第4章 夏休みな日々

第17話 露天風呂の仮完成

その1 露天風呂の完成

 父が帰った三日後の昼、露天風呂が仮完成した。

 正確には屋根とか飾り部分がまだ未完成。

 でもポンプからボイラーを通して浴槽から排水までの一通りは出来ている。

 つまり入浴できる状態だ。


 男性代表の教授と女性代表の助手がジャンケン五回勝負をした結果、女性陣が先に入浴することに。

 でもまずは湯沸かしからだ。

 何せ入れるまで三時間くらいかかるらしいから。


 まず水栓を捻って水がボイラーの貯水槽内入ったのを確認、薪に火を付ける。

 最初の火入れ役は教授が譲らなかった。

 薪を入れ着火剤をつけた薪に火を入れて薪を組んだ下へ。

 暫くすると結構ガンガンに燃え始めた。

 あとは頃合いを見て薪を適当に追加すればいい。


「自動で四十八度のお湯が浴槽に入り始める。水栓は凍らない季節はそのままにしておいていい。ボイラーが止まって温度が下がったら自動的に水も止まる」

「便利ですね」


「その辺は色々考えて作ったからな。ランニングコストも薪代を別にすれば一時間二十五円程度で済む。ほぼポンプの電気代だ。計算では十二時間動かしっぱなしで三百円ってとこだ」

 思った以上に安い。


「ボイラーが完全自作で三万円弱、電動ポンプが中古のを無料で貰ってきて直して五千円少々。あとは風呂の工事の方がどれ位かかっているかだな」

「余った資材と安い資材を組み合わせたから三万円しないよ。まあ本当は人件費や機械のレンタル代がきっとかかっているんだけれどね。機械はここのと大学のとを使ったし、人件費は多分みんないらないと言うだろうしね」

「お湯が出てきたぞ」

 そんな声が聞こえたので露天風呂の方へ。


 露天風呂は竹垣でぐるっと覆って外から見えないようにしてある。

 今は外から風呂に行けるよう仮扉を開いているけれど、入浴時にはこの扉を閉める予定だ。

 その代わり風呂場の大窓から露天風呂の場所へ入れるようになっている。


 露天風呂スペースは当初の予定よりかなりいい感じに出来た。

 トラックで教授の知り合いの石切場へ行き、くず石を只で貰ってきたのだ。

 それをあちこちに置いたり敷いたりしてあっていい感じになっている。

 屋根とか飾り付けはまだ終わっていない。

 でも周りの緑と相まって既に雰囲気は何処かの温泉並だ。

 しいていえば入口に置いてある丸太彫りのペンギンがちょい笑えるかな。

 なお教授の作品は火がつきやすく良く燃えるいい薪に仕上がったので現存しない。

 教授によると訓練した後に再挑戦する予定だそうだ。


 さて、石組みで出来た巨大な浴槽には少しずつお湯が入り始めている。

「予定通りの温度です。ミキシングバルブがちゃんと動いていますね」

 助手で建築クラブの副顧問の門山先生が温度を測定してそんな事を言う。

「今日は気温が高いしそれくらいの温度でいいだろう。寒くなったらまた調整すれば大丈夫だ」


 温度調整は結構凝ったシステムを使っている。

 電磁水栓と温度センサー、安物マイコンとリレーの組み合わせでだ。

 教授曰く『三千円もかかってしまった』一品。

 この装置で調整した温度通りになるよう水を混ぜる。

 ボイラーに設置された『一定以上の温度になると水が出る水栓』とあわせて設定通りの温水が出るというハイテク。

 これが手作りの薪ボイラーと組み合わせてある。

 何かハイテクかローテクかよくわからない代物。

 でも便利だ。


「そうだ、この日のために買って置いたものがある」

 そう言って教授が外へ出て行った。

 間も無く大きい段ボール箱を抱えて戻ってくる。

「露天風呂開設祝いだ。開けてくれ」

 開けて出てきたのは黄色い洗面器だ。

 全部で十二個も入っていた。


教授せんせい、しょうもない処に拘りますね」

 門山先生が若干呆れたように言う。

 僕には黄色い只のプラスチック洗面器にしか見えないが、何かあるのだろうか。

「風呂と言ったらケロリンの桶だろう」

 イライザ先輩がうんうんと頷いているところを見ると、何かそういうこだわりの世界があるらしい。

 僕には全くわからないけれど。

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