第26話 旭は対決の場を整える
俺達はウダルの冒険者ギルドに設営された決闘場に辿り着いた。
決闘場と言うだけあってかなり広い。
この広さを別のことに役立てればいいのでは……?と思うほどだ。
決闘場というよりコロシアムの形状である。
……というか、なんで観戦席に人が集まっているんですかねぇ……?
しかも満席ときた。
そんなにイケメン君の勇姿が見たいのだろうか。
決闘場にはすでに残念なイケメン君が対峙している。
近くにいる女性は……イケメン君のパーティメンバーかな?
おぉ……流石はイケメン君だ。
彼の周りには見目麗しい女性が沢山いる。
人数としては20人くらいか?イケメン君は下半身もイケメンらしい。
「逃げずにきたようだな!その勇気だけは認めてあげよう!」
「いや、逃げるも何も……あれ以上面倒ごとが増えるのが嫌なだけだったんだが……」
「甲斐性がないやつだな!待っていてくれ、2人とも。俺が勝ったらその男から解放してあげるからね!」
イケメン君の言葉にパーティメンバーの女性達がキャーキャー言っている。
え?今の言葉に黄色い歓声を上げる要素あった?
「パパ……どうしよう。あの自称イケメンさんを1秒でも見ていたくない……」
「私もレーナと同じ意見だよ、お兄ちゃん……。ねぇ、あの男殺していい?殺しちゃダメ?」
レーナとリーアはイケメン君とそのパーティメンバーを見て、汚物を見るような視線を向けている。
殺意がどんどん溢れてきているのは……よほど精神的に堪えているんだろう。
俺は2人を宥めつつ、イケメン君に話しかける。
「で?どうやって勝敗をつけるんだ?殺し合いか?」
俺の問いかけに対して、イケメン君はまさか!と言いたげに叫ぶ。
「冒険者同士での殺し合いなんて冒険者ギルドの規約違反になるだろう!?俺たちがこれから行うのは果たし合いだ!」
「なるほど。しかし、果たし合いといってもダメージは受けると思うんだけど、そこらへんはどうなっているんだ?」
「この決闘場にはある程度の傷をすぐに癒してくれる魔法が施されている。今回はCランクの俺たちとFランクの冒険者による果たし合いだから、回復は間に合うだろう。俺達よりも自分の心配をした方がいいんじゃないか?」
イケメン君はそう言って、こちらを見下すような目をしてくる。
……いや、俺達はBランクなんだが……。
しかも、攻撃力だけで言ったら多分Aランク超えるぞ……?
コロシアムの魔法はある程度の傷を癒すっていうのも不安点なんだよなぁ……。
仕方ない、俺に出来る対策を施すとしよう。
「あー……実力差を勘違いしているのは別に構わないが、今のままだと死者が出そうだな。規約違反は怖いから対策をさせてもらうぞ」
「実力差を勘違いだと!?それは俺たちのセリフだろう!」
イケメン君が何か騒いでいるけど気にしない。
んーと、とりあえずハイエンジェルを召喚しておくか。
ダマスクの時みたいに2万MPを使用しておけば、問題はないと思う。
「……【眷属召喚:ハイエンジェル】」
「「「ただいま馳せ参じました、主」」」
俺が魔法を唱えると、ハイエンジェル達が顕現される。
その数およそ500体。
……あれ?ダマスク戦の時は片方で200体だったよな?
なんか増えてない?
「パパ……今回はどれだけの魔力を使ったの?」
「いや……ダマスクの時と同じ2万だが……」
「なんで同じ数値で数が増えているの!?」
レーナは驚いたような呆れているような顔を向けてくる。
リーアは……あぁ、俺のことをキラキラした目で見ているな。
たくさん召喚できることは知ってはいたみたいだが、実際に見たのは初めてだからだろうか。
レーナは俺になんでなの?と体を揺すってくるが……俺に聞かれても。
レベルが上がったからじゃないかな?
自称イケメン君は俺が召喚した、ハイエンジェルを見て絶句している。
「……な……なんなんだ、それは!?なんでFランク冒険者がそんな膨大な眷属を召喚できるんだよ!?」
「ミナト様、あれは……ハイエンジェルです!眷属の中でも上位に当たると言われている存在ですよ!でも、ハイエンジェル召喚にはゼウスを従えている必要があるはず……まさか!?」
ここにきてイケメン君の名前が発覚した。
だが、どうでもいいので名前は覚えない
「なんだ?ゼウスが見たいのか?……仕方ないなぁ。じゃあ、回復要員で出しておくよ。……顕現せよ、【全知全能の神】!」
光が差し込み、ゼウスが顕現される。
『主、今回は我の力も必要ということでしょうか?主が苦戦するほどの相手でも現れたのですかな?』
「うんにゃ?このコロシアムの回復魔法が心もとないから、死にそうになったやつに蘇生魔法と【完全回復】かけて欲しいんだけど……できるか?」
俺がゼウスに尋ねると、ゼウスは大きな声で笑い始めた。
笑うのはいいけど、もう少し声量抑えてくれないかな?
地面が地震が起きた時みたいに揺れているから。
『くっ……ははは!我を回復要員として呼び出すとは!!流石、主!!他の者とは器が違いますなぁ!!』
「……褒め言葉として受け取っておくとしよう。それでできるのか?」
『我にかかればそのようなことは些事に等しいですな!お任せくだされ!……ところで、ハイエンジェル達はなぜに呼び出したのです?』
あ、ハイエンジェル達を放置してたの忘れてた。
……ごめんって!だからそんなに泣きそうな顔しないで!!
