ちゅけ

第1話


これは私が小学校四年生のときの体験です。


当時から人見知りの激しかった私を祖母はとても心配しており、夏休みには必ず遊びに来るようにと葉書を寄越すほどでした。

その日は海に行こうということで、前日から水着を枕元にたたんでおいたり、海水はしょっぱいかと祖母にきいたり、子どもながらに楽しさを演出しておりました。しかし運悪く雨が降り、引っ込みがつかない祖母が海へ連れ出してくれたのは夕刻でした。泳げはしないものの、ただ波が押したり引いたりする海の残骸を見ているのは心の休まるものでした。

しかし。

私の左側、三メートルほどでしょうか。真っ黒の人影がずっとずっと私を見ているのには気付いていました。

動いたら

気付かれたら

死んでしまう。

黒い人影は周りになにかヒラヒラと舞うものがありました。

たぶん、蛾です。

祖母が私に帰るよと声をかけたあと、ポケットからなにか取り出しました。そしてそれを私の頭と自分の頭にふりかけました。

視界の端から、人影が消えたのがわかりました。

「海にはいろいろ流れ着く。灰を持ってるといいよ。かえるから」


ドコヘ?

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ちゅけ @chuke

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