◆2章-3◆いまさらの葛藤




 どういう事だ。俺以外にこの世界に転生者がいるのか?


それにしたって待遇が違いすぎるだろう?


他に仲間がいたとしてもあいつは数人であの竜を倒せるだけの能力がある。


それは間違いない。





「しっかしこの世界は最高だな」





 その能天気な声が頭から離れない。


あんな発言が出てくる時点できっと苦労なんてしてきていないのだろう。


この世界で悠々自適に転生ライフを満喫しているのだ。





どうしてここまで違う?


生き延びる事だけでも精一杯で、手に入れたものは全て消えていく。


こんな俺とあいつは何がどう違う?


どうしてここまで差がある?





あいつも俺と同じようにあの黒服に送り込まれたのか?


だとしたら運よくいい能力を手に入れ、運よくいい場所に転送され、運よく自分の能力に早々に気付く事ができて、運よく仲間にも恵まれた?





そんな都合の良い話があるか。


そんな不条理があってたまるか。





そんな偶然あってたまるか。


全ての条件をあらかじめクリアした状態でこの世界にやってきたとしか思えない。





悔しい。


羨ましい。


妬ましい。





あんな存在が居る事を知りたくなんて無かった。


今までは知らなかったからこそ必死にこの世界にしがみつく事ができた。





今となっては全てが馬鹿らしい。


俺が必死に化け物から逃げ続けた事も何かを守りたいと思って死に物狂いで戦った事も誰かの為に騎士団に入った事も全て、全てが馬鹿らしい。





そんな必死に生きている俺に対してあの存在は失礼にも程がある。無礼なんて言葉で片付けられない。存在を認めることが出来ない。





この世界から消してしまわなければいけない。








そこでハッと冷静になる。





俺は…いったい何を考えているんだ。


そんな事…そんな恐ろしい事を。





それにだ、万が一にも本気で俺があいつをどうにかしようとしても無理だ。





返り討ちにあうどころかきっと相手にもされないだろう。





それくらい俺とあいつには差がある。





すれ違っただけだが、それくらい分かる。





あの時のお互いの数メートルの距離が、もっととてつもない深さの崖で隔てられている事くらい…俺には分かる。





忘れろ。





その方が自分の為だ。





それにあんな奴の事で頭を悩ませている余裕が俺にあるのか?





今の状況を思い出せ。








俺の目の前には騎士団の骸の山。


いや、もはや原型を保っている者の方が少ない。





どちらかといえばただの灰の山だ。





騎士団のみんな、ダレンも含めて全て。


仲の良かった皆も悪かった奴らも関わった事の無い大勢の連中も全て。





俺以外が全員死んだ。





頭がこんがらがりそうだ。





ダレンを失ってしまった。





それは確かに辛い。


俺を助けてくれたダレン。


俺を友達として接してくれたダレン。


負けず嫌いで妹想いのダレン。





だけど今俺の頭の中はダレンを失った寂しさや悲しさではなく他の事が渦巻いていた。








…リンを悲しませてしまう。








俺は怒りも憤りも忘れてその事ばかりを考える。


灰の中で一人、日が暮れるまでその事を考え続けた。





きっとこの大敗はそのうちリンの耳にも届くだろう。


騎士団が全滅した、と。





どのみちリンは悲しみに包まれてしまう。


だとしたら俺に何が出来る?





