第102話 幕間の物語−男神(?)達による飲み会−

『主!我の話をちゃんと聞いておりますかな!?』


「あぁ、はいはい……。ちゃんと聞いてるから」


『…………』


 俺の隣でゼウスがジョッキを片手に俺に絡んでくる。

 ハーデスは無言でお酒をチビチビと飲んでいた。

 ちなみに今俺たちがいるのは、人間界のとある居酒屋の個室だ。

 なんでこんなことになったのか……時は少し前まで遡る。


 ーーーーーーーー


 レーナ達に出かけてくることを伝えた俺は、1人コロシアムの中央に降り立った。


「……顕現せよ、【全知全能の神】、【冥府の神】!!」


『主、我を呼びましたかな?』


『ご主人よ……今回はどうしたと言うのだ?また厄介ごとか……?』


 俺の詠唱と同時にゼウスとハーデスが召喚される。

 ゼウスはいつも通りだが、ハーデスはなにやら警戒しているようだ。

 まぁ……ハーデスを呼び出す時は、なにかしらの厄介ごとに巻き込まれている時だからそれは仕方ない。

 しかし、今回は違うのだよ。


「ハーデス、厄介ごとは起こってないから安心してくれ。今日は……このメンバーで酒を飲みに行こうと思ってな」


『我とゼウス、ご主人の3人で酒を飲みに行くのか……?……ハッ!?まさか……我に対して何か罰を与えるつもりか……!?』


「違うから。ただ単純にたまには男同士で酒を飲むのもいいと思ってさ。レーナ達にはちゃんと説明してきたし、今日は主従関係を抜きにして楽しもうじゃないか」


『主の仰る通りですぞ、ハーデス。疑いすぎるとソフィア殿から怒られるとそろそろ学んだほうがいいですぞ。……ところで、主。飲みに行くと仰ってましたが、どちらまで向かわれるのですかな?』


 ーーーー[これは後で罰を与えねばなりませんね……]


 ゼウスはハーデスに呆れつつも、俺達が飲みに行く場所について尋ねてきた。

 先程のハーデスのセリフは俺の中に戻っているソフィアに伝わっているのだが……今は内緒にしておいてあげよう。

 ソフィアの声は俺にしか聞こえないように調整してあるしな。

 ちなみにソフィアが俺の中に戻っているのは、俺の監視役……とのことらしい。

 ……解せぬ。


「地球にある秋葉原という場所にいい居酒屋があったからそこを予約しておいた。ゼウスとハーデスなら身長の調整ができるし……ちょうどいいだろ?」


『ご主人……予約ということは行くことはすでに決まっていたかのような感じですが……』


「さーて、向こうに転移する際の時差とかもあるし、すぐに準備するぞ!!」


 ハーデスの疑問の声を無視して、俺はお金やらの準備を始める。

 ゼウスは苦笑いをしつつ、身長の調整に入った。

 納得が行かなそうなハーデスは服装を人間のものに変更している。


「じゃあ、準備はいいか?……【神威解放】を展開……【境界転移】!!」


 ーーーー[【神威解放】の発動を確認、デメリットを消去します]


 俺は自身に神格を付与して、何度目かになる日本へ転移した。

 ゼウスとハーデスという2人の神を転移させるためには、【神威解放】をしないといけないとソフィアから言われている。

 ……【透明化】はかけなくてもいいのかって?

 男同士なら別にいらないでしょ。


 ▼


 地球に転移した俺とゼウス、ハーデスの3人は秋葉原駅前に立っていた。

 転移後の時間は16時30分。

 居酒屋の予約は17時だから、少し早いといったところだろうか。


『主……この秋葉原という街はこの時間なのに賑やかなのですなぁ……』


『アマリスでもここまで賑やかな場所はないな……。ご主人、予約しているという居酒屋にはいつ行くんだ?』


 ハーデスとゼウスは秋葉原を行き交う人の流れを見て驚いているようだ。

 ……この光景は神でも珍しいようだな。

 俺の世界ではまだまだ序の口なんだが……。

 渋谷のスクランブル交差点とか新宿駅の中とか……人混みがすごいところはたくさんあるからな。

 あ、コ◯ケは別物だけど。


「予約しているのは17時だし少し見て回るか。……ハーデス。今度は勝手に俺のお金を使わないでくれよ?」


 俺は少し語気を強めて、ハーデスに告げる。

 ハーデスは【無限収納】へのアクセス権が剥奪されているが、以前金貨30枚使った経歴があるからな

 念には念を押しておかないと。


『ご主人よ……流石にもうそのようなことはしないぞ……?というか、ご主人とソフィア殿が【無限収納】へのアクセス権を剥奪していたではないか』


「いや、ハーデスがお金を使ったのもずいぶん前だしな。それに今回は財布で持ち歩いているから、念には念をと思って」


 ーーーー[もし、そんなことをしたら……次は確実に仕留めます]


