第81話 旭は名付け親になる
「…………ぐすっ、ヒック……」
「よしよし……もう怖くないからな?」
俺はいまだにぐすぐす泣いている女の子の頭を撫でる。
元女神だった女の子はようやく落ち着いたらしい。
いやぁ……大変だった。
リーアが召喚した妖怪達を送還しておくように言わなかった俺が悪いのだが……。
…………それは【時間遡行】を使用した後のことだった。
俺の【時間遡行】で6歳まで時を戻された女神は、精神も年齢相応に退化した。
そんな元女神が一番最初に目にしたのが【百鬼夜行】で呼び出された妖怪達だった。
妖怪達の見た目は6歳の少女には刺激が強かったらしく……当然彼女は大声で泣きはじめてしまう。
女の子は咄嗟に逃げ出そうとするが……俺が保険で展開した【聖域】に囲まれているため逃げ出せない。
それによって失禁してしまったのである。
落ち着くまでにかかった時間はなんと1時間だった。
「……ほんと?もうあのこわいおじさんいない……?」
女の子は涙を拭きながら上目遣いで俺にそう尋ねてきた。
……涙目の上目遣いは卑怯だろ……。
これが【時間遡行】するまえだったらあざとい仕草してるんじゃねぇよ!と怒っていたかもしれないが……今の彼女はただの6歳の少女だ。
そんな酷いこと言えるわけがない。
「……妖怪達よりダマスクをみて怖がるなんて……。本能的に悪人だったことを見抜いたのかな……」
リーアは女の子のつぶやきに感心していた。
いや、感心するところはそこじゃないだろ?
生前のダマスクが女の子にとって害悪だったのは認めるけどさ。
[……女神だった女の子も落ち着いたことですし……。これからこの子をどうするかを決めましょう]
「それもそうだな。……っと、その前にソフィア。俺が女神の時間を巻き戻したことでこの世界を管理する神がいなくなった。神界に行って代理の管理人を要求してきてくれないか?」
俺はソフィアにそう告げる。
低階級とはいえこの世界をを管理していた女神の時を巻き戻したんだ。
代理の管理者がいないというのは……この世界にとってもいい状況とは言えないだろう。
そう思ってソフィアに頼んだんだが……当のソフィアは首を傾げている。
[神界に行くのは構わないのですが……旭が間接的に管理すればいいのでは?【魔力分身】もありますし……]
「いや、流石に世界の管理とかそんなめんd……ゲフンゲフン。責任の重い仕事をただの人間がやるわけにはいかないだろ?」
[……面倒なのですね。まぁ、確かに世界の管理は神々がした方がいいでしょう。……神界に行くにあたって全力を出してもいいですか?私は神々よりも高位の存在とはいえども、何があるかはわからないので]
「むしろ本気で神々達に伝えてきてくれ。響谷旭を怒らせるような奴にアマリスの管理をさせるな、次に同じ事があったら次はお前達の番だ……とね」
[……わぷっ。わかりました。このソフィア、愛しのマスターの為に全力で神々を脅してきましょう!!……【神界転移】!!]
俺に抱きしめられたソフィアは照れながらも神界へ転移していった。
というか……【神界転移】なんて魔法があるんだな……。
ソフィアが使える=俺も使えるだったような……。
恐らくだけど……俺もあの魔法を使う事ができるんだろう。
今のところ使う気は全くないけど。
「……おねえさんがきえた!?ねぇねぇ、どこにいったの??」
女の子は目の前でソフィアが消えたことに驚いているようだ。
俺の周りをぐるぐる回っている。
……何このかわいい生き物。
「お姉さんはとある場所に行ったんだ。……ところで君の名前を教えてもらってもいいかい?」
「なまえ?…………ごめんなさい。わたし……じぶんのなまえ、わからない……」
女の子はまた泣きそうな顔になってそんなことを呟いた。
名前を思い出せないというのは……【時間遡行】による影響か?
俺は女神の名前を知らない。
丹奈の顔を見たが、あいつも首を横に振っていた。
……役に立たないな、あいつ。
「そうか……名前がわからないか……。じゃあ、俺が名前をつけてあげるよ」
「……ほんとう?」
「本当だとも。レーナ、リーア。ちょっときてくれないか?」
「はーい。……パパ、来たのはいいけど何をするの?」
「お兄ちゃん、今の私達で役に立てることってある?さっき泣いてた時もアワアワしていただけだったのに……」
かわいらしく聞いてくる女の子の頭を撫でつつ、俺はレーナとリーアを呼ぶ。
レーナとリーアは自分に何ができるのかわかっていないらしい。
女の子が泣いていた時に何もできなかったことを後悔しているのだろうか。
……自分より小さい子が大声で泣いている場面なんて、今までなかったから仕方ないと思うんだけどなぁ……。
「そんなこと言わないの。今からこの子の名前を考えるから、遊び相手になってくれないか?年も近いから問題はないと思うんだが……」
「うーん……わかった!それならわたし達に任せて!!わたしの名前はレーナ。よろしくね」
「お姉ちゃんとして役に立つときがきたみたい……!お兄ちゃん、この子の相手は任せて!!……私はリーアっていうの。お兄ちゃんの準備ができるまで私達と遊びましょ?」
「……うん!よろしくね、レーナおねえちゃん、リーアおねえちゃん!」
「「 …………何このかわいい生き物!!!」」
先ほどの俺が思ったことを口に出した2人は……女の子の手を引っ張って白虎達の方に走っていった。
その後ろをルミアが苦笑しながら追いかけていく。
……何も言ってないのに見守ってくれるらしい。
後でお礼を言わないとな。
でもさ……なんで白虎?
