銷夏

ひとひら

憐憫

(――誰かいる!)


 お咲は徐々に霞んでいく目を凝らして、その正体を窺った……すると、あの童女が鮮やかに染まる深紅の鞠を抱えて、こちらを見上げて佇んでいるのが判った。


「う、うっ!?」


 首に巻き付けた紐が、しっかりと食い込んでいて上手く喋れない。

 すると、つぶらな瞳を持ち上げて、童女が問い掛ける。

 

「――恨み、晴らしてやろか?」


 昏く澄んだ瞳で、今、まさに逝こうとしているお咲に、童女が静かに問い掛けた。


「……うーーっ!」


 忌まわしい出来事が鮮明に蘇り、童女のその問い掛けに対して、お咲は涙や鼻汁を顔に滴らせながら、懸命に声を絞り出して必死に体を揺らして訴え掛けた。


「哀、わかったよ……」


 童女は静かに、きゅっと毬を抱きしめる。


「――」


 童女のその言葉と仕草が届いたのかどうか、お咲は指先までをだらりと垂らし、首を前へと傾けて、紐の揺れに身を任せている。


「……」


 その姿を見届けた童女は、後ろに控える深編み笠の浪人へと振り返り、言葉を綴った。


「行こう、おとっつぁん――」

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