魔法使いと野獣

6でなしヒーロー

第1話


 一人の少女は黒闇の路地を走った。その背後は迫り来る黒い炎で包まれた犬だった生き物。

 少女は息を切らし必死に走ったがその先は行き止まりだった。少女はここで自分は死ぬのかとへたりと腰を抜かした。生きるのを諦めた獲物を見た犬は、勝利を確信したのかゆっくりとゆっくりと歩いていく。

 そして犬の口は、花が咲くように裂けてそれを見た少女は助けを求める声すら出せず、目を瞑った。

 

 私は少女の隣で、ただそれを見ていた。私は少女を助ける事は出来ない、助けようとしないとも言える。

 これから起こる出来事を知っているかだ。


「キャーン!」


 犬は突然、空気が入ったように体が膨れ上がり爆発四散して少女の顔に血が飛び散った。目を開けた少女は惨状に気づき泣き出した。


「いくら練習で使えても、実践で使えなきゃ意味ないと何度教えりゃわかるんだ」


 少女を救ったその声の主はめんどくさそうに頭を掻く男だった。その顔にはクマと半開きの目で眠たそうにしている。その男が目を向ける先はグズグズ泣く白髪の少女に血を拭くよう布を渡した。


「はぁ~お前は物事を考えず突っ走るバカだ、挙句に簡単に悪魔を信じて騙されて泣いてる始末、呆れるな」


 あの男は私の師匠だったクズだ。子供にも容赦がなく私はそいつを殴ろうとしたが私の手は男の顔をすり抜けた。

 やはりこれは私の夢か、子供の頃の出来事を私は見ているんだろう。


「ホラ、さっさと立て、いい加減泣くのやめろ」


「でも……でも……」


 少女、いや子供の私は師匠の差し出す手を掴もうとしなかった。

 どうして、私は泣いているんだ。ああ、そうだ思い出した。私が助けようとした犬が実は悪魔で殺されかけたんだ。

 それを思い出すとその悪魔をぶち殺したくなった。


「ああクソ……だからガキは嫌いなんだよ……」


 師匠は頭を掻き毟り溜息をついた。そしてこう言い放つ。


「ならここで言ってやる。お前は一人前の魔法使いになれない」


 子供の私はさらに泣きじゃくった。


「最後まで話を聞けバカ、確かに一人前になれないと俺は言った、だがな、お前を止めてくれるストッパーがいるなら別だ」


「ど……ういう……こと?」


「バカにでも分かりやすく言うとな、お前は魔術のバランスもスペックも極端だ。オマケに性格もクソ甘いバカ、何度死ぬ目に遭っても誰かを信じるバカ、良いか? これはお前を褒めてるんじゃない、お前は経験しないって貶してるんだよバカ」


 殺そう、何度バカと呼べば気がすむんだこいつ。子供相手に大人気ない。


「だから強い相棒を見つけろ。それなら何とか一人前になれるかもな」


「相……棒?」


「そうだ、お前には才能はある、がそれ以上にダメな点が多い。だがここで芽を潰すのも惜しいからな」


 師匠はめんどうな表情から軽快そうに微笑んだが、そこから出た言葉は最低だ。


「お前が大人になるまで面倒は見てやる、だから必死にしこたま修行して俺を失望させるな。ここで辞めるってんならいい娼婦館でも紹介してやる、お前ならそこでも生きていけるだろ、それが嫌なら立て。わかったか? 返事は」


「……はい」


 今思うとなんて酷い慰め方だ、夢だから一部は私の悪意によって改悪されてるかも知れないが、大体合っている。

 だが師匠は捨て子だった私を赤ん坊の頃から育ててはくれた恩人ではあるのだ。恩人ではある……恩人では……








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