12 夜の熱烈歓迎会
『……ちゃ。……あーちゃ。……あーちゃん』
「ふえ?」
ぐっすりと眠る私の睡眠が誰かに邪魔される。
心地よいひと時を破るのは一体誰じゃー! と目を開けると温かい息が掛かるほど私の顔の間近にいるのは豆太郎だった。
肉球で私の頬をペチペチと叩いていたみたい。
寝つきが良いのでめったに起こされることはないからびっくりしちゃった。
「トイレ? 我慢できる?」
『ちがうよ。まーはねるまえにちゃんといったもん!』
「あれぇ?」
寝起きで頭が回らない。
まぁそうなんだよね。健康優良児の豆太郎はおねしょしない。
じゃあなんで起こされたんだろう。
と、横に目を逸らすと隣のベッドで美歌ちゃんもテンに起こされてるのが目に入った。
『美歌ちゃん起きてーや。なーんか嫌な気配しとるで』
「えぇ……勘違い……やって……村の中やで……モンスターなんて入ってこーへんて……」
美歌ちゃんは半分寝ながら答えてる。
逆に器用よね。
『そうなんやけど、たぶん起きた方がいい――ぬあっ!?』
まだ諦めずに美歌ちゃんの頬を撫でるテンが強引に胸に抱かれた。
旗から見てるとぬいぐるみみたいだわ。
「ん~」
『こ、これは滅多にされへん愛情のハグ! ここは天国か!? 一秒でもこの幸せを甘受したいけど……嫌な予感が邪魔をする……あぁ! ワイはどうしたらいいんや!?』
テンの表情が緩んだり真顔になったり忙しい。
なにやってんのよあの毛玉は。
『ええい、目先のパラダイスより今後の幸せや! こうなったらワイの自慢のヒゲアタックやで! えいえいえいえい!』
「うぅ~ん、痛気持ちいい……。あ、でも痛みの方がちょっと勝ってきた? 痛たた……ちょっとテン、ストップ! ストップやって!」
ツンツンとヒゲの尖った先で美歌ちゃんのすべすべのほっぺを突き刺すテン。
普通、動物のヒゲって平衡感覚の源だったり、その触角を使ったりして危険を察知したりと重要器官で触られるのってすごく嫌がるはずなんだけど、よくこんな使い方出来るわね。
『ようやっと起きたか。たぶん囲まれてるで』
テンのその言葉にすぐさま窓へ向かう。
雨はいつの間にか止んでいて、雲間からは月明かりが少しだけ漏れている。
首を下に向けると眼下には松明を持った村人らしき人々が大量に宿を取り囲んでいた。
メラメラと赤い炎が幾つも燃え盛り、しかももう片方の手にはカマとか剣とか物騒なものを握っていてある種の儀式や悪魔的なイメージと恐怖を感じさせてくる。
お祭りというよりは、その険しい表情から剣呑としたムードが覆っていてまるで討ち入り前の一揆のようだ。
暑い。あまりにも異様なそれを一瞥しただけで緊張感が生まれ喉に乾きを覚える。
いや周囲の温度もひょっとしたら上がっているのかもしれない。
「なにこれ? また暗殺ギルド絡み?」
『ワイに言われても知らん。気付いたらこんな状態やった』
『まーも、いまおきたところだよ』
見つかっては大変だからあまり身を乗り出して眺めていられないのですぐに顔を隠した。
二人の敵意センサーに反応したってことは下の連中は完全にやる気か。
理由は不明だけどこのままじゃあやばそうだ。
それにずっと観察している時間があるのかどうかも怪しい。
体を窓から離し、掛け布団をまくりながら美歌ちゃんにしゃべり掛けた。
「とにかくまずは寝ている人たちを起こそう。私はクレアさんを起こすわ。美歌ちゃんはミーシャたちを起こした後に他の部屋のやつらを起こすのも手伝って」
「うん、分かった!」
少し背を丸めながら立ち上がりささっとメニューを開いて寝間着から戦闘用の装備に切り替える。
こういう時は早くて便利だよね。ものの数秒で着替えが完了だ。
それから即座に部屋を出るとサミュ王子の部屋の前の護衛二人が居眠りしているのを見つけた。
こ・い・つ・らぁ~なにを居眠りしてんのよ! 口ばっかでマジで役に立たない。キレていいかな?