俺もこのまま姿をくらませてしまうべきだろうか…。





リンにあわせる顔が無いというのはあるが、俺の手に握られている物の存在を思い出しそうも言っていられなくなる。





俺にはこれを届ける義務がある。


ダレンの最後を見届けた者として、彼が最後に俺に託した物をリンに届けなくてはいけない。





俺はゆっくりと立ち上がり、自分の身体にどこか異常がないか確かめる。





驚くほどに何もない。


火傷一つすらない事に安堵しながらも、どうしてだろうと考える。





もしかしたらあの一瞬、ダレンが俺を庇うように前に立ったからだろうか。





もしそうならば本当にダレンには感謝しなければいけない。





そう考えてから、いや、むしろ良く考えるとダレンの事を怨みすらした。





もし彼が俺なんかを庇わずに、一緒に死なせてくれたらこんな気持ちにならずに済んだし何も考えずに消える事が出来た。


あんな奴にも出会わなくて済んだしこんな劣等感を感じなくて済んだ。





俺なんかが一人生き残ったとしてもいったいなんの意味があるのだろう。


何が出来るのだろう。





こんな俺に出来る事といえばダレンに託された指輪をきちんとリンに届ける事くらいだ。





ならばせめてそれくらいはきちんとやろう。





後の事はそれから考えればいい。





何もすべき事が見つからないなら、


何も出来る事が見つからないなら、


その時改めて消えてしまえばいい。





でも今はやるべき事がある。





その時、頭の中にしゃがれた声が響いた。





「こちらへ…」





 なんだ!?あまりの惨劇に頭がおかしくなったのかと思ったがどうやらそうではないらしい。





 その時、頭の中にしゃがれた声が響いた。





「こちらへ…」





 なんだ!?あまりの惨劇に頭がおかしくなったのかと





「こちらへ来てくれ。…我が、同胞よ…」





 同胞…?





 何のことか分からず当たりを見渡す。


 特に変わったことは何も無い。





 だとすると…声の主は一人しかいない。





 俺は恐る恐る倒れた竜の顔の前まで行く。


「…きたよ。何か…用があるのか?」





 とりあえずまだ息があるのなら恨み言のひとつも言ってやらないと気が済まない。


 こいつはダレン達を焼き尽くしたのだから。





「…お主、我が同胞の匂いがするが竜では無い…のか?」





 もはやこの竜は目も見えない状態のようだ。





 しかし同胞の匂い…もしかしてわたあめの匂いなんだろうか。


 わたあめはまだ俺の中にいるのか。





「俺は人間だよ。さっきお前が焼き尽くした人間の生き残りだ」





 さぁ、謝罪のひとつもしてみやがれ。





「人間…まさか、貴様我が同胞を喰らったのか!?なんという非道を…」





 俺は言葉を失ってしまった。


 文句を言うつもりだったのに…。


 俺がわたあめを食った事は間違いの無い事実だ。


 だからこそ、何も言い返せないでいると、





「…いや、そういう匂いでは無いな。お主、もしや竜に命を差し出されたのか」





「なんでそんな事が分かるんだ…?確かに俺とわたあめ…竜は友達だった。2人で死に瀕した際、俺の友達は俺を生かすためにその身を差し出したんだ。そのおかげで俺は今こうして生きてる」





