第56話 幕間の物語-第2回嫁会議-

ーーーー[ルミア視点]ーーーー

 皆さん、初めまして。

 元ダスクギルドマスター補佐のルミアです。

 本日は私視点で物語を進行させて頂きます。

 拙いところもあるかと思いますが、何卒ご理解ください。

 今回のお話は、レーナさんとリーアさん、そして私の3人で旭さんから主導権を取るためにはどうしたらいいかという話し合いから始まります。


 ▼


「やっぱりパパから主導権を奪う為には3人で協力したほうがいいと思う!

 でレーナさんはそう宣言しました。

 確かに旭さんは1人で籠絡しようにも返り討ちにあってしまいますからね……妥当な判断だと思います。

 私もご褒美の時に頑張ってみましたが……あぅぅ……。

 今思い出しても顔から火が出そうなほど恥ずかしいです……。


「確かにレーナの言う通りだとは思うけど……どうするの?お兄ちゃんのあの自信……相当いい案があるんだと思うんだけどなぁ……」


「リーアさん、相当いい案とは?」


「それはわからないけど……。【魔力分身】とか使うんじゃないかなぁ?あれなら3人同時でも相手できるし」


 リーアさんは思案顔を浮かべながら首を傾げました。

 ……リーアさん自身も【魔力分身】が使えるからこその意見なのでしょう。

 しかし、【魔力分身】は個々の意思を持たないはず……そのようなことが可能なのでしょうか?

 私は考えたことをリーアさんに伝えます。


「リーアさん、【魔力分身】に個々の意思はなかったような気がしますが……。旭さんと訓練した際に、分身に意思がなくてよかったと呟いておりましたし……」


 リーアさんは私の言葉に思うところがあったみたいです。

 両手で頭を抱えたリーアさんはため息をつきました。

 そのことを忘れていたみたいです。


「そっか……それを忘れていたよ……。ねぇ、ルミアさんはお兄ちゃんがどんな手で来るか……予想できる?」


「そうですね……。旭さんは私と同じで【時間遅延】を使えます。そこに【赤き鎧】を併用したら……1人でも3人を相手にすることは容易いでしょう」


 そう……旭さんは【全魔法適正】があるので、どんな魔法でも使えます。

 私は【時間遅延】が使えるので圧倒されることはないと思いますが……レーナさんとリーアさんは成す術もないでしょう。

 ……まぁ、【赤き鎧】を併用された時点で、私も危ないのですが。


「ルミアお姉さん。【赤き鎧】ってあの赤く光るやつ?あれってただの演出じゃないの?」


 どうやらレーナさんは【赤き鎧】は魔法を使う際の演出だと勘違いしているようですね。

 しかし、【鑑定眼】で調べた時は、攻撃と魔攻、敏捷のバフ効果がありました。

 それをお伝えしなければ。


「レーナさん、あの魔法は私との訓練の際に旭さんが魔法です。効果は攻撃と魔攻、そして敏捷の上昇。ただでさえ高い敏捷が上がったら……どうなると思いますか?」


 私の言葉にレーナさんではなく、リーアさんが何かに気付いたように息を呑みました。

 ……どうなってしまうかどうかの予測ができたみたいですね。


「…………??どうなるの?ねぇ、リーア。リーアは分かったんでしょ?勿体ぶらずに教えてよ〜」


「……あはははッ!れ、レーナ!わ、分かったからくすぐるのはやめて〜!……あんっ」


 レーナさんは自分だけわからないのは納得いかないとリーアさんをくすぐり始めました。

 敏感な突起物にもレーナさんの手が当たったのでしょうか?

