第110話 旭はダスクに攻撃を仕掛ける人物を決める

「さて……。そういう訳で、これから順番にダスクの冒険者達に対して攻撃をしていくことになった」


「お兄ちゃん……。なんでそんなことになってるの……。こちらからは攻撃しないんじゃなかったの?」


 俺の言葉にリーアが呆れたような声を上げる。

 ちなみに今いるのは『大和』の艦内だ。

 ダスクのギルドマスターに宣戦布告した後、作戦会議として『大和』の中に戻ってきたのである。


「リーアさん、そう旭さんを責めないでください。旭さんは先程、魔法攻撃をした場合は敵対行為とみなすと仰いました。それを無視して【魔道砲】に向けて攻撃してきたのは向こうですよ」


「そうだけどさぁ……。ルミアさんは大丈夫なの?ここからでもわかるくらいの殺気を放ってたけど」


「あの時は……ゴミギルドマスターに呼び捨てにされたのが我慢できなくて……。感情を抑えきれないなんて、私もまだまだ精進が足りませんね……」


「ルミアお姉さんが気にすることじゃないと思うよ?わたしだってギルドマスターのおじさんに呼び捨てにされたら、同じように殺気を放つと思うし」


 リーアの言葉にルミアはシュンとしており、そんなルミアをレーナが慰めている。

 先程の件に関しては、殺気を放っても仕方ないと俺は思っている。

 あまり気にしないで欲しいんだが……。


[3人とも、話が脱線していますよ。……旭。先程の話をまとめると旭の番までに攻撃を耐え切ったらルミアの件を考えるとのことでしたが……。誰がどの順番で攻撃するのか決めているのですか?]


 レーナ達3人の話し合いを見ていたソフィアが、両手をパンと叩いて話題の修正を試みてきた。

 どの順番で攻撃を仕掛けるかによって対応が変わってくるということなのだろうか?

 そんなソフィアに俺は頭を掻きながら答える。


「実を言うとまだ決めていないんだよ。……正直ここにいるメンバーなら1回の攻撃で致死量のダメージを負わせられるだろうし」


「お兄様の懸念していることは理解できます。一番レベルが低い私でさえ、あの連中は攻撃を耐えられるとは思えませんし」


 俺の言葉に賛同するように、ユミが言葉を紡いだ。

 ちなみにレベルの低いユミがそんなことを言えるのは、女神であることと俺の魔力を媒体にして発動している【神威覚醒】が原因だったりする。

 確か……敏捷値以外の能力が10倍になるんだったな。

 それだけでかなりの脅威となるだろう。


「王都冒険者ギルドからは死傷者をだすなって言われているからなぁ。ソフィア、この中で一番峰打ちができると思われるのは?」


[峰打ち……ですか?手加減等を考慮するならば、リーア、ルミア、ユミの3人でしょうか。近接攻撃であればある程度の手加減はできると思われます]


 ソフィアは近接攻撃主体の3人を候補に挙げた。

 リーアは無手でも戦えるだろうし、ユミの【日向政宗】であれば峰打ちも可能だろう。

 だが、ルミアの【神剣】は峰打ちどころではなくなると思うのは俺だけだろうか?

 ギルドマスターに対して少なくない恨みを持っていることからも、手加減ができるかは……正直不安なところだ。


「ソフィアお姉ちゃんの言うことも一理あるかなぁ。わたしも中級魔法までに限定すれば手加減はできそうだけど……それでも大きなダメージを負わせてしまいそうだし」


 レーナはソフィアの意見に賛成のようだった。

 いや、それよりもAランク相当の騎士達を相手に中級魔法でも圧勝できるのか。

 その自信はどこからくるのだろう?

 ……高いステータス?それとも【狂愛】による能力強化?


「ソフィアさんには悪いですが、私では手加減ができないと思います。旭さんも同じことを思っていそうですが、私はダスクのギルドマスターに対しての恨みが結構あります。それを邪魔するものがいれば容赦なく排除することでしょう」


 ルミアはそう言うと猫耳をペタンと倒した。

 自分が感情を抑えられないのを恥じているのかもしれない。

 俺はそんなことは気にするなと言わんばかりに、ルミアの頭を少し強めに撫でる。

 頭を撫でられたルミアは、体を震わせながらもどこか嬉しそうに尻尾を振っていた。


「ルミアは気にしすぎなんだよ。そんなに気負わなくても俺達に任せればいい。……さて、そうなるとリーアとユミのどちらかが攻撃を仕掛けるということになるな。……ユミの【日向政宗】は峰打ちとかできるか?」


