◆3章-3◆演者と演者とまた演者
俺達は向かう所敵無しだった。
それぞれの役割は今までとあまり変わらない。
シェイアが先陣を切り、アリアが壁となる。
クレアがそれらをサポートしつつ攻撃魔法で戦闘にも参加。
俺はその時その時の戦闘に足りないもう一押しを担当しつつ強敵が相手の時はムラクモで屠る。
そして、キョウコは驚くべきことに、俺と同じく全てを高水準で行う事が出来る。
ムラクモのような決め手を持っている訳では無いが、俺よりも戦闘経験は豊富で、いろんな魔物に的確な対処をしてくれる。
オールラウンダーが二人に増えたという事はこんなにも安定感が増すのだと痛感する。
そしてキョウコはあまり自分から目立ちたがるタイプでは無いので、全てを俺の功績にしてくれるのだ。
そんな事もあり俺達の、そして俺の名前はファナール大陸中に響き渡る事となった。
キョウコの知識、経験による的確な指示により初見の魔物にも臆する事なく戦えるようになり、いつしか皆もキョウコを慕うようになっていった。
相変わらずキョウコはそっけないし、あの見下したような視線は代わらないのだが、それでも意外と面倒見がいい。
俺達とは適度な距離を保ち、自分から近付いては来ないのだが逆にそれが頼りになるオーラをかもし出している。
若干パーティー内の俺の立場が危うい気もするのだが強敵相手の決め手は相変わらず俺が勤めているので問題ない。
それにキョウコが仲間なら俺が嬉しいので尚更問題ない。
「なぁねーちゃんめっちゃ強いけどどこかで修行でもしたん?」
「…強いて言うなら自然その物が師匠だな。魔物も、自然の厳しさの一環だから」
「キョウコ殿は…それだけ強くなるまでにやはり大変な苦労をしてきたのだろうか?」
「…そりゃね。辛い事も沢山あったし嫌な事も沢山あったよ。でもそれを受け入れないといけない状況になりゃ人間前に進むしかないさ」
「あの、そういえばどうしてキョウコさんはそんな男の人みたいな話し方なんですか?」
「んー。別に特に理由なんかないよ。これが俺の自然体だから無理に変えたくないってだけ」
ミステリアスなキョウコはいつも皆から質問攻めになる。
俺も最初の頃は同じような感じだったなと懐かしくなった。
ある程度きちんと皆の質問に答えながらもどこか本心を出していないような、その常にどこか遠くを見ている寂しげな瞳に胸が高鳴る。
「そういえばユウジ」
ふとキョウコから話しかけられ、慌てて視線を逸らす。
どうにもこうにも俺は意中の相手が目の前にいるとまともに視線を合わせられないらしい。
…意中?
いやいや、そういう意味じゃ。
「おいユウジ。聞いてるのか?」
「わ、悪い。少し考え事してた。…で、どうかしたか?」
「ああ、この前変な噂を聞いてな。どうやらもう一人俺達と同じような奴がいるらしいぞ」
俺達と同じ。
つまり転生者だ。
みんなの前だから言葉を濁しているが、つまりはそういう事だろう。
「別にそれが俺達に何か関係あるのか?俺は誰がどこでどうしていようとあまり気にならないが…」
それは本心である。
俺がキョウコに興味があるのは同郷だからではない。
たまたまキョウコが同郷だったというだけである。
「…それが、ユメリアに居るとしてもか?」
…は?
ユメリア大陸って魔物に占領されている大陸だったはずだ。
そこを制覇するのが俺の目標に組み込まれているのだからそれは聞き捨てならない。
万が一にもチート能力転生者が俺より先にユメリアを踏破しようものなら俺の計画は台無しになってしまう。
「そいつ、魔物を倒しに行ったのか?」
そこでキョウコは俺にあの含みのある笑顔を見せた。
「それがな、どうも逆らしい」
逆ってどういう意味だ?
俺が聞く前にキョウコが語る。
「そいつはな、どうやら魔物を操って、ユメリア大陸を支配しているらしいぜ。俺達なら、そういう能力があるっていうのも多少理解できるんじゃないか?」
そう言って一層にやりと悪い笑みを浮かべる。
人間が、魔物を操る?
この前の死霊使いの魔導師みたいなのとは訳が違う。
あれはただ単に人の遺体を魔物に昇華させ、暴れさせていただけで統率も何もあったものではない。
だが、キョウコが言うその統治者は、違うのだろう。
「俺らの同郷の奴がユメリアで魔王やってんだってさ。そんな面白い物放っておくのは勿体ないだろう?」
キョウコが珍しく自分から乗り気で話を勧めてくる。
つまり、俺達のパーティーで魔王を討伐しないか、という事だろう。
「…出来ると、思うか?」
「俺達なら出来ない事は無い」
キョウコが即答するが、出来ない事は無い。という言葉はどちらの意味だ?
やってやれない事はない。なのか、出来ない事など何も無い。という意味なのか。
「どうする?ちなみに俺はユウジが行かなくても一人で行くぜ?だからこれは次の行き先の提案なんかじゃない。俺と一緒に来るかどうかって聞いてるのさ」
そうか。
そういう事なら俺の返事は決まっている。
「行くさ。キョウコが行くなら、行って守ってやらないとな」
「ユウジに守られる程弱くねーよ」
ははは。と苦笑いするしかない。
だが、キョウコという女性は本当に謎ばかりで、俺はまだ実力を隠しているんじゃないかと疑っている。
もしユメリアに行くとなればそれなりの覚悟をしなければいけない。
それを皆にも告げ、良く考えるように忠告した。
それでも一緒に行くのならばそれでよし、危険だと行くのをやめるのならばここで俺達の帰りを待つ。
それを明日の朝までに考えておいてくれと。
その日の夜、俺は宿でキョウコの部屋を訪ねる。
「俺だ。入っていいか?」
「勝手に入れよ」
言われた通り鍵の掛かってない部屋へ入る。
「うぉあっ」
「なんだよ。人の部屋に入って第一声がそれって酷くね?」
そ、そりゃ変な声も出るわ。
部屋に入るとパンツ一枚のキョウコがタオルで頭を拭いているところだった。
これはラッキースケベというやつか?
しかし相手がまるで動じていないとこうも変な空気になるものなのか。
目のやり場に困る。
「…あ、そうか。こりゃまずいか」
キョウコはこの状況のまずさに気付いたようだが特に慌てる事もなくのんびりと服を着て、「とりあえず座れよ」と着席を促してきた。
「お、おう…」
「…で?何か用か?」
そうだ、あまりの展開に目的を忘れていた。
「ユメリアに行くとなればいろいろ覚悟も情報も必要だろう?とりあえずお互いの出来る事についてきちんと把握しておきたい」
そう言うとキョウコは眉間に皺を寄せながら「…まぁ、それもそうか」と呟き、ゆっくりとキョウコの能力について語り始めた。
「といっても俺にできる事は多くない。ただ敵をぶん殴る事と切りつける事。あとはお前らも知ってる通り炎系の攻撃だ」
「…それだけじゃないだろう?」
「…どうして、そう思う?」
俺はキョウコの眉間に更に皺が寄るのを見ながら、その根拠を告げる。
…と言っても根拠なんてほぼ無い。
「なんとなくだよ。どう考えても全力を出してるように見えないから」
「…まぁそれはそうか。お前くらいになると見たら分かるもんなのか?俺にはもう一つ能力がある。いや、一つと言っていいのかどうか」
「どういう意味だ?」
俺みたいにいくつか能力を得ているのだろうか?
「簡単に言えばラーニングだな」
「…らーにんぐ?」
聞いた事があるような言葉だがイマイチ意味を思い出せない。
「わかんねーかな。なんでもって訳じゃないが戦った事のある相手の能力が使える」
「なんだそれ最強かよ」
「最強なもんか。制約が多いんだこれは。俺が使える能力はほとんど戦ってきた相手のものだよ。今ならそうだな…まだ試してないけどアンデットを使う事は可能だ」
あの死霊使いか。
「マジかよ…。確かに使い方は難しいかもしれないけどいろんな能力が集まれば便利そうだな」
「まぁね。ここまで来るのは大変だったけどな…。ほんとに。で、そっちは?その身体能力と幾つかの魔法と、ムラクモくらいしか俺は見てないんだが」
キョウコには全て話しておこう。
何かあった時に知っている相手がいた方が何かと助かるし、他の子たちには説明してもうまく伝わらないだろう。
「俺は、死なない」
「…?いや、そんな宣言いらねーから。僕はしにましぇーん!的な?」
なんだそれ。
「本当なんだよ。俺の身体は今の状態以上に老いる事は無いし、死にもしない。どんな重傷を負っても再生する。痛みもあまり感じないようにしてもらってある」
キョウコが想定外だというように口をぽかーんと開けている。
ちょっと間の抜けた顔だ。
キョウコのこんな顔が見れただけでも能力を公開した甲斐がある。
ずびゃっ。
「いっ…ってえぇぇぇぇ!!」
気が付いたら俺の腕が地面に転がっていた。
「な、ななななな…何すんだっ!」
俺は慌てて腕を拾い上げ切り口を合わせる。
すぐにじゅおわーっという音と共に傷口が消えて腕が元通りに繋がる。
「…マジかよ。すっげぇな」
こ、この女…。
能力を確かめるためにいきなり俺の腕を切り落としやがった…!
