第55話 旭はギルドマスターに経緯を報告する
丹奈と別れた俺達は、冒険者ギルドに戻ってきた。
決闘の結果をギルドマスターに伝えないといけないからだ。
本来ならギルドの関係者が決闘の立会人になるらしいのだが、命の危険があるとのことで今回は当事者同士のみの決闘となった。
そんなわけで、今はギルドマスター室にお邪魔している。
「……で、[マスターガーディアン]との決闘はどうなったんだい?先程、決闘場の方からなぜか垂直に落ちてくる隕石が見えたように思えたんだが」
ギルドマスターは俺達が席に着くのを確認して、話を切り出してきた。
表情は落ち着いているように見えるが……声音は若干震えている。
決闘場の心配をしていたので、壊れていないか心配なのだろう。
それにしても……やはりあの隕石は目撃されていたか。
必要なことだったとはいえ、【四獣結界】の天井を開けたのはまずかったかもしれない。
「ニナ達との決闘は俺達が完全勝利した。殺さなかったけど。先程の隕石は俺の神霊魔法【災厄ノ流星群】だな。街に被害が出ないように【四獣結界】を天井だけ開けて、強化した【聖域】で受け止めたから問題はないと思うんだが……。どこかしらに被害が出てしまったのか?」
俺の言葉にギルドマスターは目元に手を当て、ため息をついた。
ギルドマスターはため息をついてはいるものの、慌てている様子は見受けられない。
街に被害が出ているとのだとしたら、こんなに落ち着いてはいないと思う。
問題はないと信じたいが……どうだろう?
「やはり旭君の魔法だったか。四神を従えている時点でどんな魔法を使えても問題はないと思っていたが……。やはり君の能力は敵に回したくない代物だな。さて、街への被害だが……奇跡的に被害は出ていない。怪我人もいないから安心してくれ」
被害が出ているということはなかったようだ。
俺が心の中で安心していると、ギルドマスターは苦笑を浮かべて言葉を続ける。
「被害はなかった。……が、あの隕石が災いの前触れだ!と言い始める教信者達が出始めてな。ウダルの冒険者ギルドに所属している冒険者達は旭君の仕業だろうと考えているから、今のところ大きな混乱はないが……。この件についてはどう思う?」
ふむ……【災厄ノ流星群】だから災いの前触れっていうのも……まぁ理解できる。
しかし、それで混乱が起きてしまうのであれば、何か手を打つべきだろう。
とは言っても、俺にはそんな発言力はないしなぁ……。
俺が返答に困っていると、ルミアがギルドマスターに話しかける。
「それでは、旭さんがどんな魔法を使えるのかをウダルの皆さんに披露するのはどうですか?そうしたら災いだなんだという人もおとなしくなると思うのですが」
「それは私も考えたんだがね……。そうなると、この場所に居住を構えなくてはならない。すぐに違う街に出て行く人を信用する人間はいないだろう?」
ルミアの意見に神妙な顔で返事を返すギルドマスター。
ギルドマスターの言っていることは理解できる。
すごい力を持っている人間がその街に住んでいるというだけで、安心するのだろう。
逆を言えばすぐ立ち去ってしまうのに、こんなに大きな力を持っているけど敵意はないよと言われても信じられないのかもしれない。
「ウダルを活動の拠点にするということか……。レーナとリーアはどう思う?」
「うーん……この街は食べ物も美味しいし、わたしは拠点にしてもいいと思うよ?ダスクの街と違って過ごしやすいし」
「私も拠点にすることについては反対はないかな。ただ、住む場所をどうにかしないと。毎日宿泊していたら、余裕のあるお金もすぐなくなっちゃう」
レーナとリーアはこの街を拠点にすることに反対ではないと……。
ただリーアの言う通り、家はどうにかしないといけないかもしれない。
お金は……うん、全然減ってないから余裕はあるんだけど、いつどうなるかわからないからな。
俺はギルドマスターとの会話がひと段落した様子のルミアにも聞いてみた。
「ルミア。レーナとリーアはこの街を活動拠点にすることに反対はないみたいだけど……ルミアはどう思う?家のこととかもどうにかしないといけないかもしれないんだけど」
「私もこの場所を活動拠点とすることに反対はありません。この街は私に仕事を押し付けることもありませんし。家のことは旭さんの【クリエイト】を使えば問題はないでしょう。ギルドマスター、ここら辺で家の建っていない土地はありますか?なるべく広いと助かるのですが」
ルミアも反対意見はないようだ。
それにしても【クリエイト】で家を建てればよかったのか。
一戸建てを創造できるようになったことをすっかり忘れていた。
もしかしたら豪邸も建てられるようになっているかもしれない。
ーーーー[疑問を感知。今の旭であれば問題はないかと。【魔力消費軽減】のスキルの効果もありますし]
……1人考え事していると、叡智さんが俺の疑問に答えてくれた。
いや、確かに疑問系だったかもしれないけど……反応早いな。
俺は叡智さんに突っ込み?を入れておく。
「そうだな……一応あるにはあるんだが……。距離が結構離れているんだ。それでもよければ、俺から不動産に掛け合っておくが……どうする?」
ギルドマスターは俺にそう問いかける。
と言うか、この世界にも不動産はあるんだな。
足元見られないように気をつけなければいけないかもしれない。
◯パマンショップみたいに頼りになる不動産とは限らないんだから。
「距離は離れていても問題はないな。最近は使用していないが、ゴーレム馬車もあるし。その不動産には話を持ちかけておいてくれ。連絡がついたらその不動産に向かうから」
「了解した。では、明日中にでも話を通しておこう」
「よろしく頼む」
俺とギルドマスターはそう言って握手を交わす。
これで【クリエイト】で創造するための土地の問題はなくなった。
どのような家にするか後で検索しておかないと。
キュルルルルル……。
話がひと段落した瞬間、可愛らしいお腹の音が隣から聞こえてきた。
視線を向けるとレーナが顔を真っ赤にして俯いている。
あの可愛らしいお腹の音はレーナだったようだ。
お腹の音まで可愛いとか……天使か?いや、天使だったな。
俺はそんなレーナの頭を撫でて、ギルドマスターに話しかける。
「じゃあ、居住地が決まったら、街の人に俺の魔法を披露するということで。夕飯時だし、そろそろ失礼するよ」
「ふむ……もうそんな時間だったか。時間を取らせてすまないね。決闘についての報告は問題ない。ゆっくり休んでくれ」
ギルドマスターはそう言うと、書類を片手に部屋から出て行った。
というか、俺達が先に出るものなんじゃないのか?
