ちゅけ

第1話


雪が降るな、と言うので視線を上げれば、どちらかというと晴れている空があった。

「雪ですか」

「このコが好きだったんだよ」

なるほど、抱えた黒枠の額におさまった老犬は、活達な目をしていた。遊ぶのが好きそうな、老犬なのに仔犬のような目だ。

「俺より先に逝くんだからな、可愛がった。しかし可愛がれば可愛がるほど悲しかった」

そうですね、わかります、と呟く。私が両手で持つ写真には、真白なハムスターが写っている。

これから共同墓地に眠る老犬と仔ハムスターは、雪を降らせるだろうか。

「そのコに伝えてくれ。天国で俺の犬を頼むと」

「…犬の方が強いじゃないですか」

「俺に似て駄目なコなんだよ」

空からは冷たい冷たい雨がおちてきた。泣けない二人は暫し、雨から護るように各々の写真を胸にぎゅっと抱き締めた。其処だけが温かい気がした。

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ちゅけ @chuke

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