「もし俺が嘘ついてたらどうする気だったんだよ!それとさすがにこれだけの深手はいてぇぞ!」
「あはははははっ…ははっ…ごめんごめん…あはははダメだ笑う」
こんなキョウコは初めてだ。
目に涙を溜めながら爆笑している。
…かわいいなちくしょう。
「あはっはははっ…。って、じゃあ最強はそっちじゃねーかよ。死なないなら誰にも殺せない」
「…まぁ。俺だけならね。だけど守らなきゃならない奴らもいるからさ」
「邪魔ならおいてきゃいいだろ」
「邪魔なんて事はないさ。俺の大事な仲間だから。キョウコもな」
「…あっそ」
キョウコの眉間の皺が今日一で深くなった。
「確認したい事はそれだけか?話が終わったら帰れ」
何かキョウコの機嫌を損ねてしまったようだ。
照れているだけだと、思いたいが多分違うんだろうな。
キョウコには俺には分からないなんだか深い悲しみというか闇を感じる。
それを俺達が癒してやりたい。
心からそう思った。
翌朝、皆の気持ちを確認する。
全員一致でユメリアへ行く事になった。
そう、ここまで来て誰かが欠けるなんて考えられない。
皆に感謝と共に、俺がしっかり守らないといけないというプレッシャーもある。
勿論みんなも十分強いからそこまで心配する必要はないのかもしれないがユメリアは分からない事が多すぎる。
その後俺達はユメリアに渡る方法を求めて港のある街へ行ってみたが、目的地がユメリアだと言うと皆首を横に振るばかりだった。
途方にくれた俺達だったが、クレアの提案でファナールに戻る事にした。
そこでファナールの王に直談判する事に。
俺達のお願いを聞いた王は少し戸惑いを見せたながらも、実は火竜の件が無ければ準備を整えてユメリアに乗り込む予定があったのだと告げる。
まずは少数精鋭で偵察を送り込み、その後に騎士団が乗り込む予定だったようだ。
王は騎士団用に用意していた船をこちらに回してくれると言ってきたが、さすがに騎士団が乗る用の船なんて大きすぎて手に余るので、偵察隊が使うはずだった方の船をもらう事にした。
王都からは少し離れた海辺の街に船は用意してあるらしく、俺達はその街を目指し出発する。
この世界の大陸図は一応頭に入っているが、船旅自体初めての俺には目的地に到着できるかどうか非常に不安であるが、そのあたりは簡単に解決した。
アリアは以前物資輸送船で働いていた事があるらしく船についてはある程度詳しい。
そして、シェイアについてはなんと航海士経験有りなのだそうだ。
街で日持ちのいい食べ物を大量に購入し、船に積み込む。
大体ユメリア大陸に到着するのに一週間ほど船旅を続けなければいけないらしい。
船酔いが心配だ。
「大海賊シェイア様の復活祭じゃぁぁぁっ!」
船に乗るやいなや不穏当な叫びを上げ、彼女は目的地へ到着するまでずっとそのテンションを保ち続けた。
キョウコは基本的にいつも一人で海を眺め、クレアとアリアは仲良くお茶をしている。
そんな日々が一週間ほど続き、海上で魔物に襲われるような事もなく驚くほどスムーズにユメリアへと到着する。
俺はといえば、街で購入しておいた船酔いの薬がまったく効果を発揮せず、一週間ずっと自室に篭りっぱなしだった。
あの女神に船酔いしない身体にしてもらっておけばよかったと心から後悔する。
ユメリアに到着したと聞いて誰よりも喜んだのはおそらく俺だろう。
まだ軽くふらふらする状態を気付かれないように甲板に上がると、もう既に皆揃っていて俺を出迎えてくれた。
ユメリア大陸を眺めると、意外な事に船着場があった。
そういえば今までにも幾度となく大勢がここを目指して上陸までしているのだから先人達が船着場を作ってくれていてもおかしくはないか。
