自分探しの旅

パスポートを盗まれた。

初めての海外旅行に浮かれて、カメラで写真を取っていたところいつの間にか子供に囲まれ、お金をせがまれたので少し恵んでやろうと金を渡したら。顔に水をかけられ、バックの中身を根こそぎ取られた。それを見逃さなかった私は蜘蛛の子を散らしたように逃げていく1人を追っかけた。


さすが地元の子と言ったところか。道と言えるかわからない道を曲がったり、上がったり、下ったり、くぐったり。獣道より細い道や蜘蛛の巣だらけのトンネル、足を取られる砂道。目に砂が入ったり、髪の毛に蜘蛛の巣がついたり、葉っぱで頬を切った。顔が焼けるように熱い。

走って走ってやっと追いついた。


右手に強く握られたパスポートを奪い取ったら、諦め子供は走り去っていった。

少し変形したパスポートを確認すると、写真は全く見たことのない人だった。

名前は自分自身の名前ではなく、全く違う名前が入っていた。

幸い国籍が同じだったので、大使館に持っていく。


「パスポートを拾ったのですが。」

「こちらですね。ありがとうございます。」

パソコンに向かい確かめようとする女性の表情が少し曇った。

「あの、本当にこのパスポート拾われたものですか?」

「はいそうですが。」

「このお写真どう見ても、あなたの顔にしか見えないのですが。」

「?そんなこと...。」

とふと机の上の鏡を自分の顔がパスポートと同じ顔になっているではないか。

走っている間に自分の顔が変わり、今までの記憶もかき消されてしまい、そして新しく生まれ変わってしまった。


自分探しの旅とはこのことだったのか。

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