天上の桜
乃平 悠鼓
序章
いつかのあの日《一》
いつ
あるのは、鉛色の影のみ。夜でさえ
石畳の一角に
最初にそれに気付いたのは誰だったか。恐怖に
現れた漆黒の闇が辺り一面に広がり、まるで闇が
上界の南南東の端に位置する
目を
南門、
鶯光帝はことの重大さを悟り、最も信頼のおける捲簾をつかわしたのだ。にもかかわらず、彼らは
又、近くには
その更に奥には、
『これは
沙麼蘿は、直感的にそう想った。上界には決して存在するはずのない魔。魔は、人の負の感情を食らい増長し、すべてを飲み込み消滅させる。私利私欲に埋もれた下界ならいざ知らず、この上界に現れることなどない。
確かに負の感情は上界にも存在するが、下界に比べれば
朱雀門の近くには、霊獣朱雀がいる。朱雀が魔に気付かぬはずはない。
「そこまでこの世界が憎いか、朱雀。世界を消滅させてまで」
そう沙麼蘿が呟いたとき、
『お前のような化け物でも、私を消し去ることはできまい』
漆黒の闇の中から声のようなものが聞こえ、顔のない何かが、自分に向けてニャリと笑った気がした。
『そうか……。私はこの日のために、生まれてきたのか』
魔を見据えた沙麼蘿が漠然とそう想ったとき、今まで白と黒でしか感じ取ることができなかった彼女の頭の中に、美しい
仏界で
「尊い子。愛し子」
そう言って抱きしめてくれた
「僕の妹だよ。大切にして可愛がるんだ!」
何時も手を握って離さなかった
親にさえ抱きしめられたこともなく、触られたことすらなかった沙麼蘿に、人の温もりを教えてくれた此処道界。
聖宮が愛し、これから先皇が生きていくこの世界。此処を護りきらなければ道界はおろか仏界、下界と、この世界のすべてを魔は飲み込み消滅させる。
「お前ごときに、この世界を渡しはしない」
沙麼蘿は、そっと右手の
阿修羅が持つ五つが
********
ここからは、聞きなれない言葉の説明です。
蒼穹→青空・大空
天都→天上界の都
上界→天上界・神々の住む所
下界→地上・人間等が住む所
泥犂→地獄
天人→天上人・神々
紫微宮→天帝の住む所
赤紅色→鮮やかで濃い赤色。神なのでこの色に
仏界→天上界で仏教神が住む所
天色→晴天の澄んだ空のような鮮やかな青色
衣→衣服・着物
徽章→衣服などにつけるしるし・バッジ。ここではお印の意味
薄明光線→太陽が雲に隠れているとき、雲の切れ間あるいは端から光りが漏れ、光線の柱が放射状に地上へ降り注いで見える現象
聖人→仏教神
道界→天上界で道教神が住む所
掌→手のひら
白金→プラチナ
腕釧→ブレスレット
白刃→鞘(さや)から抜いた刀、抜き身
三尺→約70センチ、ここでは一尺約23センチ1ミリ
剣格→日本刀でいう鍔(つば)
宝相華→空想上の花、ここでは奈良の興福寺の阿修羅像が身につけている布の柄のこと
剣柄→日本刀でいう柄(つか)
紅色→鮮やかな赤色
剣首→日本刀でいう柄頭あたり
藍晶石→カヤナイト
剣穂→多くの糸をたばねその先端を散らして垂らしたもの、房、タッセルみたいなもの
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