受け入れる

 あの大爆発が起こってから当日を含め既に三日が経った。このたった三日の間に体調を崩す者達は増え続けている。

 漆黒聖典に所属する屈強な戦士たちさえも、この異常自体からは逃れられないでいた。例外として、隊長と番外席次のみがいつもと変わらず活動してはいたが。

 そんな、仕事を熟すには困難を極めるほど体調を悪化させていた光と闇の神官長だったが、こんな状況下では弱音を吐くわけも行かず、黙々と動き続けている。

 そんな中、やっとこの事態を引き起こした存在から派遣された使節団が到着するという事で、神殿前にやってきているスレイン法国側は、今か今かと待っていたのだが、いざその使節団一行が現れると、顔を絶望に染め上げたのだった。

 事前に告知された通りに、神殿前に黒い渦が出現しそこからは恐怖の権化とも呼ぶべきあの存在の王たるものが現れ、その者に続く形で現れたものも、ライトブルーの強靭な外骨格で覆われた蟲達の王たる雰囲気を纏うもの達であった。

 これを見た二人の神官長は、彼らの見た目もそうだが、その圧倒的な強者としての風格を肌で感じ取り、先方の要求を全面的に受けなければ未来は無いと、確信してしまったのだった。

 なので、スレイン法国側は、恐怖の存在が提示する条件をそのまま受諾する。


一つ、最上位神アインズ・ウール・ゴウン・ナザリック=グレンデラ・スズキ=モモンガ=サトル様を最上位神とすること。


一つ、神であるアインズ・ウール・ゴウン・ナザリック=グレンデラ・スズキ=モモンガ=サトル様は直接統治は行わない事。


一つ、全知的生命体との融和を今後の課題とする事。


一つ、スレイン法国は守護領域スレインへと名を変える事。


などと言ったことが要求され、これらすべてを無条件で受け入れる二人の神官長であった。力なく項垂れてやっと終わると思っていたスレイン側は、ある一人の行動によって、慌てるどころの騒ぎではなくなった。


 交渉とは名ばかりの、提示された内容をただ受け入れるだけだった会議も終わり、ナザリック側の使節団が帰ろうとしたとき、その人物はコキュートスの前に姿を見せる。

「あなたつよそー。あそぼ?」

「ヤメテオケ。お前デハ話ニナラナイ。」

「ヤダー」

 番外席次がそう言葉を零した瞬間、一瞬にして距離を詰めた番外席次が持っている得物でコキュートスを攻撃しようとした瞬間、バン!

 そこには片側の手で顔面を抑えられて身動きが出来なくなった彼女が居た。

 これを見た闇の神官長は絶句する。まさか、ここまでの差だったとはと。

「コノ者ノ処遇ハコチラデキメル。」

 そう言葉を残し、番外席次の頭を掴み上げたまま、彼らは来た時同様に黒い渦へと消えて行ったのだった。


「以上がご報告になります。」

 モモンガは本当に成功させてきたよ。と思いながら恐怖候の報告を聞き終えていた。

「ご苦労。まさか無条件で全ての条件をのむとはな・・・、逆に心配になってくるほどだ。」

「いえいえ、モモンガ様の御力を目の当たりにすれば当たり前の事かと。」

 う~ん、あの程度でそこまで思われちゃうのか~。今後はもっと加減をしないとなー。そういう意味で常識を知るため俺が積極的に外に出るのは必須か。あと、階層守護者クラスもある程度この世界の常識を肌で感じてもらわないとだめだろうな。


 モモンガは恐怖候との会話をそれで締めると、コキュートスが握ってる少女を見た。問題はこれだ・・・、どうするんだよこれ・・・。こんな弱い子をさー。


 モモンガの基準では番外席次は弱いとしか判断できないほどのレベルであったのだ。

「さて、それでコキュートス・・・、それは?」

「ハッ、帰リガケニコチラニ対シテ手ヲ上ゲテ来タ物デ、スレインニハコチラデ処分ヲキメルト既ニ伝エテアリマス。」

「う~ん、正直なところ会議の場でそんなことをしてきたとはいえなー。どうとでもなるでしょ?」

 そんな事を言われている番外席次であったが、今は非常に大人しくなっていた。流石に長時間頭を掴まれ続けるのは疲れたらしい。

「とりあえず、話を聞こうか。コキュートスそのままじゃ話も出来ないだろうし離してあげて。」

「ハッ。」

 コキュートスは番外席次の足を床に届くように腕を下ろし手を放す。

 周囲を興味深そうにキョロキョロと見回す少女にモモンガは問いかける。

「さて、お前の名前は?」

「絶死絶命ー。」

「ん?それが名前か?」

「そう!」

「そうか・・・。デミウルゴス、彼女の情報は?」

 デミウルゴスがこの数日で手に入れられた情報を伝えると。

「・・・そうか、このナザリックにて保護する。」

と、言葉少なに決定を下すが、今この場にいる全員が恐怖を感じていた、モモンガが発する怒りの前に。

 なんだそれは・・・、碌に教育もせずに戦う為だけに生かされていただと。

「デミウルゴスよ。今スレインを統治している者たちは大丈夫なのか?」

「はい、今後このような愚かなことを起こさないように指導してまいります。」

「そうか、また仕事が増えてしまったな。恐怖候の眷属たちをうまく使うのだぞ。」

 この指示を受けたデミウルゴスは、守護領域スレインにGネットワークを構築する。これによってスレインの情報は逐一ナザリックへと送られることになり、その成果としてスレインで保管されている六大神が残した、脅威となりうるアイテムが回収されることになった。

 その中にはロンギヌスや傾城傾国があり、これを見たモモンガは使う機会を与えずに回収できたことに胸を撫で下ろすのであった。

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