光を従えた闇を統べる神様

 何なんだこれは?

 生き残ったのはたった数人の様だ、それも全て女性のみで、この二人以外は無理やりに犯されている所だったようだ。

 犯されなかった少女二人にしても、姉は背中に傷を負い、かなり出血していたのだろう、その顔は非常に生気がないものだった。

 もう少し、ルベドの回復が遅かったらどうなっていたことか。

 俺は、目の前の無残な姿を晒してしまっている少女の裸体を隠すため、アイテムボックスを開き、急いで素材アイテムから適当な布地を取り出して渡した。

 その後の事はあまりの怒りに覚えていない。ルベドに「大丈夫?」と言われるまで、俺はそこに立ちすくんでしまった。

 ルベドの声に引き戻され、目の前を見ると俺の前に涙を流しながら、「ありがとうございます」と言い、地に膝を突き頭を下げている生き残った女性たちが居た。

 どうやら、俺が怒りに震えている間にセバスとルベドが助け出して、俺の前まで連れてきてくれていたらしい。

 俺は一瞬この村の人たちの蘇生を考えたが、騎士たちのレベルの低さから、この世界に住まう人々が相当弱いと想定、蘇生に関しては慎重になるべきと思いルベドに声を掛ける。

「ルベドよ死した者たちすべてに祝福を。」

「いいの?」

「あー、死とは生命全てに平等に訪れるもの、そんな状態の者たちを区別する必要はない。」

「分かった。モモンガ様。」

 ルベドは俺の言葉を受けて、背中から生える髪と同じ色の赤い羽を広げ宙へと浮かび上がり。

「聖なるかな、聖なるかな、聖なるであることは、主の元に来ることができる。」

 そう言いつつスキルセラフィム・ブリージングを発動させたようだ。すると、周囲に倒れていた者たちの身体から、魂が漂い俺の身体へと集まってきた。

 その魂を身に宿した俺は理解した。今回の事の顛末を、彼ら騎士達はバハルス帝国の騎士に偽装したスレイン法国の騎士。

 彼らの持っている情報は非常に少なかったが、どうやら何か目的があってこの様な事をしでかしたようだ。

 後続の部隊もいるようだ、他に有益な情報が無いかと彼らの魂を覗いていると。

「モモンガ様、ご無理は為さらないで下さい。」

 開いたままにしておいたゲートから、完全武装のアルベドが出てきた。

「だいじょ・・・。」

「モモンガ様ご無理はいけません。」

「あー、解っているが、まだある。」

 アルベドは俺の隣に立ち寄り添ってくれている。鎧越しだけど確かな温もりを感じる。大丈夫。俺は動ける。

「ありがとう、アルベド。セバスとルベドもありがとう。」

「はっ、モモンガ様に仕えるものとして当然のことをしたまで。」

「どういたしまして。」

 ふ、ほんと優秀な子供達だ。


 私の目の前では、天使様によって集められた魂が、死神様の身体に吸い寄せられる、物語の様な神秘的な光景が広がっていた。

 周りを見回してみると、生き残っていた他の人たちもこの光景に見入っていたようだ。隣のネムなんかは「わーきれー。」と、かわいらしい声を上げているが・・・、私は、私たちはこの後どうすればいいのかわからなかった、しばらくすると地面から少し浮かんでいる、神様たちが現れた黒い渦から、黒い鎧を着た・・・おそらく女性が現れ死神様に寄り添い、何かお話をされているようです。

 新しく現れたその鎧の方とのお話が終わったのでしょう。死神様は私たち村の女性たちに声を掛けてきました。

「さて、生き残った皆さん、まずは、これからの事を話しましょう。とはいえ、貴方方は今非常に疲れていると思いますので、まずは体と心を癒すために私の住まう場所に案内をしようと思います。もし、ここに残りたいという方が居ましたら無理強いはしませんがお勧めしません。どうでしょう?」

 死神様の声はとても優しげでした。さっきまで私を犯そうとしていた騎士たちのそれとはまったく違う。私たちの事を気にかけてくれる言葉を投げかけてくれた方を否定するという選択肢は、私の中には全くと言って有りません。周囲に目を向けると。

 皆と目があいました。

「全員ついて来てくれるという事でいいですか?」

 私は肯定の意思を伝えるために、頭を縦に振りました。横ではネムも一緒になって同じ動作をしています。

「ふむ、ではセバス。これから私の自室に彼女達を案内してくれ。その後は・・・そうだな体を清めてあげて、ゲストルームで休んでもらえ。それと、彼女たちの世話はユリを監督役として一般メイドから人数分付け、ユリ・アルファには彼女達が落ち着いたらナザリックについて教えてくれと。」

「はっ、畏まりました。モモンガ様。では、皆様これより我が主モモンガ様の支配領域へと御案内いたします。」

 私たちは、死神様にセバスと呼ばれた男性に先導されて、神の住まう場所へと向かったのでした。


 生き残った五名の女性たちをセバスに任せ、第十階層ナザリックに送り出しゲートを閉じた後。俺はマス・メッセージにてアルベドとデミウルゴスと今後の展開をどうするか相談を始める。

「さて、まずは断りもなく勝手な行動をしてしまった。すいませんでした。」

 メッセージ越しにデミウルゴスが、

「モモンガ様は、その御心のままに行動して下さい。私たちはそれを全力で以ってお支えします。」

「ありがとう。では、謝るのはここまでだ。これからの動きについて相談したい。」

 アルベド、デミウルゴスから「はっ、畏まりました。」と返答を受け、俺はさっきこの体に集まった魂から得た情報を二人に伝える。


「なるほど、ではすぐにでも後続の部隊がやってくる可能性がある訳ですね。」

「そうだ、そこでデミウルゴスには周辺の探索を、そこにあるミラー・オブ・リモート・ビューイングで行ってほしい。」

「畏まりました。モモンガ様。」

「それと、グレンデラ軍の編成は?」

「はっ、ナザリック地表部にてアライアンス1を待機させております。またこの編成は人間に見られても嫌悪感が得られにくいよう、吸血鬼を採用しましたが、数を揃えるために少々レベルが低くなってしまっています。」

