第32話 幕間の物語-レンジが得た情報-
ーーーー[丹奈視点]ーーーー
レンジが旭のパーティを追いかけて3日が過ぎた頃……。
嫌な予感を頭の隅に感じながら、私はパーティメンバーとのんびり家で過ごしていた。
高難易度の依頼を達成したばかりだし、しばらくはゆっくりしようということになったんだ。
ゆっくり過ごすと言うことは当然夜の行為も出てくるわけだけど……。
この世界の男って平均的に短いんだよね……。
気持ちいいには気持ちいいけど、どこか物足りない……そんな感じ。
そう考えるとあーちゃん……旭のアソコがどれだけ凄かったのか今となってはよくわかる……ってそうじゃなくて。
「レンジ……大丈夫かなぁ?」
私が呟いた言葉にライアンが笑顔で答えてくる。
「大丈夫さ、ニナ。レンジは俺達のパーティの中でも1番の敏捷値だし、あいつの隠形スキルはそれこそチート級だ。見破られることはないだろうさ」
ライアンの言う通り、レンジの敏捷値は3000を超えている。
そこに【身体強化】のスキルが入ってくるから、実際には7000を超える。
いくら旭がチート級のステータスだったとしても、遅れはとらないだろう。
隠形スキルも普通の人間なら気付くことはできないレベル……なんだけど。
「でもやっぱり嫌な予感が取れないんだよなぁ……。無事に帰ってきてくれるといいんだけど……」
そんなことをライアンと話していたら家のドアが開いた。
「……戻ったぞ……!……ゼェゼェ」
息を切らしたレンジがドアから入ってきた。
「レンジ!?そんなに息を切らしてどうした!?」
レンジの尋常じゃない様子にグランが駆け寄る。
「……旭達はウダルの街にいなかった。その事を急いで伝えようと思って全速力で戻ってきたんだ」
「……れ、レンジ?お前……どうした?なんか様子が……」
私はグランの言葉を聞いて、レンジを注意深く観察する。
焦点が合っていない……ウダルに向かったのにいないと言う証言……。
……もしかして、これは……!
私は急いで【鑑定眼】で状態異常を確認する。
「グラン、離れて!レンジに【対象記憶消去】と【精神操作】の魔法がかかってる!」
私の言葉にグランがレンジから距離を取る。
まさか、記憶を消してこっちに送り返すなんて……!
こんな酷い事をする人ではなかったはずなんだけど……。
とにかく今はレンジを元に戻す事を優先しないと!
【対象記憶消去】と【精神操作】は上級魔法のはず……。
禁忌魔法でないなら私でも癒すことができる!
「レンジ……今治してあげるからね……!【
私は全力でレンジに【上級異常回復】をかける。
焦点のあっていなかった、レンジの瞳が元に戻っていくのを確認する。
……よかった。無事に回復したようだ。
「……ここは……?ニナ……?俺は確か……旭のパーティのテントに近づいて……」
「レンジ、大丈夫?【対象記憶消去】と【精神操作】の魔法を受けていたけど……。状況説明できる?」
「ちょっと待ってくれ……。グッ……!蛇が……!巨大蛇が……!来るな……!来るなぁ……ッ!!」
レンジはいきなり錯乱して叫び始めた。
【対象記憶消去】の魔法が解除されたからその時の記憶がトラウマになった……!?
「ニナ!一旦レンジを眠らせたほうがいい!今の状態で当時のことを聞くのは無理だ!!何か手はないのか!?」
ライアンがすぐにレンジを取り押さえて、私に早くどうにかしてくれと叫んでくる。
確かに今のレンジから旭達の情報を聞くのは無理だろう。
「くっ……味方にこの魔法は使いたくなかったんだけど……!【
私は【催眠】の魔法をレンジにかけて眠らせる。
魔法にかかったレンジはその場に倒れこむように眠ってしまった。
「ライアン、レンジを部屋に連れていって。レンジが起きたら旭達の情報を聞き出すとしよう」
「了解した。部屋に連れて行くのは任せてくれ」
ライアンはそう言って、レンジを部屋に連れて行く。
「……こうなることまで考えて魔法をかけたのだとしたら……いくら元カレといえども許さないからね……あーちゃん」
私はライアンに連れて行かれるレンジを見ながらそう呟く。
……それにしても、なんでライアンはレンジをお姫様抱っこで運んでいるの?