そんなことを考えながら俺達も冒険者ギルドの外に向かう。
外に出てからレーナが尋ねてきた。
「ねぇ、パパ。今日のお昼はどうするの?」
「そうだなぁ……。宿のご飯を食べるのもいいが……ルミアに作ってもらおうかな。ルミア、まだあの食材は残っていたよな?」
俺はルミアに問いかける。
あの食材とは精のつく食材だ。
俺が寝ぼけている間にたくさん収納したというあれである。
「前回はそんなに使用しなかったので、まだ在庫は問題ないかと。……旭さん、あの食材を使うと言うことは……」
「あぁ、決闘場で言ったように俺がどれだけ3人を愛しているかを証明してやろうと思ってな。……覚悟しておけよ?今の俺は……一筋縄じゃいかないからな」
俺の言葉を聞いた途端、3人の表情が蠱惑的なものに変わる。
てっきりルミアは怯えると思ったが……予想は違ったようだ。
「パパ……そんなこと言ってもいいの?いくら【色欲魔人】があると言っても、こちらは3人もいるんだよ?むしろパパがわたし達に絞り取られちゃうんじゃないかな」
「お兄ちゃん、私とレーナには【サキュバス】のスキルがあるんだよ?1人じゃ流石に厳しいんじゃないかなぁ?」
「旭さん、前回は不足を取ってしまいましたが、今回は前回のようにはいきませんよ?恐らく私も【サキュバス】のスキルを獲得するでしょうし。……あまり無理をなさらない方が良いのではないですか?」
3人は挑発するような表情で俺に告げてくる。
……ふふふ。そんな余裕を見せていられるのも今のうちだ。
今の俺には【魔力分身】と【赤き鎧】がある。
叡智さんから聞いたんだが、【魔力分身】は俺自身の意識のみに統一することができるそうだ。
……ということは、俺1人の感覚で何人もの体験をできると言うことである。
ちなみにレーナ達3人はそのことをまだ知らない。
その余裕ぶった表情が快感に落ちる瞬間を見るのが今から楽しみだ。
俺はそんな内心をどうにか隠しつつ、3人に告げる。
「まぁ、俺も勝算がなくてこんなことを言っているわけではないさ。とりあえず今日は久しぶりにゆっくりできるんだ。時間もたっぷりとあるし、久しぶりに4人で寝ようじゃないか」
俺の言葉に首を傾げながら3人は小さな輪になって相談し始めた。
「……ねぇ。なんか今日のパパ……妙に自信持ってない?
「これはあれね……。【叡智のサポート】からなにかアドバイスをもらったわね」
「……もしかしたら丹奈さんの持っていた【催淫強化】が影響しているのでは……?まぁ、3人まとめて愛してくれる分には嬉しいのですが……」
「ルミアお姉さん、その気持ちはよくわかるよ。だけど、わたし達が主導権を握らないと明日起きられなくなっちゃう」
「レーナの言う通りね。お兄ちゃんは【色欲魔人】のスキルがあるから、主導権を取られたら快楽堕ちしちゃうわ。気をつけないと……」
「それは確かに……。じゃあ、どうするか作戦会議をしましょうか……」
3人はヒソヒソと話しているつもりなのだろうが……周りにダダ漏れなんだよなぁ……。
話している内容が内容なのでとっさに【遅延空間】を使用したが……。
まだまだ話し合いは終わりそうにないようだ。
「……さて、話し合いが終わるまでなにをしていようかなぁ……」
ーーーー[暇なのであれば民衆に披露する魔法をどれにするか選ぶのもいいのでは?]
「……叡智さん、もう普通に会話に参加してきてるね……。今は暇だからいいけどさ。じゃあ、一緒に考えてくれるか?俺だけじゃどの魔法がいいのかわからないから」
ーーーー[Yes,My Master。私の見解でよければいくらでも付き合いましょう]
レーナ達が俺をどう攻略するかの会議を近くで眺めながら、叡智さんと相談を始める。
叡智さんの声は指定していないが、周囲にも聞こえるようにしているようだ。
……あぁ、こう言う時間が欲しかったんだよ。
俺は束の間の平和を噛み締めながら、3人の作戦会議が終わるのを待つことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます