7年待つ

@prius2009

第1話

 私は今、渡瀬川の土手に立っています。

 土手といっても、はっきりと台形になっておらず、角が取れて俵のようです。草が広がってもいません。

 土手と川の間には日曜日にサッカーや野球をやっていたグランドがあるはずでした。その向こうにある川の水は灰色から黄土色の間の色になっており、土砂降りのあとのように濁っています。グランドは、スポーツをしようと連想をさせたり、一斉清掃があったら参加しようかと思うような場所ではなくなってしまいました。川にもともとあった石、コンクリート製の橋の破片、割れた瓦、壁、などが埋立地のようにあります。例えば、ひえ上がってダムの底の町が見えると、一面灰色ですが、ここはそれぞれの破片に色があるので、見ていて落ち着くような姿ではありません。

 私の位置から川上にある観行橋の柱には木の根が引っかかり、またそれが川の流れを乱して、本来なら底にたまってほしい土砂と水を混ぜています。

 新潟県側から山々を越えて来る風はとても肌に冷たいです。午後2時なので気温を感じていいはずですが、弱い太陽と少し押す感じの風のせいで、理論上一日で一番気温が上がるはずの時間なのに、冷えてきて厚手のフリースとコートでも、少し辛いです。

 僕は車のリモコンエンジンスターターのスイッチを入れました。10分はこれで暖機運転ができますので、それまでに車に戻ろうと思いました。

 車はこの土手に一番近い国道に止めてあります。車に戻るには約200m、まっすぐ歩きます。以前は、その途中はアスファルトの普通の道でしたが、今は崩れた木造住宅の瓦礫がセンターラインまであって、自転車ですれ違うのにも「どちらかが止まってあげないと」と思う狭さになってしまいました。しかも、乾燥する季節ですので、一旦濡れて乾いた土は埃として舞い上がり、ちょっと風が吹くだけでとめてある車が土手から見えなくなってしまいます。逆を言えばもうその埃さえなければ、数百メートル離れた車の様子をさえぎるような高さのものは無いのです。

 僕はまだ川上にある金王橋を眺めてみたり、川下のほうを遠くみてみたり、正面の濁った水を凝視していたりしました。車が温まるまでの時間稼ぎと、一旦風が弱まって車までの埃が落ち着くのを待っている振りをしました。

 隣には、まだ小さい子供を抱っこしているお母さんがいます。子供にはピンクの厚い服と大人向けのフリースをかぶせています。よそ行きの格好ではなく、奥さんもよれよれの厚手のカジュアルコートを羽織っています。子供はそのコートにも包まれるように抱っこされています。風からは身体は守られているようでした。

 ここに行ってみようといったのは僕だったので、何もすることがなかったからといって、やっぱり帰ろうとも言えず、ずっと何と言おうか考えていたのが正直なところです。


 ・・・うん、と決めて車のほうを見てみました。それと気付いてくれたらいいのになと思いましたが、奥さんは子供を抱えつつ、川と反対の、車との間にある瓦礫のほうを見ています。そこには、旦那さんと僕の前の職場がありました。埃の細い道をみて右側にあったのは、4階建てのモルタル/コンクリートのビルです。昭和40年代半ばに立てられたと聞いていますが、いまは2階部分が崩れてしまっています。

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