。今までのパパなら問題なかったけど、【神威解放】と【色欲魔人】を組み合わされたら勝ち目ないって……」


「レーナさんの言う通りですね……。なんですか、あの組み合わせは……。あれは封印すべき代物ですよ……。いくら搾り取っても終わる気配がないんですもの……」


 ソフィアがレーナ達3人をジトッと見ている中、レーナとルミアの2人は力なく反論する。

 リーアは先ほどまでのことを思い出したのか、下腹部に手を持っていって自慰を始めていた。

 また発情されても困るんだけど……。


「……ソフィアお姉様、3人をからかうのはそれくらいにしてあげましょう?今日は楽しい夏祭りなのです。その前に力尽きてしまうのは勿体無くありませんか?」


[ふむ……ユミの言う通りですね。……【完全範囲回復】。さぁ、屋台を見に行きますよ。たっぷり運動もしたのでたくさん食べられるでしょう]


「むしろ俺としてはなんでユミが【神威覚醒】状態になっているのかが気になるんだが……。まぁ、いいか。3人ともそろそろ屋台を巡るとしようじゃないか」


 なぜか【神威覚醒】状態になったユミがソフィアを説得しており、ユミの言葉を聞いたソフィアはレーナ達3人に【完全範囲回復】を発動した。

 ……ユミの変化に突っ込みたくなったが、今は野暮というものだろう。

 そう思った俺はレーナ達が浴衣の乱れを整えるのを待ってから、【時間停止空間】を解除するのだった。


 ▼


「パパ!あそこにリンゴ飴売ってる!」


「レーナ、その横には綿アメも売っているわ!ねぇ、お兄ちゃん。あれ買ってきてもいい!?」


「あぁ、それは構わないぞ。今日はたくさんお金を持ってきたから好きなのを食べな」


「「うん、ありがとう!!」」


 レーナとリーアは俺に感謝の言葉を述べると、タタター!!とそれぞれの屋台に走って行った。

 俺は下見をしていたから、どんな屋台があるのか大まかには理解している。

 だが、どれを食べたいかは本人の意思に沿うことにした。

 屋台はたくさんあるんだし、好きなものを食べるのが一番だろう。


 ……ちなみにレーナ達にはそれぞれ【聖域】を展開してある。

 いくら俺達の実力を知っているとはいえども、今回参加している祭りは街全体で行なっているもの。

 ギルドマスターからは外部からの参加者も多くいると聞いている。

 外部の者達がレーナ達を絶対にナンパしない……とは言えないからな。


「さて、俺も数年ぶりの屋台を楽しむとしようかな……ってあれ?ソフィアはどこに行ったんだ?」


 俺が屋台を見て回ろうとしたが、近くにいたはずのソフィアの姿がなかった。

 どこに行った?とキョロキョロしていると、ユミが服をクイクイと引っ張ってくる。


「お兄様。ソフィアお姉様はあちらの型抜きの屋台におります」


「型抜き……?またなんでそんなところに……。一応様子を見に行ってみるか。ルミア、少しの間ユミのことを頼んだぞ」


「えぇ、任せてください。では、ユミ。私達も屋台を回りましょうか。なにか食べたいものはありますか?」


「はい、ルミアお姉様。私はあのかき氷が気になります!」


 俺はルミアにユミを任せて、ソフィアのいる屋台に向かおうと歩き始める。

 ルミアとユミはかき氷の屋台に向かうようだ。

 俺も後で合流したらかき氷でも食べるかな ……。

 知覚過敏もっているから冷たいものは今まで食べてこなかったが……。

 魔法で治療できる今なら食べても問題はないだろう。

 そんなくだらないことを考えながら、ソフィアがいるという型抜きの屋台に向かうことにした。


「おぉぉぉ!?なんだこの美人さん!さっきから全然型が割れねぇ!!」


「というか……どんどん動きが速くなってきていないか!?何者なんだよ……あいつぁ!」


 型抜きの屋台に近づくと、屋台の周りにいる男どもから賞賛の声が聞こえてきた。

 周りの人間は騒いでいないことから、大きな声で歓声をあげているのは外部からきた参加者なのだろう。


「お、旭か!旭よぉ……ソフィアの姉御をどうにかしてくれないか?客が集まってくるのはいいんだが、このままじゃ店が潰れちまう」


「うおっ……。これはすげぇな……。まだ5分くらいしか経ってないのにもう20枚も型抜きが終わってら」


「そうなんだよ……。最初はかなりゆっくりやっていたんだが、今はかなりのスピードで型を抜いていくんだ。なんか緑色のオーラも見えるし……」


 俺はおっさんの言葉を聞きながらソフィアが終わらせた型抜きを眺める。

 そこには龍や虎といった難易度の高い絵面の型抜きが綺麗に置かれていた。

 どうやら難しい絵面のやつだけ挑戦しているらしい。


[…………ッッ!!…………ッ!!]


