第109話 旭は空中戦艦『大和』の力を披露する
[ーーーー魔力の装填が完了しました。旭、これ以上の魔力の装填は周囲に影響を及ぼす可能性があります]
ソフィアは水晶を見ながらそう報告してきた。
俺の目の前にある水晶は、空中戦艦『大和』の砲撃を行うために必要な魔力充填装置だ。
ダスク側の人間に俺達との実力差を理解させるために、今回は6人分の魔力を装填した。
その水晶は禍々しいオーラを放ちながら、砲撃の時はまだかと叫んでいるように見える。
「ソフィアは砲塔をダスクの上空に向けて再調整。ルミアはダマスクに【空間固定】、リーアはダマスクを『大和』の砲塔の先に移動させてくれ」
「「[了解!!]」」
『なんダ!?身体が……動かなイ!?……まさカ!おい、やめロ!俺はしっかり命令を果たしただロッ!?』
俺の言葉を受けたルミアは喚くダマスクに【空間固定】を行い、身体の自由を封じた。
ルミアの【空間固定】が発動したのをモニターで確認したリーアが、ソフィアが動かしている砲塔の先にダマスクを移動させていく。
ダマスクは命令を果たしたとか言っているが……ルミアを呼び捨てにするのは到底許される事ではない。
悪徳奴隷商人が呼び捨てにしていい人物じゃないんだよ、ルミアは。
「パパ、わたしとユミちゃんはどうする?」
「そうだな……。この後に戦闘になる可能性もあるから、魔力を最大まで回復しておいてくれ。ユミはまだ俺の魔力は残っている?」
「えぇ、大丈夫です。先ほどの魔力充填では自分の魔力のみを使いましたから。……お兄様の魔力はまだここにたくさん残っておりますよ?ふふ……」
レーナは【狂愛】を発動させる前に魔力供給をしていたので回復を優先させた。
戦闘になった場合、レーナにハイエンジェルを追加で召喚してもらう必要があるかもしれないし。
ユミの場合は、【神威覚醒】の魔力切れの心配があったからそう尋ねたのだが……。
お腹を撫でながらそんなことを言わないでほしい。
なんでこの子は勘違いさせるような仕草をして、俺を誘惑してくるのだろうか。
早く抱いてくれとかそんな理由なのか?
……話が脱線してしまった。
俺は咳払いを1つしてモニターを睨みつける。
モニターにはダマスクが砲塔に固定されるところを呆然と眺めているギルドマスターの姿が映し出されていた。
「……ゴホン。ギルドマスター、今から俺が創造した空中戦艦『大和』の実力をお見せしよう。何やら迎撃準備をしていたようだが……こちらの砲撃は威嚇射撃である。そちらが俺達に向けて攻撃をした場合、敵対行為とみなすものとする」
『『『…………ッ!?』』』
ギルドマスターと冒険者達の息を飲む姿を確認した俺は、水晶に両手をかざした。
さて……砲撃をしっかり行うのはこれが初めてだが……上手くいってくれよ……?
初めてというか、創造してからすぐにダスクに向かったから当然と言われればそうなんだけれども。
「【魔道砲】の発射シーケンスに入る!各員、対ショックに備えよ!!……ソフィア!!」
俺は司令塔にいるハイエンジェルや外にいる四神達に向けてそう叫んだ。
問題はないと思うが……こういうのは雰囲気が大事なのだ。
俺の言葉を受けて、ソフィアが発射シーケンスの読み上げを開始する。
[マスターの命令を確認。発射シーケンスに移行します。魔力装填……200%、本来よりも多く充填されている為、これ以上の充填は危険と判断。続けて艦体に【聖断】による防御壁の展開を開始……All clear。マスターの【神威解放】の発動を確認……問題はないと判断。マスター、魔道砲の発射準備が整いました]
ソフィアの言葉が終了すると同時に、俺の視界に緑色のモニターが浮かび上がった。
そのモニターには現在の砲塔が向いている景色が映っている。
その真ん中にはロックオンカーソルが真っ赤に光っており、いつでも発射できることを示していた。
大和の砲塔にエネルギーが集中されていくのを感じたギルドマスターは、慌てた様子で冒険者達に指示を飛ばしす。
ダスク側から魔力が収縮されていくのを艦内からも感じられる。
……大和の【魔道砲】に比べると極めて弱い魔力反応なのだが。
『旭からの攻撃が来るぞ!砲塔は上を向いているが……こっちに来る可能性も考えられる!!照準をダマスクに向けろ!!威嚇射撃だろうが攻撃してくることには変わりない!!……準備は整っているな!?先手必勝だ!!……大型儀式魔法【
『お、おイ、旭!!!ものすごい熱量の炎が向かってきているんダガ!?』
ダスク側の冒険者達が放ったのは大型の炎の渦だった。
俺がダマスクの屋敷に乗り込んだ時に使った【炎獄の台風】の強化版といったところだろうか?
