第21話 エピローグ

 固唾を呑み目が眩むようなその光が止むのを待った。

 急に手応えがなくなり、顔から落下しそうになったところを青龍が口で摘み上げてくれる。

 逆さになったまま地面に降ろされ足を着いた頃には眩い光は収まり、巻きつきを解いた青龍の内側には何も存在していなかった。



「やった……」



 脅威が去ったことを確認してへたり込むように座る。身も心も疲れきっていてあまり動きたくない気分だ。

 すぐに近寄ってくる足音が聞こえる。

 私と同様にボロボロの状態の景保さんだった。彼は超劣勢からの逆転によりせっかく勝利を収めたというのに複雑そうな表情でゆっくりとやってくる。

 そして何かを言おうとしてためらい、何度も考え直して顔を振ってから口を開いた。



「葵さん……言いたいことはあるけど、まずはありがとうと言っておくよ。本当にありがとう。僕には思いつかなかったし、たぶんこれじゃなきゃ勝てなかった」


「いえ、みんなが頑張ったおかげですよ」



 掛け値なしにそう思う。もしあのまま成長され続ければフルメンバーが揃っていたとしても勝てなかったほどに手強くなっていたはずだ。だから今ここでこの人数で倒せたことが何よりもラッキーだった。

 本当にギリギリのギリギリだったけれど今思い返してもその結論は覆らない。


 ただ、



「犠牲は出てしまいました。村の人たちに、玄武も……」


「やるかたないけど、最小限に抑えられたと思う。それにね、僕は感謝している面もあるんだ」



 大量の人が死に、村は戦いに巻き込まれ無茶苦茶に荒れていた。

 この惨状でそんなものあるのだろうか?



「僕はこの世界に来てずっと不満で戸惑ってた。スペックを発揮できないタマや、NPCの時と同様の行動をせず、思っていた性格とも全然違う青龍たちにね。せっかく異世界にいるのに理想通りじゃなくてふてくされていたんだ。元の世界からも逃げられてようやく来たここでもまた逃げたくなって、逃げてばっかりだった。でも違ったんだ。NPCもここでは一個の命として生まれ変わってる。玄武が冗談を言った時にそれに気付かされたし、彼女が倒された時に後悔した。僕が向き合ってなかっただけなんだって。要はまだゲームの延長線上という気分が抜けていなかったんだんだと思う」



 詳しいことは知らないが、昨日の夜に景保さんがタマちゃんたちに思うところがあるようなことを言っていたのは事実だ。

 皮肉なもんだね、追い詰められないと実感できないっていうのは。 

 


「私も極限状態で気付かされました。怒りもすれば笑いもするし、私たちの思惑とも違ったこともする。単なるNPCの延長じゃないんだって」


「本当にね、もう少し早く気付くべきだったよ」


「まだ完全に失ったって決まったわけじゃありません」



 一日経てば再召喚できて、またあの生真面目そうな顔を見せてくれるかもしれない。

 たった三人だけで土蜘蛛姫に勝利できた私たちがここでまた諦めるなんて、それこそ玄武に合わす顔がないよね。

 いや、子蜘蛛を引きつけてくれた豆太郎やタマちゃん、アレンたちのおかげもあるか。



「そうだね。今はとりあえずそっちは置いておくよ。それで話は変わるが、年上としてパーティーメンバーとして僕は君を叱らないといけない。分かるね?」



 彼の声のトーンが低くなり緊張した面持ちの顔になる。

 景保さんが示唆しているのは、私が『ポーション』を使ったことだろう。

 それが意味することは一つ、


 ――私はポーションでの帰還ができない。


 覚悟を決めたわけじゃない。激情に流された部分もあったけど、生き残るためにはこの方法しかないと思った。

 殺されるよりはマシだしね。



「分かっています。でもせめて今日だけは無しにしてくれませんか?」


「……はぁ。僕だって自分のポーションは使わないくせに、使った君を怒るっていう筋違いで恥知らずなことも分かってる。でも……いや……うん、分かった。固い話は落ち着いてからにしようか」



 どうやらお説教は回避されたらしい。

 強敵を倒してすぐに反省会とかそんなガチ勢みたいなことはしくないのよね。今はとにかく喜びたい。

 あれ、そういえば……



「あの剣って」



 土蜘蛛姫に首を締められやられそうになった瞬間、助けてくれたあの剣。バラバラに砕けてしまったみたいだけど、見覚えがあった。

 あれは確か――


 どさ、と少し離れたところで音がした。

 まだ蜘蛛が生き残っていたのかと疲労困憊の体に鞭打ち、紅孔雀を抜いて警戒する。

 景保さんと青龍も見構えた。


 だけどそこにいたのは――うつ伏せに倒れているアレンだった。



□ ■ □


 その後はゆったりと合流した。

 疲れ果てたクロムウェルさんを含めみんなと無事を確かめ合い、それで山小屋に帰って徐々に意識を取り戻した仲間たちとまた喜びを分かち合った。

 一日休息してからとりあえず町へ戻るという流れになる。


 本当は数名残ってなぜ土蜘蛛姫が出現したのか調査をした方がいいみたいだったけど、正直みんな早くここから離れたがっていたし、物資も乏しかったためだ。

 もちろん教会の中ぐらいはまだ元気な景保さんやジ・ジャジさんたちと簡単に探索をしてみた。ただ残念ながら手掛かりのようなものは見つけられなかった。

 漫画とかだと怪しい魔法陣とか儀式の跡とかあるんだけどね。 


 景保さんだけは別の町へ報告しないといけないので別れることになったけれど、報告したらすぐにクロリアの町に一度来てくれるという話にはなっていた。

 本当に打ち上げをしたいらしい。半分冗談のつもりだったんだけど、こうなったらめいいっぱい楽しんじゃいたい。他の面子ももちろん参加予定だ。

 

 クロリアの町へ帰る途中、すっかり忘れていた私の後を追うように進んできた馬車と出くわし、私たちを見て豆鉄砲食らった鳩みたいな顔をしていたのも良い思い出だった。

 いやでも助かった。十六人いるのに馬車ニ台しかないせいですし詰め状態だったから。まぁ私は元気が有り余っていたので、狭い馬車にいるより豆太郎と一緒に小走りで横をランニングしてたけど。



 

「――なるほど、大体分かった。魔術らしきものを扱う驚異的な魔物の出現と村人の全滅か。……退治できたことだけが救いだな」



 到着するなり休む暇を惜しんでギルドに赴くと、すぐにギルド長の部屋にジ・ジャジさんと二人で呼ばれて報告を終えたところだった。  

 今回の合同チームのまとめ役という意味ではファイアーストームのリーダーの人がそうだったらしいんだけど、彼はまだ体調が優れないので代わりにランク4パーティーリーダーの元気なジ・ジャジさんと別件依頼の私という取り合わせだ。

 リーダーの人の回復が遅いのは、どうも捕まる直前に仲間を逃がそうと大魔術を行使したらしく、不調の理由はそれじゃないかとみられている。

 

 私は目の前に置かれた果物のジュースを口につける。うん、甘酸っぱくておいしいね。

 どうやら前回の脅しが効いたのか改心したのか、本当に果物のジュースを用意してくれていたのはちょっぴり苦笑いした。



「それでアレンの状態はどうなっている?」


「まだ目を覚まさないな。アオイも心当たりは無いと言っている」


「天恵を使って最後に私を助けてくれたみたいなんだけどね、それからずっと眠ってる。苦しそうじゃないし、何にも食べてないくせに意外と肌ツヤは良いしそのうち起きるとは思うんだけど」



 ソファの横に座るジ・ジャジさんに視線で説明を求められ、あの窮地に追い込まれていた時のことを思い出しながら話す。

 そう、あれからアレンはずっと眠りっ放しだった。

 

 この世界では魔術を極限まで使い切るとあまりに辛くて体が勝手に気絶状態に持っていくことがあるみたいで、天恵も似たようなことがあるとミーシャは言っていたが、それでもこんなにずっと昏倒し続けたことは今まで無いそうだ。

 あと試しに景保さんに状態異常回復の符術も使ってもらった。それでもあの寝ぼすけ君は春眠暁を覚えず四日経っても未だ爆睡中だ。

 土蜘蛛姫の特性に睡眠系は無かったはずなんだけどね。はてさて……。


 まぁあまり深刻に心配していないのは実はとある予想があったからだ。

 確証は無いので今は伏せているけどそれが当たってるならそのうち勝手に起き出すと思う。たぶん。



「結局、その化物の発生原因は分かっていないんだな?」


「大蜘蛛が陣取っていた教会内は軽く見回ったがおかしなところは無いし、他の家も調べたがこれというものは発見できなかった。すまないが、それについては後日に別の誰かにやらせてくれ」



 やっぱりそれが重要な点だった。

 ただ彼らには申し訳ないけど、大和伝のモンスターだったという情報は渡していない。これを説明するとなると異世界転移の話をしなければならないし、その結果私たちへの扱いがどうなるか読めなかったせいだ。まだ私たちはそれを打ち明けられるほど彼らを信用できていない。

 それは景保さんとも内緒の相談をし合って決めたことで、土蜘蛛姫も倒したらなぜか消えたということにした。


 原因が分からないまでも土蜘蛛姫が現れたのは、私たちと同じようにあっちから落ちてきたんじゃないかとは思っている。でもそれだと時間的な説明がつかないんだよね。

 私と景保さんがここに来た日付は一緒なのにあいつは数日のズレがある。モンスターだからだと言われればそれまでだけど釈然とはしていない。



「頭が痛いな。百数十名いた村人が突然いなくなるとは。これからの復興を考えるだけで酒に逃げたくなる」

 

「さすがに怯えてしばらく移住希望者なんて集まらないだろうしなぁ。せめて蜘蛛が湧いた原因が分かればって感じだが」


「それでも放置すれば加速度的に荒れるだけだ。畑も家も人が手を入れなければ腐る一方なんだから。とは言え人も物も金も有限でタダじゃない。はぁ……」



 ギルド長が大きくため息を吐く。歳相応に刻まれた皺が幾分か深くなっているのは気のせいではないだろう。

 蜘蛛退治に出掛ける前は小悪党みたいな印象だったけど、それなりに真面目に仕事をしているようだ。まぁでも私は役に立ちそうにないしそういう込み入ったことは大人たちに任せよう。

 コップに残っていたジュースを飲み干す。



「じゃあ、そういうことで」


「あ、待て待て、もう一つだけ話がある」



 難しい話になりそうだったし、そろそろちゃんとしたベッドが恋しくなってきたので逃げるように席を立とうとしたら呼び止められた。



「何? 固い地面や馬車の中以外でそろそろ寝たいんだけど。あ、報酬の話なら明日また来るからその時にして欲しいわ」


「報酬もあるが、まぁそっちは明日でいい。そうじゃなくてお前さん、明日から‘ランク4’な」



「…………え?」


「…………は?」



 私もだけど、ジ・ジャジさんも口をぽかんと開けた。

 なかなかにいきなりの発言だ。

 確かこの町で最速に近いアレンたちでも一年以上掛かってまだ手前なんじゃなかったっけ?



「おいおっさん、さすがにそりゃねぇよ。俺らだって地道に何年もやってようやく4になったんだ。なぁアオイ、お前ギルド登録したのいつだ?」


「一週間ぐらい前かな」


「い、一週間だと!? 実力があるのは認めるがさすがにやりすぎだろ。この世界、腕っ節だけじゃなくて他に覚えることは色々あるぜ?」



 魔物の倒し方だけじゃなく、その土地のルールや軋轢、馴染みの鍛冶屋作りに他のパーティーとの人付き合い等々、上位冒険者に必要なものをその場でジ・ジャジさんが懇切丁寧に説明してくれる。

 つまりは、上位冒険者になるには戦闘能力だけでなく知識や交渉能力や協調性も必要ということらしい。

 一応これから役に立つかもしれないし黙って聞いておいたけど当分お金に困りそうにもないし、とっても面倒くさそうなのでお断りしたい。



「高ランク冒険者っていうのは、要はその町の顔だ。こいつがどっかで依頼を失敗したりトラブルを起こせばクロリアはその程度のやつでもなれるって舐められちまう」


「そういう反発があるのは分かる。だからお前さんらでサポートしてやってくれ。この町の上位冒険者たちの後ろ盾がこぞってあれば無理やり納得させられるだろう?」


「そりゃそうかもしれんが、さすがに一週間でランク4は前代未聞……おっさん、何を焦ってる?」



 途中で言葉を切り、ジ・ジャジさんが目を細めた。

 それにギルド長は片眉を上げて応じる。



「さすがに村人全員亡くなったってニュースだけを流すわけにはいかんだろ。せめてそれを解決したヒーローを作らんと」


 

 要はあれだ。華々しいスクープで悪い話の印象を少しでも薄くしようっていう思惑らしい。端的に言うと私をパンダ見世物にするつもりだ。

 もう再建に手を入れ始めている。本当にたぬきさんだわこの人。小狡い感じもするけど、こういう工作させたら上手いわ。

 なんだか耳に復興の槌音がもう聴こえてくるかのようだった。



「それだけちゃんとしてるなら、最初からちゃんとしててよ」


「喧嘩売る相手を間違ったことは後悔してるよ」



 皮肉たっぷりな言い回しに舌を出して返してやった。

 私たちだけの間で分かる会話にジ・ジャジさんは口は挟まない。

 ただランクを一足飛びに上げることは無視はできないみたいで話を戻す。



「あー、理屈は分からないでもないが、それにしたってよう……」



 まだ納得がいっていない彼に、ギルド長は年甲斐もなく悪戯小僧のような顔をする。



「何を暢気なことを言っているんだ? 復興が始まったらお前さんらブラッドビーストとファイアーストームの面々には交代であっちに数ヶ月は滞在してもらうからな?」


「は?」


「大蜘蛛を倒した面子がいないと誰も怖がって移住なんてしないだろう? できるだけ早くお役御免とさせてやりたいが半年は我慢してくれ。当然断ったら今後の査定に響くことになる」


「かー、なんてひでぇ話だ。横暴じゃねぇか。てか、倒したのは俺らじゃねぇし」


「そんなことは百も承知だ。だが言わなければ誰も知ることはないだろう? 発表するのは大蜘蛛は討伐隊のメンバー全員の手で倒され、その中でも目覚ましい活躍をしたのがそこのアオイ。この件に関してはそれ以外のことは緘口令かんこうれいを敷く」


「おっさん、そのうち刺されるんじゃねぇのか……」



 ジ・ジャジさんは額に手を付けソファにだらしなくもたれかかった。

 半年拘束されるって言われたらそりゃ頭抱えるよね。しかも自分がやってない手柄を押し付けられるとかプライドも傷付くわ。 



「聞いたからには宜しく頼むぞ?」


「ちっ……仕方ねぇな。へいへい」



 ギルド長の念押しに彼はぺらぺらと手を振って答えた。

 それを確認してからこちらにも目を向けられる。



「お前さんも頼むぞ?」


「まぁ村の人たち助けられなかったし、それで復興の助けになるなら別にいいけど、責任とかに縛られるのは嫌だよ?」



 あんまり注目されたくなかったが、理由を知ったら断れないし、渋々は了承はする。

 でもあまりにも想定外の流れだし、それで色々と雁字搦めにさせられるのは困るんだよね。



「大丈夫だ。こっちも異例のことだから無理なことは言わないし制限もしない。そもそもお前さんに首輪を付けられるとは思ってない。下手にすると暴れられそうだしな。ただ責任は押し付けないが責任感ぐらいは背負ってもらいたい。おそらくお前さんには見えるもので縛るより、見えないものを使う方が利きそうそうだ。これが一番良いやり方な気がする」



 上手く釘を刺されてしまった。

 ホント鋭いわこのおやじ。力ずくでどうこうしようってんならこっちも反撃するけど、町の顔だとか言われて勝手にでも事情を知らない人たちから期待や責任感とか背負わされたら、確かに自由に何でもやりにくくはなる。

 でもそもそも理不尽なことじゃなけりゃ暴れませんよーだ。


 

 会話はそれで打ち切りギルドを出た。

 明日きちんとした報告書を作りたいそうで、もう一度説明し直すためにまた来て欲しいと言われた。

 

 面倒に思いながらも賑わう人の波をかき分け宿に向かう。道の端から鍛冶屋で鉄が打たれるリズミカルな音が奏でられ、胃を刺激するおいしそうな匂いが漂ってくる。そしてすれ違う人々の顔は、数日前まで本当は世界の脅威が迫っていたことなんて知りもせずに平和を謳歌していた。

 そんな屈託なくはしゃぐ子供たちや、生活を満喫している大人たちの横顔を見ると、淡く満足げな気持ちが湧いてくる。

 


『でもあーちゃん、ほんとうににへいき?』



 定位置である頭の上から豆太郎が心配そうに訊いてきた。

 ランクの話じゃなくてポーションを使ってしまったことについてだ。

 この世界に留まることを選んでしまったことについて気がかりになっているみたいだった。



「うん、まぁ多少後悔はあるけどね。アテが無いわけじゃないし」



 私だって考えなしにさようならお母さん、って思いながらやったんじゃない。

 一応可能性は残している。

 現状、元の世界に戻るには大まかに三つ方法がある。


 1つ目は、



「例えば、ここに残ることを決意した人が他にいるかもしれないし」



 こっちに何人来ているのか分からないが、まさか私と景保さんだけではあるまい。その中にリアルの世知辛い社会よりも優遇措置があるこの世界で暮らしたいと思う人はゼロじゃないはずだ。

 そういう人がいればポーションを譲ってもらえばいい。アイテムや装備と交換したら何とかなるのではないかと考えている。特に消費系のアイテムはここで生きていくなら貴重だしね。

 だから当面は他の大和伝メンバーの捜索が行動の指針となる。


二つ目は、



「あと‘神様’だって本当にいるみたいだしね」



 あのポーションの効果が本当に『帰還』だったのかは確かめようが無い。でもそれっぽくは感じた。なら多少は神様のことを信用してもいいはずだ。

 メールでは届かないだけという可能性もあるし、何らかの方法でコンタクトが取れれば、もう一度ポーションをもらうことだって不可能ではないんじゃないだろうか。

 タダでもらえたんだしきっと気前良くくれるに違いない。

 やや希望的観測が入っているけど自分ではそこそこいけるんじゃないかと思ってる。


三つ目は、



「本当の最悪の最悪、死んでも戻れるらしいんだけど、これはやりたくないなぁ」


 

 死んでも帰還はできるらしい。でも自殺はどれほどの痛みが伴うか分からないし、寿命を全うするのは一体何十年掛かるのやら。

 特に景保さんはまだ全面的にメールの主を信用していないようで、この方法は強く引き止められた。

 


『だったらまたいっしょにぼうけんできる~?』


「うん、きっとすることになるだろうね」



 結局、土蜘蛛姫がなぜこっちの世界までやってきたのか、なぜ私たちがこっちに落とされたのかそれは謎のまま解明されていない。

 そして土蜘蛛姫と同じ脅威がこっちに産み落とされていないとも限らないわけで、私はもっとこの世界のことを知らなければならないと思うんだ。

 二人であんなのの相手なんてもう御免こうむりたいし。


 それに薄っすら引っ掛かっていたんだけど、ギルド長が言っていた『変な格好をした人物』の村での目撃証言もそのままだ。

 もちろんその人物が今回の件と全く関係がないのかもしれないし、単なる勘違いとかもありそうだったけど、手がかりはそれぐらいしかないのも事実だった。

 よくある展開なら邪教徒が召喚したとかそういうのだろう。もしそんなのがいるなら村人たちの仇に潰してやる。

 


「だからまぁ、もう少しこの世界のお世話になろうかな。豆太郎も付き合ってくれる?」


『あいさー! もちろん、まーはあーちゃんといっしょだよー!』



 ハツラツとした豆太郎の声が雑踏を抜け、澄み切った青空に届き白い雲に消えていった。

 まだまだこの世界の探索は始まったばかりだ。

 次はどんなことが待っているのだろう。ま、何が来ようとも自重しないで乗り切ってやろうと思う。

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