第25話 旭はウダルの街に辿り着く

俺達はウダルの街に向かってゴーレム馬車を進めていた。

本来ならもっとゆっくりと向かう予定だったのだが、丹奈のパーティメンバーからの強襲(実際には記憶をなくして追い返したのだが)があった為、急遽予定を早めることにしたのだ。


「旭さん、ウダルの街が見えてきました。後数分もしないうちに到着すると思います。


ルミアが猫耳をパタパタさせながら、御者席の方から話しかけてくる。

最初は俺が御者席に座っていたのだが、「風を感じたい」というルミアの要望があったので、交代していた。


よくあるラノベ展開では、一度面倒ごとが起こると二度目も面倒ごとに巻き込まれるのだが……。

丹奈関係の強襲以外は、魔物などに襲われることなくスムーズに進んだ。

……多分、ご飯のたびにルミアが魔物や動物を狩っていたのが原因だと思う。

生態系カーストの頂点に立つ猫耳完璧超人のギルドマスター補佐官。

……属性盛りすぎじゃね?


「……パパ?またルミアお姉さんのこと考えてる……」


「お兄ちゃん、私達のことも構ってくれないと嫌だからね……?」


ルミアとレーナが俺に抱きついて、そんな可愛らしいことを言ってくる。

目のハイライトは消えているが……重い愛情というのは心地が良いものだから特に気にならない。

むしろ愛おしく感じる。


「ごめんごめん。あの襲撃以降何もなかったからな。よしよし」


俺はそう言って、2人を抱きしめて頭を撫でる。

途端にとろけ顔を浮かべるレーナとリーア。

やっぱりこの2人は天使だろう。天使じゃなかったら……女神か?


「…………私もいつかはあんな風に撫でてくれるのでしょうか……?いえ……そんな贅沢を思ってはいけません……!」


御者席の方でルミアが羨ましそうにこちらを見つめている。

……やっぱりフラグが立っているような気がする。

どこでそんなフラグが立ったのかなぁ……。


「……旭さん、ウダルの街に着きました。降りる準備を」


そんなことを考えている間に、ウダルの街に着いたようだ。

ルミアが顔を若干赤くして、ウダルについたことを教えてくれる。


俺たちはゴーレム馬車から降りて、ウダルの街を眺める。


「わぁ〜……!ここがウダルの街なんだね!畑がいっぱいある!」


「ダスクの街とは違って農業が盛んな街なのね……!美味しいものがたくさんありそう!」


レーナとリーアが嬉しそうに声を上げる。

2人の言う通り、ウダルの街は農業などの第1産業が発達した街と言えるだろう。

畑がいたるところにあり、牛みたいな家畜が放牧されている。

……なんか北海道に遊びに行った時に見た牧場を思い出すな。


「感動するのはわかりますが、早めに冒険者ギルドに行きましょう。宿も探さないといけないでしょう?」


そんな俺たちを見たルミアが、やるべきことを指摘してくる。


「はーい。パパ、いい宿があるといいね」


「そうだなぁ……。ダスクの時みたいに防音完備のところがあればいいけど……」


ルミアに促された俺たちは、今日から泊まる宿の話をしながら冒険者ギルドに向かった。



ウダルの冒険者ギルドに到着した。

ダスクの街ほど大きくはないが、街の区役所ほどの規模はあるだろう。

俺達は依頼達成の報告のために、中に入っていく。


「おい、兄ちゃん!ここはお前のようなガキがくるような場所じゃ……【氷の女王】!?」


「【氷の女王】って、男嫌いで有名なダスクの裏のギルドマスターと噂されているあの!?」


「なんでそんな奴と一緒に入ってきてるんだよ!何者だ……あいつは……!」


てっきりいつものようにテンプレイベントが発生するかと思っていたのだが……ルミアのおかげで回避できたようだ。

レーナとリーアもポカーンとした表情をしている。

ルミアが男嫌いなのは知っていたが、隣街にまでその噂が広がっているとは……。


「旭さん……?レーナさんとリーアさんもどうしました?早く受付に行きましょう」


ルミアはそんな周りの男達の声など聞こえていないかのように、受付に向かって歩いていく。

周りの男達にゴミを見るかのような視線を向けている。

俺とレーナ、リーアはそんなルミアを見て苦笑する。


「パパ、ルミアお姉さんもああいう風に言っているんだし、わたし達もいこ?」


「レーナの言う通りね。これ以上あんな男達の視線に晒されたくないし」


「……それもそうだな。行こうか。ルミア、ちょっと待ってくれ、すぐにいくから」


ルミアより少し遅れて受付にたどり着く。


「えっと……ダスクのギルドマスター補佐さんがどうされたのですか?」


あ、受付の人も困惑してるわ。

そりゃ隣町の冒険者ギルドの、しかも結構偉い立場にある人間がきたらびっくりするわなぁ……。

ルミアはそんなことは些細なことだと言わんばかりに、受付の人に説明を行う。


「今回は特別依頼の同行者としてきました。これが依頼の用紙になります。情報については後日改めてお伝えします」


「……確かに受け取りました。旭さん……でしたっけ?依頼お疲れ様でした。報酬をお持ちしますので、少しお待ちください」


そう言って受付の人は奥に引っ込んで行った。

俺達4人は他の冒険者の視線を浴びながら、その場で待つ事にする。

他愛ない雑談をしていたら、1人の男冒険者が俺達に近寄ってきた。

女性なら一目惚れするであろうイケメン君だ。


「ルミアさん、初めまして。貴女の御噂はかねがね聞いております。もしよかったら、そちらの女性2人も一緒にこれからご飯でもいかがですか?」


あ、このイケメン……女とヤりたいだけのクズだな。

現に俺のことを無視して女性陣に話しかけているし。

話しかけられた3人は露骨に嫌な顔をしている。

……普通ならここで諦めると思うのだが……。


「もしかして、そこの男が気になっている感じ?そんな男より俺の方がいいと思うよ?実は俺Cランクの冒険者なんだよね」


男はレーナ達の視線に気がつかないまま、ペラペラと自慢話をしている。

俺達はBランク冒険者なのだが……。

あれか?俺達が初心者だと思っているな?