 俺の言葉にハーデスは憤慨していたが……一度やらかしたってだけで警戒はするものさ。

 使ったとしても俺とソフィアから逃げられるとは思えないけど。

 主にソフィアが鬼気迫る表情で追いかけるだろうな。

 怖いこと呟いてるし。


「じゃあ、夕方の秋葉原探索と行きますかね。ハーデスもゼウスも俺のいた世界は初めてだと思うし、時間まで色々と見ていこうぜ」


『そうですな。主のいた世界を勉強するいい機会です。楽しむとしましょうぞ』


『若干納得が行かないが……ご主人の言う通りだな』


 そう言って俺とゼウス、ハーデスの3人は予約した時間まで秋葉原を探索するのだった。


 ーーーーーーーー


 ……ここまでが居酒屋に着くまでの経緯だ。

 まさか飲み始めて1時間と立たないうちに酔っ払うとは思わなかったけど。

 ちなみに今回やってきたのは◯の蔵だ。

 3時間食べ飲み放題で4千円というリーズナブルな値段でお酒を楽しむことができる。


『ご主人、お酒がなくなったので追加注文してもよろしいですかな!?』


「あ、あぁ。それは構わないが……大丈夫か?俺がいうのもあれだが……もう10杯目だろう?」


『これくらいなら全然大丈夫ですぞ〜?この世界のお酒が美味しすぎるのがいかんのですっ』


 ゼウスはハイペースでお酒を飲んでいた。

 俺も以前1時間で7杯飲んだことはあるが……それ以上のペースだ。

 ゼウスは美味しすぎると言っているが……飲み放題のお酒よりもいいお酒はたくさんあるぞ?

 ……今度は違う店にも連れて行ってあげたいと思ったが……出費が激しくなりそうだな。


『……ゼウスはご主人に信頼されていて羨ましい……。我は……我は……』


 ゼウスとは対照的にハーデスはブツブツと何かを言っている。

 泣上戸とまでは行かないが、鬱傾向になりやすいみたいだ。

 ……正直面倒くさいが、酒の席では楽しく飲みたいのでハーデスを励ますことにする。


「ハーデスだって信頼はしているぞ?信頼してなかったら、模擬戦だとかルミアの件で呼び出したりはしないはずだろ?」


『それは……たしかにそうかもしれないが……』


「それに魂の行方をコントロールできるハーデスの能力は尊敬してるんだ。うじうじ悩むのがいけないとは言わないが、今日は楽しく飲もうぜ。男しかいないからむさ苦しいかもしれないけどさ」


 俺の言葉を聞いたハーデスは、表情をパァァッと輝かせた。

 ……うーん、イケメンがその表情をすると苛立ちしか湧いてこないのはなんでなんだろうな?


『それも……そうだな。……ご主人!これからも我を頼るといい!ゼウス、我も飲むぞ!オススメはなんだ!?』


『おぉ、ハーデスも復活しおったか。そうですなぁ……このウヰスキーとやらは美味しいですぞ』


『酒精が強そうだが……それも一興か。よし、我はロックとやらで飲むとしよう!』


 鬱状態から有頂天状態になったハーデスは、ゼウスと一緒にどんなお酒を飲むのか話し合い始めた。

 ……まぁ、楽しく飲んでくれるならそれでいいかな。

 俺はタッチパネルで揚げ物を追加注文しつつ、2人のやりとりを眺める。

 ……あ、俺もお酒なくなってたわ。


「ゼウス、ハーデス。お酒の注文するから何を飲むのか教えてくれ。後、このお店はグラス交換制だからな?注文するなら今ある酒を飲んでからにしてくれよ?」


『主よ、そこはしっかり理解しているのでご安心くだされ。……そうですなぁ、我はこの日本酒とやらを熱燗で頼みます』


『ご主人、我はもう飲み終わっているぞ。我は先ほども言ったが、ウヰスキーのロックで頼む』


 ゼウスとハーデスは話し合いをピタリと止めて、注文するお酒のリクエストを告げてきた。

 ……こういう時は息ぴったりなんだよな。

 俺は苦笑しつつ、新たなお酒を注文をするのだった。


 ーーーーそれから1時間後。


「……ん?2人ともそろそろラストオーダーの時間が近づいてきてるぞ」


『なんと……もうそんな時間なのですか?楽しい時間はあっという間ですなぁ……』


『ご主人、我はまだ飲み足りないのだが……延長はできんのか?』


 俺の言葉にそれぞれ反応するゼウスとハーデス。

 ゼウスはしみじみと呟いているが……ハーデスはまだ飲み足りないらしい。

 最初はちびちび飲んでいたからなおさらなのかもしれないが……。


「いやいや、ハーデスもかなり飲んでいたよな?それに客は俺達だけじゃないんだ。延長はできないよ」


『むぅ……それを言われると反論できないな……。……ハッ!?それならご主人の【遅延空間】を使用すれば問題ないのでは!?』


『ハーデス、無茶を言うな。主がこの世界ではあまり魔法を使用しないことは、我らの暗黙の了解であろう?』


『……確かにそうだが……』


 ハーデスはゼウスの言葉をうけて、うぐぐと唸る。

 というか……え?なにそれ。

 俺が契約している神達の中ではそんな暗黙のルールがあるの?