とりあえず放置してまずはクレアさんの部屋に入る。
鍵は掛かっていない。クレアさんと騎士たちの部屋は交代で寝ずの番をするため掛けていないらしい。
もし鍵を掛けて順番になっても眠ってしまったらドアを叩いて近所迷惑なことをしない限り起こせないからだ。
静かな宿ではドアノブを回す音も際立ってしまうが気にせず部屋に入る。
ここはシングルルームで私たちの部屋よりも半分ぐらい小さい。
簡単にベッドで眠るクレアさんを見つけることができた。
寝間着は簡素な白いシャツの下着を着けているだけの格好だ。体育会系だからそういう服装になるんだろう。
安らかな寝顔で眠るのを邪魔するのも気が引けるがそうも言っていられない。
肩を強く揺すってみる。
「クレアさん起きて下さい! 敵です!」
「ん? んん……アオイ殿? 敵とは?」
「なんかよく分かんないんですが村人たちが大挙して宿を囲んでいます!」
「な、なに!? ……本当だ」
窓際にベッドがあるので上体を起こしただけで下の様子が見え事態を把握したようだ。
「何か怒らせるようなことでもしたのだろうか? まさかまた騎士たちの誰かが迷惑を掛けたとか……」
さっと青ざめ目が泳ぐ。手を自分の顔に当てどう繕おうかと思案しているふうだ。
ここまで苦労続きだから無理からぬことだとは思うけど、後悔や反省は後でできる。しっかりしてもらわないと。
「さぁ? でもこうなってくるとサミュ王子が言ってたやつかもしれませんね」
村長が人質に取られていて、無理やり村人が従わされてるってやつ。
そうでもないとこの異質な状況の説明が付かない。単に怒らせただけではこうなならないだろう。
「かもしれないな。そ、そうだ。とにかくまずはサミュ様の安否も確かめねば! アオイ殿は他の騎士たちを起こしてくれ! そのあと、家具を階段に落としてバリケードを形成する! 数で負けていてもさすがに負けはしないだろう。話し合いだけで解決すればいいが……」
ようやく頭がしゃっきりもしていたらしい。
手短に指示を出す姿はいつもの彼女だ。
「分かりました!」
クレアさんはもう大丈夫だろう。
次に向かうために手早く頷いて部屋を出ると声が聞こえてきた。
「な、なんだこりゃあ!?」
隣の部屋だ。扉は空いているので中を覗くと起き抜けの騎士たちと美歌ちゃんがいた。
そうか、ここは美歌ちゃんが起こしに来た部屋なのね。
てかまずい。
「ちょっと、そんなに大声出して窓に近付いたらバレるでしょ!」
窓に張り付きあんぐりと大口を開けて絶句している騎士に私が注意した瞬間だった。
「……! ……!!」
外からザワつきが聞こえてくる。
やばい、たぶん見つかったんだ!
窓から入って来る赤い松明の光量が増え部屋の中を揺らめき照らし始める。
もちろん下からなので部屋の中を見られるわけじゃないんだけど、炎を集めて注目しているということはこっちに動きがあるのがバレた可能性が高い。
悪い予感は当たるようで階下の玄関から扉を開こうとする音が聞こえてきた。
おそらくもう突入してくるつもりだ。
これじゃあ時間稼げなくなっちゃったじゃないの!
「もう! こうなったら正面衝突しかないわ! あんたたちはすぐに戦える準備しなさい!」
「お、おう!」
鬼気迫る気配により身が強張って動こうとしない騎士たちに発破を掛ける。
「うちも行くで!」
『面倒くさいけど、美歌ちゃんがやるならワイも手伝ったるわ。安眠妨害した罪は背負ってもらわんとな』
『まーもやるよー!』
美歌ちゃんに続きテンと豆太郎も気合を入れて追従してくれた。
まぁぶっちゃけ過剰戦力だろうけど手が多いのは助かる。
ただ気を付けないといけないことがあった。
「なんで夜襲をされるのか事情が分かってないから、あんまり大怪我はさせないようにね!」
言って廊下に出ると、ドタドタと荒々しい足音が幾つも重奏し、もう階段にまで数人が昇ってきていた。
土足で家に上がり込まれた気分でイラつく。
見るとやはり刃物で武装していて、こちらを確認すると少し驚いた表情を見せた後に振りかぶってきた。
「遅い!」
振り下ろす前にすでに顔面に蹴りを入れる。
ブーツが顔にめり込み無重力の後方へと誘う。後ろにいた他の村人たち数人を巻き込んでゴロゴロと盛大に階段を転がり落ちていく。
階段の下まで急転直行でお帰り願った村人たちは後頭部を打ったようでそのまま気絶して動かない。
しまった、大怪我させないようにって言ったのに一瞬で破っちゃった。
「あ、葵姉ちゃん……さすがやな……」
『小娘、五秒前に自分で言ったこと忘れるとは鳥より脳みそ少ないんちゃうか』
「こ、こっちだって咄嗟だったのよ!」
後ろの二人にたぶん聞き受けられないだろうけど、なけなしの弁明はしておく。
『たたかいはひじょー! せんてひっしょーなのです!』
後ろ足で立った豆太郎が凛々しい顔つきで空手の突きみたいなポーズでフォローだけはしてくれた。
可愛い! あとでもう一回やってもらってスクリーンショットを撮ろうっと。
手すりを持って上がろうとしていたのが功を奏したようで階段にはまだ二人残っていた。
彼らは電光石火の一撃に自分もあぁなるんじゃないかと狼狽を隠せない様子で動きが止まっている。
会話をするチャンスかな?