まぁ、まだレーナとリーアの体に触れていないから抑えておこう。

俺は我慢のできる人間なのだから。


「……貴方、私は旭さんの同行者であり、こちらの2人は旭さんのパーティメンバー且つ大切な人です。その醜い姿をこれ以上晒すことなく、立ち去ることを勧めます」


流石にうざくなってきたのか、ルミアが男に立ち去るように通告する。

ルミアの言葉を受けて、男はムッとしたように俺の方を睨んできた。

……どうしてそこで俺を睨む?

ウザがられているのは自分のせいだろうに。


「そうか、お前がいなければこの見目麗しい女性達は食事に行ってくれるんだな?おい、見た目が微妙なおっさん!俺と勝負しr……「「……おっさん?」」……え?」


あ、レーナとリーアがキレた。

あーあ。どうなっても俺は知らないぞ?

男も2人の妙なオーラに戸惑っているように見える。


「ねぇ……そこの自称イケメンさん?今誰のことをおっさん呼ばわりしたのかな……?わたしの聞き間違いでなければ、パパのことを見ながら言ったように聞こえたんだけど……」


「レーナ、この男あからさまにお兄ちゃんを見ておっさんと言ったわよ……?」


「い、いや……おっさんじゃないか……。見た目30歳に見えるし……」


このイケメン君、中々に傷つくことを言ってくれるじゃないか。

俺はまだ26歳だというのに。

……確かにアラサーだけどさ……。


しかし、イケメン君の言葉はレーナとリーアをさらに怒らせる結果となった。

2人とも【狂愛】のオーラを全開にして佇んでいる。

【狂愛】にとてつもない殺気が混ざっているのは、気のせいではないだろう。


「……二度もパパのことをおっさん呼ばわりしたね……?」


「レーナ、この男に制裁を加えないと……。お兄ちゃんはあんなにもかっこいいのに……!こんな顔だけが微妙にかっこいいだけの男とは違うことを叩き込まなきゃ……!」


「そうだね……!……ルミアお姉さん、依頼の報酬を受け取っておいてくれますか?わたし達はあの男を懲らしめてくるから」


「お兄ちゃんも一緒にいてね?私達だけじゃ、歯止めが効かないと思うから……」


「……はぁ、仕方がないですね。私もその男の発言にはイラついていましたし……。終わったらここへ戻ってくるんですよ?」


「「はーい」」


レーナとリーアはルミアに依頼の報酬の受け取りをお願いして、俺の両腕に抱きついてくる。

ルミアは呆れ顔をしつつも、男を懲らしめる事に対しては賛成的なようだ。

……というか、俺が2人について行くのは確定なのね。

まぁ、あんな男と歩いているのを見ただけで殺意が湧いてくるから正しい判断と言えるだろうけど。


「な……なんなんだ……!?君達はFランク冒険者なんだろう!?……まぁいいさ。俺が勝ったら俺のパーティに入ってもらうからね。そこのおっさんもそれでいいだろう?」


「いや、別にそれは構わんよ。どうせお前がこの2人に勝てるとは思えないし」


「……ハッ!自分が勝てないからって恥ずかしいと思わないのか!?」


イケメン君が残念な勘違いをしている。

そこの2人よりも俺の方が圧倒的に能力が高い事には気がつかないようだ。

……まぁ、当たり前といえば当たり前だが。


「パパがわたし達より弱い……?あぁ、実力をしっかり見極められないからそんな残念な発想しかできないんだね」


「レーナ、こんな男に何を言っても無駄よ。私達の力で徹底的に叩き潰しましょ……?」


「ふ……ふん!俺の方がいいと思わせてあげるよ!じゃあ、今からこのギルドの決闘場にきたまえ!」


イケメン君はそう言って 、冒険者ギルドの外に出て行く。

というか、決闘場があるんかい。

冒険者ギルドにはそう言う場所を設営するのが基本なのか?

まぁ、冒険者同士のいざこざなんて日常茶飯事だろうから設営していないとダメなのか。


「パパ、わたし頑張るからね!絶対にあの男を再起不能にしてみせる!」


「私も頑張るから……終わったらご褒美ちょうだい!」


レーナとリーアは俺に抱きつくようにして、そんなことを言ってくる。

俺は頭を撫でてから抱き上げつつ、2人に注意だけしておく。


「俺のために全力を出してくれるのは嬉しいが、殺すなよ?ウダルについて早々人殺しは運気下がりそうだし。後、無茶はしないように。それを守れたら……うん、今夜は頑張るとしよう」


「「「何を頑張るんだよ……!」」」


他の冒険者達からそんな声が聞こえてくるが……何って決まっているだろう?

俺の言葉を聞いたレーナとリーアは抱っこされた状態で、狂喜乱舞している。


「リーア、頑張ったらパパが今夜頑張ってくれるって!」


「えぇ、確かに聞いたわ!お兄ちゃん、覚悟しててよね?絶対にご褒美をもらって今夜は寝かさないから!」


俺は2人の言葉に苦笑しながら、冒険者ギルドの決闘場に向かって歩き出した。


……せめて戦う環境を整えるくらいはしてあげよう。

それくらいはしてもバチは当たらないだろう。


……依頼の報告に来ただけなのにどうしてこうなったんだか……。

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