「…嘘はついていないな。我は鼻がきくのだ。相手がどのような感情なのか、理屈ではなく大体わかるのだよ」





 匂いで感情が分かる上に脳内に直接話しかけることができるなんて便利な能力である。





「まぁ同胞だろうと同胞ご命を捧げた人間でも構わん。我を喰ろうてはくれまいか」





 何を言い出すんだこいつは。





「我ら竜は同胞と共に生きる事を重んじる。それは一緒に行動するという事ではなく、同胞の命と共にある事を意味する」





「…よくわからないが、要はもう死ぬから俺の中の竜と一緒にいたいってことか?」





「ふはは…まあ噛み砕いていえばそんな所だ」





 釈然とはしないがそれがこいつらの文化であり習性であるならば協力してやらなくもない。





 何故なら、またあの味を味わえるかもしれないという誘惑が俺の背中を押していた。





 俺は竜の言う通り竜の傷口に剣を突き立て、肉を削り出す。


 うえ…生きたまま捌くのは気分のいいものではない。





 竜曰く、普通ならこの体に傷を付けること自体ほぼありえない事らしい。


 竜を倒したあの男の持っている剣が普通ではなかったのだそうだ。





 武器まで特別製なのか…どこまで常識外れなんだ。





 なんとか肉を取り出すが心なしか肉が硬い。





「我はもう消える。だが、お主の中で同胞と共にあるのならば寂しくはないな」





 こんなデカい竜にも寂しいなんて感情が存在しているのか。





 俺は少しだけワクワクしながらその肉に噛み付く。





「…か、硬いな」





「ふん。数百年ものだぞ、味わって食え、よ…」





「おい」





「…」





 それが最後の言葉なんてバカみたいだ。





 馬鹿らしくて文句も言う気になれない。








 老いた竜の肉は硬く、筋張っていてわたあめのそれとはまったく別物だった。





きっとあの竜には、俺が味に期待していた事も気付かれていたんだろうな。


文句を言うどころか少し申し訳なくなってしまった。





怨むべき相手だった筈なんだが…。





 じゃあな、でっかい竜。


俺にはまだやらなきゃならないことがあるんだ。








 予想外の出来事に感情がめちゃくちゃになってもうどうしたらいいのかわからなくなりながらも俺はゆっくりと歩き出す。


 リンの住む街へ向けて。








俺一人がのこのこ帰ってきたらリンはどう思うだろうか。


俺の無事を喜んでくれるだろうか。





いや、今の俺にとってはその方が辛い。


むしろ感情を隠したりせずに思い切り泣き崩れてほしい。


唯一の家族を失ったのだからそれは当然だし、俺には無事を喜んでもらうような資格はないのだ。








街へととぼとぼ歩きながらいろんな事を考える。





今までの事。それとこれからの事。


わたあめとの出会い、ルーイ達との出会い。そして別れ。ダレン達との出会い。そしてダレン達と過ごした日々。





灰になったダレン。





真っ黒になったダレンが虚ろな眼で、ガサガサになった唇をボロボロと崩しながら言った最後の言葉。





「…ジャン、これを、リンに」





 そう言いながら俺の目の前に手を出そうとする彼は、しかし一瞬で腕からも水分が吹き飛び枯れ枝のようになった腕ではそれも出来ない事に気付き、そのまま崩れ落ちた。





倒れた時に腕は根元からボロリと崩れ、何かを握りしめて居た掌にはヒビが入りパカリと割れて銀色に輝く指輪がうっすらと見えていた。





俺はダレンの言葉から、リンに渡してほしい物なのだと悟ってその手を開こうとしたがうまくいかず、俺が触れるとガサっと崩れてしまった。





ダレンが握り締めていた指輪には内側に何か文字が彫られていたが俺には読む事ができなかった。


ルーイのおかげで会話は何事もなくできるようになったが、ダレン達と一緒に暮らすようになっても読み書きはまだ辞書を見ながらでないとできなかった。


この世界の文字は俺には難解すぎてなかなか理解できない。


なんとか記憶を頼りに指輪の文字を読んでみようとするが、リンという名前以外はわからなかった。








飲まず食わずで歩く事丸一日。飢え、乾きもするが俺にとってこの程度なんて事はない。あの時に比べれば。





夜は開けた場所を探し野営をした。


野営と言ってもテントみたいな物があるわけでもないのでただ野原に寝転んで野宿をしただけである。





途中で川を見つけ水分を補給。


命の水とはよく言ったもので、口に含むと体中に浸透していくようだった。


水分さえあれば人間はそうそう死なない。


俺はそれを良く知っている。





わたあめと過ごした最後の数日間を思い出す。


わたあめはどうしてあそこまで俺に献身的につくしてくれたのだろう。


刷り込みがあったからなのは分かっている。


だけど俺達は友達だった。


俺は友達の為にそこまでできるだろうか。


ダレンには?


何ができたのだろう。





何もできなかった。


わたあめに対しても何もしてやれなかった。


わたあめの望みだったルーイを助ける事も、わたあめ自体を助ける事も。





結局俺はあそこで全てを失ってしまった。


今回もそうだ。





いや、今回はまだリンがいる。


むしろ俺にはもうリンしか残っていない。





きっとリンは悲しむだろう。


辛い思いをさせるだろう。


俺はリンに指輪を届けた後の事を少し考える。


俺が近くにいてはきっとリンはいつまでも悲しい思いを引き摺ってしまう。


やはりやるべき事をしたら俺は去った方がいいかもしれない。


ただ、出来る限りリンには幸せに生きてほしい。


その為に何かできる事を考えよう。


今の俺にとって唯一の家族であり、想い人なのだから。





彼女の幸せに俺は必要無い。


俺が幸せになる必要は無い。





そんな資格は無いのだ。








遠くに目的の街が見えてきた。


既に夜中近くになってしまっていたようで、街の入り口で門番に止められてしまうが、騎士団のエンブレムを見せるとすぐに通してくれた。





今更ながら騎士団という肩書きは便利なものである。





フラフラとした足取りで俺達が過ごした家へと向かう。


ドアの前に辿り着いた時、俺はいったいどう言って中に入るべきか迷ってしまった。





鍵は持っているが何も言わずに開けて入っては泥棒か何かと勘違いされるかもしれない。


リンに変な心配はさせたくない。





リンを呼ぶか?


