落書き#弐「俺様令嬢とツンクールメイド」
丸尾累児
Side of 雪緒
それは、虚飾された日常。
十月――。
薄着から厚着に変わるいわゆる衣替えが必要になる時期だ。イヤになるのは、暑さの中に寒さが入り交るせいで体温調整が難しくなることだな。
特にオレは暑いのも、寒いのも苦手。
……ったく、面倒くせえ。
天候ってヤツはどうにも気まぐれすぎて、「どっちかにしてくれ」っていうオレの願いを聞きやしねえの。
おかげで体温調整に苦労しまくりだっつーの。
オレは使用人に屋敷の扉を開けさせ、冷たい風の吹く中庭へと出た。矢庭に感じたひんやりとした空気はおもわず身を縮ませちまうほどに寒かった。
だが、それでも学校に行かなくちゃならないのは、休むとかやめるとかいう選択肢を除けば、ほぼ100%選ばなきゃいけないらしい。
「おはようございます、雪緒様」
正門を出た先で待っていた
身長162センチの中肉中背。ほっそりとした楕円形の顔に背骨の辺りまで伸ばした黒髪が伸びてやがる。
性格は、冷然とした感じで少しばかり人間であることを忘れ去っちまうほどに表情がない野郎だ。
時折、ロボットかなって思っちまう。
そんなヤツの家は、『代々』と銘打つほどオレん家に仕えてきた家令の血族だ。コイツとはガキんときからの付き合いで、いわゆる幼なじみというヤツ。
昔は超が付くほどの泣き虫でよく笑うヤツだったけどな。
――が、あるときからそんな表情も見ることもなくなっちまった。
「おう、七夏。朝からんなところに突っ立てるなんて世話しねえな」
「学校に関する一切に関しましては、わたくしに一任されておりますので」
「ちっ、つまらねえ模範解答」
「それに万が一雪緒様に危険が及ぶようならば、わたくしの最良で如何様にしても良いとの旦那様のご指示でございます」
「まったく、泣き虫で臆病だったオマエが務まるって言い切れんのかね」
「……なにが仰りたいのですか?」
「ガキんのころ、俺様に泣きついて、アレしろ、コレしろって、言ってきただろ」
「それは昔の話ですよ、雪緒様」
「面倒くせえヤツ。ホントは泣き虫のくせに、なに一人前気取ってんだか」
「すべてはお勤めのためでございます」
「フンッ、クールぶってるのがますます気に入らねえ。あと、様はいらねえって何度言わせる気だ」
「雪緒様は、わたくしがお仕えする旧華族にして、高嶋紡績工業グループを経営する高嶋家のご息女なのです。ゆえに呼び捨てなど以ての外でございます」
「昔は、雪緒ちゃんって呼んじゃいなかったか?」
と、シラを切るコイツに言ってやる。
当然、帰ってくるのは模範解答。
いい加減飽きたし、学校にでも行くとするか――と思ったが、いまのオレの格好は名門女子校の制服。
襟を正したブレザーにそこいらの高校よりも長いスカート。
流行も追わねえ貞操ばかり守る格好なんかしてられるかってーの。
「んじゃ、いつも通り学校近くのトイレで着替えるからな」
「どうぞご随意に」
「一応聞いておくが、親父にチクったりしてねえよな?」
「わたくしは、雪緒様の味方ですので」
「へいへい……。いつも思うが、その言葉のどこまでが真実なんだか」
まったく……。
あまりに平静にしすぎてて、意図が読めねえよ。コイツの親父が色々と仕込んだせいか、小6ぐらいんときからおかしくなっちまった。
言葉遣いも、
立ち振る舞いも、
なにもかもオレを引き立たせるため。
そう言わんばかりの態度がむかつく――公園のトイレに辿り着いても変わらずだ。平然とオレが男の格好して出てくるまで待っててやんの。
「毎度毎度ここで着替えんの面倒くせえな」
「お疲れ様です、雪緒様」
「オマエは他人事だな」
「事実じゃございませんか」
「うるせえ。あ~あ、親父のヤツに見つからずに家で着替えられたらいいんだけどな」
「それは、無謀もいいところです。旦那様に見つかれば、いつものように争いになるだけですから」
「わかってるよ」
ったく、反論するのも面倒くせえな。
とはいえ、親父と揉めるとコイツがしゃしゃり出てきて余計面倒なことになる。第一、なぜかコイツはオレが家を出ようとすることを嫌う。
まっ、いいけどよ……。
どうせつまんねえ理由なんだろうし。
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