その真相がどうであれ、そのおかげで俺達はあちこち場所を探す必要も無く簡単に上陸する事ができた。
そしてその日はあまり遠くまで行かずに近距離の散策をする事になったのだが、特に魔物も存在しないどころか野生の小動物達がほのぼのと過ごす素敵な風景があるばかりだった。
「…ユウジ。どう思う?」
キョウコが俺にだけ聞こえる声で問う。
俺はしばらく考えた後、もう魔物はここに居ない、とか?と間の抜けた返事をしてキョウコからゴミを見るような視線を頂く。
「なんだか平和そのものですね…」
「いや、油断は禁物だ。この辺の魔物は狡猾だと聞くし私達の油断を待っているのかもしれない」
そんなクレアとアリアのやり取りを聴いて確かにな、と思う。
ユメリアの魔物は統率が取れていたとかいう話を聞いたが、それは知性があるという事かもしれないし今まさに俺達は監視されている所という事なのかも。
「まぁどんな奴が相手でもにーちゃんとねーちゃんもいるしもーまんたいってやつやで」
シェイアは機嫌よさそうにそう言いながらどこに隠していたのか何かの干物のようなものをかじっていた。
ワイルドというかおっさん臭いというか…まぁその能天気な明るさに助けられる事もあるので俺は気にしないが。
とうとうユメリア大陸まで来てしまったがここに来るまでにはいろいろな事があった。
みんなとの出会いから今に至るまでの楽しい記憶が思い出される。
出会ったばかりの頃に比べるとパーティーとしてのバランスも良くなったしそれぞれ力を付け、キョウコの指示と、決定力。
今の俺達なら何があっても大丈夫。
そう、こんな女子会かピクニックみたいなノリの連中でもきっと大丈夫なはずだ。
周りに警戒しつつも散策を続けると、目を疑うような光景が広がった。
「…畑、ですよね」
「畑だな」
「畑にしか見えんよ」
「…おいユウジ。これはまずいぞ」
そう、俺達の目の前には広大な畑が広がり、様々な農作物が育てられていた。
どういう事だ?
本当にここにはもう魔物が居なくて、誰かが移住し、開拓を進めているという事なんだろうか…?
「おいユウジ。まさかまた誰か移住してるんじゃなんて思ってないよな?」
…違うのか?
「そ、そんなわけないだろ。これは、異常事態だ異常事態」
「ユウジさん顔色が悪いです…」
「どうしたユウジ殿具合悪いのか?」
「あははにーちゃん嘘ついた時の顔しとるわ」
…はい、すいませんでした。
「この状況で他にどういうケースが考えられるのか教えてくれキョウコ」
キョウコはより一層ゴミ虫を見る眼で俺を見下しながら大きなため息を吐く。
「…あのなぁ…。要するにだ、ここには農業の知識があり、尚且つ魔物にこれだけ細かい指示を出す事の出来る奴が存在するって事だ」
…これを、魔物が?冗談だろう?
キョウコ以外の女性人はその事実自体がどんな脅威なのかを理解できていない様子で、魔物が農業なんてすごいですねーなんて話をしているが、万が一本当にこれを誰かが指示しているのだとしたらやばいどころじゃない。
完全に統制され、戦略的に魔物の群れが襲い掛かってくる事を想像するだけで震えが止まらない。
俺だけならおそらくなんとかなる。
痛みの感覚は感じにくくなっているとはいえキョウコに腕を切り落とされた時あれだけ痛かったのだ。
死ぬほど痛いだろう。
…が、死ぬことは無い。
精神力さえ保てれば魔物を殺しつくすまで一人で暴れる事も可能だ。
だが、他のみんなはそうはいかない。
「キョウコ、これは作戦会議が必要だ」
「まぁ、…そうかもな」
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