第2話 人間牧場
「う、う、うーん、ここは...どこ?」
一体どれぐらい寝ていたんだろうか?辺りが暗いことから大分時間が経っていることが分かる。そして、手が縄で拘束されている。そして、僕は檻のような所に入れらている。この状況は、だれがどうみてもかなりやばいと感じるだろう。
「気がついたかね?」
話しかけられた方を見てみると僕をさらった男が暗闇に立っていた。
僕は、なんて話ていいか分からずに黙っていた。
「どうしたんだね黙ってしまって?あ、そうか、緊張しているのか、そうか、そうか...」
勝手に質問して、勝手に結論を出して、勝手に納得してる。気持ちの悪い男だ。
そんな事を思い浮かべていると何処からか声が聞こえてきた。
「やめてっ!!来ないでっ!!許してっ!!きゃーっ!!!」
それは、よく聞くと女性の悲鳴だった。もっと詳しく説明すると、断末魔に近い感じだった。
しばらく、納得のいく答えが出ずに黙っていると、男は1人でに説明をし始めた。
「ここは、人間牧場ていうのが1番分かりやすかな。奴隷となる人間を育てるために、若い女をさらってきて子供を産ませて、その子供をある程度まで育てたら奴隷として売る場所だよ。そして、今聞こえた声は、君と同じここに連れてきた、確か...13か14ぐらいの女の子の声だな。さっそく、作業に取りかかっているんだろうな」
話を聞いていて僕は、ひどい吐き気が出てきた。男の言っていることの気持ち悪さや、衛生状態の悪いここの臭いが吐き気を呼んだのだろう。非常に、気分が悪いのだ。
「なぁに、心配しなくても大丈夫だよ。君の事を酷く扱ったりすることはないからさ。じゃあ、今日はもう遅いから明日また話そうね。明日には、君にも彼女と同じような事をしてもらうからね。じゃあね。楽しみにしておくよ、なんせ担当は、わ・た・しだからね。はっはっはっはっはっはっはっ」
そう言って、男は僕の前から離れて行った。
言っていることと、やっていることが矛盾している。早く出ないと僕の人生は、また終わってしまう。また、どん底に落ちてしまう。僕は、早くここから逃げようと思い、必死に縛られている手を動かした。
だけど、きつく縛られている手は動かすほど縄にくい込んできて痛くなった。そして、もがくのを止めて、ため息をついた。
「ふぅーーーー」
こんな、生き地獄みたいな所で一生を終えるのは絶対に嫌だ。
多分、こんな施設には、見張りとしてあの男以外にも何人かいるんだろう。
だとしたら、脱出するのは至難の技だ。そして僕は、今までにないぐらいに頭がシャットダウンするぐらい脳みそをフル回転させた。
考えた結果、チャンスがあるとしたらあの男がこの檻の中に入ってきた時の1回しかないと思った。
だとしたら、その時に全身全霊の力を込めてあの男を倒し逃げるしかないようだと思った。
夜が明けた。薄らと陽の光が檻の中を照らし、気持ちいい光が体に当たるが空気の悪さは変わらずに最悪だ。
一睡も出来なかったから体調は最悪だが、今から昨日考えた事をしないと僕の人生は終わってしまう。
「コツ...コツ...コツ...」
足音がこっちに向かっている。どうやら変態が来たようだ。
「おはよぉー、昨日は眠れたかね?」
眠れるわけないだろうが、少しは考えろ。
今すぐにでも「ここから、出せ!!」や「家に帰らせて!!」と叫びたかったが相手を油断させるためにここは、あえて何も言わない事にした。
「............」
「どうやら、元気が無いみたいだね。うーん、まぁいっか。どうせ後で嫌でも元気になるんだしね......」
そう言って男は、ポケットに手を入れ何かを取り出した。
「これが見えるかね?」
僕は、目を丸くしてそれを見た。
男が取り出したのは注射器だった。中には、よくわからんないがヤバそうな液体が入っていた。
その瞬間に悟った...