私、別にそっちの方面は興味ないんだけど。
▼
レンジが起きて落ち着いたのは帰還してから2日後のことだった。
よっぽど怖い目にあったのだろうか?
それにしては微毒以外の異常がないんだよね……。
その毒も命に関わるものじゃなく、神経を麻痺させるだけのものだったし。
「ニナ……取り乱してすまなかった。……もう大丈夫だ」
レンジは申し訳なさそうに床に座っている。
床に座らなくてもいいと言ったのだが、レンジは自分の責任だと頑なに聞かなかったので放置することにした。
「それについては大丈夫。……それで、旭達は発見できたの?」
「あぁ……。と言うより、テントの近くで旭に見つかったと言うべきか……」
「隠形に長けたレンジを発見した!?どういうことだ!?」
ライアンが驚愕の表情を浮かべている。
私も同じ気持ちだ。どれほどの能力があるかはわからないけど、斥候に特化したレンジを見破るなんて。
「旭は【全魔法解除】と言っていた。俺がそのとき使っていたのは隠蔽魔法だったからバレてしまったんだと思う。旭は自分の女が人質に取られるかもしれないことに勘付いたのか、とてつもない殺気を浴びせてきた」
……うーん。レンジは勘付かれたと言っているけど、自分で言っちゃったんじゃないかなぁ?
慌ててると相手に対して色々喋ってしまうところがあるから……。
私がそんなことを考えている間にもレンジは状況報告を行なっていく。
「それで……だ。俺がランク低いくせにと言ったら、殺気が急になくなって目の前に巨大な蛇が出現したんだ。旭はデススネークと言っていたが……あまりにも巨大だった。3mはあったと思う。俺は逃げる暇もなく捉えられてしまったんだ」
「デススネークか……。確か召喚魔法禁忌級のナーガとの契約で召喚できる上位眷属だな……。旭のやつは禁忌級の魔法を全部使えるのか……?」
レンジの言葉にグランが真剣に考察している。
……禁忌魔法級の召喚獣の眷属ねぇ……。
そんなのが相手なら逃げる暇がないのも納得できる。
「それで、俺はテントに連れて行かれた。テントにはルミアさんと旭のパーティメンバーがいた。アーガスの情報通り、ハイエルフの幼女とダークエルフの少女がいた……。ただ、あの2人も俺たち以上の力を持っていると思う。ハイエルフは視線で俺を殺そうとしていることがわかった。ダークエルフはそんなでもなかったんだが、ハイエルフが旭に抱っこされると途端に邪悪な殺気を俺にぶつけてきた。……正直生きた心地がしなかった……。ニナ、あの2人を人質にするのは無理だと思う。そんなことをしたら旭が容赦しないだろう」
ふむ……ハイエルフの女の子はヤンデレらしいから、レンジを見て殺意が湧いたのかなぁ。
ただ、ダークエルフの女の子が放ったと言う邪悪な殺気が気になる。
私の考えだとハイエルフの女の子が旭に抱っこされたから、それに嫉妬したんだと思うんだけど……。
それをレンジにぶつける意味がわからない。
……単なる八つ当たり?