 ソフィアは極限の集中状態ゾーンに入っており、俺がきたことに気がついていないようだ。

 型を抜くその姿は光り輝いているようにも見える……というか、【翡翠の鎧】を発動している。

 あんな状態でひたすら型を抜くソフィアはなぜか異質に思えた。

 俺はソフィアが今手にかけている型抜きが終わったタイミングで後ろから抱きしめる。


「流石にその辺にしておけって。屋台のおっちゃんが泣き始めているから。今日は屋台潰しにきたわけではないだろう?」


[……どうして旭がここに?私は暇つぶしでここに寄ったのですが]


 俺に抱きしめられたことでようやく俺のことに気がついたらしい。

 ソフィアは【翡翠の鎧】を解除し、どうしてここに俺がいるのか心底不思議そうな表情を浮かべている。

 型抜きを暇つぶしと言われたおっちゃんは膝から崩れ落ちた。

 ……なんか可哀想になってきたな。


「レーナとリーアを見送った後にみたらソフィアがいないことに気がついてな。ルミアに聞いたら型抜きの屋台に向かったと聞いて様子を見にきたんだよ。……まさかこんなことになっているとは思いもしなかったけどな」


[ここの型抜きはなかなか難易度が高く、自分の実力がどれだけ通用するのか試してみたかったのです。途中から周りの音が聞こえないくらいに集中していたみたいですね]


「まぁ、集中するのはいいんだけどな。とりあえずこれ以上やったら店が潰れてしまうから、そろそろ他の屋台に行くぞ?」


 俺はそう言ってソフィアの手をとり、屋台から出ようとした。

 だが、生気を取り戻したおっちゃんが慌てて、ソフィアにあるものを差し出してきた。


「ソフィアの姉御、ちょっと待てって!型抜きは成功したら景品を渡すのが決まりだ。姉御が完成させたものはどれも高難易度のものばかり……。大した景品はだせないが、これをもらって行ってくれ!」


[これは……。屋台の無料券と腕輪……ですか?]


 ソフィアがおっちゃんから受け取ったのは、屋台の商品が無料になるチケット10枚と腕輪が六個だった。

 腕輪には色とりどりの宝石が散りばめられている。

 サファイア、プラチナルチルクォーツ、モスコバイト、イエローオパール、ローズクォーツ、ブラックスピネルと地球でも滅多にお目にかかれない宝石がそれぞれの腕輪にはめられていた。

 ……なんか既視感のある宝石が並んでいるのはなんでだ?


「あぁ、その通りだ。屋台の無料券はミニゲーム形式の屋台の商品として配布されている。そして、その腕輪は俺の工房の自慢の一品だ。見たところ、[ROY]の面々は共通のアクセサリーを持っていないだろう?これは[ROY]の印象をモチーフにした腕輪だ。祭りの後に届ける予定だったが……今もらってほしい。この腕輪には付けたものがどこにいるのかわかる魔法を付与しt[ありがたくもらいましょう]……そう言ってくれるならありがたい」


 ソフィアは自慢げに話すおっちゃんの言葉を遮って、宝石がはめられている腕輪を受け取った。

 ……これを受け取る=風俗に行くことができなくなるぞ?と言われているような気もしたが、そもそもそういう場所に行く必要がないので特に問題はないな。


「パパー?ソフィアお姉ちゃんー?そろそろ違う屋台にいこー?」


 ソフィアと腕輪について話しているとレーナ達が俺達の方にやってきた。

 なぜかハイエンジェル達が召喚されており、その手には多くの料理が握られている。

 綿アメ、チョコバナナ、焼きそば、たこ焼き、ラムネ、ケバブ、もんじゃ焼き、フランクフルト、焼きとうもろこし、唐揚げ、ラムネ……etc.

 思わず『そんなに食べきれるのか!?』と言いたくなるほどだ。

 しかもきっちり6人分買ってきているのがレーナ達の表情から見て取れた。


「ほら、ソフィア。皆もきたことだし、俺達も合流しよう。……たくさん食べられると言ったのはソフィアなんだし、がんばってあの量を食べてくれよ?」


[まさか本当にたくさん買ってくるとは……。旭、逃げようとしているみたいですがそんなことはさせませんよ?]


