3-26 パーティーのお誘い
結局なんやかんやで、8時間ほどダンジョンに潜っていたらしい。
まだ日は高いが、今日はもう仕事やめよう。
まずは魔石の買い取り所へ。
「おお、山盛りだねぇ」
俺が出した魔石入りの箱を見て、嬉しそうに声を上げる受付のおっさん。
「すんません、まだあるんですが、箱がなくて……」
「おおう、そうか。じゃあこっちに出してくれや」
と、受付卓に空の木箱を用意してくれたので、収納庫からその木箱へ魔石を移動。
「ほうほう、なかなかのもんだ。よっこいせっと」
魔石の計量が終わり、結果18kg採取していたことがわかった。
ドロップアイテムと合わせて、本日237Gの成果。
「じゃあ、またよろしくな」
「どもっす」
日当2万ちょっとなので、稼ぎとしては悪くない。
今日は攻略速度を優先したからこの程度だったけど、その気になればもう少し稼げたかも知れないな。
それに、さらに深く潜ればもっと効率よく魔石を採れるだろうし、まだまだ戦闘で苦労するレベルじゃないから、ダンジョン探索を活動のメインにするのはありかも。
稼ぎ以外でも、経験値とSPが格段に高いのも嬉しい。
今日だけでレベルは3も上がったし、SPは12,000くらい稼げた。
世界を救うってのがなんなのかわからんが、強いほうがいいはずだよな。
さて、魔石10kgの課題もクリアしたし、一度魔術師ギルドに行こうと思う。
ここからだとエムゼタが圧倒的に近いんだが、ハリエットさんに会いたいのでトセマへ行くことにした。
ここからトセマへ直通の寝台馬車があるらしく、出発は十刻(午後8時)。
現在八刻(午後4時)ちょっと前。
とりあえず浄化施設が使える一番安い休憩プランで30Gってのがあったので、それを利用する。
装備をつけたまま《浄化》を受け、防具を外したあと、ジャケットを掛け布団代わりにして雑魚寝スペースで仮眠。
この時間はほとんど人がいないから、結構快適。
九刻(午後6時)過ぎに、空腹で目が覚めた。
そういや朝メシ以降なんも食ってねぇや。
〈空腹耐性〉は意識しないと発動しないからね。
**********
屋台の集まるフードコートみたいなところがあるので、屋台をハシゴして適当にメシを確保したあと、空いているスペースに座る。
獲得したのは、串焼き3本とラーメンみたいなもの。
美味いなぁ。
……と、そんな感じで気分よく飯食ってると、ジータさんがやってきた。
なぜか手にはグラスがふたつ。
「ここ、いいですか?」
「え? ああ、どうぞ」
ジータさんが、テーブルを挟んだ向かいに座る。
「ショウスケさん、ビールは飲まれます?」
「ええ、まぁ」
「よかった。じゃ、これどうぞ」
と一方のグラスを俺に差し出す。
「えーっと」
「同門の再会と、今朝のお詫びということで、受け取っていただけると嬉しいです」
ま、そういうことなら断るのも失礼か。
「じゃ、遠慮無く」
「では、再会を祝して」
ジータさんがグラスを向けてきたので、こちらもグラスを合わせる。
木製のグラス同士が「コン」と間抜けな音をたてたあと、とりあえずふた口ほどビールを飲む。
「改めまして、今朝はすいませんでした」
ジータさんが軽く頭を下げる。
「いやいや、俺のほうこそ途中で切り上げちゃってごめんね。あのあと大丈夫だった?」
実はちょっと気になってたんだよね。
「ええ。ショウスケさんの宣言通り、1分ほどでボスエリアに入れましたので、とくに問題はなかったですよ」
「そう、よかった。ところでジータさん、なんであのふたりと行動してんの?」
これも気になってたんだよね。
知り合いとかかな?
