死人と元彼女
@po_4869
第1話
僕はまた一人部屋で泣いている。
ずっとこのまま一人で泣いて死ぬんじゃないんだろうか、いや、死ぬなら今すぐ死にたい。
でも死ぬのは怖いから消えたい。僕の存在を消してしまいたい。友達も彼女もこんな僕といるのが疲れたのか離れていった。家族はいるが三日に一度僕の家に食糧を持ってくるだけで会話はしない。例え家族であっても誰とも話したくない。
「どこか僕のことを知らない所に行きたいな」
「今の僕はもう消してしまいたい」
そんな事を考えていると
ピンポーン
誰だろう、いつもなら出ない僕だったが何故かこの日は出てみようかと思った。心の何処かで一人でいる事に寂しさを感じていたのかもしれない。
家のドアを開けた。そこには離れていったはずの元彼女が泣きながら立っていた。
「どうしたの」
「とりあえず入れて欲しい」
外は雨が降っていた。ずっと家の中にいたから気付かなかった。彼女は凄く濡れていた。
一瞬迷ったが僕は家に入れる事にした。
僕の家は22歳の一人暮らしにしては大きい2DKの部屋だ。だが、今はその広さを感じる事が出来ない程ゴミで溢れかえっている。コンビニ弁当やパンの袋が入ったビニール袋がそこら中に転がっている。
元彼女を家に入れてすぐ、自分の部屋の汚さに改めて気づき、とりあえず部屋の隅にゴミ達を移動させた。
僕がゴミの片付けをしている間に元彼女はタオルを勝手に取り髪や服を拭いていた。そんな事をしていると泣き止んだらしくソファで何をするでもなくただ座っていた。
「前いた時よりも大分汚くなったね」と元彼女が言う。
誰もこの家に入れるつもりなんてないんだから仕方ないじゃないかと言おうとするが、今現在元彼女を家に入れているからこの言葉は口にする前に飲み込んだ。
「そうだね」と僕が返す。
「それで急にどうしたの」
「なんだか会いたくなって」
「何かあったの?」聞きたくて仕方なかったがこの言葉も口にする前に飲み込んだ。
これを聞いて僕の事も根掘り葉掘り聞かれるんじゃないか、そうなれば自分の辛い過去を思い出して泣くだろう。僕が泣いたらまたこの子に迷惑をかけて一生会ってくれなくなるんじゃないかと思ったからだ。
「そうなんだ、僕は君の事忘れかけていたよ」
嘘だ。本当のところはこの子が離れていってから毎日この子の事を思い出して泣いていたのに。初めて会った時の事や一緒に行った動物園の事を思い出すたびに後悔が涙となって流れていた時の事を思い出す。
「その強がる所変わってないね」
この子は本当に僕の事を理解している、そんな錯覚に陥りそうになる。でも、これは誰に対しても相手の事をしっかり考える事が出来るこの子の良いところだ。一年半という短い期間ではあるがこの子とお付き合いをして分かった所だ。
それからはお互い口も聞かずに同じ空間にいるだけだった。
元彼女が来てから3時間程経った。元彼女はソファに座って携帯をいじっている。僕はというと、家主であるにもかかわらずカーペットの上であぐらをかいて座っている。
時計が18時を指した。今日は何も食べてないからとにかくお腹が空いた。
「なんか食べない?」僕が切り出す。
「じゃあ、何か頼もうか。私はピザがいいな」
「じゃあピザ頼もうか」
二人で携帯で近くのピザ屋さんのメニューを見ながらピザを決めてから注文した。
ピザが来るのを待っている間また静寂の空間に二人は放り出された。僕は決めた。どうして元彼女が突然僕の家にきたのか聞こうと。
「あの」
「ねぇ」
最悪だ。どうして僕はいつもタイミングが悪いんだろう。また自己嫌悪に陥る。
「どうしたの?」
「いや、濱田君から先に言って」
「分かった。じゃあ、どうして突然僕の家にきたの?」
「どうしても濱田君の事が忘れれなくて。
迷惑だと思ったけど、側に居たかった」
これは嘘だとすぐにわかった。この子が離れていってすぐにこの子は別の男と付き合っていると知った。SNSに男との仲良さげな写真をあげていたからだ。元彼女は僕がSNSはLINE以外してないのを知っているから、そんな写真の事など知らないだろうと思ったんだろう。だが、SNSで元彼女のアカウントを探す事は容易だった。僕と別れてすぐ別の男の所に行ったという事実も僕を苦しめていた。
「そうなんだ」
今の僕にはこの返事しか出来なかった。
「初めて会った時の事とか一緒に居た時の事を思い出してたらどうしても会いたくなって。初めて会った時の事覚えてる?」
元彼女が僕に微笑みながら問いかけてくる。
勿論、僕は初めて会った時の事をよく覚えている。
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