自分探しの旅
パスポートを盗まれた。
初めての海外旅行に浮かれて、カメラで写真を取っていたところいつの間にか子供に囲まれ、お金をせがまれたので少し恵んでやろうと金を渡したら。顔に水をかけられ、バックの中身を根こそぎ取られた。それを見逃さなかった私は蜘蛛の子を散らしたように逃げていく1人を追っかけた。
さすが地元の子と言ったところか。道と言えるかわからない道を曲がったり、上がったり、下ったり、くぐったり。獣道より細い道や蜘蛛の巣だらけのトンネル、足を取られる砂道。目に砂が入ったり、髪の毛に蜘蛛の巣がついたり、葉っぱで頬を切った。顔が焼けるように熱い。
走って走ってやっと追いついた。
右手に強く握られたパスポートを奪い取ったら、諦め子供は走り去っていった。
少し変形したパスポートを確認すると、写真は全く見たことのない人だった。
名前は自分自身の名前ではなく、全く違う名前が入っていた。
幸い国籍が同じだったので、大使館に持っていく。
「パスポートを拾ったのですが。」
「こちらですね。ありがとうございます。」
パソコンに向かい確かめようとする女性の表情が少し曇った。
「あの、本当にこのパスポート拾われたものですか?」
「はいそうですが。」
「このお写真どう見ても、あなたの顔にしか見えないのですが。」
「?そんなこと...。」
とふと机の上の鏡を自分の顔がパスポートと同じ顔になっているではないか。
走っている間に自分の顔が変わり、今までの記憶もかき消されてしまい、そして新しく生まれ変わってしまった。
自分探しの旅とはこのことだったのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます