雪の中の疾走
でぷらいず
プロローグ
第一話ーシャシャ
「雪なんて空から降るゴミだな。そう思わないか、アシャ?」
アンドレイはタバコに火を着けながらそう言った。
(本当に此処の寒さは以上だね。)
残酷なほどに綺麗な雪は絶え間なく私達を苦しめた。凍えるような吹雪にはいくら強靭な動物だとしても歯が立たないだろう。
私は
(景色は絶品だな。)
少ない森を除いて、地面は真っ白く雪に包まれていた。
自分たち第107重戦車中隊は久々の休みを取っていた。母国であるルーシー連邦は徐々に帝国軍を押しているが、押せば押すほど程度に比例して抵抗も激しくなった。そして相次ぐ出動命令は中隊を疲労させた。
(私たちにも休む権利が有るんだぞ。)
私は
***
何分後、無線手であるマリアが大急ぎでやって来た。
「中隊長!旅団長から命令が送られて来ました。‘第107重戦車中隊は急ぎ膠着状態にあるカチューツ戦線を突破せよ。’との事です。」
「くそ、出動準備だ。」
そうして短い休みは終わりを告げた。また軍人として戦う時が来たのだ。キューポラを開けて中に入り、無線ヘッドセットの状態を確認する。その次に皆定位置に居る事を確認し、戦車の誤作動は無いのか念入りにチェックした。
YJ-2重戦車に力強い始動音が鳴り響いた。その音は私に車長としての責任を再び思い知らせてくれた。
「こちらカチューシャ、急ぎ目標座標B12に移動せよ。」
「了解。ブラウ1からブラウ達へ。異常は無いか?」
「「異常なし。」」
「戦車、前進。」
***
座標B12に到着したが、機関銃に撃たれっぱなしだった。まあ、豆を鉄板になげた音が木霊する以外大して被害も無いのだが。
「ハッチを閉めろ。戦闘準備!」
私達は塹壕の中で機関銃をばら撒いている帝国軍を爆破させる為に高爆弾を装填した。
「装填完了!」装填手のイヴャンが言った。
「距離1400、行きます!」ドミトリーが言った。
まるで天地が揺れる様な砲声を上げながら、122mm砲が火を噴いた。さっきまで塹壕で必死に抵抗していた兵士たちは爆散したか、土に埋まったようだ。
「くそったれな帝国兵には122mm砲が似合いますね!」ドミトリーは声で分かるほど興奮しながら言った。
「ドミトリー、 落ち着け。それとイヴャン。装填しろ。」
「「了解。」」
「今度は右側のMG陣地だ。」
「距離1500、発射。」
今度も同じ結末だった。砲声が呻り、MG陣地は沈黙した。
高揚した感情はブラウ3から来た無線によってかき消された。
「こちらブラウ3。 対戦車砲によって攻撃を受けています!」
「ブラウ1がブラウ3へ。敵の位置を知らせろ!」
「ブラウ3がブラウ1へ。撃たれた位置からして、北西側にいると思われます。」
(北西は確か木材収集所だったな。厄介な事になった。)
あそこは建物と木が多い。つまり遮蔽物が多数あると言う訳だ。
(122mm砲は命中率が低い。そして弾薬装填も遅い方だ。まあ、行くしか無いだろう。)
「ブラウ1がブラウ達へ。我々は北西の木材収集所に急ぎ移動する!」
「「了解!」」
「ドミトリー!砲塔を左50度傾けろ。」私は指示をした。
(対戦車砲がモデル40か、43かで如何するかが分かれるな。)
モデル40ならばYJ-2重戦車の前面装甲と側面砲塔を抜けない。もしそうならば、直ちに突貫し蹂躙するだけだ。しかしモデル43は危険だ。奴らは遥か遠くから我々を狙う事ができるし、至近距離ならば一撃でやられかねない。
「ブラウ1がブラウ達へ。警戒を怠らずに慎重に進め!」
その時、崩れた建物の中から砲煙が見えた途端いきなり車体がガクンと揺れた。
「くそ、こっちが狙われてる!」アンドレイに一旦後退しろと命令した。
でも嬉しい誤算の一つはたった今、私達を撃ったのは多分モデル40でそれも熟練度が低いと思われる事だ。YJ-2は確かに強い戦車と言えるだろう。分厚い前面装甲と砲塔。だがその無敵の前面装甲に弱点が有るのだ。それは前に設置された脱出ハッチだ。そこだけ微妙に装甲が薄く、撃破された戦車の生き残りに聞いてみた結果、熟練された戦車や対戦車砲はそこだけを狙うと言う。しかし敵はその事を良く知っていないらしい。
(勝機はある。)
「ドミトリー!砲塔10度右に旋回。」
「見えました!距離1350。行きます!」
ドン!
「至近弾だ、もう少し上を狙え!」
「了解、イヴャン!同じ弾だ!」
「はい!」
「こちらブラウ5、敵対戦車砲撃破!」
(上手くやった。今度は此方の番だ。)
「行きます!」ドミトリーの声は射撃音によって掻き消された。
私は結果を見、微笑を顔に浮かべた。敵を撃破したのだ。
「この調子だ!同志達よ、前進!」
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