皇帝(実の弟)から悪女になれと言われ、混乱しています!
魚谷
序章
第0話
真っ赤な炎が壁を這い上がり、天井を舐める。
柱が倒れて、部屋の一画が崩れるけたたましい音が、つんざいた。
濛々と立ちこめた黒煙が視界を奪う中、少女――瑛旬果が部屋の真ん中で臥している。
(母上……父上……助けて……誰かっ……)
少女は涙ぐみ、虫の息。
そして少女の瞼がゆっくりと下りていこうとしたその時、窓が外より割られ、熱気を払うように、外気が少女の頬を撫でる。
同時にチリン……。涼やかな鈴の音が聞こえた。
少女は長い睫毛を震わせ、目を開ける。
そこには、艶やかに光る黒い体毛に包まれた獣人がいた。
「旬果様。もう大丈夫ですっ」
二足歩行の獣人はそう言った。
その眼差しは、真っ赤に燃え盛り、凄みを湛えている。
しかし少女は恐怖を微塵も感じず、頬を緩めた。
「ありがとう……」
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