「くっ、バレたか……。す◯家のキングサイズとかに比べれば……いけるはず」


 ソフィアに釘をさされた俺はげんなりとした表情でレーナ達が持っている食べ物を見た。

 最悪食べきれなかったらハーデスを召喚して無理やり食べさせよう。

 そんなことを考えながら俺とソフィアはレーナ達と合流するのだった。


 ▼


『ご、ご主人……。我は……も、もう……食べられませぬ……』


 レーナ達と合流して、屋台の食べ物を食べ始めてから1時間後。

 そこには真っ青な表情を浮かべて横になっているハーデスの姿があった。

 レーナ達が買ってきた食べ物を俺は全部食べることができなかった。

 なのでハーデスを召喚して俺の残りを食べてもらうことに。

 ハーデスに押し付ける際に、ソフィアがハーデスの嫁を人質にしたりしたんだが……それはまた別のお話だ。


 ちなみにハーデスは全部食べ終わった後にソフィアの手によって強制送還されている。

 送還される時に死んだ魚のような目をしていたのは記憶に新しい。

 ……ハーデスはソフィアに雑に扱われることに慣れつつあるんじゃないだろうか?

 あ、それは俺にも言えることか。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん。さっきレーナと屋台を巡っていて面白いお店が立ち並んでいる場所を見つけたんだ〜」


「面白いお店?そんな屋台あったかな?俺が下見をした時にはなかった気がしたんだが……」


 俺はリーアの言葉を聞いて首をかしげる。

 下見で街を駆け回った時にはそんなに面白そうな屋台はなかった。

 もしかしたら見落としていたのかもしれない。


「お兄様。昨日いないと思ったらそんなことをしていたのですか……。私はレーナお姉様とリーアお姉様に聞いただけなのですが……地球でもあまり見ない屋台でした。是非とも行きたいのですが……いいでしょうか?」


 俺の言葉にユミが上目遣いでおねだりしてきた。

 ふむ……女神だったユミが地球でもあまり見たことがない屋台か。

 そう言われると気になってくるな。

 なにより【神威覚醒】して精神が大人になっているユミが上目遣いでおねだりしてきている。

 これで行かないなんて答えるのは非情というものだろう。


「見たことがない屋台か……。じゃあ、少し休憩したら行くとしようか。正直まだお腹いっぱいなんだよね」


[ハーデスに食べきれなかったものを押し付けていましたものね。……それならば、食後の運動もか兼ねて一戦どうですか?隔離空間の内部なら外に被害が出ることもないですし]


 不敵な笑みを浮かべたソフィアはそう言うと、空中に巨大な隔離空間を作り出した。

 その空間の中には闘技場みたいなフィールドが設置されている。

 だが、外から隔離空間の中身が見えるのはなんでだ……?


[ふふふ……。これは地球でいうマジックミラーという技術を応用したものです。隔離空間の外からは中が見えますが、中からは外の風景が見えません。これを使って余興を開こうかなと]


「なるほど……。外部からきている人達にも旭さんの強さを披露するということですね?」


[さすがはルミア。そこに気がつくとは]


 ソフィアの意図に気がついたルミアは納得した表情を浮かべる。

 ルミアの言葉を借りると、外部からきている人間は俺達の実力を知らない。

 実力を知らないからこそナンパしてくる可能性があるので、この機会にその芽を摘み取ろうということらしい。


「戦うとなるとソフィアお姉ちゃんが適任かも」


「レーナの言う通りだね。ルミアさんはどうするの?」


「私は受付をするとしましょう。もしかしたら商売になるかもしれませんし」


 レーナとリーア、ルミアの3人は余興が始まった時のことについて話し合いを始めた。

 どうやら俺の意見は聞いてもらえないらしい。

 俺は諦めの表情を浮かべて、3人を眺めることにした。

 そんな中、ユミが俺の膝の上に乗ってきた。


「お兄様、変なことになりましたが……これもお腹を空かせるための計らいだと思ってください。今度はお兄様とソフィアお姉様も含めたみんなで屋台を回りたいのです」


「大丈夫だよ、ユミ。ソフィアが何も考えずに提案したわけではないことはわかっているから。戦うといっても本気でやるわけではないだろうし、軽い運動のつもりで行ってくるさ」


 俺はそう言ってユミの頭を撫でる。

 ユミはなんとも言えない表情を浮かべながらも俺に頭を撫でられていた。

 そう……俺としては軽い運動のつもりだった。


「……まさかこんなことになるなんてなぁ……」


[旭、何を惚けているのですか?まだ戦闘は始まったばかりですよ?……【終局ノ輪舞曲】!!]


 俺は軽い運動のつもりでいたのだが……ソフィアは違ったようだ。

 今、俺は本気になったソフィアとガチバトルを繰り広げている。

 ソフィアが放った【終局ノ輪舞曲】を押し返すように俺も同じ魔法を放つ。

 空間が震えるほどの魔力のぶつかり合いがあった後、俺とソフィアは光を放ちながら近接戦闘に移行した。


 ソフィアとの戦闘を繰り広げながら、『どうしてこうなった……』と俺は呟いた。

 祭りにきたはずなのになんで祭りと関係ないことで盛り上がっているのだろうか……。

 お腹を空かせるために始まったそんな戦闘は1時間も続くのだった。

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