幕間 武技を知る

ガゼフとの手合わせ

 いやー、これが本当の剣を使った訓練かー。


 モモンガはこれからガゼフとの話し合いに臨む為、ガゼフ達に貸し出したシークレット・グリーン・ハウスの近くにゲートを使用し転移したときに見た光景に対しての感想である。


 思えば、魔法にしたってそうだけど・・・、ゲームの時はレベルを上げてスキルを取得したりして、力や技術を獲得出来ていたけど、今は現実なんだよね。

 ・・・よし、この話し合いの後ガゼフ殿と軽く手合わせしてみるか。


 アルベド、セバスとエンリ達一行を伴ない、ガゼフが居るハウスに向かいながら、そんなことを思っているモモンガであった。



 マジック・キャスターとやらは何でもありか・・・、一瞬で装備を整えられるとは。


 今ガゼフの目の前には、見事な装飾を拵えた漆黒のフルプレートを装備したモモンガが居る。


 それにしても・・・強いな、相対すると解るこの隔絶した強さ。明らかにサトル殿の配下の者達よりも強者だろうな。


「では、ガゼフ殿。軽く一手お願いします。」

「あい分かった。こちらこそ胸を借りさせていただこう!」


 そうして始まったのは、モモンガがその両手に持ったグレードソードで、優雅にガゼフの剣撃を往なすという光景だった。

 これに驚いたのは王国戦士団の戦士たちだ。

 普段圧倒的な強さを見せているガゼフが一方的に攻撃をさせられている様を見て、その表情は愕然としている。

 対して、アルベドとセバスはこれを見ても特に何も反応はしていない模様。当然の結果だと言わんばかりのものである。

 そして、エンリ達はエンリ達で、目の前で繰り広げられている光景に驚愕の目を向けていた。


 ガゼフの力強い一撃一撃をその場を一歩も動かずに、両の腕にある巨剣で以て円軌道を意識した動きで捌いているモモンガ。


 ふむ、近接職のみんなから多少手ほどきを受けていたけど・・・、明らかに今の方が動きが良い。・・・これは、前提スキルとかの影響かな?


 魔法取得に前提スキルがあるように、近接職が使用するスキルにも前提スキルが存在していた。それらは身体理解や武器習熟等である。モモンガは種々様々な前提を習得している状態で、しかもそれらスキルは最大値まで上げている。例えば軽装・中装・重装備をするための防具への理解や、ナイフや大剣等の武器装備に関するスキル、それらを装備したときの能力向上系スキル等も納めていた。

 ただ、こういった装備条件や前提を満たすためのスキルの取得を多岐に渡ってしているが、実際にその先の戦闘スキルに関してはあまりとってはいなかった、というか、前提スキルのとりすぎでそこまで手が出せていなかったのだ。

 モモンガの想定ではもう一回何かしらのアップデートがあり、レベル条件解放が来るとした上でのスキル構成だったのだが、そのアプデは終ぞ来ず、転移して今に至っている。が、この前提スキルを傍から取得した結果、今ここに純粋な戦士としての技量がとてつもない領域に達している、マジック・キャスターという存在が出来上がっているのだった。

 さて、そんな常軌を逸した技量を持った存在の前にいるのは、ガゼフ・ストロノーフという男。

 ガゼフはモモンガとの手合わせを続けるうちにどんどんと加減をしなくなっていった。

 それでも、モモンガはその場から一歩も動かずに攻撃を捌く。

 モモンガが持つ独特な形状のグレートソード、この先端部分は扇状になっているのだが、その部分には相手の武器を引っかけるための窪みが存在していて、ガゼフの攻撃を剣の腹で受ければ攻撃を流し、窪みにガゼフの剣を引っかけて相手の力を利用し流すように往なし、先端部分で受けた時も同様に窪みへと誘導して引っかけていた。

 本来、双剣という非常に攻撃的な装備状態の筈が、熟達した使い手になると柔軟性のある鉄壁へとなる事を知らしめられたガゼフ。

 そんな中ガゼフは能力向上を使用し可能性知覚を使った状態で、モモンガのこの防御を抜くどころか、揺らがすことさえ出来ないでいたのだ。

 幾分の時間がたっただろうか、ガゼフが一方的に攻撃をし続けていたが、一向に進展が無い状態を破ったのはモモンガの一言だった。剣と剣が擦れる金属音が響く中。

「そろそろこちらから行きますよ。」

 ガゼフの上段からの振り下ろしを漆黒のグレートソードの腹で受け流し、先端付近の窪みへと流し、引っかけ、そのまま攻撃を捌き切る。

 そんなグレートソードの現在は右手側は中段外側のやや下側、対してもう一本の左手側は点対称の位置、左手側は外側やや上側である。この状態から考えられる攻撃は、右手の振り上げか、はたまた左手の振り下ろしか、もしくは両手による挟み込みか、そう考えていたガゼフだったがモモンガが攻撃の意思を見せた途端それどころではなくなっていた。

 攻撃意思、すなわち殺気を受けたガゼフの身心は死の恐怖に晒されていたのだ。

 次の瞬間、ガゼフは自らの真下の股から天上の頭の先へとモモンガの振り上げた剣筋によって両断される様を幻視し、その場に膝を付けることになった。


「大丈夫ですか?ガゼフ殿。」

「あ・・・あー、大丈夫だ。」

 全身から冷や汗をかき、やや浅い呼吸を繰り返しながらも、なんとかモモンガが差し伸べた手を持ち立ち上がるガゼフ・

「サトル殿、強者だと思ってはいたが、ここまでの開きがあるとは。」

「まー、私の場合は種族的な物もあるでしょうし。」

「ふむ、やはり長い時間を修練に当ててきたのだな。」

 モモンガは自分の身に着けているものの大半が、何時の間にか手に入れた物であることに対して後ろめたい感覚を持ちながらも、

「えー、時間はたくさんありましたからね。」

「うむ、そうか。人の身でそこまで至りたいものだ。」

 そこで一呼吸を開けてガゼフが話を切り替える。

「さて!まだまだ先がある事を知れたのだ。これから精進しなければな。」

「えー、そうですね。私の方も収穫はありました。瞬間的に動きが変わることがありましたが、あれはなんでしょう?」

「あれは、武技と言って戦士の使用する魔法のようなものです。」

「武技・・・ですか。・・・、成る程魔法のような・・・ね。」

 モモンガは何か解ったのか、独り言を数言零しながら思考を始めるが、

「あっと失礼、いやはや、世界は本当に広い。」


 こうして、モモンガは自身とこの地での最強クラスの力量差を把握しつつ、この転移した先で新たに武技という技術を見つけたのだった。

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