階層守護者

アルベドに話す

「はーーー、疲れた・・・。アルベド?あれでよかったか?」

 今玉座の間にはモモンガとアルベドの二人のみ。

「はい、モモンガ様、しかし、やはりご負担でしょうか?」

「負担ではないと言えばウソにはなるかな、大事な子供たちの為だし、公使を別けるために言葉遣いや態度を変えるというのは、分からない話ではないからね。」

 そう言ってはいても、モモンガにとって、自分に跪く存在が居るというのは、今まで体験していなかった、いや、ロールプレイの一環で、ギルドメンバーたちと遊んではいたが、その時とは違う、本当の忠誠の姿勢というものを向けられるのは、一般人と言える、元鈴木悟というモモンガにとって、精神に負担がないとは言えない。

 膝に手を打ち気持ちを切り替え、モモンガはアルベドと話を続ける。

「さて、アルベドそういう訳で、二人きりの時はもっと気楽にいこう?」

「はい!」

 モモンガはアルベドを受け入れる。

 今、アルベドはモモンガの首に両の腕を回し、玉座に座るモモンガにその身を預けている。

「落ち着く。」

「私は、今幸せです。モモンガ。」

 何処か不安そうな声の雰囲気を持ちつつもしっかりとモモンガの名前を呼ぶアルベド。

「ふ、まだ慣れない?」

「はい、」

「俺と同じだな。」

「はい、」

 じっと見つめ合うアルベドとモモンガ。

「でー、ちょっと試したいことがあるんだ。」

「なんです?」

「シェイプシフトのレベルを取得したって言ったでしょ。それを見てもらおうと思ってね。スキルの確認も兼ねてだけど、アルベドは喜ぶと思うよ?」

「どうなるのか楽しみです。」

 モモンガは、自身の身体を変化させる。

 かつてのギルドメンバーが計画した、「モモンガさん魔王化計画」の一環で作成された、モモンガのフレーバーテキストに記載されている文言に従い発動する、この世界に来て獲得したスキル。

 モモンガは自身の変化に戸惑いながらも、たった数十分前まで肉体を持つ身であったのに、すでにその感覚が希薄になっていることに驚きながらも、骨の時よりもはっきりと、アルベドの身体の柔らかさを感じられることに喜びを感じていた。

 モモンガの今の姿は、オフ会で撮った鈴木悟の画像データを基にして、、骨格をオーバーロードのものとして、ギルドメンバーが魔王らしい風格をと、モデリングしたものになっている。

(あ、これ、ダメな奴だ。)

「クフー!!!、モモンガ様!私はここで初めてを散らされるのですね!」

 アルベドは自分の体を預けているモモンガの身体が、受肉するにつれて変化する様を、モモンガ同様肌で感じていた、そのモモンガの肉体が受肉すると同時に体の一部が緊張状態へと変化していることも。モモンガにしなだれかかった自身の身体の下で形を変えていくものを感じていた。

「あっ、たんま!」

 モモンガは、慌てて体を元の骨だけの身に戻す。

「んもう!」

アルベドは心の底から悔しがっている。

(あ、こういう表情いいなー、お預けを喰らって膨れてる顔、かわいいな。って違う違う。)

「アルベド、流石にここでは・・・な、」

「では!今すぐモモンガ様の自室に向かいましょう!さあ!」

「いや、流石にこの状況じゃー。」

「むーー、」

「可愛い顔してもダーメ。」

「クフッ、」

(あー、なんかこのやり取りの中で、自分がどんどん変わっていくのを感じるけど、・・・怖くないな。)

 モモンガは自分の精神がどんどんと変わっていくのを感じながら、アルベドの頭をなでている。

「クフッ」

 アルベドのその蕩け切った顔を見ながら、モモンガは幸せってこう言うものなのかと、自身の半生を省みて思うのだった。

(しっかし、アルベドって素で俺の事様呼びなんだな。他の子たちも様付けの方が自然な感じなのかな?)