それは、男にも伝わったらしく...。
「どうやら、察しがいいようだね。そうだよ、この薬を注射したら冷静な判断が出来なくなって、人間を生きたお人形さんのようにかえてしまうんだよ。良かったねー、これからは、何も考えなくていいんだよね」
自然と涙が出てきた。気持ちよりも遥かに早く身体が反応してるのを感じだ。
嫌だ...嫌だ...嫌だ!!!。「生きたお人形」なんて絶対に嫌だ!!!
心はそう叫びたがっていたが、喉が震えていて上手く声が出なかった。唯一出せたのは「あ...あ...」と悲痛で小さな叫びだけだった。
頭の中で考えていた計画は、見事に白紙に戻っていた。
「では説明も終わった事だし、早速始めようか。大丈夫、君のことは新しい娘が来るまで可愛がってあげるからね」
男は、持っていた注射器を構えてこっちに近づいてきた。
「止めてっ!!!!!!来ないでっ!!!!」
やっと大きな声で叫ぶことが出来たが、もう遅かった。
「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ、やっと女の子らしい反応してくれた。興奮してきたよ...」
そう言いながら、注射器の針を僕の腕に向けていた。
もう涙が溢れて止まらなくなっていた。顔はぐしゃぐしゃになっていて、身体の中から熱くなってきて何かが込み上げて来ていた。
「じゃあね。これを打ったら君の理性は無くなるからお別れだよ。新しい君の誕生に祝福を祈るよ」
「嫌だっ、嫌だっ、嫌だっ、嫌だっ、嫌だっ!!!僕は嫌だっ!!!」
わ今日1番の大きな叫び声を出した。
最後に誰かにこの声が届いて欲しかった。
「それじゃあ、打つね」
恐怖でもう声が出なくなっていた。
半ば諦めた時だった。
「バゴーン!!!!」と大きな音が聞こえてきた。その瞬間施設全体が大きく揺れた。
「何事だ!?」
「何事かじゃねぇだろうが、こんな事しやがってよ」
聞き慣れた声が聞こえてきた。
「覚悟は、出来てるんだよな。俺の院生にこんなことして、ただで済むと思ってるとか言うんじゃねぇだろうな?」
そこに現れたのは、先生だった。
その声と言葉は、先生の声だった。だけど、いつもより荒々しく力強い感じがした。
「一体誰だお前は!?」と男は少し動揺しながらも落ち着きながら言った。
「俺か?俺はただの孤児院の先生だよ!!!」
そう言った先生の右手には、一度も見た事もない片手剣を持っていった。そして、左腕には小さな盾をみにつけていた。
「なるほど、どうやらこの子を迎えにたようだね。しかし残念だったね。この子は、もう私のだよ!!」
続けて男は話し出した。
「私は、こう見えて武闘派でね。格闘技を軍隊にいた時に習っていたんだよ、それに私の使う魔法は催眠系の魔法でね。そして、その力で今の仕事をしているのだよ」
男は、顔から自信が出ているように、話していた。
「それで?」
「つまりだ、私が勝つんだよ。君にね」
未だに声の出ない僕の喉は小さく息を飲んだ。
「話は終わりか?」
先生は、冷静に言った。いや冷静と言うよりも退屈と言った方が正しい。
「準備が出来たならやるぞ。待ってろよアルン、すぐ助けるからな」
「臨む所だ。かかって来い、返り討ちにしてやるよ!!」
その姿に男にもう紳士の面影は、残っていなかった。
先生は片手剣を抜いた。その瞬間だった、先生の姿が一瞬消えた。次の瞬間に男の前にいた先生は、男の後ろ側に立っていた。
「いつの間に!?」
「俺のこの片手剣は、ペガルダて言う名前でね。神速の剣なんて言われていて、使う者の動きを限界まで速くすることが出来る剣なんだよ」
先生が言い終わると同時に男の左手から血が吹き出した。
「うぉぉおおおおお!!!手が!!手が!!お前一体何者なんだ?」
「俺は、ただの孤児院の先生だよ」