 色っぽい声が漏れていますよ、リーアさん。


「ひぃ……ひぃ……。……こほん。レーナ、いい?お兄ちゃんの敏捷がこのメンバーの中でも1番高くなったのは理解しているよね?」


「それはまぁ……。ルミアさんよりも早く動いていたし」


「そんな状態で【赤き鎧】を使って、さらに敏捷値を上げたら……どうなると思う?」


 リーアさんの言葉にレーナさんも理解したようです。

 驚愕の表情を浮かべています。


「……まさか!残像が出来るほどの速さになるってこと!?……もしそうなったらわたし達3人をまとめて相手にすることも可能に……!?」


「……そういうこと。もしそうだとしたら、対策も大幅に変えないといけないわ……」


 リーアさんは深くため息をついて、を一口飲みました。


 ……?

 何か違和感があるような……。

 なんでしょう……?

 何か大事な事を見逃している気がするのですが……。


 そんな私の疑問をかき消すように、レーナさんが両手をパンと叩きます。


「じゃあさじゃあさ!3人でパパの身体を洗ってあげるのはどう?どうせなら動かないように【狂愛ノ束縛】をリーアと2人で使えば抵抗できないだろうし!」


 ふむ……旭さんに対してだけ四神も真っ青な効果を生み出す【狂愛ノ束縛】ですか。

 確かにそれを使えば抵抗はできないかもしれませんね。

 ……私も使えればよかったのですが……。


「レーナの作戦はいいね!ルミアさん、自分は使えないと思っているんだろうけど……多分使えると思うよ?」


「私がですか?……ヤンデレじゃない私でも使えるのでしょうか」


 私も使える?

 もしそうならこれほど嬉しいことはないですが……ヤンデレに目覚めた記憶はありません。

 だからこそ、使えないと考えていたのですが……。

 私が首を傾げているのを見たレーナさんもウンウンと頷いています。


「うん、ルミアお姉さんももう使えると思うよ?四神の試練の時にその片鱗は見せていたし。ルミアお姉さんは気付いていないと思うけど、元カノとの勝負が終わった後、【狂愛】のオーラ出ていたからね?」


 ……まさか私もヤンデレとして覚醒していたとは……。

 確かに白虎が旭さんに対して、試練が終わった後も横暴な態度だった時は……心が凍てつくのを感じましたが……。

 あれがヤンデレの状態というやつなのですね。


「…………よしっ!」


 何故か私達の近くから旭さんの喜ぶ声が聞こえたような気がしますが……気のせいでしょう。

 今は3人での作戦会議中ですし。

 です。


「じゃあ、ルミアさん。早速【狂愛ノ束縛】の創造を開始しよ。ルミアさんは……時空間魔法が得意なんだよね?」


「えぇ、私の適正魔法はそれであっています。でもあれは【狂愛】と魔力を組み合わせるのでは?」


 確か私が旭さんの女になった日に2人が話していた内容はそんな感じだったはずです。

 属性は関係ないと言っていたのを覚えています。


 私の質問に答えてくれたのは、最初に魔法を創造したレーナさんでした。


「うん、魔法の属性は関係ないんだけどね?どうやっても適正魔法の効果が反映されちゃうみたいなんだよ。私だったら光属性だから拘束具は光り輝くものになるし」


「私は闇属性に適正があるから、使用した時に禍々しい形状の拘束具が出てくるんだよ。ルミアさんの適正魔法ならより強力な魔法になるんじゃないかな?」


 なるほど……そういう事でしたか。

 確かに私の時空間魔法の効果が出るなら……強力な魔法になりそうですね。


「わかりました。……では、どのようにしたらいいか教えてもらえますか?」


 そうと分かれば早速魔法を創造するとしましょう。

 早く覚えて今回の聖戦に備えたいですからね。

 レーナさんはそんな私を見て笑みを深くします。


「ルミアお姉さん、やる気十分だね!じゃあ、まずは【狂愛】を発動させて?そうだなぁ……ルミアお姉さんはまだ覚醒したばかりだし、想像するといいかも。パパの事を狙っている女性が過剰なスキンシップで近寄ってくるのを想像してみて」


 旭さんを狙ってる女性が……過剰なスキンシップで近寄ってくる……?

 ……いけません。いけませんよ……?