まぁ……何かあったら助けに入ればいいか。
「さて……名前か……。どんな名前がいいかなぁ……」
「あーちゃんって名前つけるの下手くそだったよね?大丈夫なn……グムッ!?」
「ニナ!?旭、お前一体なにをs……ウググッ!?」
俺が女の子の名前をどうするか真剣に悩んでいると、丹奈が失礼なことを言いながら近づいてきた。
名付けが下手くそとか……自分がよくわかっているっての。
俺は無言で【時間遅延】を使用し、女神にも使った猿轡を創造して丹奈に装着した。
レンジは……ついでだ。
イケメンの声など聞きたくもないわ。
「失礼なことを言う奴も静かになったことだし……真剣に考えるとするかな」
そう呟いた俺は、脳内の思考スピードを加速させていく。
……そういえば俺のヒロインの名前ってラ行と最後に母音のアがつく子が多い気がする。
リーア、ルミア、レーナ……この世界で出会ったヒロインは全てラ行で始まる。
例外は俺が名付けたソフィアだが……彼女は語尾が母音のアで終わっている。
偶然だとは思うが……それも踏まえて考えなくては。
「……うーん……。女神といえばアマテラスやツクヨミが有名だが……そのまま使用するのもなぁ」
恐らくだが、有名どころの女神は召喚できる気がするんだよなぁ……。
ハーデスやゼウスでさえ召喚できたわけだし。
となると、実在する女神の名前を拝借するのはいけないのでは?
「…………ッ!そうか、あの名前にすればいいじゃないか」
俺はそう呟いて、レーナ達のところに向かう。
あの横暴な態度の白虎が失礼なことをしていなければいいけど……。
「あはははは!このとらさんかわいい!!」
『ゴロゴロゴロ……』
「…………なにこれ」
考えることに集中していたから様子を見にいったんだが……白虎は女の子の前で仰向けになってゴロゴロ言っていた。
完全に服従のポーズじゃないか……。
一体何があった。
「あ、パパ。いい名前思いついたの?」
「あ、あぁ……。思いついたから様子を見にきたんだが……これはどういう状況なんだ?」
「実は……女の子を白虎の前に連れて行ったらかわいいと連呼し始めて……。白虎も満更でもないのか、ずっとああやって撫でられているんだよ」
俺の疑問にリーアがやけに丁寧に説明してくれた。
どうやら女の子は白虎がお気に入りらしい。
白虎も大人しくしているし、したいようにさせてあげるのが一番なんだろうけど……。
なんか複雑だなぁ……。
『……ご主人!?こ、これは違うぞ!?この女子が元は女神だから懐いているわけではないからな!?完全に服従はしていないからな!?』
「はいはい。ツンデレはいいから。そんなに大声あげたら女の子がびっくりするでしょうが」
『……ウグッ!そ、それは確かに……そうだな……。ごめんなぁ……怖くないからなぁ?ゴロゴロ』
白虎は俺を見つけた途端、大声で違うと叫び始めた。
ただ……俺が指摘したらすぐに猫撫で声になるのはどうなんだ……?
白虎が完全にペットみたいになってしまった。
「おーい、名前を考えたから一旦こっちに戻っておいでー」
「はーい!」
『…………あっ』
俺は女の子に名前を教えるべくこちらに呼んだ。
女の子が離れた途端に白虎が惜しむような声をあげる。
……素直じゃないなぁ。
「ねぇねぇ!わたしのなまえきめてくれたの!?」
「決めたよ。これからの君の名前はユミだ。……どうかな?」
「ゆみ……ユミ……うん!わたしのなまえはユミ!!……すてきななまえをありがとう、あさひにぃに!!」
……どうやら俺のつけた名前を気に入ってくれたようだ。
そんなことよりも……今この子はなんて言った?
俺の聞き間違いでなければ「にぃに」と言わなかったか?
「気に入ってくれてよかったよ。それよりもにぃにって……?」
「えっとね?レーナおねえちゃんはパパってよんでるでしょ?リーアおねえちゃんはおにいちゃん。ルミアおねえちゃんはあさひさん……。ならわたしはにぃにってよぼうとおもって!」
「……あの女神とは思えないほどかわいいんですけど……」
「旭さん!?大丈夫ですか!?しっかりしてください!!」
俺の問いかけに対して元女神……改めユミは満面の笑みでそう答えた。
その言葉を聞いた俺は後ろに倒れそうになる。
そんな俺をルミアが慌てて抱きとめてくれた。
「…………??にぃにはどうしてたおれちゃったの?」
「……レーナ、この子かなりの天然だよ。ある意味で強敵になるかも……」
「あはは……これがあの女神だったなんて想像もつかないなぁ……。まぁ、幼いからパパに抱かれることはできないと思うし……まだ大丈夫なはず!……多分」
俺が倒れたのを見てキョトンとしているユミと何かを恐れているレーナとリーア。
そんな俺達の後ろでは丹奈とレンジがムームーーと叫んでいる。
[旭、ただいま戻りましたよ。…………ってなんですか、このカオスな空間は]
その光景はソフィアが神界から戻ってくるまで続いたのであった。
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