「えぇ、【神刀小太刀】でなければ峰打ちは可能ではないかと思います。ただ、私の攻撃方法は双剣による連撃です。片手のみでどこまで手加減できるかは……正直微妙なところですね」


「ユミが手加減できるか微妙ってなると、必然的に私が行くことになりそうだね。お兄ちゃん、【吸生の死剣】は使っちゃダメなんだよね?」


「いや、あの剣は存在そのものが危ないだろうに。俺だから効果が発動しなかっただけで、普通の人間が触れたらそれだけで絶命してしまうぞ?」


 俺はリーアの言葉に苦笑を浮かべながらそう答えた。

 ユミは双剣での戦いを得意としているのは模擬戦の時に知ったが、片手だけだとバランスが悪くなるのかもしれない。

 そうなると必然的にリーアになるのだが、【吸生の死剣】は禁忌魔法に分類される。

 だが、効果だけ見たら神霊魔法級だ。

 そんな剣を使用したら手加減どころの話ではなくなってしまう。


「リーアには悪いが……今回は無手で攻撃してくれないか?【身体強化】といったバフは使っていいから」


「大丈夫だよ、お兄ちゃん。私も話してて『あ、これダメだよね』って思ったから。……そうなると、【魔力分身】で数を増やすしかないかな。……うん、なんとかなりそう」


 俺の言葉を聞いたリーアも苦笑を浮かべていた。

 発言した後に【吸生の死剣】の効果を思い出したようだ。

 それにしても【魔力分身】か……。

 たしかにあれなら感覚共有しない限りは手加減できるだろう。


「じゃあ、ダスク側に仕掛ける方法はそれでいくとしよう。ないとは思うけど、もし怪我しそうになったらすぐに俺に言うんだぞ?」


「お兄ちゃんは心配性だなぁ……。【狂愛】によるオーラを身に纏うし、半端な攻撃は通らないと思う」


 リーアはそう言うと、戦闘に向けてなのか屈伸運動を始めた。

 身体を解しておいて、より機敏に動けるようにするのだろう。

 だが……1つ問題がある。


「……リーア。準備運動するのはいいが、せめてズボンに履き替えて来なさい。リーアの下着をダスク側の人間が見た瞬間、ここら一帯は焦土と化してしまう」


 リーアはスカート姿のまま運動をしていた。

 スカートということはパンツも丸見えということだ。

 この場には俺以外の男がいないから、リーアの黒いアダルティな下着は眼福と言えるだろう。

 しかし、そのまま出撃したら男達にその下着を見られてしまう。

 俺にはそれが耐えきれそうにない。


「あー……そう言えばスカートのままだった。嫉妬に狂うお兄ちゃんも見てみたいけど、王都から死傷者は出すなって言われているもんね……。うん、今から着替えてくるね。ルミアさん、私に似合いそうな服装を選んでもらってもいい?」


「そういうことでしたら。戦闘にピッタリな服装をお選びしますよ」


 俺にペロリと舌を出したリーアは、ルミアを連れて寝室の方に向かっていった。

 ルミアが服を選ぶのであれば安心だろう。

 戦闘に特化した服……少しだけ楽しみだ。


「パパ、もしもの話になるんだけどさ。もし、リーアの攻撃を五体満足で耐え切ったらどうするの?」


「ん?もしもリーアの攻撃を五体満足で耐え切ったとしても、だけだからな。ルミアを冒険者ギルドに渡すつもりはさらさらないよ。……だけど、そうだなぁ。その後に俺の本気を出した攻撃をしっかり耐え切ったら話に応じるのもありかもしれないな」


 レーナの質問に俺はモニターを見ながらそう答えた。

 モニターにはダスクのギルドマスターと騎士、冒険者達が作戦会議を開いている。

 その中に丹奈達の姿がないのが気になるが、俺達の実力を知っているが故に説得するのを諦めたのかもしれない。


「お兄様……それは向こうからしたら絶望しかないのでは?リーアお姉様の攻撃を耐えたとしても、お兄様の攻撃を耐えきれるとは到底思えません。私達ですら、お兄様の本気の攻撃は耐え切れないというのに」


 俺の言葉にユミが呆れたような表情を浮かべた。

 いや、だってさ……。

 そこまでの覚悟がない奴にルミアを手渡すわけにはいかないだろう?


