3-21 ダンジョンボス

「さて、そろそろボスエリアのはずなんだが」


 ダンジョンの各階層には階層ボスというのが存在し、その階層ボスがいる場所をボスエリアという。

 階層ボスを倒すことで次の階層に進めるってわけ。


 森はどんどん深くなり、生い茂る草木で夜のように暗くなったあたりで、目の前を完全に塞ぐように丈の高い草が生い茂っている場所が現れた。

 これだけ高い木々があり、陽光が届かない森のなかで、これほど丈の高い草が生い茂ることなど通常ありえない。


「この草むらの先がボスエリアだな」


 そう思って俺が草をかき分けようとすると、ポケットから「ビッ!」という警告音がなった。

 どうやらポケットに入れていたダンジョンカードから、音は鳴ったみたいだ。


 カードを取り出すと、表面に文字が浮かんでいた。


《ただいまボスエリア交戦中 現在3パーティー待機中》


 おおっと、他のパーティーが階層ボスと闘っているようだ。

 試しに草をかき分けようとしたが、びくともしない。

 しかたがないので、時間つぶしに魔石集めをすることにした。


**********


 30分ほど雑魚モンスターを倒していると、待機中パーティーが1になったので元の場所に戻る。

 たしかあの警告音が鳴った時点で順番予約ができているはずなので、もうすぐボスエリアに入れるはずだ。


「お、終わったみたいだな」


 カードの待機パーティー数が0になると、いままでびくともしなかった草むらが、ガサガサと音を立て始めたので、かき分けてみるとあっさり通れた。


「うおっ、まぶしっ!」


 草むらを越えた先は、小学校の運動場くらいの広場になっており、さっきまで頭上を覆っていた木々が消え、陽光が降り注いでいる。


 だだっ広い草原には何もなかったが、中央へ歩いて行くと、やがてどこからともなく現れた光の粒子が集まり、人型を形成し始めた。


「おおっとゴブリン」


 現れたのは緑色の肌を持つ人型のモンスター、ゴブリンだった。

 子どもくらいの背丈だが、その背丈に似合わぬ筋肉質な身体を持っている。

 現れたゴブリンは3匹。

 1匹は手ぶら、1匹は剣を持ち、1匹は弓を持ち矢筒を背負っている。


「えーと、ただのゴブリンとゴブリンセイバーとゴブリンアーチャーだな」


 なに勝手にカッコつけて名前つけてんだ? と思われるかもしれないが、いま言ったのはこいつらの正式名称だ。

 たとえばこれが外の世界で、こいつらが野生のゴブリンだったら、ただ単に『剣を持ったゴブリン”』、『弓矢を持ったゴブリン』ということになる。

 野生のゴブリンは身一つで生まれ、奪うなり拾うなり仲間から貰うなりして武器を装備するんだが、ダンジョンモンスターとなると話は変わる。


 たとえば目の前にいるゴブリンセイバーは、剣を装備した状態で発生し、その時点ですでに剣術を使える状態なのだ。

 それは他の武器の場合でも、そしてゴブリン以外のオークやコボルトなんかでも同じことが言えるので、武器を装備しているダンジョンモンスターは、その武器を含めて分類される。


 剣と弓以外に、槍だとランサー、棍棒や槌だとアタッカー、杖を持って攻撃魔法を使う場合はメイジ、回復や補助魔法を使う場合はヒーラーと呼ばれる。

 ちなみに魔術を使えるのはエルフやドワーフ、獣人やヒト等を含む人間だけなので、魔物やモンスターが使うのは固有能力か魔法だ。


 今回は手ぶらのゴブリンと、剣を持ったゴブリンセイバー、弓矢を装備したゴブリンアーチャーの3匹。

 発生と同時にこちらに気づき、ゴブリンとゴブリンセイバーが「ゲギャゲギャ」言いながら走ってくる。

 ゴブリンアーチャーはその場で矢をつがえ、狙いをつけて放ってきた。


 流石に飛んでくる矢を目視して避けられるような達人ではないので、放たれるタイミングを見て射線から離れる。

 矢は俺がいた場所を正確に通って行ったが、それほどの威力はなさそうだ。

 胸甲はもちろん、鎖帷子だけでも止めれそうだな。


 ちなみにアーチャー系モンスターの矢は一定時間で復活するので矢切れを待つということはできない。


「というわけで、あばよっ!」


 鬱陶しいのでアーチャーに向けて《魔弾》を放つ。

 先ほどゴブリンアーチャーから放たれた矢よりも遥かに速い弾丸が眉間を打ち抜き、「グギャッ!」と短い悲鳴を上げたあと、ゴブリンアーチャーは消滅した。


 仲間の悲鳴に反応し、2匹が振り返ったところへ、レイピアを抜きながら踏み込む。

 2匹とも間合いに捉えた俺は、2回連続で突きを放った。


「ウギッ……!」「ゴゲ……!」


 意味不明な悲鳴を上げたゴブリンとゴブリンセイバーは、首から鮮血を吹き上げながら倒れ、地面に倒れる前に消滅した。


「ま、階層ボスっつっても1階層じゃこんなもんか」


 残された魔石は大人の拳程度の大きさだった。

 素手のゴブリンのものだけ、心なしか小さいような気がした。

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