第31話 幕間の物語-丹奈の帰還-
ーーーー[丹奈視点]ーーーー
私がその男冒険者の名前を聞いたのは、王都クーラからの高難易度クエストを終えてダスクに帰還した時のことだった。
「ただいま〜。依頼終わったよ〜……ってなにこの空気?」
「ニナ、冒険者ギルドの様子がおかしい。ここは注意したほうがいいかもしれない」
私が街の様子に首を傾げていると、レンジがそう提言してきた。
レンジは私のパーティメンバーで主に斥候としての能力が高い。
気配りが上手く、私がこの世界にきてから1番最初に出会った頼りになる男性だ。
「おい、ニナを守りながら冒険者ギルドに入るぞ。ライアンは前方の守りを頼む。グランは後方から魔法攻撃などを警戒してくれ」
レンジは他のメンバーに指示を出しながら、私の周りの防御を固めていく。
あっという間に私のパーティメンバー10人による肉壁が形成された。
……私自身、Aランクだから問題はないと思うんだけどなぁ。
「レンジそこまでしなくても大丈夫だよ。私はチートキャラなんだし」
「ニナの強さは承知しているが、警戒するに越したことはない。それに、いつもニナのことをイヤらしい目で見てくるダマスクがいないのも気になる」
言われてみれば確かにあの中年太りのおじさんがいないなぁ。
私としてはハゲているおじさんは好みだからいても問題はないんだけど……。
パーティメンバーのイケメン達は気に食わないようだ。
まぁ、昔付き合ったイケメン達と違って中身もイケメンだからいいんだけどね。
「アーガスはいるか!?ニナが帰還したが、街の様子がおかしい。どうなっている!?それに……仕事が全然終わってないように見えるのはなぜだ!?」
ライアンは冒険者ギルドに着くなり、扉を蹴破ってギルドマスターであるアーガスの名前を叫ぶ。
受付の人たちは仕事が終わらないのかひたすら事務作業をしている。
……あれ?ルミアさんがいるから仕事に余裕があるんじゃなかったの?
「お、ニナちゃんの御帰還だ」
「やっぱりいつ見ても可愛いよなぁ。旭と違ってイケメンを侍らせているが、俺たちのような人間にも優しいから器の広さが違うってもんよ」
「流石Aランク冒険者だよな。なんで女冒険者は彼女を嫌っているのか」
「……旭さんが街を出た数日後に丹奈さんが帰還するなんてね……」
「旭さんはこのことを予見していたのかしら?そうだとしたら、凄い勘だわ」
周りの冒険者達が私達をみて様々なことを話している。
男からのかわいがりも女からの妬みもいつものことだから気にしないけどさ……。
冒険者達はなんて言った?
あさひ……旭?まさかとは思うけど、あの人じゃないよね……?
ははは、まさか同じ異世界に転移してくるなんてそんな偶然あるわけないよね〜。
もしそんなことあったら、私は神様を恨むよ。
そんなことを考えていたら、ギルドマスターのアーガスさんが血相を変えて近づいてきた。
「丹奈!戻ったのか!報告したいことがある!今すぐにギルドマスター室にきてくれないか!?」
「うん?いくのは構わないけど……そんなに血相変えてどうした?冒険者達が噂している人物について?」
「……あぁ、その人物についてだ。と、とにかく急いで来てくれ」
そう言ってアーガスさんは先にギルドマスター室に戻っていった。
「あー……なんか面倒ごとみたいだなぁ……。皆、私たちも行こうか」
私はパーティメンバーに声をかけてギルドマスター室に向かう。
……イヤな予感がビンビンするんだけど……。
▼
「さて、王都クーラから戻ってきたばかりで本当にすまない。君にどうしても伝えておきたいことがあってね」
「うん、血相変えていたものね。で?噂の人物……旭とかいう冒険者についてだっけ?」
私が話を促すと、アーガスさんは顔色を悪くして状況を説明し始めた。
「あぁ……その旭についてだ。名前は響谷旭。1週間ほど前に転移してきて、初日にハイエルフの女の子を救出、そのわずか数日でBランクに昇格した冒険者だ。……初の依頼でダマスクの組織を壊滅させるほどの実力を所持している」
アーガスさんから聞き覚えのある名前が出た。
あー……やっぱりその人物だったか。
レジンがアーガスさんの言葉に驚いた顔をしている。
「転移してきて1週間でダマスクの組織を壊滅させた!?なんだその化け物は!?」
「驚くのも無理はない。ダマスクの件については倒してくれれば御の字だと思ってはいたが、壊滅させてしまったんだよ。しかも、ダマスクの奴隷を仲間に引き連れて……だ」
旭という冒険者のまさかの出来事に唖然としているパーティメンバー。
いや……私よりも強くない?