 まぁ、目立ちたくないから使わないというのは正しいんだが……。


「魔法を使用しないのは目立ちたくないからだけどな。それに【遅延空間】を使用したとしても、注文してから届くまでタイムラグがあるんだから、意味はないと思うぞ?それなら残り時間で飲めるだけ飲んだ方がいいと思うが……」


『それも……そうだな……。ご主人の言う通りだ。ゼウスよ、ラストオーダーとやらの時間まで飲めるだけ飲もうではないか!』


『我はほぼ全種類飲んだが……何度飲んでもいい……か。ハーデス、我も付き合いましょうぞ!』


 俺の説得に納得したハーデスはゼウスと肩を組んで、次に注文するお酒を決め始めた。

 ゼウスが全種類のお酒を飲んでいたのを今知ったんだが……。

 どんだけ飲むつもりなんだよ……。

 飲み放題にしておいて正解だったな……。


 ▼


 居酒屋をでた俺達はのんびりと秋葉原駅昭和通り口のロータリーで話し合っていた。


『……いやはや、主の世界のお酒は美味しかったですなぁ……。神託でもだしてあちらの世界でも飲めるようにするべきですかな……』


「いやいや、ゼウス。お前は飲みすぎだよ。また今度飲み放題の店に連れて行ってやるから、それで我慢してくれ」


 いやほんとに……まさかあそこまで飲むとは思ってなかった。

 絡み酒は最初の方だけだったから助かったけれども。

 ゼウスと一緒に居酒屋に行くときは飲み放題じゃないとダメだな……。


『ゼウスの言葉ではないが、あそこまで美味しい酒は初めてだった。……最初に我へ何か罰を与えるのかも……と思ってしまったことを悔いておるよ。……ご主人、疑って申し訳ない』


「いや、俺は気にしていないk[全くです。ハーデス、あなたは旭をなんだと思っているのですか。あなたが変なことをしなければ、旭だって罰を与えたりはしないと言うのに]……あちゃぁ……」


『……え?……どうしてソフィア殿が……ここに……!?』


 俺がハーデスの謝罪に応えようとしたら、ソフィアが割り込んできた。

 ハーデスの物言いに我慢できなくなったと思うが……タイミングが悪すぎる。

 その証拠に……。


「……おい、あの美女はどこから現れたんだ?」


「さっきまではいなかったよね?……手品か何かかな?」


「というか……あのメガネの人以外イケメンじゃない……!?」


 いきなりソフィアが現れたことで、周囲がざわめき始めてしまった。

 それと俺がイケメンじゃないことは自分自身がよく分かってるわ!

 悪かったな、イケメンじゃなくて!!


『……主、この状況どうしましょうか。このままですと警察がくるのも時間の問題ではないかと思われますが』


「はぁ……面倒なことになる前に帰るとしようか。……【遅延空間】」


 俺はゼウスの言葉にため息をつきつつ、【遅延空間】を発動させた。

 これで時間稼ぎができる。

 この間にアマリスに帰るとしよう。


「ソフィア、いきなり現れたら大ごとになるだろう?」


[……すみません。ハーデスの度重なる発言に我慢ができず……]


『ちょっと待て。もしかして……ソフィア殿は最初から見ていたのか……?』


 ソフィアの言葉に戦慄した表情を浮かべるハーデス。

 そんなハーデスに対して、ソフィアは絶対零度の視線を向けた。


[当たり前でしょう?私は旭の固有スキル【叡智のサポート】ですよ?……元々は旭の監視役でしたが、ハーデスには今一度教育が必要だということがわかりました。向こうに戻ったらすぐさま躾直してあげましょう]


「ソフィア、その話はアマリスに帰ってからしてくれ。今はとにかく早く転移しないと。座標軸固定と周囲の人間の記憶操作を頼む。魔法の発動ならできると思うが、酔っ払っている状態で細かい調整ができなくてな」


 俺は今にもハーデスの首根っこをつかもうとしているソフィアにそう告げた。

 ……一刻も早くこの場から離脱したい。


[……わかりました。……【紅き鎧】を発動。現在地から周囲500kmにいる人間の記憶を操作します……All clear。続いて座標軸をアマリスのコロシアムに設定します。……旭、いつでも転移できますよ]


 ソフィアは不満げそうな表情を浮かべていたが、すぐに行動に移してくれた。

 文句は言いつつもやるべきことをやってくれるのはありがたい。

 ハーデスは……顔を真っ青にしてブルブルと震えているが……。

 死ぬことはないから頑張ってほしい。


「じゃあ……帰るとしようか。……【境界転移】」


 俺は転移魔法を発動させる。

 ……今度はアマリスの居酒屋に行くとしよう。

 地球で神々と飲むには……リスクが高すぎる。

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