「嘘をつくな!!!ここまでの腕前の奴が孤児院の先生なわけないだろ!!」
「そうかもな」
先生は、男の言葉を吐き捨てるように言った。
「じゃあ、トドメと行こうか」
先生は、片手剣を構えて男の方を向いた。
「ワイルドウィンド!!!」
先生は、目に見えない速さで剣を振った。そこにいつもの農作業や家事をしている先生の姿はなかった。
次の瞬間、男は何かに当たった様に突き飛ばされて壁に激突していた。そして、男の服は縦に大きく裂けていた。
「お、お前一体...何をした?」
「高速で剣を振ることで空気の中に真空を作ったんだよ。言わゆるかまいたちと言うやつだよ」
「そんなことが出来る訳ないだろ!!」
「理論的には出来るんだよ。このペガルダには、それを行うだけの力がある」
「な...る...ほ...ど...」
男は、そう言って気絶した。
先生は、剣をしまって僕の方に歩いてきた。
「今縄をほどいてやるからな、少し待ってくれ」
先生は僕を縛っていた縄を解き始めた。いつもの先生に戻っていた。
僕は震えた声を何とか出した。
「先生......」
「ん?どうしたアルン?」
「うぇーん!!先生助けてくれてありがとうぅぅ!!」
僕は先生に抱きついて泣いてしまった。今までこんな事したことなかったのに抱きついてしまった。
すると、先生は優しく介抱するように僕の頭を撫でて喋った。
「もう大丈夫だよ。ゴメンな、探すのに時間がかかちまったんだよ。だけど見つけることが出来て良かったよ」
「もう、先生のバカ!もっと早く見つけてよ!!あとちょっと遅かったら......ほんとに怖かったんだから...」
「そうだな、悪かった。よいっしょとっ!」
すっかり腰が抜けて立てない僕を先生は、お姫様抱っこしてくれた。
「帰って美味しいものでも食べようや。美味しいものでも食べたら元気が出るだろうしね」
先生は、そう言ってゆっくりと歩き出した。
僕は、疲れたから少し先生の腕の中で眠った。
力強い先生の腕の中は、案外居心地は悪くなかった。
施設を出た僕と先生は、先生の乗って来た馬車を走らせ始めた。
僕は、馬車を操る先生の横に座って先生に話しかけた。
「先生て昔何してたんですか?」
そう聞くと先生は、少し間を置いてから喋り出した。
そして、僕は知った。先生のとんでもない過去とカヨサイトに来た経緯の事を...
「俺、元々騎士だったんだよ、国王直属のロイヤルナイツていうグループに入ってたんだよね」
「それで、まぁ色々あって騎士辞めて、カヨサイトのおばぁと会って、カヨサイトで働いてる訳よ、理解した?」
「出来ねーよ!!」
僕は、思わずつっこみを入れてしまった。てか、ロイヤルナイツてなんだよ!?
「てか、ロイヤルナイツてなんですか?聞いたことないですよ」
「えーとね、ロイヤルナイツて言うのは、詳しく言うと、大国の騎士団の団長のみ入れるグループだよ。大国には、12の騎士団があってその団長が入ってるのがロイヤルナイツてことよ」
ちょっとこの人が何言ってるか理解出来ないので、少し整理してみよう。
つまり、僕の隣にいる人は、元王国の騎士のトップとして君臨していて、なんだかんだあって騎士やめて、カヨサイトの修道女のお婆さんに会って、冴えない孤児院に務めることになったてことか!?何それ!?やばいやつじゃん!?
「先生は、なんで孤児院で先生なんてしてるんですか?」
僕は思ったことを伝えてみた。
「うーん、成り行きかなー。やることもなかったからねー」
「おっぃぃぃいっ!!」
僕は全力でつこんだ。
にわかに信じられない事だったが、先生の実力は、本物だった。
悔しいが認めるしかなかった。
カヨサイトで働く先生は強かった。 光矢野 大神 @junia1125
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