ライト・トゥ・ライヴ ─セカンド・ネスティ─
のんぐら
Good-bye,WEASEL
無題
「わかった。世話になる」
タヌキはその言葉を口にした瞬間、肩に入っていた力が抜けた。死ぬ気で生きるということは、どうやらとても肩の凝ることらしかった。
「じゃあまずは私の家に来てよ。コーヒーは飲める?紅茶の方がいいかな。紅茶はアヤノちゃんのほうが淹れるの得意なんだけどね」
タヌキと連れだって歩き、カシミヤは楽しそうに話す。まるで昔からの友人と語らうかのように。あるいは、生まれてからの時を共にする妹だろうか。
「くそ、アンタ強すぎるだろ」
「そうかな?私はただの自衛軍あがりだぞ」
にっこりと笑うカシミヤには、殺気など毛ほども感じられない。タヌキはその笑顔にまた、自分が戦っていた相手の大きさを思い知ることになった。
(俺はまだ表情筋が動かない)
カシミヤのバギーの荷台に収まり、タヌキは膝を抱えた。街にばら撒いた持ち物も回収したためもう日は暮れようとしている。暑い夜が始まろうとしていた。
「じゃあ出発。掴まっててね」
軽快なエンジン音を響かせ、バギーは走る。タチカワ新街に入って行く。タヌキは少しだけ寂しそうな顔をしていたが、すぐに無表情に戻った。
2つほどのスラムを通り外周区を抜けると、住居区に差し掛かる。ついぞタヌキの住むことがかなわなかった街。
(まぁ別にタチカワに住みたかったわけじゃねえけど)
それでも、住処から最も近い街だった。人生で一番長い間見ていた街だった。入ったことがなかったわけではない。しかし、すべて警備の間を縫っての非合法なものだったのだ。それがいま、カシミヤは住人証を右手を持ち上げてかざして、正面ゲートから堂々と入ったのだ。感じ入るものがあった。
イタチが住み、そして自ら捨てた街。2度と入ることを許されなかったイタチ。そのことを彼は何も言わなかったが、タヌキは深く考えずにいられなかった。
「なあ、カシミヤ。アンタ、両親はいるのか」
なんとなく聞いてみる。いない気がした。
「いないよ。私の自我が芽生える前に死んでしまった」
やはりどうだったか。思ったことを口に出す。
「俺もそうなんだ。小さい頃、捨てられて――」
「知ってる。施設から逃げ出して、どこかで射撃の腕を身に着けて、賞金稼ぎじみた真似をしてたんでしょ」
肩を震わせるカシミヤ。
「何がおかしいんだ」
拗ねたようにタヌキが言うと、カシミヤは大きく笑った。我慢できなかったとでもいうように、声をあげて。
「ははははは!!私もそうだからだよ!!ははははは!!!まぁ私はあまりに君の施設の隣の施設だったから、静岡の訓練学校で戦闘技術を学んだんだけどね」
それを聞いても、何がおもしろいのかタヌキには理解できなかった。だが、カシミヤは自分との共通点に惹かれたのだとなんとなくわかった。
(俺の周りには、俺に似た奴が集まるんだな)
世間からつまはじきにされたイタチも、幼いころ親に死なれ施設に入っていたカシミヤも。タヌキによく似た孤独を抱えている。
だが。
「だから私が、君の面倒を見るよ」
イタチ。見てるか。俺はどうやら、ひとりぼっちにはさせてもらえない星の元に生きているみたいだ。
「アンタまだ20歳くらいだろ。そんな余裕、あんのか」
憎まれ口を叩く相手には、しばらく困りそうもないや。そっちから見ててくれ、イタチ。
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