「あー……。ハイエンジェル達にはコロシアム全般に結界を張ってもらおうと思って。今回はレーナとリーアに全開で戦ってもらうからね。……俺もちょーっと本気出すし」
『主……お嬢達が本気を出すのはいいと思われますが、主が本気を出すのは如何なものかと……。ハイエンジェル達が怯えているではありませんか』
ゼウスはそう言って、500体のハイエンジェル達に視線を向ける。
確かにハイエンジェル達はガクガクブルブルしている。
……ダマスク戦の時に放った【地獄の業火】が原因かなぁ。
「じゃあ、その時はゼウスも範囲結界を頼む。強化はしておくから大丈夫だろう?」
『まぁ……それならなんとかなると思われますが……」
俺とゼウスがコロシアムの不足部分を補う作戦会議をしていると、イケメン君が意識を取り戻したのか騒ぎ始めた。
って言うか、気絶していたのか。
通りでレーナとリーアが満面の笑みを浮かべているわけだよ。
「お……おい!まさか……まさかこの精霊は……!?」
「ん……?御察しの通り【全知全能の神】ですが何か?」
「待て待て待て!!精霊魔法はエルフ族だけが使える魔法のはずだろ!?なんでお前が使えているんだ!!」
「いや、俺全魔法適性あるし。言ってなかったっけ?」
「「「聞いてない!!!」」ですわ!」
ふむ……そうだったか?
まぁいいや。
俺は勝敗をつける方法について最終確認を行うために話しかける。
「で?どう勝負する?俺としてはレーナとリーアだけでも問題はないと思っているんだが」
俺の言葉にイケメン君は若干慌てたように、叫び始めた。
このイケメン君叫んでばっかだな……漏らしてなければいいけど。
「いや、君にも戦ってもらう!最初はそちらのお嬢さん二人掛かりで、かかってくるといい!俺の女達に勝てたら俺が相手してあげようじゃないか!お嬢さん達がそれまでに負けたら君が戦うってことでどうだい!?」
勝ち抜け式ということか……。
でもな?イケメン君。君の発言で俺の娘と妹はとてつもなく不機嫌になっているんですわ。
ほら……俺の手を握りながら下を向いて、【狂愛】と【嫉妬】のオーラを全開にしてる。
「パパ……この自称イケメンさんは何を言っているのかな?わたしとレーナが二人掛かりであの女の人たちに負けるとでも……?むしろわたしとレーナで10人ずつ相手にできるんだけど……?」
「レーナ、10人は言い過ぎよ……?2人なら全員でかかってきても勝てる自信があるわ」
2人とも殺る気満々だなぁ。愛おしいわ……。やる気になっているのが俺のためというのがさらにいいよね……。
そんな2人の言葉を聞いて、イケメン君の女性陣は憤慨する。
「私たちが貴女達のような小さい女の子2人に負けるですって……!?ミナト様、ここは私達全員の攻撃を凌げたら彼女達の勝ちってことにしません?20人もの攻撃を受けきれるわけがありませんわ!」
「え……それは……いいのか?おい、君!君のところのお嬢さんの言葉でうちの女性陣があんなことを言っているが……いいのか!?」
イケメン君が戸惑ったように俺に問いかけてくるが……ただ攻撃を受けるだけなのは不公平だよな。
「攻撃を受けるだけじゃそちらに有利すぎるだろう。そちらの攻撃が終わったらこちらも攻撃させてもらうが……それでよければいいぞ」
「パパ……そんなこと言っちゃっていいの?多分わたし達は負けないと思うんだけど」
「そう信じているからこその提案だよ。それに2人だけが攻撃されるっていうのは……俺俺が許せない」
俺の言葉を聞いたレーナとリーアはいやんいやんと体をクネクネさせている。
……どこにそんな要素が?と思ったが……。
多分2人が攻撃されるだけなのは許せないと言った部分なんだろうなぁ。
「いや……それについてはむしろ構わないのだが……。お前達もそれでいいよな?」
「「「ミナト様がそういうのでしたら……」」」
よし、イケメン君のパーティメンバーからも賛成を得たから、準備を進めよう。
「よし、じゃあハイエンジェル達は【天使結界】を展開。……大丈夫、今回はゼウスもやってくれるし、結界を強化しておくから。ゼウスは蘇生魔法と回復魔法をコロシアム全体に展開後、【天使結界】の内側に結界を展開してくれ」
『「かしこまりました、主」』
ハイエンジェルがコロシアムの外周に並び、天使結界を実行する。総勢450体による強化された【天使結界】が展開される。
その内側から観客席に被害が及ばないように、ゼウスがさらに結界を展開。
内側には回復魔法と思われる聖なる光が辺りに満ち溢れている。
「レーナ、リーア。お膳立てはしておいたよ。2人の全力を俺に見せてくれ」
「「はーい!!」」
「……なぁ、なんかとんでもないことになってきていないか……?」
「だ、大丈夫ですよ、ミナト様!私達があの2人に攻撃を受け切らせなければいいだけですわ!」
イケメン君が不安になっているところを、イケメン君の女達が盛大にフラグを立てていく。
見事な負けフラグ……フラグ建築士か何かなのだろうか?
「さぁ、勝負開始ですわ!まぁ、勝つのは私たちですけどね!」
「残念な自称イケメンに侍っているお姉さんが……パパからの愛情をたくさんもらっている私たちに勝てると思っているの……?その自信を完膚なきまでに叩き潰してあげる……」
「レーナの言う通りだわ……。お兄ちゃんの力でチートキャラになった私たちの真の力を見て怯えるといいわ……!」
こうしてレーナ&リーアvsイケメン君の女20人の勝負が始まった。
……怪我人が出ないようにだけ気をつけておくとしよう。
ーーーー
ハイエンジェルの500体の内50体はレーナとリーアの補助に回っています。
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