サンドリヨンの夢
雨宮 千流(ちる)
序章
それは、美しかった。
それは、儚かった。
ただ、それだけ。
ただそれだけだったんだ。
今、全てが水の泡となる。
次の日、とあるニュースが流れた。
入水自殺した女のニュース。
あの夢とも思えるような時間を思い出す。あの声に、あの抑揚に、あの顔に、あの表情に、あの仕草に、あの瞳に、想いを馳せる。そして思考を廻らす。
僕には、何ができたのだろう。
僕は、何かできたんだろうか。
ただ、あの瞳は、僕が今まで見てきた中で最も美しく、最も儚く、最も哀しかった。
ただ、ただそれだけだ。
ゴーン
ゴーン
鐘が鳴る。
それは、終わりを告げる合図。
それは、かつて始まりをも告げた音。
そして今、また終わりを告げた。
そして、今までと何一つ変わらず繰り返す。
何度も、何度も。
また同じシーンを何度も繰り返す。その手が開く度に始まっては、その手がめくる度繰り返しては、その手が閉じる度に1度終わっては、また、始まる。
この時の流れの中、意思を持ったところで何ができようか。
私は、ただ流れに身を任せるのみ。
良いのだこれで。たった一度、憧れた夢に溺れたのだから。
目を閉じた。
もう目を眩むような闇も光もなかった。
ただ、なんだか見知った声が聞こえた。
それは、私を否定せず、止めもせず、ただ受け止めてくれただけの、感情に乏しい人。
私はまた、繰り返す。もうこの世界を抜けなどしない。ここが私が存在できる唯一の場所なのだから。
どうか、見つけてね。人の子よ。
ふと足を止めた。
吸い込まれるように手を伸ばした。
通いの古本屋に見慣れない本があった。それを1冊購入してみる。なんてことはない、王道なストーリー。文字だけでそこに登場する人物の外見や声のイメージは自分の想像でしかない。
それなのに、なぜだろう。
何故だかとても、見知っているのだ。
すごく鮮明に頭に浮かぶのだ。
また、世界は繰り返す。
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