もし対象を選べるなら、それだけでも脅威になる。
私は疑問に思いながらもレンジに話しかける。
「レンジ、人質にするのは諦めよう。それで……他に何か情報は得られた?」
「ニナが賢明な人物でよかったよ……。他の情報か……。そういえば【叡智のサポート】なるものが旭をサポートしていることはわかった。旭の強さはそこからくるものだろう」
「【叡智のサポート】だと!?あのスキルが発現したのは初代勇者だけじゃなかったか!?」
「グラン、【叡智のサポート】ってそんなに強力なスキルなの?」
私の疑問にグランは顔を青くして答える。
「ニナ……強力っていうレベルじゃない……。使い方を誤れば世界を滅ぼすほどの知恵を授けてくれるチートの中でも1番やばいスキルだ。旭がそれを使いこなしているのなら……少なくてもSランクの実力はあると見ていい」
まじか……そんな強力なスキルを手に入れたの……あいつ……。
Sランクとなると今の私でも対処は難しい……。
能力だけなら【ステータス反映】のスキルでなんとかなるとは思うんだけど……。
そんなことを考えていたら、レンジがグランの言葉に賛同するように言葉を紡いだ。
「グランの言う通りだ。索敵能力といい、眷属といい、ありえない強さといい……あれはBランクの枠じゃない。ウダルに向かったのも冒険者ランクを上げるためだろう。ダスクだとアーガスがニナと同じ以上のランクにはしないだろうからな。……ただ、旭は俺が意識を失う前に次に仕掛けてきたら容赦はしないと言っていた。万全の準備をしてから追いかけた方がいいかもしれない」
「万全の準備かぁ……。そうなると、今より強くならないと厳しいかもしれないなぁ」
私は遠い目を見ながらそう呟いた。
今の時点で私たちのレベルは60を超えている。
これ以上強くなるには限界突破をしないといけない。
ただ……そうなると旭達はウダルより離れてしまうだろう。
彼が1つの場所にとどまるとは思えない。
「ねぇ、レンジ。私の強化魔法を全開にかけたら旭と対等に渡り合えると思う?」
私はレンジにそう質問する。
強化魔法はステータスを底上げしてくれる魔法だ。
持続期間は短いが、短期決戦ならなんとかなるんじゃないかな。
私の質問に、思案顔でレンジは答えてくれる。
「ニナの強化魔法を全開で……か?レベル差もあるからそれをすればいけるか……?旭は無理だとしてもあの少女2人には負けないと思う」
全開で強化魔法かけても旭に勝てないってどんだけなのよ……。
【全魔法解除】もあるから仕方ないのかなぁ?
「じゃあ、強化魔法と私の固有スキルの【催淫強化】もかけるとしよう。……10人相手でも私の体力はもつだろうけど、旭に追いつく1日前に重ねがけしておけば戦いの時には持つと思う。直前だと私も君達も体力低下してしまうからね。それにスキルによる強化なら【全魔法解除】も効かないだろうし」
【催淫強化】は本当はあんまり使いたくはないんだけど……。
旭に魔法解除の手段がある以上はそんなことも言ってられない。
「【催淫強化】を使うのか!?俺達からしたらただのご褒美だが……ニナは大丈夫か?」
レンジはそう心配そうに聞いてくる。
「あんまり使いたくはないけど、しょうがないよね……。とりあえず、防音性能のあるテントを持って行こう。じゃあ、今から必要なものを買い出しに行くよ。ウダルまでは片道で5日はかかる……。急いで追いつくためにもすぐに行動開始するよ!レンジは冒険者ギルドに行って、アーガスさんに報告!グランは食料の調達、ライアン達は旅路に必要な道具の調達!では……行動開始!!!」
「「「「了解!!!」」」」
私の号令に対して、地面を揺らすほどの返事を返したパーティメンバーは役割に沿って行動を開始する。
さて……私も準備を開始するとしよう。
まずは……避妊薬を買ってこないとダメかな?
【催淫強化】を使う以上、薬を買っておかないと大変なことになるし。
あーちゃん……首を洗って待っていることだ……。
レンジに対してかけた魔法による制裁はくらってもらうよ。
そして……ヤンデレヒロインは私のパーティに加えてみせる!
ふふふ……待っていなさい?
私と付き合ってからヤンデレに目覚めたあーちゃんとは違うのだよ。
その翌日……。
私達はウダルの街に向かって馬車を走らせた。
……アーガスさんが「ルミアを連れて帰ってきてくれ!」と叫んでいたけど……。
やっぱりルミアさんがいないから仕事が回らないんだな。
ルミアさんを連れ戻すと言う【依頼】を受けて、ウダルの街へと向かう。
……ウダルの街についた時にまだ旭がいればいいんだけど……。
そう考えながらダスクの街を出立した。
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