私のヒーロー
冷門 風之助
その1 セーラー服からの依頼
その日、俺事乾宗十郎は、特に何もすることがなく、事務所のデスクに足を投げ出し、雑誌を顔に載せて惰眠を貪っていた。
警察と探偵が暇だというのは、世の中が平和な証拠だ・・・・と、言いたいところだが、お巡りは暇でも税金から月給は出る。
しかし俺みたいなフリーの私立探偵は、仕事がなければ銭が入ってこない。
そこが警察と違うところだ。
黙っていたって仕事は降ってはこない。
今開いていた雑誌には、近頃名を売っているなんとかいう『怪盗(俺にしてみりゃただの泥棒なんだが)』がまた警察を出し抜いてどこかの博物館からお宝を盗み出した事件が書き立てられてあった。
(誰か俺のところにこいつを捕まえてくれなんて、金持ちが出てこないもんかねぇ)
そんなことを考えていると、いきなりドアが開いた。
プリーツスカートに黒いハイソックス。
く磨き上げられた革の学校指定靴。
白いチーフに皺ひとつない中に黒い二本ラインの入った灰色の大きな襟。
おまけに三つ編み、まったく化粧っ気のない肌。ただ薄いピンクの唇にだけはリップクリームで少してかっている。
顔立ちは・・・・そう、かつての日活映画のヒロイン、芦川いづみをもう少し現代風にしたような、とでも言っておこうか?
ぱっちりとした目は、細く赤い縁の眼鏡で覆っていた。
『・・・・高校生からの依頼は受けて貰えませんか?』
『前にもそんなことを言われたよ。だが私立探偵ってのはポルノ映画じゃないんだ。別に年齢制限なんかないよ。ただ・・・・』
頭のいい娘だ。
俺の意図を察したんだろう。
学校の校章の入ったバッグを開けて、赤い革製のウォレットを出すと、そこから1万円札を6枚取り出して、
『裸でごめんなさい』といい、俺の方に押しやった。
『先に言っておきます。このお金は決して怪しいものじゃありません。ちゃんとお小遣いを貯めて、足らない分は持っていた本をネットのオークションで売って作りました』
彼女は昔からのアニメや漫画マニアで、ほんのまだ子供のころからコツコツ集めたものが家に沢山ある。その中には結構レアなものもあったりするので、いい値で取引が出来るのだそうだ。
『・・・・・』
俺は黙ってその金を受け取って、懐にしまい、代わりに契約書を出し、
『まずそれを読んでくれ。納得したら君は俺の客だ。それから話を聞こう』
彼女の名は岡村朱美、城南女子高の3年生である。
城南女子、といえば都立の女子高でも1.2を争うほどの優秀な学校で、何でも国立大学への進学率が常にトップクラスを維持しているそうだ。
その彼女が、一体何を調べて欲しいのか?
朱美は最初少し言いだしにくそうにしていたが、やがて鞄の中から1枚の写真・・・・といってもそれは雑誌の切り抜きだったが・・・・を取り出し、
『この人を探して欲しいんです』と言った。
写真に写っていた男は、年齢20代半ばといったところだろう。
長い髪に痩せた顔にサングラスをかけ、エレキギターを弾きながら、スタンドマイクの前で熱唱している。
『
そういって、俺の顔を探るように眺めた。
聞いたような気もするが、芸能界にはあまり興味のない俺にとっては、今一つピンとこない。
『悪いが』
俺が答えると、彼女はため息をつき、
『無理もありません。メディアへの露出度が極めて少ないことでしられていますから・・・・写真らしい写真も、これしかないんです』
彼女の説明によれば、櫻木淳は4年程前から急速に人気が急上昇したロックシンガーで、CDの売り上げ枚数も、他のライバルやヴェテランを押しのけて、今やトップにたどり着こうというところだという。
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