王女の崖っぷち結婚狂乱曲

プロローグ

遠い昔、この大陸を治めていたのは、悪辣非道な蟲王であった。

蟲王は人を生贄に求める虫神を信仰し、毎夜毎夜、生贄を求めた。

そして、虫神のために豪奢な神殿を建てると、そのために重い税を人々にかけた。

花のように美しいと称えられた都は、無残にも荒れ果て、重税と生贄に怯える人々は門戸を閉じた。

そんな暴君に反旗を翻したのは、穀一族と羊一族であった。

二つの部族は手を取り合い、百夜の戦いを経て、蟲王を倒した。

そして穀一族は旗頭としてこの大陸を治める黄国を打ち立て、羊の一族は未開の東の地へ旅立った。だが、この二つの一族は、互いの友愛の印として、代々婚姻関係を重ねてゆくことを約束した。

そう、これは、遠い遠い昔の物語。

大きく黄色い河が、濁ることなく清らかに、悠々と流れていた時代の物語。