16 再会

 轟沈する〈レヴェラー〉を前に、その場に居合わせた者は皆言葉もない。


『呆然としている暇はあるまい。指定座標まで脱出せよ。二騎共回収する』


〈フェニックス〉から送信された座標へ向かう最中、ナガレがコチョウへ訊いた。


「あの――〈ヴァーミリオン・レイン〉の武器って」

『エーテリアライゼーション・ヴァリアブル・ブレイデッド・カタナ――略して〈エーテル・カタナ〉。カルマ・テクノロジーが生み出した一つの到達点だ』


 コージローが幾分か興奮した口調で口を挟んだ。彼もイクサ・フレームに携わる者、興味は隠しきれないらしい。


『聞いたことがある。あれにかかれば、戦艦の防御スクリーンですら紙に等しいって』

「いや、すげえ武器だな、コージロー=サン! 欲しくなってきた」 

『無理だよナガレ=サン。〈ヴァーミリオン・レイン〉設計者の死去により〈エーテル・カタナ〉は完全にブラックボックス化してしまった。復元も出来そうにない』 

『似たようなものも造れねーのか?』

『造れないんだよヨモギ=サン。そのような計画は全て騎体の爆発四散という形で失敗に終わっている』

「爆発四散て」

『〈エーテル・カタナ〉からして相当にデリケートな武器なのだよ。刀身解放形態は10秒しか保たないのだ。それ以上解放すればエンジンが自壊するし、一度使えば一分は使えない。しかも乱発は出来ないという』

『サムライのロマンを煮染めたような武器だ……』

『……使いにくいだけじゃねーの?』


 褒めているのかいないのかわかりにくいコージローの嘆息に対し、ヨモギは案外シビアな応答をした。

 

『でも欠点がないイクサ・フレームなんてつまらないってマサムネ・ゴロウも言ってるよ、ヨモギ=サン』

『問題はそういうとこじゃないだろーコージロー=サンよォ……』 

「ウン、そういうところじゃないな、二人共」

 

〈グランドエイジア〉が足を止める。眼の前に、〈テンペスト〉系列の中隊が道を阻むようにして展開していた。

 

 隊長格と思しき、白と薄紅グラデーションの〈テンペストⅢ〉がそのツインアイから通信レーザーを放つ。

 

『……またあなたですか、サスガ・ナガレ=サン』 

「またアンタか、ヤギュ・ハクア=サン」


 嘆息混じりのハクアにナガレが応じる。


「追ってる相手が同じなんだから仕方ねえだろ。それにもうちょっと早く来てくれればよかったのによ」 

『我がクランはあなた方の予定に合わせて活動しているわけではありませんので』


 ヨモギの〈エイマスMk-Ⅱ〉が〈グランドエイジア〉の肩部装甲に触れた。接触通信回線オープン。

 

『なんだァこの女? ナガレ=サン、ブッ飛ばしちまうか?』

「逆にヨモギ=サンがブッ飛ばされるのがオチだ」

『ナガレ=サンを負かした相手だよ。だからじっとしててくれ、頼むから』

 

 コージローがヨモギを諌めた。ヨモギから何か言いたそうな感じがしたが、彼女はそれ以上何も言わなかった。

 ナガレも何も言わなかった。負けたことは事実だったからだ。しかし今なら…いや、言うまい。


「で、俺たちを迎えに来てくれたと?」

『そうなりますね。まず、騎体の得物を全て捨ててください』 

「騎体は?」

『そのままわたしたちについてきてください』


 二騎はハクアに従った。

 

 ヤギュウ・サムライ・クランは海沿いのポイントに陣取っていた。クランのイクサ・フレーム群は営舎からやや離れた場所に駐めてあった。騎体から降りたナガレたちは、拘束などされることなくハクアとその部下の後を追った。どうやら虜囚にならずに済むようだ。

 一際大きいテントの前で、声をかけられた。

 

「お姉ちゃん!」


 小学生くらいの女の子だった。後ろに二人の年配女性サムライがついている。女の子は大きく目を見開いて、ヨモギの方を見ていた。

 

「ササメ!」

 

 ヨモギもヨモギで、女の子と同じ表情をしていた。

 

 二人が駆け寄り、ハグしあった。止める無粋者は誰もいなかったし、そうしないだけの情けもヤギュウのサムライには存在していた。年配女性サムライは眼に涙さえ浮かべていた。

 

「ナガレ=サン、友情っていいよね……」

「コージロー=サンもかよ」


「ゴメンな、ササメ!」

「お姉ちゃん、アリガト!」 

 

 そんな二人をちらと見ただけで、ハクアは一際大きいテントへ入るようにナガレを促した。

 

「ここから先は、ナガレ=サンだけ」

「ハクア=サン、ヨモギ=サンとコージロー=サンは?」

「あの二人は巻き込まれただけですから」


 暗に、積極的に事件関係者になりにいったナガレを非難するような語調だった。尤もそれは事実なので何も言えない。


「失礼いたします。サスガ・ナガレ=サンをお連れしました」 

 

 ハクアが中にいるらしい誰かに声を掛けた。彼女の視線がゆけと言っていたので、ナガレはテントに入った。

 

 軍服を着た男がいた。ナガレを上回る長身の、ハンサムな青年だ。

 

 ナガレには、彼が何者であるかすぐにわかった。10年越しでも、わかってしまった。

 忘れるはずがなかった。二人で――否、三人で、奇跡と生命を共有したのだから

 

「……テンリュー」 

 

 タツタ・テンリューは鷹揚な笑みを浮かべた。

 

「久しぶりだな、ナガレ」

 

 10年ぶりに、二人は再会した。

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