第四章 パーティーを組もう

4-1 魔術士ランクアップ

 エムゼタシンテ・ダンジョンの攻略は順調に進み、2日で5階層までの攻略とハリエットさんに頼まれていた魔石10kgの採取を終えた俺は、およそ8時間かけてトセマに戻ってきた。

 昼の直通便よりかなり早いのは、やはり三頭立てだからかな。


 現在三刻半(午前6時)過ぎ。

 ここから馬車は、エスタサミアス州のケマトへ、さらに4時間かけて向かう。

 急ぎの人はここでスレイプニルタイプに乗り換えることも可能だ。

 それだと2時間足らずでケマトに、さらに2時間でヘルキサの塔があるトウェンニーザ州のエベナに行ける。


 そうそう、あのスレイプニルタイプの馬車は通称『高速馬車』というらしい。

 語感が高速バスに似ているのは〈言語理解〉さんの仕業か?


 ひとまず俺は冒険者ギルドに行き、仮眠をとった。

 各ギルドの営業開始時刻は、一応四刻半(午前9時)と決まっているからな。

 魔術士ギルドは完全に営業を停止しているが、冒険者ギルドには時間外の不寝番がいて、ちょっとした手続きならできるようになっているけどね。

 そして、そのちょっとした手続きに、寝台の利用も含まれるのだ。

 ちなみに治療士ギルドも一般業務は停止しているが、救急外来は随時受付中で、当直の治療士もスタンバっている。


 寝心地は悪いが、寝起きはすっきりする冒険者ギルドの寝台で仮眠をとった俺は、五刻(午前10時)に起き、モーニングセットを食べて魔術士ギルドへ。

 ちなみに冒険者ギルドのモーニングセットは、柔らかいパンとスープ、サラダが基本で、メインは日によってベーコンエッグになったりソーセージセットになったりする。

 それにドリンクが付いてお値段4Gナリ。


 朝食を終えた俺は身支度を終え、魔術士ギルドへ。

 久々のハリエットさんだぁ、とニヨニヨしながらギルドの入り口をぬけるも、受付卓に座るヨボヨボのじいさんを見て一気に気分が下がる。


「おう、ヤンスケくん。息災かの?」

「ショウスケです。あの、ハリエットさんは……?」

「仕事でエムゼタの魔術士ギルドに行っとるよ」


 な、なんだってーっ!?

 わざわざとトセマで戻ってきたのに無駄足だったか……!


「そっすか……」

「そない露骨に落ち込まんでもええじゃろうが、チョウサクくん」

「ショウスケです。じゃあすんませんけどランクアップを」


 俺はうなだれつつも、なんとか気力を振り絞って、ギルドカードをじいさんに渡した。


「ほうほう。もう魔石10kgクリアしたんかね。じゃ早速ランクアップしちゃろ」


 ってなわけで、俺は無事Eランク魔術士となった。


「で、ロウスケくん。何ぞ魔術でも覚えていくんかね?」

「ショウスケです。あー、戦闘付与魔術を覚えようと思ってたんですが、なにを覚えるか検討してまた来ます」


 ハリエットさんの不在がショックすぎて、頭が全然回らんわ。

 とりあえずギルドの食堂でお茶でも飲みながら、ゆっくり考えよう。


「じゃあの、ベンスケくん」

「ショウスケです……」


**********


 冒険者ギルドに戻ってコーヒーを頼む。

 そう、この世界にはコーヒーもあるのだ!!

 いかなる状況でもコーヒーはホットのブラックと決めている俺は、空席が目立つランチ前の食堂にぽつねんと座り、コーヒーをすすった。

 ちなみにいまは夏真っ盛りで、冷房が効いているとはいえホットコーヒーを頼む客は少ない。


「ホントにホットでいいの? この季節は氷たっぷりのアイスコーヒーがオススメよー」


 と食堂のおっちゃんに勧められたが、それを固辞してホットコーヒーを入れてもらった。

 どうせ水出しで作り置きのアイスコーヒーのほうが楽だからそっちを勧めてるんだろうが、その手には乗らないぜ!

 ここにはコーヒーメーカーもドリップペーパーもないから、ホットコーヒーはネルドリップなんだよねー。

 まあアイスコーヒーを水出しで作ってるところは、評価してやってもいいけどな。

 ホットコーヒーを濃いめに作って氷を入れたコップに注ぐタイプのアイスコーヒーは正直どうかと思うんだが、そもそもアイスコーヒーを飲まないんだからどうでもいいか。

 

「なんで受けちゃダメなのよ!」


 おおっと、午前の静かなコーヒータイムを邪魔する、無粋な声が聞こえてきたぞ。

 声の方向を見ると、ギルド受付で冒険者がゴネてるみたいだ。

 ……デルフィーヌさんだったよ。


「いやー、ダメってわけじゃないんだよ? ただ、それちょっとワケありっぽいからさぁ」


 相手してんのはフェデーレさんだな。


「でもEランクの依頼でしょ? だったらFランクの私が受けても問題ないじゃない」

「そうなんだけどさぁ。その内容でEランクってのが怪しいんだよねぇ。普通はそれだとGかFだよ?」

「だったらなおさら問題ないんじゃないの?」

「いやいや、そういう内容の割にランクと報酬が高いのはヤバいんだって」


 うーん、さっきまで全然気にならなかったんだけど、いざ一言耳に入るとその後の会話の推移が気になるもんだねぇ。


「せめてEランク冒険者の護衛くらいはあったほうが……」

「そんな知り合い……いないわよ……」

「うーん、なんかいい方法が――」


 っと、ここでフェデーレさんと目が合ってしまった。


「――あるね。あそこに暇そうなEランク冒険者がいるよ」

「え!? どこ?」


 振り向いたデルフィーヌさんと目が合う。


「あ……」


 俺と目が合ったデルフィーヌさんが、ピシリと音を立てたように固まった。

 やっぱ俺じゃあ、役者不足っすかねぇ?

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