第5章
第82話 旭はギルドマスターに新たな家族を紹介する
篠田伊吹姫の異世界転移と女神に罰を与えた翌日の朝9時頃。
「にぃに……ここ……にぃにのおうちみたいにおっきいねぇ……」
「ユミちゃん、ここは冒険者ギルドだよ。パパが造った家と同じくらい大きいけど……普通の家はここまで大きくないからね?」
「そうなの……?じゃあ、あんなにおおきないえをもってるにぃにはとってもすごいんだね!!」
元女神改めユミはその建物を見上げてホーッと感嘆した声を上げた。
そんなユミをレーナが微笑ましい表情で頭を撫でている。
ユミが仲間になってからレーナは若干大人っぽくなったと思う。
レーナがユミを妹みたいに思っているからなのかもしれない。
今現在いるのは、もはや恒例になったウダルの冒険者ギルドだ。
レーナとリーア、ソフィアも一緒に来ている。
ちなみに今回は歩いてやってきました。
たまには運動しないとダメだからね。
余談だが、この場にはルミアがいない。
ルミア本人から留守番したいという希望があったからだ。
どうやら今日中にユミの服を仕立てたいらしい。
「おーい、建物に見入っていると置いて行っちゃうぞー?」
「わわっ、パパ!今行くから置いて行かないで!ユミちゃん、早く追いかけよう?」
「わかった、レーナおねえちゃん!にぃに、待って〜!!」
俺はわざとそう言って先に冒険者ギルドに入ろうとする。
それを見たレーナとユミが慌てて追いかけてきた。
……まぁ、2人を置いて先に入るなんてことはしないけど。
「1日しか経ってないのにユミはすぐ馴染んだね、ソフィアさん」
[偏見のない年頃だからというのもあるでしょう。……リーア、嫉妬しているんですか?]
「ち、違うよ!!あんなに小さな女の子にレーナを取られたからって嫉妬しているわけじゃ……わぷ!?」
[はいはい……そんな素直になれないリーアは私が抱きしめてあげましょう]
……リーアがソフィアに抱きしめられてジタバタしている。
リーアはレーナのことを妹みたいに想っていたからなぁ……。
甘えてこなくなることを危惧したのだろうか?
長女としての意識が強くなってきたみたいだ。
俺はそんな様子を眺めながら、冒険者ギルドのドアを開けた。
▼
「おーい、ギルドマスターはいるか?」
冒険者ギルドに入った俺はすぐさま受付のお姉さんのところに向かう。
いや、別にギルドマスター室に直接行ってもいいんだが……。
受付を通しておきたいと思うのは俺が日本人だからなのだろうか?
「あ、旭さん!?ギルドマスターですね!?少々お待ちを!!」
受付のお姉さんは慌てた様子でギルドマスターを呼びに行った。
呼びに行くのはいいんだが……怯えられているのが気になる。
あのお姉さんに対しては1度くらいしか注意していないんだが……。
レーナとリーアだけで山賊退治に行った時しか注意していないはずなんだけどなぁ……。
どうしてこうなった。
「おいおい……旭のやつ……また新しい幼女を連れているぞ……」
「今度は何をやらかしたんだ……?」
「もう一人の美人さんは……この間ギルマスを拉致ったときにいたな……。なんであいつの周りには美女美少女が集まるんだ……ッ!」
「そりゃあオメェ……圧倒的な力を持っているからだろうよ」
「レーナちゃんがあの女の子の面倒を見ているのね……。尊いわぁ……」
冒険者ギルドにいる冒険者達は今日も賑やかだ。
一人変なことを言っている奴がいたが……あれか?百合が好きなのか?
そんなことを考えていたら奥の方からドタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。
「あ、旭君!?今度は一体なにがあったんd……って新しい幼女が増えてる!?」
「いや、それについても話すから。とりあえずギルドマスター室に案内してくれないか?」
「あ、あぁ……わかった」
ギルドマスターはユミを見て驚いていたが、俺の言葉を聞いてギルドマスター室へ歩いて行った。
俺達もギルドマスターの後に続いていく。
「……さて、どこから話してもらうか迷うところだが……。とりあえず報告を頼む。笹原君達[マスターガーディアン]は昨日のうちにダスクへ旅立ってしまったので、君から直接報告を聞きたい。」
丹奈達はようやくダスクに戻ることにしたようだな。
……ルミアの件もあるから一度はダスクの冒険者ギルドに殴り込みに行かねばなるまい……。
その前に新しい刺客を送ってこなければいいけど……。
それにしてもギルドマスターはなんで疲れた顔を浮かべているんだ?
……この短時間でそんなに疲れるようなことがあったのだろうか?
俺は疑問に思いながらも、昨日の件についての報告を行うことにした。
「了解した。まずは篠田伊吹姫の転移について。これに関してはハーデスのハッキングがうまくいったから、もう二度と異世界転移に対する影響を受けることはないだろう。【傀儡】と【催眠】というスキルも付与されていたが……それもハーデスが封印したから使うことはできないはずだ。送り戻した際に【対象記憶消去】も施したから、異世界転移した事実を思い出すことはないと思われる」
「そうか……。それにしても【傀儡】と【催眠】とはね……。冥府の神によるハッキングが間に合わなかったらどう対処するつもりだったんだい?」
「対処もなにも……。【聖域】よりも上位の【聖断】もあるからまず俺にはかからないし、仲間にかけられたとしても【完全回復】があるからなぁ。伊吹姫のスキルを受ける心配はしていなかったよ」
「……相変わらずありえない強さだね……。それにしても【聖断】とは?」
ギルドマスターはため息をついて肩をすくめた。
ありえない強さと言われても……できるんだから仕方ないと思う。
それはそれとして、ギルドマスターは【聖断】の効果が気になるようだ。
「【聖断】については俺より詳しいのがいるからそいつから説明してもらおう。おーい、ソフィア。ギルドマスターが【聖断】について知りたいみたいだから、説明を頼んでもいいか?」
[Yes,My Master]
俺は未だにリーアを抱きしめていたソフィアを呼んだ。
こっちに来る際にリーアが小さな声でありがとと呟いていたが……そんなに恥ずかしかったのだろうか?
……いや、多分胸で窒息しかけたんだろうな。
顔を赤くしたまま深呼吸しているし。
[さて、ではマスターの代わりに【聖断】について説明します。この魔法は光の神霊魔法です。対象の周りに虹色に輝く結界を展開します。バフ効果が付与された【聖域】といえば分かりやすいでしょうか?耐久力もかなり上昇しているので、現状この結界を壊すことができるのは……本気になった旭くらいでしょう]
「……うん、他の人類には到底使うことができない魔法だということは十分理解した」
ソフィアは簡単に説明してくれたが……ギルドマスターは規格外の現象として捉えたようだ。
……俺としては俺以外にあの魔法を壊すことができないということに驚いたんだが……。
神々でも壊すことができないということなのだろうか?
