その10 宴はたけなわで酷すぎて
不安だったフナとかもとっても美味しかった。
フナは甘辛い煮物で出てきた。
見てくれはいまいちだけれども骨もウロコも全部美味しい。
ちょっとゼラチン質のとろっとした感じがなかなかいい。
ヤマメの塩焼きは当然美味しかった。
数が少ないのでほんの一部分しか食べていないけれど。
何の魚かわからないけれど南蛮漬け風もなかなか。
川魚と言ってもちゃんと料理する人が料理すれば美味しいんだなという感じだ。
それはいいとして八畳間二間は酷い事になっている。
あの怪しいドリンク、残り五本も全て空いた。
ちなみにワーストは『もみじ饅頭サイダー』だったそうである。
そんな情報を知って何の得になるかは別として。
その後近隣の家が無い事をいいことに大宴会モードに突入。
歌うわ踊るわ変身するわ。
僕の目には危険な状態になったので部屋を抜け出して廊下へ避難。
何せ変身した後人間に戻ると当然全裸なのだ。
変身した時に服が脱げたり破けたりするから。
その危険を避けるためにあらかじめ脱いでから変身する人までいる。
そんな目の毒状態の方々がそこここに転がっている状態。
なお転がっているというのは物理的状態でもある。
酔っ払いとか食べ過ぎとか雰囲気酔いとかで。
これは僕には厳しすぎる。
かと言って二階で部屋に閉じこもるのも何だ。
だから廊下に避難して休憩している訳だ。
宴会場から持ち込んだ烏龍茶のペットボトルを直接飲みながら。
開けっぱなしの廊下の掃き出し窓に座って。
今日は星が綺麗だ。
月は出ていないが星がその分またたいて見える。
悪くない夜だ。
背後が賑やかなのもまた。
そんな事を思いながら何となく空を見ていると。
「星が綺麗ですね」
背後から亜理寿さんの声がした。
「気分転換ですか」
「ちょっと男子が中にいるのが申し訳無い気分になりそうだから」
正直に言ってみる。
「確かにそうですね、多分皆さん気にしていないでしょうけれど」
わかってくれたようだ。
「ちょっと私もここで休憩していいですか」
「どうぞ」
「では失礼して」
亜理寿さんが横に座る。
「賑やかななのは苦手?」
何となく聞いてみる。
「そうでもないです。ただ慣れていないだけで。でも今まで賑やかなのも人が多いのも苦手だと思っていました。ずっと長い間」
確かに彼女はそんな雰囲気がする。
少なくとも以前感じた感じでは。
孤高というか何というか人を寄せ付けない雰囲気がしていた。
「元々嫌いでは無かったのか、嫌いで無くなってきたのかは自分でもわかりませんけれど」
彼女は呟くようにそんな事を言う。
僕にと言うより自分自身に言っている様な感じで。
「元々ここには逃げてきたんです。自分の周りの全部から。一人になりたくて誰も知り合いがいない場所に来たんです。薬学部を選んだのも逃げるための理由付けで」
ことっ、という音がした。
振り向くと美鈴さんだ。
彼女は台所側から歩いてくると亜理寿さんの向こう側に腰掛けた。
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