「一体、これはどういうことなのよ! 武装して宿に押しかけてくるなんて下手な言い訳は聞かないわよ! ちなみに今のは正当防衛だから!」
『さりげなく自己保身入れとるな』
毛玉、黙っときなさい。
「い、言うことなんて何にもねぇ! ただお前らが邪魔なんだよ!」
「それが遺言でいいの?」
「うっ……」
「テンやばい、ついに葵姉ちゃん殺る気やで。うちでも死んだら生き返らせられへんのに」
『闇堕ちENDやな。哀れ小娘は修羅道に堕ちた。骨は拾ってやるから安心せえよ』
ええい、後ろからヒソヒソと聞こえてるっつーの。
戦闘は人に任せて緊張感無さすぎでしょ。あのコンビ。
「うわああぁぁぁぁぁ!!」
緊張に耐えきれなくなったのか男二人が沈黙を破り剣の切っ先をこちらに向けて特攻してきた。
「ちぇい! そっちも!」
それらを下からブーツで蹴り上げてやる。
しっかり握られていない剣は瞬時に頭上に飛ばされ天井に引っかかり、奇妙なオブジェクトが二つ生まれた。
「う、嘘だぁ!?」
「現実よこれは!」
「ぶっ!?」
瞬時に二人のお腹に腹パンを入れると昏倒する。
ぐらっと倒れるところを服の襟を掴んで階下で伸びているやつらのところに寝かせてあげた。
「お、おい! 何があった? お、お前ら!?」
階段落ちの豪快な音を聞かれたのか玄関から村人が様子を窺うために半身乗り出して顔を出し、倒れている仲間を見つけ目を大きく開ける。
見つかっちゃったか。まぁ仕方ない。
「推して参るよ!」
『あいさー!』
「うちらも行くでー」
『二度と逆らえんようにボッコボコにしたるか』
後ろに声掛けして即座に走り出す。
扉の前にいた硬直している男の顔に飛び蹴りを決めて爽快に外に出た。
すでに雨は止んでいたが、その代わり地面がぬかるんでいて水溜りもそこらかしこに形成されている。
着地と同時に松明を持った村人たちの数十の瞳がこちらを射抜く。
大量の紅い火のおかげで夜だというのに顔すら視認できる。
ほとんどが男性だ。女子供はさすがにいないか。ならやりやすい。
普通なら不気味なこの光景に気後れするところだろうけど、私と私の連れたちは一筋縄どころじゃビクともしない面子なのでこんなんじゃ退かないよ。
「これはどういうこと? 明らかにあんたたちおかしいわよ! 誰か説明して!」
右から左へと村人たちの顔をずらっと見ながら吠える。
けれど誰も答えようとしない。ただ少し身を屈め戦闘準備の態勢を崩そうとしなかった。
『こりゃあかんな、話し合いの余地はないみたいやぞ小娘』
足元のテンに言われるまでもなく私もそういう印象を受けた。
こうなったら肉体言語で語り合おっか。
念のために最後通牒を出す。
「一応言っておくとこっちから戦う気はないわ! でもそうやって話し合いにも応じず掛かってくるなら全員なぎ倒すわよ! こっちはすでに奇襲されているんだから!」
ぐるっと囲んでいる大人たちに向かって大声で宣言する。
久しぶりのベッドで寝ていたところを邪魔されて私だって不機嫌なんだよ。
数秒だけ間があって……
「――恐れるな、やれ!」
どこからかその声が聞こえたと同時に村人たちが動き出す。
集団の輪はぎこちなくも私たちを圧殺しようと縮まってきた。
「はあぁぁ!!」
長い木の棒を持った男がます最初に私に斜めから振り下ろしてきて火蓋が切られる。
一般人の攻撃なんて打ちどころが相当悪くない限りダメージなんてほとんどないだろうが当たってやる気はない。
左手で棒をしっかりと受け止め、空いた顔面に高速の右ジャブを一発。ぱっと鼻血が飛び散り大きくのけ反る。
「ぶっ!」
手加減した一撃でも意識を刈り取るのにじゅうぶんだった。
後ろ向きに排除すると、もう次のやつが迫っている。
「邪魔よ!」
木こり用の斧を横に薙ぎ払いされるのを一歩退いて見送り、脇腹に前蹴りを仕込んだ。
「ぐはっ!」
吹っ飛ばされる男は口から汚いものを出しながら転がっていくと、次のやつがまた似たような斧を今度は頭上から唐竹割に降ろされる。
それも軽やかに回って躱すと斧が地面にめり込んだ。その抜けなくなった斧を力任せに引き抜こうとしている間抜けな姿を見ながら柄の部分を上から踏みつけ掌底を鼻面に叩き込んでやった。
崩れ落ちる男の後ろからすぐさま別の相手が見え、躍るように倒れたやつを飛び越え片方の手で腕をもう片方の手で首を掴んで取り強引に引き倒す。
そこに美歌ちゃんが地面に落ちていた木の棒を拾い上げて威嚇し始める。
「これもらうで。せいやぁ!」
近づこうとした村人たちに美歌ちゃんはリーチの差を活かして顎と鳩尾に手早く叩き込むと、うっと呻いて崩れ落ちていった。
クルクルと指でバトンのように回し片手は手の平を突き出して格好付けている。
高速回転する棒は風を切って唸りサマになっているようにも見えるが、ぶっちゃけ適当に回して中国拳法風に遊んでいるだけだ。「アチョー!」とか言って片足上げたり奇妙なポーズを取ってるし。
その横ではテンや豆太郎たちも鎧袖一触で振り払っている。
よしよし、まったく問題なさそうだね。
「凍てつく無数の刃!
ふいに聞こえた呪文っぽい言葉。
すぐに声のした方に振り返ると見上げる空から氷の棘が十数本降ってくるところだった。
一本一本は三十センチぐらいの大きさで半径二メートルぐらいの範囲に急速に降り注ぎ、このタイミングだと避けられない。
「ま、私じゃなければね!」
膝を曲げ瞬発する勢いはまさに神速。
さっきまでいた場所に氷が突き刺さっていくが私はノーダメージで回避した。瞬きする間にすでに数メートルを移動している。
すれ違う氷の棘はすべて何もない地面に空しく突き刺さるのみ。
それにしても魔術を使う人間がいるとは思わなかった。というよりか、ただの村人にそんなのがいる方がおかしいのか。
なにやらキナ臭さが増してきたようだ。
ついでに想像を超えた素早さに私を見失って目を白黒している村人の腕を捻って地面に叩きつけお腹を踏んずける。
持っていた手から力が急速に失われた。ちゃんと気絶したようだ。
「なんてやつだ……。だがこっちにも引けない事情がある」
次のお相手は短剣を持っていた。
小振りで自分の体の前にしっかりと切っ先を外さず身を低くし牽制してくる。
こいつはちょっと強めだね。刃物の扱い方を心得ているようだ。
幾度となく繰り出される短剣を身を捩って全て躱す。
だが狙う先は全て私の急所だ。最短で淀みのない動きが侮ってはいけない手練れだと教えてくる。
「葵姉ちゃん、苦戦してる? 変わろっか?」
「大丈夫よ!」
と、合間に人を叩きのめしながら声を掛けてくる美歌ちゃんに返すと、
「舐められたものだな。こっちは二人掛かりでも構わないぞ」
なんて敵に言われる始末。
不快そうな顔をしているから本当にそう思っているらしい。
はっ! そっちこそ舐めてくれてるわね。
「その台詞、人生の汚点にしてあげるわ」
体のギアを一段階上げる。
ぴょんぴょんと小さく飛び跳ねる間に相手はジリジリと間合いを詰めてきた。
「ふっ!」
「なっ!?」
突発的に前方に駆け出し足を引っかけた。
やったことはそれだけ。しかし相手には速過ぎて視認できなかったらしい。
顔面から地面にダイブすると力なく動かなくなった。
ただの人間に負けるわけにはいかないっての!
「ざっとこんなもんよ! ――え!?」
格好つけてポーズを取っていると見覚えのある二人がこの襲撃の輪に加わっているのを発見してしまう。
午後にクッキーをくれたあのカップルだ。
あの幸せそうな二人ですら武器を持ってあの時に想像もしなかったような敵意のある視線を向け、こんな異常なやつらの中に加わっている事実に体が硬直した。
くそっ! 一体なんだっての!? あんなに朗らかに笑っていたのに、どうしてそんな憎しみの目で見てくるの? 私たちそんなに何か悪いことでもしたんだろうか?