「ふむ、それに関しては恐らく問題ないだろう。私の絶望のオーラレベル5だけで、この地に居た騎士たちは全て倒せたのだからな。」

「なるほど、即死への耐性も碌に持たないほど脆弱な騎士とは・・・。」

 デミウルゴスは呆れたような物言いだな。

「ふむ、なので現地の戦力は相当弱いと思われる。故に村人の蘇生は今回見送っている。問題ないか?」

「はっ、それほどの弱さであった場合、下手に蘇生をすると余計な揉め事を抱えてしまう可能性があると思います。」

 アルベドが少し強めに俺を抱きしめながら答えてくれた。

「それで、デミウルゴスよ。編成したグレンデラ軍はシャルティアに頼んでこちらに送ってくれ少し試したいことがある。アルベドはルベドと共に俺の護衛だ。今思いつく対策はこの程度か。二人は何かないか?」

「モモンガ様、情報が少ないのでこれがベストかと。後は状況を見ながら適宜行動させていただきます。」

「うむ、デミウルゴス。場合によっては困難な判断を任せてしまうかもしれないが、ナザリック一の智者としてのお前の働き期待しているぞ。では、行動に移してくれ。」

 そう言ってメッセージを切った俺は残った二人に対して。

「護衛頼んだぞ。アルベド、ルベド」

「はい、貴方。」「私が守るモモンガ様。」

「さて、グレンデラの吸血鬼部隊が来る前に、他にもいくつか試したいことがある。」

「なにを試すのでしょう?」

「この世界で、アンデット創造や、天使召喚の仕様を実際に行って効果を確かめておこうと思う。」

 そう言って俺は自分の内側へと意識を向ける。そこには少しずつこのオーバーロードの糧となっていく、先ほど回収した魂たちがあった。これは、魂が俺の経験値となっている事だということを意味している。だから、俺はこの魂を使用してスキルアンデット強化を行使してアンデットを創造する為に、周囲の死体へと意識を向ける。

「ふ~む、どうやら彼らの死体では、アンデット強化に魂を消費したとしても中位アンデットまでか。それ以上は私の力に肉体が追い付かないようだ。」

「そんなに弱いのですか?」

「あー、せいぜいレベル一桁だろうな、生前は。まー、そこから考えたらレベル三十オーバーのアンデットを造れるのだ。これはなかなかの効率だ。では、スキルアンデット強化!中位アンデット創造!デス・ナイト!」

 周囲に頽れる騎士の死体三十体に意識を向けデス・ナイトを創造した。

 ふむ、やはりな。

「ユグドラシルに居た頃では無理な数の創造数だ。これは、今後軍をその場で生み出すときにだいぶ楽になるだろう。そして、これらアンデットは時間経過で消滅しないようだ。」

「そうなりますと、モモンガ様の指揮するアンデット軍団が、グレンデラ軍以外で編成できると。」

「そうだ、現状グレンデラ軍はグレンデラ湿地帯に掛かりきりになるだろうからな。自由にできるアンデッド軍が手に入るのはありがたい。」

「このレベルのアンデットですと、この村を襲った騎士と同レベルであれば、一体でも相当な脅威として、相手は捉えますね。」

「そうだな、正直な話現状では過剰戦力だろうが、それは今ある情報だけでの判断だ。まだ最終的な判断とするべきではないな。」

「そうですね、貴方。」

「さて次は天使召喚を行おうと思うのだが、村人の死体をこのまま晒すのは気が引けるが・・・、少し確認しておくか。メッセージ。ユリ、セバスとは合流できたか?」

「はい、モモンガ様。現在生存者の方々をゲストルームにお通しして休んでもらっています。」

「ふむ、では、その人たちに村人の遺体を天使にする旨を伝え、それに対してどう思うのか聞いてくれないか?」

「はい、畏まりました。少々お待ちください。」

 ユリがこの村の生き残りの女性たちに話を通していると、

「マスター、グレンデラ吸血鬼部隊アライアンス1で周囲に展開完了しております。」

 グレンデラ軍から抽出された吸血鬼部隊の隊長、ヴァンパイアロードであるホー・クトが報告をし俺の前に跪いている。

「うむ、次の動きがあるまでそのまま待機していてくれ。」

「御意。」

「モモンガ様。確認が取れました。女性たちは天使にすることに対して、感謝こそすれ拒否する意思はないとのことです。」

「そうか、ありがとう、ユリ。では引き続き彼女達の事頼む。」

「はい、お任せください。モモンガ様。」

 デス・ナイトを創造した時同様、位階魔法を意識して村人の遺体に意識を向けてみる。

「ふーむ、第五位階が限界か。レベル的にもデスナイトと同程度だな。サモン・エンジェル・5th!パワー・ソーディアン!」

 そこには、百二十体のレベル三十を越える天使の軍勢が、神に祈りを捧げるようにして頭を垂れ中空に浮いていた。


 そして、モモンガは数日前に使用したスキルも含め、今回の位階魔法やスキルを何度か使用したことにより、これらの構造を認識することが出来たのであった。


 これは・・・、なるほど、自由度が増していたと思っていたがここまでとはな。これは、今後の魔法やスキル開発が楽しみだ。

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