……だが、そんなものでこの砲撃を止められると思うなよ?
俺の攻撃は全てを飲み込む!……はずだ!
「この砲撃をそんな魔法で止められると思ったら大間違いだぞ、ギルドマスターぁ!!【魔道砲】……発射ッ!!」
『ギャアァァァァァァッ!!』
俺の言葉と同時にダマスクの叫び声が響き渡る。
ちなみに【魔道砲】はアニメ版ヤマトの『◯動砲』の魔力版だ。
圧縮された魔力を1度に打ち出すことにより、『波◯砲』に似た攻撃を繰り出せるようになった。
発射された【魔道砲】はダマスクの身体を一瞬で蒸発させ、禍々しいオーラを放ちながらダスク上空に展開されている結界に向かっていく。
その射線上にはダスク側が放った【終滅ノ煉獄】が迫っていた。
ーーーーボヒュン。
『…………は?……ここにいる全員の魔力を込めた【終滅ノ煉獄】が一瞬で掻き消された……!?』
『アーガスさん。あーちゃんの魔力量については報告したよね……!?しかもあの砲撃にはあーちゃんの嫁の魔力も混じってる!この人数でも足りるわけがないでしょ!!』
『いや、確かに話は聞いていたが……まさか旭の嫁達も規格外の魔力を得たというのか!?』
『ニナの報告をちゃんと聞いていなかったのか!?ウダルから戻った時にそれぞれの推定魔力量も報告しただろうが!!』
モニターにはギルドマスターと[マスターガーディアン]のメンバーが言い争いをしているところが映し出された。
ふむ、どうやらギルドマスターは丹奈の報告をしっかり聞いていなかったらしい。
どうせルミアを取り戻すための作戦を考えるのに必死だったんだろう。
……大変な仕事をルミア1人に押し付けてきた人間の末路だな。
「旭さん!【魔道砲】がダスクに展開された結界に衝突します!!」
「お兄ちゃん、砲撃が衝突した後はどうするの!?」
「【魔道砲】が結界に衝突後は戦闘態勢に入る!向こうは威嚇射撃だと納得しなかったが……通告はした!それでも……向かってくるなら全戦力を投入する!!」
俺はリーアにそう答えて、モニター上の【魔道砲】に視線を動かした。
視線を動かした先には結界に衝突寸前の光景が映し出されている。
ルミアとリーアは衝突した後のことを心配しているみたいだが ……。
そんなに心配しなくてもいいと思うのは俺だけだろうか。
心配そうにしている2人を見ていると、砲撃が結界に衝突した。
ーーーードォォォォォォン!!
ーーーーパリィィィン!!