 そんな事が許されるわけがありません。

 ソンナオンナニアサヒサンヲワタスワケニハイカナイ……。


「うんうん。いい感じにオーラが出てるね。じゃあ、その状態でパパの事を思いながら、【狂愛ノ束縛】と唱えてみて。パパを愛していればいるほど創造しやすくなるから」


 私は心がどんどん凍てついていくのを感じながら、旭さんの事を想い続けます。

 ……旭さん。

 男嫌いな私が唯一普通に接する事ができる特別な方……。

 いつの間にか旭さんの事を考える時はないほどに愛おしい存在になっていた方……。

 そんな大好きな人を他の女に取られるわけにはいきません……!

 私は旭さんを強く想いながら、魔法の言葉を告げます。


「…………【狂愛ノ束縛】!!!」


「……おぉぉぉぉ!!?」


 私から魔法の言葉が紡がれたと同時に、真


「「「…………え?」」」


 私達3人はギギギと恐る恐る声のした方を向きました。

 そこでみた光景は……。


「おぉお!?う、動けない!……というか、空間に固定されてないか、これ!ルミアが使うとこんな魔法になるんだなぁ……ちょっと予想外だったわ」


 時空間に固定されたらしい旭さんが、驚きの声を上げながら拘束されておりました。

 しかし、その声音が嬉しそうなのはなんでなのでしょう?

 ……そんなことより!

 い、一体いつから話を聞いていたのですか!?


 レーナさんとリーアさんも私と同じ考えだったらしく、震える声で旭さんに問いかけます。


「ぱ……パパ……?いつから話を聞いていたの……?」


「お兄ちゃん……まさかとは思うけど……」


「ん?最初からダダ漏れだったぞ?いきなり地面に座り込んで話し始めるから驚いたよ。……あぁ、安心してくれ。すぐに【遅延空間】を使用したから、周りの人間にはバレていない。……というか、椅子とか飲み物も出していたし、気づくと思っていたんだが……全く気づかなかったな」


 旭さんは拘束されているのにも関わらず、何事もないかのように私達に告げました。

 ……あの違和感はこれだったんですね。

 地べたに屈んだはずなのにいつの間にかあった椅子。

 リーアさんが何気なく飲んだトロピカルジュース……。

 ……なんであの時しっかり周囲を見なかったの、私!!


「……ってことは……さっきの作戦も全部聞かれて……いたというのですか?」


 私は震える声で旭さんに尋ねます。

 最初から聞いていたということは、作戦も全部垂れ流しだったということですが……。


「申し訳ないとは思ったんだけどね。あまりにも真剣に話し合っていたから、邪魔するのも悪いかなと思って。それにしても、俺の考えていた作戦の80%を当てられてしまうとはなぁ。そんなにわかりやすかったかな」


 旭さんはたはは……と苦笑を浮かべました。

 そんな仕草も愛らしい……ではなく!

 今はすぐに謝らなくては!!


 私はレーナさんとリーアさんを見ます。

 2人も私の顔を見ます。

 私達は1つ頷いて……。


「「「気付かないで話し続けてごめんなさい!!!!」」」


「いやいや、別に謝ることではないでしょうに。あー……でも、次からは場所を考えような?せめて部屋の中でやるとかさ。言ってくれれば、【遅延空間】も発動させるし」


 動揺したことで拘束が解除されたのか、私達の頭を撫でながら旭さんは告げます。


「じゃあ、今度こそ宿に向かおうか。……そうだなぁ、宿の部屋に【遅延空間】使用して思う存分に愛し合おうか。をするためにもね」


 旭さんはそう言って、宿に向かって歩き始めました。


「「「あ……これ……お仕置きされるやつだ……」」」


 私達3人の言葉が被ります。

 思わず顔を見合わせて、プッと吹き出してしまいました。


 愛してもらえるならそれでいいじゃないかと。


 私達は旭さんの名前を呼びながら、後を追いかけるのでした。

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