どんなチートをもらったのよ……あいつは……。
「あー……もしかして旭って人は身長180cmくらいで眼鏡をかけてる?」
「……!あ、あぁ、丹奈の言う通りの見た目だ。……なんでわかったんだ?」
「なんでって……あーちゃん、旭は私の元カレだからなぁ」
「やっぱり旭と付き合っていたのか!?旭自身もそう言っていたが……事実だったとは……」
アーガスさんは信じられないとばかりに机に突っ伏した。
いや、私は純潔じゃないからそんなにショックを受けられても……。
あーちゃんと付き合う前はビッチだった過去もあるし……ってそんなことはどうでもいい。
「丹奈の元カレだと!?そいつはどこにいる!?俺が二度と丹奈に近づかないように釘を刺してやる!」
アーガスさんと私の言葉を聞いて、ライアンが憤っている。
正直私以上の能力を持っている以上、意味はないと思うけど……。私も彼には言いたいことがある。
ダスクにいるなら是非会いたいが……まぁいないだろうなぁ。
女冒険者が街を出たとか言っていたし。
「それが……ダマスクの組織を壊滅させた3日後に特別依頼を受注してダスクを出てしまったんだ。特別依頼というか……ルミアが街を出られるように手配したという感じなんだが……。その翌日に丹奈達が帰還したというわけだ」
なるほど。すれ違いになったと。
でも、帰還してくるときにはそんなパーティには出会わなかった。
ということは、王都へ行くルートではないということになる。
「アーガスさん、旭はどこに向かったの?」
「ルミアから叩きつけられた休暇届によると……ウダルの街に行ったようだ。この街に丹奈がいるから旭さんについていきます……とのことだ。……丹奈の存在を旭に知られてしまったのは俺の責任だ……!すまない!」
アーガスさんはそう言って綺麗な土下座をしてきた。
あー、皆抑えて抑えて。
私は別に怒ってないから。
「私はAランクの冒険者だから、旭に知られるのも時間の問題だったと思うから気にしないで。それにしても私がいると聞いてすぐに街を出るとは……ちょーっと許せないかなぁ?これは直接あって話を聞かないといけないね」
「ニナ、それなら俺に任せてくれ。俺の足なら今からでても旭とやらのパーティに追いつくだろう。俺が情報を収集してくるよ」
レンジが自信たっぷりに私に提案してくる。
彼の情報を収集できるなら願ったり叶ったりだけど……大丈夫かな?
「レンジ、大丈夫なの?旭はダマスクの組織を壊滅させるほどの能力の持ち主。下手したら私と同様のチート能力があるかもしれないけど」
「大丈夫だ。俺は隠形のスキルを取り揃えている。敵に見つかることなく近づけると思う。会話が可能なら穏やかに説得してニナの前に連れてきてみせよう。抵抗したら、武力を持って理解させるさ」
いや、確かに説得で連れて来れるなら問題はないだろうけどさ……。
私はアーガスさんに彼の情報をもらおうと話しかける。
「アーガスさん、旭とそのパーティメンバーの情報を教えてもらってもいい?どれだけの能力を所持しているか確認したいんだ。確か冒険者証発行の際に個人データは残っていたはずだよね?」
「それが……旭関連の情報はルミアが全部持って行ってしまったんだ。俺が覚えていることは丹奈以上の能力とゼウスを従えているということ。禁忌魔法を使用できること。ハイエルフの幼女とダークエルフの少女がパーティメンバーにいて、その2人も旭には劣るが強力なステータスを持っていて、旭を重いくらい想っていることだ」
ふむふむ……。
多分ルミアさんは私に彼の情報がいかないように持ち出したんだろうね。
……私の行動を先読みされている感じがする。さすがは裏のギルドマスターと言われるだけはある。
「禁忌魔法とヤンデレと思われるハイエルフとダークエルフ……ねぇ……」
ロリコンになったのは……まぁ私が原因として。
禁忌魔法を使えるならダマスクの組織を壊滅させたのも理解できるかなぁ。
それにしても……ヤンデレのヒロインか……。
私の好みを攫うんじゃない!
もう少し早く戻ってきていれば……リアルヤンデレヒロインが私のパーティに入ったのに……!
なーんで、私の欲しいキャラを引き当てるかなぁ!
これはなんとしても私の前に連れてきてもらわないと。
「……レンジ、さっきはああ言ったけど……旭達の説得を任せてもいい?」
「……!勿論だ!ニナの役に立てるなら俺は全力を尽くそう!ただ、相手は格上と思われる相手だ。最悪人質をとるかもしれないが……構わないか?」
レンジが私に確認をしてくる。
人質か……あんまりこの手は使いたくはないけど。
確実に会う手段になるならそれも厭わないかな。
「うん、最悪の場合はその手段をとってもいいよ。じゃあ、帰還してからすぐで申し訳ないけど……お願いね。【
私はレンジに上級魔法の【上級回復】をかけておく。
これでスタミナとかHPは問題ないはずだ。
私の無詠唱魔法を見たアーガスさんは呆れたような表情をしている。
「……日本から来た転移者は無詠唱がデフォルトなのか……?まぁ、丹奈が戻ってきたことで俺のやる気も上がるってもんだ。そうとも!ルミアがいなくても俺はやれるってことをルミアに見せつけて威厳を回復させてやる!」
「いや、デフォルトかは知らないけど……。ルミアさんが抜けた穴は大きかったんだね。ガンバレ」
私はアーガスさんにそうエールを送って、レンジを送り出す。
「じゃあ、ニナ。行ってくる。上手く行ったらご褒美を頼むぜ」
「あー、まぁいいよ?ご褒美のためにも頑張って旭を連れてきてね」
「任せておけ!」
レンジはそう力強く答えて、ウダルの街へ駆けていった。
身体強化もかけたレンジの敏捷値はかなり高い。
すぐに追いついてくれるだろう。
……だけど、嫌な予感がするのはなんでだろう?
私はそんな一抹の嫌な予感を押し殺して、アーガスさんに依頼の報告をしに向かった。
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