俺とレーナ達5人の魔力を充填した【魔道砲】は、攻撃を1度だけ完全に防ぐ結界を跡形もなく消滅させた。
まぁ、低階級の女神が贈呈する道具が俺より強いはずがないとユミも言っていたし、この結果は当然かもしれないが。
『……嘘だろ……!?即死級の攻撃を1度は完全に防ぐ結界が……1回の攻撃で完全に破壊されるなんて……!!』
ギルドマスターは目の前の光景を信じられないと言った表情で呆然としている。
即死級の攻撃を1度は防ぐみたいだけど、【魔道砲】は魔力を圧縮した砲撃だ。
その圧縮された魔力を受けきれなかったんじゃないかと俺は思っている。
俺は【魔道砲】の威力に満足しながらも、レーナ達5人の方に向き直った。
これからは正当防衛の時間だ。
もしかしたら過剰防衛だと言われるかもしれないが……仕掛けてきたのは向こうだし。
今後ルミアと俺にちょっかいを出さないようにお灸を据えないといけない。
「これより地上に向かう。ダスク側の人間が未だに攻撃的だった場合は戦闘になると思う。王都冒険者ギルドからはなるべく死傷者は出さないようにとのことだから、死なない程度に実力差を分からせよう。怪我しないようにだけ気をつけてくれ!!」
「「「「[はい!!]」」」」
俺は5人の返事を聞いて、【短距離転移】を発動させた。
転移する場所は『大和』の艦橋だ。
空中に飛びだしてもいいんだが……レーナ達はなぜかスカートを履いているからな。
他の男どもがレーナ達の下着を見たなんてことになったら……ダスクの街を本気で滅ぼしかねない。
「ギルドマスター、俺達の実力は理解してもらえたかと思う。……どうする?先ほどの攻撃で敵対する意思があると俺は感じたんだが……」
俺はわざとギルドマスターの目の前に移動して、威圧感を込めてそう尋ねた。
威圧感に気圧されてルミアを諦めてくれればいいのだが……。
そう思ったんだが……ギルドマスターの目は死んでいなかった。
……なぜそこまでルミアに固執するんだか。
「確かにあの攻撃は脅威だし、あの頃よりも旭は強くなっているだろう。……だが!他所の冒険者ギルドで退職届を受理されたら俺達の立場はどうなる!?徹底抗戦してでも……ルミアには戻ってきてもらわないといけないんだよ!」
「……なんでまた私のことを呼び捨てにしているんですか…?私を呼び捨てにしていいのは……旭さんだけなんですッ!!」
ギルドマスターの言葉を聞いたルミアは艦橋から降りてきた。
ルミアは【狂愛】と殺気のオーラを全開にしてギルドマスターを睨みつけている。
……そう言えばギルドマスターから呼び捨てにされるのを嫌っていたなぁ。
男嫌いだからかもしれないけど。
「……クッ!ルミア……さんが戻ってきてくれないと仕事が回らないんだ。そんなに殺気を浴びせたところで……俺の意見は変わらないからな!!」
「ギルドマスター! 俺達の後ろに隠れろ!貴殿が死んでしまったら誰が冒険者ギルドを支えていくんだ!!」
ギルドマスターがルミアに叫んだかと思ったら、2000の騎士がギルドマスターを庇うように間に割り込んできた。
いやいや、勝手に俺がギルドマスターを殺す流れになっているけど、殺すつもりはないからな?
勝手に勘違いしているのを訂正しようとも思ったが……これはこれで面白いので放置しておこう。
「まぁ、そんなやつのことはどうでもいいんだが。……で?まだ俺達に楯突くのか?」
「ハッ!!女神様の加護がある俺達が負けるわけないだろう!!ギルドマスターは冒険者ギルドのために貴族様にも頭を下げた。そんな人物が諦めていないのであれば……俺達も諦めるわけにはいかないだろうが!!」
「「「オォォォォォォォォォォォ!!」」」
俺の言葉に騎士達は士気を上げるかのごとく剣を上空に掲げた。
……ギルドマスターが仕事の負担を減らしたいだけと知ったらどう思うんだろうな。
「……と、騎士達はこう言っているが。ルミア、お前はどうしたい?」
「そんなの決まっているじゃないですか。……そんなことを抜かす気力がなくなるまで叩き潰すだけデス」
「ですよねぇ……。というわけで、ここからが第1ラウンドだ。俺の番まで攻撃を耐え切ったら……ルミアの件は考えてやるよ」
「…………言ったな!?男に二言は許されないからな!!」
俺の言葉を聞いたギルドマスターが、騎士達の後ろでそう叫んだ。
いや、よくこの喧騒の中で俺の声が聞こえたね。
だが、ギルドマスターはまだ理解していないだろう。
俺以外の5人も一人一人がSランク級の力を持っていることに。
現に俺の言葉を聞いた丹奈達はすでに悟ったような表情をしているしな。
レーナとリーアにすらダメージを与えられなかったのに、今回は5人それぞれからの攻撃だ。
絶対に耐え切れるわけがないと思っているに違いない。
俺はそんなことを考えながら、ルミアをお姫様抱っこして『大和』に戻ることにした。
さて、誰から攻撃を開始するか……話し合わなければならないな。
どこまでダスク側の人間が耐え切れるか……少しだけ楽しみである。
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