「さて、アルベド。今試しにシェイプシフトをしてみて気付いたんだが、スキルの自由度が大分上がっているかもしれない。」

「自由度ですか?」

「あー、今スキルのかくに・・・、アルベド?一つ聞く今痛みはあるか?」

「モモンガのお力を・・・、」

「そうか、」ネガティブタッチ解除。

「あっ。」

「何故言ってくれなかった?お前と私のレベル差では辛かっただろうに。」

「いえ、とても良かったです。」

 アルベドの顔は欲情していた、

「そ、そうか、だが無理はいけないよ。」

「はい、ごめんなさい。」

(にしても、人間化したときのアルベドの動きはやばかった・・・。)

 一瞬、そう一瞬であったがアルベドは、確かにモモンガを喜ばせようとしていた。

 玉座の間二人きりの幸せを噛みしめながらモモンガは思考を切り替える。

「さて、アルベドこのままこうしてゆっくりとしていたいのはやまやまだが、今までの事で幾つか分かったことがある。」

「はい、モモンガ様。」

 アルベドはモモンガに抱き着きつつも、声の雰囲気が変わったことに反応し対応を少し硬化させた。

「うむ、まず、アルベドとの接触により、より異世界への転移説が真実味を増してきた。」

「その理由、お聞きしても?」

「そうだな、ユグドラシル時代の事は憶えているか」

「はい、モモンガ様を初め至高の御方々が私たちを創造してくださってから、様々なことが起きました。」

「そうか、その時の記憶も持ってるんだね?」

「左様です。」

「なるほど、あ、まずは先の事についててだ、ユグドラシルでは性的な行為が著しく制限されていてね、最悪世界から弾かれることもあったんだよ。」

「弾かれるですか?」

「そうだ、程度によっては二度と戻ってこれないこともある。」

 アルベドは、それにモモンガが巻き込まれなかったことに安堵をしている。

「大丈夫、俺はここにいるだろ?」

「はい・・・。」

「でだ、今こうしてアルベドとしている行為は、少なからず運営から注意が飛んでくるような行為なんだ。」

(というか、アウトな気がする・・・。)

「運営から注意ですか・・・?」

「ふむ、運営は分からないか。」

「はい、聞いたことが御座いません。」

「他の子供たちはどうなんだろうな。」

「調べますか?」

「あー、だけどそれを調べると、中には気づいてしまう子が出てくるかもしれないな・・・。」

 モモンガは決意を込め。アルベドを強く抱きしめ壊れないように。

「アルベド・・・、これは君にとって、このナザリックに住まう子供たちにとって非常に残酷なことだ、心して聞いてくれ。」

「・・・、」

「君たちはさっきまで、生きていなかったんだよ。」

「え?・・・それは、アンデッドの類であるという事ですか?」

「違うんだ、そもそも、ユグドラシルという世界は、仮想世界、現実ではなかったんだ。」

 アルベドは自分の理解を越えた話を静かに聞いていた。だけど、モモンガにはその身体が震えているという事を感じ、さらにしっかりと抱きしめるのであった。

「そんな世界で生まれた君たちは、その世界同様仮初の物だったんだよ。そして、この俺のこのオーバーロードの身体も仮初、本体はリアルに、現実世界にあって、今の状態はその本当の身体とのリンクが切れている状態なんだ。」

「モモンガさま、それではこのままでは・・・。」

「もしくは、ここにいるのはリアルの・・・、俺のオリジナルをコピーしたナニカで、全くの別人格であるとかね。本来であればこんな残酷なことを言うべきじゃないのかもしれない。アルベド、もし、この事を知らなければよかったと思うのであれば、今すぐ記憶を消そう。」


 モモンガ様は私に、本当の事をお話して下さっているのでしょう。正直な話私にとっては、ユグドラシルだろうが、そうでなかろうがどうでも良いのです。だって、こうやって抱きしめてくれるのですから。

 いえ、寧ろこちらの方が良かった。だから、

「その必要はありません。モモンガ様の言葉を聞いて、腑に落ちた事柄があります。」

「ん?」

「私たちは、式典の最中まで自分の意思で動けなかったのですから。そして、今モモンガ様にそれを言われるまで、その事を気にもしていませんでした。」

「そうか。」

「恐らくですが、この話をして大抵のものは喜ぶでしょう。モモンガ様に自分の意思で、思いでお仕えできると。」

「そうか・・・、この話皆にもした方がいいかな?」

「何時かは皆に教えた方がいいでしょう。しかし、現状では話すべき相手を見極めてするべきだと思います。」

「そうなると、パンドラ、デミウルゴス当たりは確定かな?」

「そうですね、最初はその二人にしましょう。そして、今後を一緒に話し合っていき方針を定めていくのがよろしいかと。」

 私はそうモモンガ様に伝えました。震えているモモンガ様に。

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