俺はソフィアの頭を撫でつつ、ギルドマスターに報告の続きを行う。
「伊吹姫の異世界転移についてはそんなところだな。続いて……あそこでレーナとリーアが面倒を見ている女の子……ユミについてだ」
俺の言葉にギルドマスターはゴクリと息を飲んだ。
それもそうだろう。この数日で新しい幼女が仲間に加わっていたのだから。
「まずは事の顛末からだな。まず、レーナ達が俺の留守の間に男達に襲われたのは……理解しているよな?」
「あぁ、旭くんが鬼のような顔でこの部屋の窓ガラスを破壊して行った時のことだね。あの時はこの世界の終わりを感じたものだ……」
ギルドマスターは遠い目をしているが……あの窓ガラスはすぐに直したはずだぞ……。
……些細なことは置いておこう。
ギルドマスターにも思うところがあるんだろう……きっと。
俺は報告を続ける。
「……で、だ。その男達は案の定、女神がけしかけた刺客だった。そこで、伊吹姫を地球に送り返した後にこっちの世界に引きずり出したんだ。まぁ、その後色々あって……引きずり出した女神に罰を与えた。……ちなみにあそこにいるユミがその女神です」
「……気のせいかな。確か笹原君の話では女神はこの世界を管理している存在だったはずだよな……?その女神に旭君が罰を与えることができるのは……まぁ、想定の範囲内だ。だが、あそこにいるのは年齢相応の……女の子じゃないかい?」
ギルドマスターはユミを見て、納得がいかない表情を浮かべる。
まぁ、ギルドマスターが疑うのも理解はできる。
誰だってあの天真爛漫な女の子がアマリスを管理していた女神とは……考えもしないだろう。
「普通はそう思うよなぁ……。俺が女神に罰を与えた魔法は【時間遡行】だ。この魔法を使って俺が女神を6歳の頃まで時を巻き戻した。精神年齢も年相応まで下がっているから……今のあの子に女神として存在した記憶は一切ない」
「……旭君、その魔法は使い道によってはかなり危険じゃないかい?今まで生きてきた時間をなかった事にされる……そういうことだろう?」
「そうだな。まぁ、今後は余程のことがない限りは使わないと思うから安心してくれ。ソフィアのサポートありだと受精卵まで遡れるらしいから……多用もできないしな」
「受精卵まで遡る……?……もはや転生みたいなものだな……。しかし、能力はどうなるんだ……?スキルまで無くなるとは思えないんだが……」
ギルドマスターは【時間遡行】の効果に戦慄しながらも、純粋な疑問を投げかけてきた。
その言葉を待っていたのだよ、ギルドマスター君。
「その事についてなんだが……。今ステータスカードは持っているか?ここにきた目的の1つが冒険者証の発行だからな。ついでにユミを俺の義理の娘として登録してもらいたいんだが」
そう、俺がここにきたのはユミのステータスを確認して、あわよくば冒険者として登録しようと思ったからなのだ。
【鑑定眼】でステータスを見ることもできるが……あえてそれをしなかった。
流石に敵と戦わせることは……まだないが、念のために冒険者証を発行しておくべきだろうと考えたからだ。
冒険者証は身分証明にもなるし。
「そういうことなら任せておいてくれ。旭君が身元引き受け人になるなら、問題はないだろう。ちなみにソフィア君の冒険者証は発行しなくていいのかい?」
ギルドマスターはそう言ってソフィアの方を見たが……当のソフィアは首を横に振っている。
[私はマスター旭の固有スキル【叡智のサポート】です。ステータスは旭と同様なので発行する必要はありません]
「そ、そうか……。旭君と同じ能力って……この二人が本気を出したらこの世界は征服されてしまうかもしれないな……」
ギルドマスターはそう言って苦笑いを浮かべているが……今の俺に世界征服をしたいという願望はないぞ?
地球よりも過ごしやすいし。
まぁ、魔王みたいなのが現れたら……そいつは倒してあげよう。
レーナやリーア、ユミに悪い影響を与えかねないし。
「さて……と、私は身元引受け人となる書類を作成してくるとしよう。ステータスカードも持ってくるから椅子に座って待っていてくれ。お茶菓子とか食べるかい?」
「いや、【無限収納】にルミアが作ってくれたアップルパイがあるから大丈夫だ。書類の件はよろしく頼む」
「……忘れていたが、旭君は【無限収納】持ちだったね。では、なるべく早く書類を持ってこれるようにするとしよう」
ギルドマスターはそう言って部屋を出て行った。
本当に仕事が早い人間である。
……いや、これが普通なのだろうけど。
「おーい、レーナ、リーア、ユミー?ギルドマスターが戻ってくるまで、ルミアが焼いてくれたアップルパイを食べるからこっちにおいでー」
「「「はーい!!」」」
俺は部屋の隅で何やら遊んでいた3人を呼んで、テーブルの上にアップルパイを出す。
ギルドマスターが戻ってくるまでの間、束の間のティーブレイクを楽しむ俺達なのだった。
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