「私は訓練のあと、しばらくしてエムゼタに行ったんですよ」
ジータさんいわく、彼女はパーティーを組みたくて、いくつか募集しているところに応募したんだが、採用されなかった。
トセマじゃ話にならんと思ったジータさんは、より冒険者人口の多い州都エムゼタに向かい、そこで剣士募集の記事に片っ端から応募した結果、採用してくれたのがあのふたりだったんだと。
っていうか、細剣使いってそんな人気ないのな。
俺はソロだからあんま関係ないけどさ。
「ところでショウスケさん、パーティーに入るつもりはありませんか?」
「はい? パーティー?」
「ええ。単刀直入に言いますが、私達のパーティーに入ってもらえませんか?」
パーティーか……。
ジータさんと一緒ってのは悪くないけど、残りのふたりがなぁ。
俺、基本的に偉い人と偉そうな人は、苦手なんだよね。
「ってか、なんで俺?」
「浅層のボスとはいえ、ソロにもかかわらず1分足らずで倒せる技量を見込んで、といったところでしょうか」
「それはあのじいさんか坊っちゃんが言ってたの?」
「はい。ただ、私もショウスケさんの戦い方には興味があります」
「そう?」
おっと、こんな美人に興味を持ってもらえるとは、男冥利に尽きるねぇ。
「……私、Eランク昇格に失敗してるんです」
あ……、そうなんだ。
聞けばジータさん、訓練のあとあまり間を開けずにランクアップ試験を受けたらしい。
いかに細剣使いの人気が低かろうと、Eランクともなれば多少需要はあるだろうと見越してのことだったが、残念な結果に終わってしまった。
「実戦経験が足りないから、指定依頼攻略のほうを勧められました。もし教官の試験を受けたいなら、エムゼタシンテ・ダンジョン5階層を攻略しろと」
ああ、確かにジータさんの剣は、そんな感じかもなぁ。
俺はなんやかんやで、文字通り命がけの戦闘をくぐり抜けた経験あるし、カーリー教官はそのあたりしっかり見抜いてそうだ。
「ショウスケさん、カーリー教官の試験を受けたんですよね?」
「ええ、まぁ」
「どうやって試験をクリアしたんですか? 私もその闘いぶりを見習いたいんです」
ありゃ、なんかこの子酔っちゃってない?
口数と勢いがどんどん増してきてるんだけど。
まぁ適当にあしらうか。
「今朝も言ったけど、俺は魔道剣士だからジータさんの参考にならないと思うよ?」
「魔道剣士?」
「そ。どっちかっつーと剣術より魔術のほうが得意だからね。試験の時だって
ま、あっさりかわされちゃったけど。
「え……、それって大丈夫だったんですか?」
「教官はそういうの好きみたいよ。あの人たぶん戦闘狂だから」
「そう、ですか……」
「せっかくパーティー組めてダンジョンに入れるようになったんだからさ、とりあえず5階層攻略目指したら?」
「はい……」
「ってことでそろそろ時間だから俺行くわ」
話し込んでたら馬車の時間が近づいてきた。
パーティー云々の話はうやむやに……、
「あの! パーティーの件は……?」
できないかー。
「あー、俺団体行動苦手だから、行けるところまではソロで頑張るわ」
「そうですか……。明日もダンジョンへ?」
「いや、今から寝台馬車で一度トセマに帰るよ。魔術士ランク上げたいから」
「でしたらエムゼタのほうが近いですよ?」
言えやしない……。
ハリエットさんの魅惑の谷間が見たいからわざわざ遠くのトセマに帰るなんて、絶対に言えやしないんだ!
「いや、まぁ他にもいろいろ用事があるから」
っと、ハリエットさんのこと考えてたら、ついつい視線がジータさんの胸元へ……。
察知されたのか、ジータさんは隠すように胸元を押さえ、微妙に体の向きを変える。
「……そうですか。ではお気をつけて」
あれ、さっきまでグイグイ来てたのに、突然無表情になったぞー。
「う、うん。ビールごちそうさま」
**********
そんなこんなで俺はいま寝台馬車に寝っ転がっている。
これはスレイプニルタイプじゃなく、普通の馬が引いてるんだが、三頭立てで、なおかつ車体には各種魔術が施されているため、かなりの広さと居住性を実現できていた。
行き先はエカナ州の南にある、エスタサミアス州の繁華街ケマトだが、途中トセマを経由するのでそこで降りる予定だ。
快適な馬車の寝台で、俺は今後の身の振り方を考えていた。
いまはまだ余裕があるものの、いずれソロでは限界が来るかもしれない。
その時にパーティーを組む必要は出てくるんだろうけど、大丈夫だろうか?
人と接するのは嫌いじゃなくなったけど、四六時中行動を共にしたり、場合によっては他人に命を預けたり、逆に他人の命を預かったり、なんてことが俺にできるのかな。
「ま、まだ先の話か」
自分に言い聞かせるように言葉を吐き、寝返りをうつ。
そう。いずれパーティーを組むとしてもそれはもっとずっと先の話だろう。
エムゼタシンテ・ダンジョン5階層の時点で、まだまだ余裕だし、とりあえず10階層攻略とDランク昇格まではソロ確定だな。
……なんて思ってたんだが、まさかこの後すぐ他人と行動を共にすることになるとは。
しかも相手はあのデルフィーヌさんだったりして。
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