 それにルミアがダスクの冒険者ギルドに戻ったら、ほとんどの仕事を押し付けてくるのが目に見えている。

 加えて俺達もダスクに移住することになり、難易度が高い面倒な依頼を叩きつけられるだろう。

 そんな面倒なことはしたくないんだよ。

 ウダルの冒険者ギルドはそんなことをしないから、永住を決めたわけだし。


「まぁ、それもリーアの攻撃を五体満足で凌ぎ切れたらの場合だ。向こうが低階級の召喚獣を呼び出す巻物を使って来たら、【百鬼夜行】の使用を許可すればいいし。ダスク側がどう足掻いてもこの条件を達成することはできないよ」


「……それもそうですね。召喚獣を呼び出す巻物は本当に低階級しか呼び出せませんし。リーアお姉様の【百鬼夜行】で呼び出された妖怪達とは雲泥の差ですから」


「……ユミちゃんが女神の時の記憶が戻ったって本当だったんだね」


 俺とユミの会話を聞いたレーナがそんなことをポツリと呟いた。

 レーナの言葉を聞いたユミは若干居心地が悪そうな表情を浮かべる。


「レーナお姉様。記憶が戻ったと言っても、そういう出来事が流れ込んできただけなので安心してください。もし元女神の意思が私を乗っ取ろうとしても、お兄様に対する愛の前には無力ですから」


「あーーー!ユミちゃんってば、またパパに抱きついて!わたしも抱きつきたいんだからね!」


 ユミはそう言って俺の腕に抱きついてきた。

 レーナもずるい!と言わんばかりに反対側の腕に抱きついてくる。

 両腕が幼女の柔らかい肌に包まれるのを感じながら、ユミの記憶について考える。


 ……正直なところ、ウザい女神に戻らないなら俺としては何も問題はない。

 ユミは乗っ取ろうとしてもと言っていたが、そうなることは高い確率で発生しえないのではないかと思う。

 もしそうなったとしても封印魔法で元女神の魂を封印すればいいだけだしな。


「着替え終わったよ〜……って、なんでユミもレーナもお兄ちゃんに抱きついているの?抱きつくなとは言わないけど、ここが戦場だってことを忘れないでね?」


 そんなことを考えていると、寝室からリーアとルミアが戻ってきた。

 どうやら着替え終わったらしい。

 俺はリーアの方に視線を向けた。


「……おぉ。これはまたすごい衣装だな……」


「えぇ、スカートを履いたことによる下着の露出を気にしていたみたいですから」


 俺はルミアの説明を聞き流しながらリーアの服装をじっくり眺める。

 リーアは忍者衣装に身を包んでいた。

 くノ一のような露出の高い服装ではなく、本格的な忍者の服装だ。

 確か……伊賀忍者の伊賀袴式……だったかな。


「えへへ……。この服だと顔がほとんど隠れちゃうんだけど……似合っているかなぁ?」


「あぁ、とても似合っているぞ。リーアは忍者衣装も似合うんだなぁ……。思わず見惚れてしまったよ」


「やった……っ!」


 リーアは俺に褒められたことが嬉しかったらしく、体をくねくねと動かした。

 忍者衣装を着ても綺麗な銀髪はたなびいているので、それも影響しているんじゃないだろうか。


[……旭。感動するのもわかりますが、そろそろ行動に移しましょう。あまり時間をかけると相手側の準備が完了してしまいます]


「すまんすまん。あまりにもリーアが可愛くてな。……では、リーア。これからダスク側に攻撃をしかける。俺の影に潜ることとかってできるか?」


 俺はソフィアの言葉を聞いて、改めてリーアに向き直った。

 ちなみに影に潜れるか聞いたのは、忍者なら影移動の術とか使えないかなぁとか思ったからだ。

 正直できないだろうと思って聞いたのだが、俺の予想は外れたようだ。

 リーアは自信に満ちた表情を浮かべている。


「任せて!!闇魔法にそんな感じの魔法があったから!……【影縫い】」


 リーアは魔法を唱えると、俺の影にドプンと沈んでいった。

 息は大丈夫なのかとも思ったが……問題はないようだ。


「リーアの準備もできたし、行ってくるよ。ここに残るみんなは夕飯でも作って待っていてくれ」


 俺は5人にそう伝えてから【短距離転移】を使用した。

 ……さぁ、ダスク側がどれだけ耐えきれるのか見せてもらおうじゃないか。

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