3-24 同門の徒
翌朝三刻(午前6時)ごろに起床。
「ああ……身体中ギチギチだわ……」
やっぱ回復魔術が施されてないただの
30分程度で朝食やらなんやら支度を終え、早速ダンジョンに向かうことにする。
てくてくと集落内を歩いていたときも思ったが、朝が早いせいか、まだ人が少ないな。
「すいません、階層制限を変更して欲しいんですが」
と言いつつカードを渡す。
今日の受付はローブ姿のおばちゃん。
「はいはい。えーっと、2階層のボスを倒したんだね。おやおや、ずいぶん早い攻略だこと。じゃあ次は5階層あたりにしとこうかね」
カード野での手続きが完了。
「次は3階層から始められるんですかね?」
「いんや。アレはあくまで行ったことのある階層にしか転移できないからね。坊やの場合はもう1回2階層を攻略しないとね」
「はぁ」
なんか面倒くせぇな。
「面倒かもしれないけど、実力もなしにまぐれで階層攻略できるってこともあるからね」
おっと、顔に出てたようだな。
「ま、2回攻略するところまでが、制限解除の条件だと思っとくれよ」
「わかりました」
じゃサクッと攻略しますか。
**********
階層指定ができるほうの転移陣に乗って、2階層に到着した俺は、雑魚モンスターを適当にあしらいつつボスエリアを目指した。
転移先がボスエリアから近かったとこともあり、10分程度で到着した。
昨日は気づかなかったんだが、階層に到着した時点で現在のボスエリア待機数が表示されているみたいだ。
そしていまのところ、待機数は0なんだな。
ってことでこのまま一気に攻略するぜぃ!
「あいや待たれぃ! そこの方!!」
気分よくボスエリアへ突入しようとしたところで呼び止められてしまった。
声のほうを向くと3つの人影があった。
ひとりはおそらく声の主であろう、杖を持ったローブのじいさん。
ひとりはキレイな鎧を着た少年。
そしてもうひとりは……。
「あれ、ジータさん?」
「あ、ショウスケさん」
基礎戦闘訓練で共に細剣術を習った、黒豹獣人のジータさんだった。
「なんと、ジータ殿のお知り合いでしか。では話が早い」
嬉しそうに話し続けるじいさんとは反対に、ジータさんはなんか申し訳無さそうな表情だな。
「よろしければ我々と順番を替わってはもらえませぬか?」
「え、いやです」
つい反射的に返事してしまったら、じいさんの表情が一変した。
好々爺って感じの穏やかな笑顔が、俺の即答で呆然となり、今度は鬼瓦みたいになった。
「おのれこちらが下手に出ればいい気になりおって!」
そっちが本性?
でもジータさんはともかく、少年も呆れた顔してんだけど。
「こういうのは早いもん勝ちでしょうが。サクッと終わらせるんでちょっと待っといてくださいよ」
ジータさんがいなけりゃ無視してボス部屋に突入するんだけど、なんか俺のせいで立場が悪くなったら申し訳ないしなぁ。
「じい、そういう言い方はよくない」
少年が一歩前に出てきた。
まだ十代前半って感じかな。
綺麗で立派な鎧着てるし、「じい」とかいってるし、いいとこの坊っちゃんぽいなぁ。
「はじめまして。僕はFランク冒険者のゴードンと申します」
と、つい見とれてしまいそうな見事な作法で挨拶される。
「あ、どもっす。ショウスケです。一応Eランク冒険者です」
あ、なんかジータさんがちょっと驚いたような表情見せた。
「殿下! そのような者に殿下自ら……」
「殿下はやめて、じい! いまの僕は一介の冒険者で、彼は僕より上位ランクの冒険者なんだよ? こちらから挨拶するのが筋じゃないの?」
おおっと、このお坊ちゃんはなかなか道理をわきまえてらっしゃる。
権威主義のじいさんが勝手に暴走してるってとこか。
「むむ……」
じいさん泣きそうな顔で黙っちゃったわ。
「連れの者が失礼を」
「ああ、いえ、いいっす。ところで殿下なんて呼ばれてるってことは偉い人?」
なんかじいさんが得意げな笑顔になったわ。
「聞け下郎! この御方は現エカナ州牧の御令孫……」
「じい!」
じいさん、すっげー続き言いたそうにしてるけど、ゴードンくんを気にして言えないみたいだな。
ってか州牧ってなに? 州知事みたいなもんかね?
まあ偉い人のお孫さんって認識でいいか。
「申し訳ありません、ショウスケ殿。改めて提案させていただきたいのですが、我々と順番を替わっていただけないでしょうか?」
あ、その頼みはまだ生きてんのね。
しっかし、いまの問答の時間があればもう終わってたと思うんだけどなぁ。
「一応確認なんだけど、ここのボスって倒したあと、復活するまで時間かかるんっすかね?」
俺は質問しつつ3人を順番に見る。
すると、ゴードンくんとじいさんの視線がジータさんに向けられた。
「えっと……、いえ、このダンジョンはボス攻略後、パーティー全員が転移陣に乗った時点で即時復活されます」
「なんじゃと!?」
ジータさんの回答に、なぜかじいさんが驚きの声を上げる。
「儂が若い頃は復活に八半刻(15分)はかかっておったはずじゃ……。それですら当時の先輩方からは“昔に比べて早くなったもんだ”と言われておったのに」
へええ、昔と比べてボスの復活時間が短くなっていってんのな。
でも、だとしたらなおのこと無問題だ。
「じゃあ問題ないかな。1分でカタをつけるから、それくらい待っててよ」
という俺の言葉になぜか3人が驚きの表情を見せる。
いや、昨日は腕試しも兼ねてたから真面目に闘ったけど、それでも3分とかかってないぜ?
「デタラメを言うな小僧! Eランクの剣士ひとりでホブゴブリンが率いるゴブリンの群れを1分でなぞ倒せるわけがなかろう!」
あーもう、うぜぇなぁ。
「大丈夫だって。俺、魔道剣士だから! じゃっ!!」
左手に持った枯霊木の杖をこれみよがしに見せた俺は、3人を無視してボスエリアに突入した。
すまんけど俺だって時間は惜しいんだよ。
ジータ産には悪いけど、正直これ以上は付き合いきれんわ。
草むらを超えてボスエリアへ。
詠唱しつつ中央に向けてひたすら走る。
光の粒子が集まり、ゴブリンの群れを形成し始める。
既に詠唱は終わっていたが、さらに魔力を込める。
ゴブリンの群れが実体化した直後、まだ6体ひと塊になっているところへ《魔刃》を放った。
「死ねぃ、雑魚ども!!」
余分に込めた魔力は威力よりも範囲を広げるよう意識する。
左右約5mに及ぶ不可視の刃が、ゴブリンの群れの間を通り抜けた。
ゴブリンたちは胸のあたり、ホブゴブリンは腹のあたりから切断され、光の粒子となっていく。
唯一リーダーであるホブゴブリンだけはまだ息があるようで、地面に落ちた上半身をバタバタさせていた。
多分ほっとけばそのうち消えるんだろうけど、1秒でも早く替わってあげたいからサクッと喉を突いておく。
正直あのじいさんとか殿下はどーでもいいけど、ジータさんは同門だからね。
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