いや、しかし今はもう夜中だ。


リンを起こすくらいに大声を出せば近所迷惑にもなるだろうし…。





…などと考えているのはきっとどんな顔をしてリンに会えばいいか分からないから必死に言い訳をしているだけなのだ。





鍵を開けて中に入ってからリンを呼べばいい。


それだけの事だった。





覚悟を決めてドアを開けようとすると、中からドタドタと階段を駆け下りてくる音が聞こえた。





まだ起きていたのか。


物音がしたので不審に思ったのかもしれない。


ドアを開けた瞬間に手鍋で殴られてはたまらないので少し待ってみる。





するとしばらくしてガチャリと内側からドアが開いた。





「…誰?お兄様?」





 声が震えている。


もしかしたらダレンが帰ってきたのではという期待と、不審者かもしれないという不安で葛藤した挙句期待の方が上回ったのだろう。





「…俺だよ。ジャンだ」





「…ジャン…?あぁ…ほんとにジャンなの?」





 リンが勢い良く外側にドアを開けるもんだから俺は避け損ねて右半身をドアにぶつけてしまった。


痛い、なんて言うような雰囲気でもないので我慢する。


リンも若干気まずそうにしたが、それを謝るべきか悩んでいるうちにこちらから声をかける事にした。





「…ただいま」





「…おかえりなさい…。騎士団が、全滅したって聞いて…私てっきり…」





 リンは顔を両手で覆い、その場に泣き崩れてしまった。





「とりあえず中に入れてくれると助かる」





 そう言うと、「そ、そうよね。ごめんなさい。暖かいスープでも入れるわ」と言ってリンは台所へと向かったので勝手に家に入って食卓の椅子に座らせてもらった。


この世界には電気なんて便利な物は存在しないので食卓の上から吊られているランプに火を灯す。





一つではまだ暗かったので全部で三つあるランプ全てに火を灯すと食卓周りはかなり明るくなった。





部屋を見渡す。懐かしい家、懐かしい食卓。懐かしい香り。


そして、懐かしい声。





帰ってきたんだ。








その後リンの出してくれたスープを一気にたいらげる。


相変わらず美味い。





しばらく何も食べていなかったから余計だ。


騎士団の食堂ではまずい食い物は無かったがこれほど美味しいものも無かったのでダレンといつもリンの食事が恋しいと話していたものである。





そうだ、ダレンだ。





「…あの、ジャン。本当に無事でよかった。…そ、それで…あの。」





 分かってる。分かってるよ。





「…ごめん」





 その一言でリンは全てを悟り、また手で顔を覆いテーブルに突っ伏してしまった。


出来る限り声を出さないように歯を食いしばっているが、肩がガタガタ震えている。





テーブルの上に水滴が一つ二つ落ち、やがてそれが水道をきちんと閉め損ねた時のように水の流れにかわる。





「俺だけがのこのこと生き延びてしまって本当に申し訳ないと思ってる。…ごめん」





 俺にはそう言う事しかできない。





「…なんて事言うの。お兄様は…勇敢に戦ったんでしょう?騎士団に入るって事は、こういう事も覚悟の上だった筈だから…ジャンが謝る、事じゃ…」





 強がりだ。なんとなく分かる。


必死に涙を止めようとしながら言葉を続けるリンが痛ましくて見てられない。





「勿論。ダレンは立派だったよ。誰よりも」





 本当は騎士団全員、遠くからのブレスで灰になってしまったのだが…そんな事実を知る必要は無い。





「うっ…お…お兄様…。ダレ…ン、ダレン…」





 なお更声を震わせ、涙の川を作りながら悲しみに暮れるリンに俺は何もしてやる事ができなかった。





不用意に肩を抱き寄せる事も。


その涙を拭ってやる事も。





俺なんかがすべき事ではないし、してはいけない。





そして、俺がここに来た理由を、すべき事を…。





「リン、聞いてくれ。ダレンから、リンにと託されてた物があるんだ」





 ビクっとリンが肩を震わせ、静かに顔を上げる。





「お兄…様が、私に?」





「ああ、これだよ。最後に…リンに渡して欲しいって頼まれたんだ」





 リンの掌にあの指輪を乗せると、彼女は驚きのあまり目を丸く見開き、恐る恐るそれを摘んで目に近づけた。





「…これを、お兄様が…私に…」





 どうやら文字に気付いたようだ。


俺にはなんと書いてあるか分からないが、リンには伝わっただろう。





これでいいのか?ダレン。


俺のすべき事はこれで終りでいいか?





「…リン、俺は…二人にはとても感謝してる。死にかけの俺を助けてくれて、家族同然に面倒を見てくれて…俺にとっては本当に唯一の帰る場所だったよ」





「…うん。ジャン、出ていくつもりなの?」





 察しが良い。





「そのつもりだよ。君はそんな風に言うなって言ってたけど…俺はやっぱり俺だけが生き残った事をまだうまく飲み込めないんだ。このままここにいたらリンに甘えてしまう。だから…俺はこれで…」





「待って。お願い。私だって頭の整理がつかないの。…お願いだからもうしばらくだけでもここに居て。私を…一人にしないで」





 ああリン。


俺が一番聞きたくて、一番聞きたくなかった言葉を言ってしまうのか。





俺はこのままここに居たら絶対に甘えてしまうだろう。


リンと二人で生活するという喜びをいつか感じてしまうに違いない。


ダレンを忘れて。





そんな事が許される筈がない。


それに、俺と一緒に居て彼女が悲しみを克服できるとは思えない。





一時は一人になりたくなくて誰かが居てくれたら楽になれるという気持ち、分からないでもない。だけど、その相手が俺じゃあダメなんだ。


いつまでも三人で一緒に暮らしてきた幸せな時間を思い出してしまうから。


彼女の中から辛い気持ちを消し去る事が出来ない。





俺がそれを埋めてやる事もできない。


俺にダレンの代わりは出来ない。





リンにとってダレンは正真証明血を分けた兄妹なのだから。


まがい物の俺には到底無理な話だ。





「…お願い。本当に少しだけでもいいから」





 …俺はなんて弱いんだろう。


彼女の口からそうやって俺を頼るような言葉が出てきた時、ダメだと思いつつも喜んでしまっていた自分がいる。


そんな自分を嫌悪しながらも、彼女の為だからとかそんな言い訳を頭の中で巡らせている自分がいる。


汚い。


醜い。





それでも…。





「あぁ、分かった。大丈夫、リンが落ち着くまではここに居るよ」





 …俺は最低だ。


そうやってリンの心の弱味に付け込むつもりなのか?


そんな気は無い。


リンとの関係を深めたいなんてそんな事…考えては居ない。そもそも今そんな事を考えている状況じゃない。





そんな葛藤をこんな時に始めている時点で俺は腐っている。





「ありがとう。ごめんなさい。私ばかり泣いてしまって…ジャンだって辛いでしょうに」





 俺の心配なんて要らない。


彼女の優しさが胸に刺さるようだった。











その日は俺も疲れてしまって風呂にも入らずに久々の自分のベッドに突っ伏してそのまま寝てしまった。





その日から、俺の毎日の悪夢にダレンも参加するようになった。





「アンタまた大事な人を見殺しにしたの?」





「ジャン、どうしてお前だけ…?」





 知るか。








知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか知るか!!





そんな事俺が知るか!





分からない。俺にだって分からないよ。





俺が悪いのか?


もっと俺に何かできる事があったのか?





俺がもっとうまい事やっていればルーイも助かってダレンも灰にならずにすんだのか?


そして、わたあめも、今も一緒に居る事ができたのか?





教えてくれよ。





なぁ、ルーイ。





「アンタが自分で答えを出しなさいよ。私が死んでアンタが生き残った答えを」





 知るかよそんな事。





 ダレン、教えてくれよ。





「…お前は昔からこうやって他人を巻き込んできたのか?」





 知らねぇよ。





だからそれは俺のせいなのかよ。


俺が疫病神だから俺に関わるみんなは死んでいくのか?俺が居るからいけないのか?





俺が、存在しているから。





なぁ、答えてくれよ。






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