「
その瞬間を狙ってさらに追撃される。
呪文が聞こえ上空を見ても何もない。首を振って探すがまだ見つからない。どこだ? どこから来る?
けれど急に気温が低くなりぞわっと素肌に鳥肌が立つ感覚があった。
これは――。
思わず悪寒のする足下を見た。
いつの間にか霜が生え氷の縄のようなものが数本、急激に地面から飛び出してくる。
「ちょっ!?」
上ばっかり注意していたせいで完全に出遅れた。
初めて見るその魔術に意表を突かれ、氷の縄は私の手足に蛇のように絡みつき固まる。
肌には冷たい感覚が押し付けられ、軽く押しただけじゃビクともしなかった。強度もなかなかあるようだ。
「今だ! やれぇ!」
「葵姉ちゃん!?」
魔術を放ったやつと同じ声で号令が掛かり、村人たちは敵意を剥き出し私に向けて一斉に詰め寄ってくる。
美歌ちゃんの心配する叫びも聞こえた。
「恨みはないが倒れてもらう!」
村人の一人が自前の鉈の刃先を振りかざし間合いに入って迫る。
元々は農具の一つだろうがそれでも人の命を刈り取ることも可能な武器だ。
それは私の首筋を狙う軌道を描いた。
『まーぱーんち!』
でも私のピンチに私の騎士様はちゃあんと守ってくれるのよ。
豆太郎が下から男の顔面を肉球で殴り付け遮った。
小さいながらもレベル五十のお供の攻撃は人間の限界を超えている。もちろん手加減しているだろうけど、私の危機に力が入り過ぎたのか男はゴムボールみたいに数メートルを飛ばされた。
「さっすが! んじゃこっちも外しますか」
本気で力を籠めると私を拘束していた氷は一瞬で亀裂が入りポキリと簡単に折れていく。
根幹を破壊したからか地面の霜も氷も霧散していった。
「そ、そんなバカな!?」
それを見て私に襲い掛かろうとしていた村人たちはたたらを踏んで蒼白そうな表情を露わに足を止める。
まぁ、ぶっちゃけ本気出せばこんなもんよ。豆太郎の活躍でお姫様気分を味わいたかっただけ。
それにしても魔術を使ってくるやつが面倒だ。さっきから目を凝らして探してはいるんだけど全然見つからない。
人の数が多いって言ってもこんなに見つからないもの? 一回目と二回目の間には移動しているのか声が聞こえた場所が違ってはいる。それでも納得がいかない。
「一旦、引きで見てみますか」
思いつくままに地面を蹴って跳び上がり宿の屋根にジャンプする。
上から俯瞰すると半分は美歌ちゃんとテンへ、もう半分が私へと視線が注がれていた。
「凍てつく無数の刃!
そこへまたさっきの魔術が到来する。
さっとサイドステップして氷の束を避けるが、やはり魔術を使っているそれらしき人物がいない。
メラメラと燃える松明の火と量産されていく気絶する人間たちの他に絶対いるはずなんだけどなぁ
てか今気付いたんだけど、この声に聞き覚えがある。たぶん村長だ。あいつ魔術師だったのか。
こういう時は範囲系忍術の出番かな。
メニューをなぞりボタンを押す。
「―【雷遁】雷針符―」
現れたのはいつもの【火遁】爆砕符のように呪符が付いているクナイ。
それをさっき声がした辺りに投擲する。
土に刺さったのを確認してから、
「【解】」
私のコールと同時にくないの半径二メートルほどの空間に雷が放出される。
殺傷力が低い状態異常系の術だ。
青白いスパークが一瞬で広がり消える。
「ぎゃあっ!」
結果、やはり何かを捉えた。
なんだ? 誰もいなかったところに人影が増えている。
目を細くして注視するとそれは村長と名乗ったあの男だった。大きな布――いやマントに包まれている。
「とうっ!」
屋根からそこへ飛び降りて着地する。
ちょっぴり焦げ臭い匂いをさせながらまだ意識があって蹲っているのは確認できた。
ただひどく動きは緩慢だ。きっと【麻痺】の状態異常に掛かっているのだろう。
その村長の背中に足を乗せて高らかにチェックメイトを宣言する。
「全員動くな! 動くとこの男がどうなっても知らないよ!」
あれ? この台詞、私が悪役っぽい?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます